第21話 勇者パーティの崩壊 その5
「何………………!?」
突如として部屋の扉が破壊され、中に一頭のケルベロスが入ってきた。
「おいおい……どういうことだこりゃ……!」
動揺しつつも、武器を構え直すシリル。
「で、でも、さっきルドガーが倒したケルベロスはここに転がってるよ!?」
リタはケルベロスの肉片を指さしながら叫んだ。彼女の言う通り、パーティの前に現れたケルベロスは先ほどルドガーが倒したものとは別個体だ。
「なるほど……つまり、奴らはここの守護獣なんかじゃなかったってワケだ。迷宮内をうろつくただの雑魚だったんだよ☆」
「ルドガー、もう一度さっきの魔法を使ってあいつを倒してくれ」
「無理☆」
エルネストの指示に対し、ルドガーは首を横に振る。
「は?」
「あんた……ふざけてる場合じゃないでしょ!」
エイラはルドガーを怒鳴りつけた。しかし、ルドガーは一向に悪びれる様子がない。
「……いやいや、あれだけの魔法を使ったんだから、魔力なんてほとんど残っていないに決まってるだろう? 何とかして欲しいのなら、早く私に魔力を供給してくれよ」
「なに言ってるわけあんた」
「まるで理解不能だな。御託はいいから早くしろ」
ため息交じりに、再び指示を出すエルネスト。
「…………えっ!?」
自分の言っていることの意味が分かっていない様子のパーティメンバー達を見て、ルドガーは硬直した。
「ギャオオオオオオオオオオン!」
「――ちょっとキミは静かにしていてくれ。パラライズ」
「きゃんっ!?」
「まったく、こういう時だけかわいい声出しやがって」
――ぺちん。
ルドガーはケルベロスを麻痺させ、一時的に足止めする。そして、軽くケルベロスの頭をはたいた後、皆の方へ向き直った。
「……まってくれ、このパーティのマナヒーラーはそこの……えっと、名前なんだっけ? ……ギャル女ちゃんじゃないのかい?」
「は? それ私のこと? 私はただのヒーラーだし。ってかマナヒーラーってなに?」
「パーティメンバーに魔力を供給する役割のことだよ。……え? 誰も知らないのかい?」
ルドガーはきょろきょろと全員の顔を見るが、皆ポカンとした顔をしていた。
「魔力を供給するだけの非生産的な役立たずはこのパーティにいない。すでに追放済みだ」
「……マジで? なんで? マナヒーラー追放するとか、自殺志願者かい?」
呆気に取られ、やれやれといった風に肩をすくめるルドガー。
そのなめ切った態度に、エルネストの怒りが我慢の限界を迎えた。
「――意味のわからないことをほざくな! さっさと、さっきの魔法でケルベロスを倒せ!」
唾を飛ばしながら、ルドガーを怒鳴るエルネスト。
「いやいやいや、意味がわからないのは君達の方だろう? Sランクパーティのくせにマナヒーラーのことも知らないのかい? しかも追放したって……嘘だろ?」
「……嘘じゃないよ。ボクは反対だったのに……マルクは追放されちゃったんだ!」
リタは悲痛な面持ちで叫んだ。
「……マルク? 君、今マルクと言ったかい?」
「そうだよ! <神童>のマルクだよ! あなたも名前くらいは知ってるでしょ?」
「……ククッ、まさかこんなところでその名前を聞くとはね……」
「も、もしかして知り合いなの?」
身を乗り出してそう問いかけるリタ。ルドガーは、ぽんと自分の胸を叩きながら答える。
「知り合いも何も……マルクは私の愛弟子だよ。とある事情で一緒にこの国へ来たんだけど、あいつ迷子になっちゃったんだ。まったく、手のかかる子だよね☆」
「えっ……えええええええええええええええええええ!?」
「そうか。君らが追い出したのがマルクだったなんてね。率直に言って、君ら馬鹿でしょ?」
エルネストの方を見ながら馬鹿にした態度をとるルドガー。
「生産性追求しすぎて逆に生産性低くなってるじゃん☆」
「ふ……ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
散々馬鹿にされたエルネストは激怒し、今にもルドガーに飛び掛かりそうな勢いだ。
しかし、それでもルドガーは止まらない。
「まったく、マルクの才能も見抜けないような未熟者ばかりのパーティだから、私にちょっと触られただけで川に落ちちゃうんだよ!」
「What?」
「……こ、こほん、口が滑った。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「最初からおかしいとは思ってたんだ。やっぱりてめぇだったんだな!」
「きっ、聞かなかったことにしてくれたまえ……☆」
「I'll Kill You, Motherf**ker!」
「そ、そーりー……?」
思わず余計なことまで口走ってしまい、墓穴を掘ったその時だった。
「グルルオオオオオオオオオオォォォッ!」
ルドガーの魔法が解けたケルベロスが、再び立ち上がった。
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