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第2話 旅の占い師

 マルクが十一歳という若さにして冒険者という危険な仕事をしているのには理由がある。手っ取り早く大金を稼いで、病を患っている姉を救うためだ。


 早くに両親を亡くしたマルクの姉は、幼いマルクを養う為に無理をして国家魔術師となり、国の異常を調査するために各地を飛び回った。その結果、瘴気に体を冒されほとんど寝たきりの状態となってしまったのである。


 マルクは姉と自分に魔法を教えてくれた師匠と共に国を出て、姉の病を治す方法を探し求めた。


 そして、なんやかんやで師匠とはぐれ、たどり着いたこのエルドアの国で、ありとあらゆる病を完治させるという<女神の秘薬>の実在を知ったのである。


 しかし、滅多に世に出回らない<女神の秘薬>を手に入れるためには、気が遠くなるほどの額――具体的に言えば最低でもこの国の金貨一万枚ほどの大金が必要だということが分かった。


 姉の体は日に日に瘴気に蝕まれているらしく、治癒術師の見立てによるともって後三年ほど。マルクにはあまり時間が残されていなかった。


 そこで、マルクは自分の魔術師としての能力を活かせて、おまけに実力をつければ大金が手に入り、更に運が良ければ迷宮の宝箱から<女神の秘薬>を手に入れられる可能性がある、冒険者となることを選んだのである。


 Sランクのパーティに加入してからは順調にお金がたまり、現在の貯金額は金貨千枚。残された時間は後一年半ほど。


 つまり、このままいけば余裕で――間に合わない。


 マルクは焦っていた。そんな時、追い打ちをかけるかのようにSランクパーティからの追放を言い渡されたのである。


 追い詰められたマルクの心はずたぼろだった。



 やがてミルクを飲み干したマルクは、とぼとぼと宿屋へ戻る。


 それから明日も忙しい皆の事をを起こさないよう、静かに荷物をまとめて、静かに宿屋の外へ出た。


「これから……どうしよう……」


 少ない荷物を持って、夜になった歓楽の町ダフニをさまよい歩くマルク。日中と比べて目つきの鋭い人間が多く、なんとなく物騒な感じがして思わず身震いする。


「どこか……泊まれる場所を探さないと……」


 しかしこんな時間に、マルクを受け入れてくれるような宿屋は少ない。ほとんど冷やかしかと思われて、受け入れてもらえなかった。


「うぅ…………」


 路頭に迷ったマルクは冷たい風に震えながら、路地裏に座り込む。


 歩き疲れて足が棒になってしまった。手がかじかんで上手く動かせない。


「ごめんなさい……」


 震える声でマルクがそう呟いたその時だった。


 突然、自分の体が内側から火照ってくるのを感じる。マルクは胸を抑えた。


「あれ……?」


 マルクは、自分の正面に誰かが立っていることに気付き、顔を上げた。


 そこに居たのは真っ黒なローブに身を包み、口元を布で覆った怪しげな格好の女の人。マルクは警戒し、身構える。


「……少しは体が楽になりましたか?」


 しかし、女の人はそんなマルクの様子を気にも留めず、にこにこと笑いながら屈みこんで、そう問いかけた。


 じっと見つめられたマルクは、思わず目をそらす。


「あ、あなたは……一体……」

「ごめんなさい。自己紹介がまだ済んでいませんでしたね。私の名前はカーミラ。困っている人から人生相談を受け付けている、旅の占い師です」


 自らを占い師と名乗るカーミラ。その瞳は紅く光り輝いていた。


「あ…………」


 マルクは、自分の顔が熱くなるのを感じた。カーミラに魔法をかけられてから、少し気分がおかしい。なぜか心臓がドキドキする。


「あ、あの……えっと、僕の名前は……」

「マルクさん、ですよね?」


 カーミラはマルクの名前を知っていた。


「どうして……知ってるんですか?」

「占いの力です。……と言ってセールストークに繋げたいところですが、違います。マルク・フォン・フェルゼンシュタイン様。それなりに腕の立つ冒険者であれば、<神童>と称されるあなたのことを知らない者はほとんどいないでしょう」


 マルクは目を伏せた。その通り名を聞かされるのはもううんざりだった。


「でも……僕はそんなにすごくありません……だって、たった今、パーティを追放されちゃいましたから……」 

「それはひどい……! だからこんな夜の町をその幼い体でさまよい歩いていたのですね……!」


 カーミラは口元に手を当て、同情するような目でマルクの顔を見た。


「それじゃあ……今のあなたは一人だけ」

「…………はい、そうです」

「仲間はおらず、暗い路地裏で独りぼっち……」

「……はい」


 その返事を聞いたカーミラはにやりと笑う。


「――それでは、特別に一回だけ、かわいそうなあなたのことを占ってあげましょう」

「え……? いや、僕は別に……」

「あなたからは女難の相が出ています。特に見ず知らずの女の人に気を付けてください。例えば……」

「例えば……?」


 突然、カーミラは舌なめずりをして身にまとっていたローブを脱ぎ捨てた。ウェーブがかった青色の髪が風でなびく。


「アタシみたいなねッ!」


 口元の牙を見せながらマルクに襲い掛かるカーミラ。


「わっ……!」


 マルクは思わず目を覆った。


「だめ、ちゃんとアタシの目を見て」


 しかし、カーミラに両腕を掴まれ引き剥がされる。


「ひっ……!」


 そこに居たのは、背中から羽を生やし黒い服を身にまとった魔族の人間だった。頭からは二本の角が生え、背中から伸びた尻尾がマルクの足に巻きついている。


 紅い瞳に、肌の色は褐色。その姿は夜の暗闇へ見事に紛れていた。


「捕まえた……!」

「う、うわあああああああああああああああああ!」

「――選びなさい、おちちを吸うかおち●ち●を吸われるかッ!」

「きゃああああああああああああああああああああ!」


 マルクは不運にも、道端で変態に襲われてしまったのである。

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