第39話 おしおき
マルクの応急処置を済ませ教会へ送りとどけたクラリスは、カーミラと共にアジトの中でゴルドムの見張りをしつつ、衛兵の到着を待っていた。
「……それで、マルクちゃんは?」
「目を覆いたくなるような有様です……。命の危険はありませんが、完治にはかなり時間がかかるでしょう……うぅっ」
ぼろぼろになったマルクの姿を思い出し、思わず涙を流すクラリス。
「そう……。ここのアジトは、もうすぐ衛兵が到着するわ。こいつらは一網打尽ね」
カーミラは、気絶しているゴルドムを蹴とばしながら言った。
その拍子に、気絶していたゴルドムが目を覚ます。
「あ……うぐぅっ……?」
「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」
「ここはどこだ……俺は一体何を……?」
ゴルドムは、訳が分からずに周囲を見回した。
「随分とのんきな物言いですね。自らの罪も自覚せずに……!」
吐き捨てるように言うクラリス。
「話によると、魔人化していたそうよ。覚えてないのも無理はないわね」
「魔人化……? この俺が……?」
ちょうどその時、ゴルドムは自分が縄でぐるぐるに縛られていることに気づいた。
「What the f**k?!!! どうして俺が縄で縛られてやがる?!」
「それは、あなたとその手下達の悪事がマルク様によって全て白日の下に晒されたからです」
「なんだと!?」
「まさか人攫いの正体が勇者の仲間だっただなんて、大問題ですね」
「Sh*t!」
自らの計画が無駄に終わったことを知ったゴルドムは、悪態をつく。
「ふざけた態度をとらないでくださいッ!」
クラリスはそう言いながら、ゴルドムの顔を全力ではたいた。
「ぶほぉッ?!」
「アタシからもサービスよ」
そうして地面に転がったゴルドムの顔を、今度はカーミラが殴る。
「ぐあぁあ!? がああああああああああああッ! F**king B**ch!!!!」
「――実を言うとアタシ達、かなり怒っているのよ」
「あァ?」
「マルクちゃんがあんなになるまで、あなた、一体何をしたのかしらねぇ?」
そう問いかけるカーミラ。
口元だけは笑っていたが、目はまったく笑っていなかった。
「マルクさん、とても苦しそうでした。ワタクシをお姉さまと間違えて、『痛い、助けて』と繰り返しうわ言を……!」
マルクに応急処置をした際の出来事を思い出しながらそう語るクラリスの声は、怒りと悲しみで震えていた。
「覚悟はできているのかしらね?」
ゴルドムの顔を覗き込み、恐ろしい笑みを浮かべるカーミラ。
「ひ、ひぃぃ!」
あまりの恐ろしさに、ゴルドムは情けなく身震いする。
「悔い改めなさい。もっとも、今さらそうしたところで救いはありませんが」
クラリスはその様子を蔑んだ目で見ながら、冷たくそう言い放った。
「ふ、ふざけるなッ! 俺を解放しろ! このB**chどもがああああ!」
「黙りなさい」
「ふぐぅっ!?」
カーミラは、ゴルドムの鳩尾に再び蹴りを入れて黙らせる。
「この男には何をいっても無駄なようです……とりあえず、潰しておきましょうか」
「あら、そんなことしたらご褒美になっちゃうんじゃないかしら?」
「急所を潰されて喜ぶ男性はいないと思いますが……これを使うので大丈夫です」
クラリスは空中に弧を描き、巨大なメイスを召喚した。
「……うふふっ! 殺さないよう、加減してあげるのよ」
そう言いながら舌なめずりをし、腰から二本のナイフを引き抜くカーミラ。
「人さらいのボス。おまけに魔人化して意識を取り戻した貴重な存在。……生かしたまま衛兵に引き渡せば、随分とたんまり賞金が手に入るわ」
「そうですね。マルクさんの頑張りを無駄にしないためにも、この者は生かしておかねばなりません」
「お、おい待て! てめえら何するつもりだッ!? お、俺は怪我人だぞッ?」
物凄い形相でにじり寄ってくるカーミラとクラリスに対し、激しく狼狽するゴルドム。
「そうね……好き勝手やったら歯止めが効かなくなるでしょうし、お互いに一撃ずつ加えていって、先に気絶させた方が負けというのはどうかしら?」
「遊び半分というのはいかがなものかと」
「けれど、何かしらのルールは設けておかないと、勢い余って殺してしまうかもしれないでしょう?」
「それもそうですね…………ちなみに、治癒魔法の使用は」
カーミラは、クラリスの言葉の意味を即座に理解し少しだけぞっとする。
「……うわっ……あなたヤバいわね。――まあ、別にかまわないわよ」
「おそらく、この男は生半可な苦しみでは更生しないでしょう。ヤルのであれば徹底的にヤラせていただきます」
「それじゃあ、おしおきの時間よ。衛兵が来るまでの間、たっぷり愉しませてもらいましょう!」
二人は、ゴルドムを見下ろしながら武器を構え直した。
「なっ、何の話をしてやがる……! 待てッやめろ――」
「ワタクシからいかせてもらいますね」
それからすぐ、ゴルドムの絶叫が響き渡った。
*
ちなみに、衛兵が到着した頃には、ゴルドムはまともに話せる状態ではなかったそうだ。




