第15話 浄水用スライム
「ど、どうして上から骸骨が……?」
突然のことにあたふたするマルク。
冒険者をしている以上、死体と遭遇することは日常茶飯事だが、ここまで異様なものは見たことがない。
「この様子ですと、復活も厳しいでしょうね……。おお、この者たちに神のご加護があらんことを! ……もう死んでますけど」
クラリスは、死体へ向けて再び祈りを捧げた。
「それから離れなさい! 上からくるわよ!」
その時、カーミラが大声で死体のそばに居た二人に注意を促した。
「――――――っ!」
マルクはとっさに背後へ飛び退く。
――べとり。
その後すぐ、天井から液状の魔物――スライムがマルク目掛けて降ってきた。
「うええええええええええええええ!?」
「マルクちゃん!」
「なんと!? このスライム、どうしてワタクシではなくマルクさんを……!」
マルクはちゃんとかわしたのにも関わらず、緑色のスライムに全身を絡めとられてしまう。
「あっ、やめっ、ちょっと、どこ入ってるんですかっ!」
「それ以上はいけないわマルクちゃん!」
「僕に言われても……ひゃうっ!? た、助けてくださいぃ!」
スライムに翻弄されるマルク。その顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「まってっ、だめっ、それは本当にまずいですっ! きゃああああああっ!?」
マルクは悲鳴を上げながら必死に抵抗を続ける。しかし、もがけばもがくほど、かえってスライムが体に絡みつくだけだった。
「た、大変です! 早くマルクさんを助けなければ……!」
「でも、魔法なんか使ったら、たぶんあの子まで巻き込んでしまうわよ?」
「ですが……!」
「とにかく、隙を見て引っ張り出しましょう」
やがて、とうとう我慢の限界を迎えたマルクが叫んだ。
「――もう怒りましたよ! 覚悟してくださいッ!」
マルクはそう言いながら天に向かって右手を突き出し、呪文を唱えた。
「――ウォーターボールッ!」
するとマルクの頭上に巨大な水の塊が生成され、それが丸ごと落ちてくる。
――べちょり。
大量の水が直撃したスライムは、いびつな形にひしゃげた後、水と混ざり合って方々へ飛び散った。
「マルクちゃん、水魔法まで使えるのね。驚いたわ」
その様子を見ていたカーミラは、ぼそりとそう呟く。
「そんなこと言っている場合ではありません! 早く助けに行きましょう!」
「そ、そうだったわ!」
クラリスとカーミラは大慌てでマルクに駆け寄り、スライムの残骸から引きずり出した。
「大丈夫ですかマルクさん?!」
「べとべとのびしょびしょね」
「問題……ありません……ちょっとだけ……泣きたい気分ですが……」
スライムの粘液まみれかつ、ずぶ濡れになった体を起こしながらそう答えるマルク。
「はわわっ! なんと背徳的な見た目でしょうか……ッ!」
マルクの姿に顔を赤らめ、両目を手で覆い隙間から覗くクラリス。
「あらあら、泣きたいのならアタシが慰めてあげるわよ? さあ、アタシの胸に飛び込んでらっしゃいマルクちゃん!」
「いやです。そんなことより、今の本当に浄水用のスライムですか……? すごく凶暴でしたけど……」
マルクはやや視線をそらしながら、カーミラに向かってそう問いかけた。
「下水道にいるスライムなんだから……そういうことになるわね。あの大きさと言い、凶暴さと言い、にわかには信じがたいけれど」
カーミラは小さくため息を漏らした後、続ける。
「――まさかあの冒険者さんの言っていることが本当だったなんて、とんだ厄介ごとに首を突っ込んでしまったわ。ごめんなさいね、マルクちゃん」
「いえ、僕は別に――」
「マルクさん! 危ないですっ!」
突然クラリスがマルクに飛び掛かり、そのまま押し倒す。
「うわぁっ!? クラリスさん!? 一体何を――」
それからすぐ、マルクは先ほどまでいた場所に先ほどとは別の、赤いスライムが落ちてくる。
「次から次へと……一体どうなっているの?」
「まったく……マルクさんばかり狙うだなんて、とんだ不届き者ですね! 許せません! ワタクシが浄化いたします!」
そう言いながらクラリスは天に向かって右手を突き出し、弧を描くように指先を動かした。
すると魔方陣が頭上に展開され、そこから巨大なメイスが落ちてくる。
「悔い改めてください!」
それを軽々と持ち上げ、戦闘態勢に入るクラリス。
「――マルクちゃんは援護をお願い。攻撃はアタシたちに任せなさい」
「はい、わかりました。……気を付けてくださいね!」
「あらあら、そんなこと言われたらお姉さん、ヤル気になっちゃうわ!」
カーミラは舌なめずりをしながら、腰に差していた双剣を引き抜いた。
それに対し、スライムは不気味に蠢いた後、体表に無数の目玉を浮かび上がらせる。
それは、本来スライムが持っていないはずの器官だった。




