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第17話 報酬

 下水道から引き上げたマルクとクラリスは、町の広場でカーミラが報告を済ませて戻ってくるのを待っている。


「マルクちゃーん!」

「……あ、カーミラさん」


 やがて、ギルドから報酬を受け取ったカーミラが、金貨の入った袋を手に持って駆け寄ってきた。


「はいこれ、マルクちゃんの分ね」


 カーミラはそう言いながら、金貨二百枚が入った袋をマルクに手渡す。


「こんなに貰って……いいんですか?」


 中身を確認しながら、おずおずとそう問いかけるマルク。


「だって、たくさんお金が必要なのでしょう? 遠慮せずに貰っておきなさい」


 確かに、<女神の秘薬>を手に入れるためには、できるだけたくさんのお金が必要だ。


「…………わかりました、ありがとうございます」


 マルクはしばらく悩んだ後、カーミラに礼を言って金貨を懐にしまった。


 しかしそれでも、目標としている金貨一万枚までは、まだ全然足りていない。


「なんだったら、ワタクシのお金も差し上げますよ? マルクさん!」

「そ、それはだめです! 三人で依頼を達成したんですから、クラリスさんもちゃんともらってください!」

「ワタクシを気遣ってくださるのですね……おお、マルクさんはなんとお優しいのでしょうか……!」


 感動のあまり、目を潤ませるクラリス。


「と、当然のことですから……そんな簡単になんでも人にあげちゃだめです……」


 マルクは困ったような顔をしながらそう答えた。


「それじゃあ、ちゃんと貰っておきますね。ありがとうございます、マルクさん!」

「――あら、アタシにお礼はないのかしら?」

「………………感謝します。……一応」

「うふふ、素直でよろしい」

「ぐぬぬ……!」

 

 相変わらず、クラリスとカーミラの間には不穏な空気が漂っている。


 マルクは苦笑いしつつ、カーミラに話しかけた。


「……それで、あの、カーミラさん」

「うん? どうしたのマルクちゃん?」

「この後の下水道の調査って、どうなるんですか?」

「ああ、その件に関しては、後日この国の国家魔術師たちが詳しい調査をするらしいわ。だからアタシ達が出る幕はなさそうね」

「国家魔術師……ですか……」


 マルクはうつむく。元はと言えば、姉が病床に伏せてしまったのも国家魔術師になったせいだ。その単語にあまり良い印象はない。


 関係ないことは分かっていても、自然と暗い気持ちになってしまう。


「それなら、もう大丈夫ですね」


 マルクは沈んだ気持ちをカーミラ達に悟らせないために、そう言って無理やり微笑んだ。


「やめて……っ! そんな襲いたくなるような笑顔……アタシに向けちゃだめよっ!」

「…………………」


 一瞬のうちに真顔になり、マルクは沈黙する。


「ああ……んっ! その軽蔑の表情もいいわっ!」

「――えっと、そういえばクラリスさんはここに来る途中教会に寄ってましたけど、何かあったんですか?」


 カーミラが平常運転だったので、マルクは何事もなかったかのようにクラリスの方へ話題を振った。


「いえ。ただ、今回の件について一応教会にも報告をと思いまして。……そうそう、今回見つけた犠牲者さん達ですけど、たまたまここにいらしていた大司教様が、直々に蘇生を試みてくださるようなので、きっと助かりますよ!」

「で、でも……骨になってましたよ……?」

「はい、それも大司教様のお力があれば大丈夫です!」

「そ、そうですか……」


 マルクは若干引き気味にそう言った。


 この国は治癒魔法の技術がかなり進んでいるらしく、大抵の傷が教会によって治せるようになっている。さらに、生前に健康であった者が不慮の事故によって死んでしまった場合でも、教会にお布施をすれば蘇生を試みてもらうことができるのだ。


 その為、死に安い冒険者にも、比較的気軽になることが出来るようになっている。


 ――当然、蘇生が失敗に終わり死体が灰になってしまうこともあるが。


 だがしかし、マルクの姉のような、病に冒されてしまった者は、教会の力でもどうすることもできない。

 

 やはり<女神の秘薬>を手に入れる他に、姉を治す方法はないのだ。

 

「ところでマルクちゃん」


 その時、考え込んでいたマルクの耳にカーミラの声が入って来る。


「はい、なんですか?」


 マルクは顔を上げて、カーミラの方を見た。


「例のスライム、様子はどうなのかしら?」


 例のスライムとは、おそらく下水道で出会った言葉を話す赤いスライムのことだろう。


「……今は寝ているみたいです。僕達との戦闘でだいぶ消耗していたので」


 マルクは赤いスライムの入った瓶を見せながらそう答えた。


「うえ……こうして見るとやっぱりグロテスクね……それ、ギルドに提出しなくて良かったのかしら?」

「だ、だめですっ! そんなことしたら……何されるかわかったもんじゃありません……」


 マルクは慌ててびんを隠しながら言った。


「……じゃあ、喋るスライムってことで売るなんてどうかしら? そうすればかなりの額に――」

「う、売るつもりもありませんっ!」

「あらあら、そのスライムには随分と優しいのね。……いちゃうわ」


 カーミラは、マルクをからかうように、くすくすと笑った。


「僕のわがままだってことは……わかってます。今までたくさん依頼で魔物を殺してきたのに……今更このスライムだけ助けたいだなんて、虫が良すぎますから……」


 それからマルクは、小さく息を吸った後続ける。


「でも、助けてって言われたら……なんか可哀そうに思えてきちゃって……。それに見た目も可愛らしいですし……」

「あなたの美的センス、どうなっているの」

「カーミラさんにだけは言われたくありません……」


 マルクは不服そうな顔をしながら言った。


 そんなやりとりをしているうちにだいぶ日が暮れてしまっていたので、マルク達は宿屋へと戻ることにしたのだった。

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