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第42話 勇者エルネストの没落 その3

 騒ぎを起こしたことによって、衛兵に連行されたエルネストは、詰め所で取り調べを受けていた。


「よく見たら……君は<勇者>のエルネストじゃないか。あんなところで干からびたスライムみたいな恰好をして、一体何をしていたのかね?」

「俺を瀕死の雑魚モンスターと一緒にするな」


 エルネストの取り調べに当たっているのは、衛兵の中でもかなり経験を積んでいそうな、壮年の男だ。


 部屋の中には、他にも監視役の衛兵が二人ほど控えている。おまけにエルネストは手枷をはめられているので、逃げ出すことはほぼ不可能だろう。


「今はそんなことどうでもいいから、質問に答えなさい」

「…………ビジネスだ」

「ふざけないで真面目に答えなさい」

「ふざけてなどいない。貴様のような国の庇護のもと決められた単純作業をこなす人間には理解できないだけだ」

「……会話不能……と」


 衛兵は、手元にある紙にペンで何かを書き込んだ。


「おい貴様! 勝手に何を書いている!」

「これが仕事だからね」


 そう言って、エルネストのことを軽く受け流す衛兵。


「……まったく、ゴルドムは捕まるし、君はこんなんだし、噂によれば<神童>のマルクは大けがをして治療中らしいし、勇者パーティは一体どうなっているんだ?」


 呆れたように首を振りながら、衛兵は言った。


「ゴルドムが捕まった……?」


 その言葉を聞いたエルネストの顔色が、見る見るうちに青ざめていく。


「お、おい、それはどういう意味だッ!?」


 血相を変えて机から身を乗り出すエルネスト。


「……なんだ、知らなかったのか?」

「俺はそんなこと聞いてないぞッ!」

「なんでも、最近この町を騒がせてた人さらいの犯人がやつだったらしい」


 衛兵にそう説明されたエルネストは、頭を抱え込む。


 ――何をやっているんだゴルドム……ッ!


「……君も関わってたんじゃないのかぁ?」


 その様子を見た衛兵は、いぶかし気な表情をしながら問いかけた。


「知らん! 俺のパーティは基本メンバーのプライベートに口を出さない主義だ」


 実際はゴルドムの非道な行いの全てを知っていたが、衛兵の前なので平然と嘘をつくエルネスト。


「本当かねぇ。非常に疑わしい」

「勝手に疑え。……そんなことより、ゴルドムはどうなったんだ? 今どこにいる!?」

「……それを君に教えられると思うかい? 片棒を担いでた仲間かもしれないのに?」

「――チッ、融通の利かない奴だ。もういい、俺は帰る。さっさと解放しろ」


 エルネストは手枷をはめられた両手を見せびらかしながら、衛兵を威圧する。


「…………残念ながら、パーティメンバーが捕まった以上君のことも自由にするわけにはいかないんだ」

「なんだと…………?」

「悪いけど、君にはしばらく牢屋の中に入っていてもらうよ。罪状は……広場で騒ぎを起こしたこと。これでいいかな」


 言ったことをそのまま紙に書き込みながら、エルネストの顔を見てにやにやと笑う衛兵。


「貴様……! そんな勝手が許されると思っているのか……! 俺は勇者でSランク冒険者なんだぞッ!」


 エルネストは机の脚を蹴飛ばしながら怒鳴る。しかし、その程度で衛兵が怯むことはなかった。


「――――<元>Sランク、だよねぇ」

「知っていたのか……!」

「君に関する情報は、もうギルドから入って来てるよ。――確かに、この国ではAランク以上の冒険者の犯した軽い罪は赦免しゃめんされやすいけど、君にはもうそんな特権はない」

「クソが……!」


 額に青筋を立てて怒りをあらわにするエルネスト。


「さて……これ以上話したところで君はもう何も話してくれなさそうだし、そろそろ牢屋に入ってもらおうか」

「お、おい! 待て!」


 エルネストは、監視役の衛兵二人に両腕を捕まれ、椅子から無理やり引きずりおろされる。


「早く立て! 大人しくついてこい!」

「勇者に来やすくふれるなッ! このゴミがぁッ!」

「暴れても無駄だぞ! ……生産性が低い、だったかな?」

「ぐっ……! くそぉ……!」


 叫ぶエルネストだったが、体が不自由な状態で衛兵二人に押さえつけられて言いくるめられ、どうすることもできない。


「――それじゃあ御機嫌よう。君の潔白を祈ってるよ」

「貴様ぁ……! ふざけるなあああああああああああッ!」


 うすら笑いを浮かべるベテランっぽい衛兵に見送られながら、エルネストは部屋の外へ引きずられていった。


「本当に生産性が低いのは……時間当たりで生み出す価値が圧倒的に高い俺の自由を奪う貴様らだああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 エルネストの心からの叫びが、どこまでも響き渡ったのだった。

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