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第64話 メイドさん

「うぅ……一体どうすれば……」


 カサンドラに案内された小部屋の中で、メイド服と猫耳カチューシャを手に持ち葛藤するマルク。


 彼は今、人生最大の窮地きゅうちに立たされていた。


「ま、マルクくん! 着替え終わった? ライムちゃん、すっごく可愛いよ! マルクくんも、早く出てきてね!」


 小部屋の扉が勢いよくノックされ、外からカサンドラの声が聞こえてくる。


「急かさないでください……まだ覚悟が――」

「着方がわからなかったら、わっ、私が手取足取り教えてあげるからね、うへへぇ」

「結構です」


 どうやら、もはや渡されたメイド服を着るしか道は残されていないようだ。


「…………仕方ありません。これも……お姉ちゃんのためです……っ!」


 マルクは、意を決して服を脱ぎ、メイド服に着替え始める。



「足元が…………スカスカな感じがします……」


 服を着替え終わったマルクは、今まで経験したことのない感覚のせいで落ち着かない感じがした。


 ふりふりの服を着せられているという事実だけで、頭がどうにかなってしまいそうだ。


「鏡だけは絶対に見たくありません……」


 マルクは、頭を抱えながら呟く。


「……もう疲れた。これ、脱いでいい?」

「だ、だめだよぉライムちゃん! もう少し堪能させてねぇ!」

「手におえない…………」


 扉の向こう側では、ライムが絡まれている様子だった。


「………………っ」


 ライム一人だけに負担を強いるのは、さすがに悪い。


 そう思ったマルクは、全てを諦め、部屋の扉を開けてカサンドラの前へ出て行く。


「マルクくんっ、やっと出てきてくれたんだねっ!」


 扉の開く音を耳ざとく聞きつけたカサンドラは、目を光らせながら振り返った。


「あ、あの……っ! これ、すっごく恥ずかしいです……っ!」

「ああっ、顔を隠しちゃだめだよマルクくん! せ、せっかく似合ってるのに!」

「無理ですっ!」

「そう言わずに。ほら、こっちに来て!」


 マルクは両腕を捕まれ、ライムの隣まで強引に連れてこられる。


「マルク可愛い。美少女」

「おかしなこを言わないでください……っ!」


 ライムにささやかれ、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていくマルク。


「ライムもその……すごく可愛いですよ……!」


 マルクは半ば仕返しのつもりでそう言い返した。


 しかし、カサンドラの趣味によって髪型から服装までいじくり回されたライムの姿は、いつもと雰囲気が違って可愛らしいような気もする。


「ら、ライムちゃんが可愛いのは当たり前っ!」


 不意打ちで「可愛い」と言われたライムは、あたふたしながらもそう答えた。


「羨ましいです……今だけはその自信を分けてもらいたいと思いました……」

「マルクの……天然たらし……」

「天然? 自分で言うのもあれですが、天然ではないと思います……」

「そういうところっ!」

「……………………?」


 マルクは、訳が分からず首を傾げる。


 そんなやり取りを遠巻きに眺めてにやにやしているのが、カサンドラだ。


「ふ、二人ともすっごく良いよぉ……お仕事中にちょっとさぼって雑談って感じかなぁ…………あぁ、私の身の回りのお世話全部やってもらいたいぃ……ダメになるまで甘やかされたいぃっ……!」

「マルク、この人やばい」

「知ってます……」


 謎の設定を追加して一人で盛り上がるカサンドラを見て、改めて危機感を覚えるライムとマルク。


「あの、カサンドラさん。本当にこんなことでお薬を作れるんですか?」

「き、君たちは見るお薬だよぉ……! 私はここに、万能薬を発見した!」

「真面目な話をしているんです!」

「ご、ごめんなさい」


 まともに取り合ってくれないカサンドラに対し、マルクは腰に手を当てながら怒る。


「あぁ……でもメイドさんに怒られるのも悪くないかもぉ……!」

「マルク。この人、手遅れ」

「ひ、ひどいなぁライムちゃん……。――もっと罵って!」

「……バカにつける薬はない」

「いいよぉ、すっごくいい……!」

「……………………」


 この時、ライムは他者に対して初めて軽蔑の念を抱いた。


「おっとマルクくん。よく見たらカチューシャを手に持ったままじゃない! ちゃんと付けないと、だめだよ」

「……うぅ、ばれました……」


 カサンドラは、マルクの手から猫耳カチューシャを奪い取り、そっと頭につけた。


「す、すごい……いいよぉ……ぐへ、ぐへへぇっ!」

「屈辱です……っ」


 もはやマルクは、その場に立っているだけで恥ずかしさで胸がドキドキした。


「これ……いつまで続くんでしょうか……」

「ライムちゃんにもわからない……」

「わ、私の気が済むまでだよぉ……!」


 ――結局、マルク達は日が暮れかけるまでカサンドラの趣味に付き合わされ続けることになるのだった。


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