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最終話 マルク


 カーミラが怪しげな作戦会議をした日の夜、マルクはエルマと二人でなかよく談笑していた。


「――それじゃあ、今日はもう早めに休んでね」


 外がだいぶ暗くなっていることに気付いたマルクは、そう言って明かりを消し、エルマのいる部屋から出て行こうとする。


「……待って」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「ずっと……寂しかったんだよ? だから今日くらいは、昔みたいに一緒に寝てくれたっていいでしょ?」

「まったく……僕がいない間に甘えんぼになっちゃったの?」

「そ、そう! ……だから意地悪しないで……?」

「仕方ないな……」


マルクはため息混じりにそう言って、エルマの隣に寝転んだ。


「じゃあお姉ちゃんが寝るまで、今までの冒険のことを話してあげる。……それと、ライムのことも」

「ライム……?」

「そう。一人だけ、僕より年下に見える女の子がいたでしょ?」

「……あの女の子がライムちゃん?」

「うん」


 それからマルクは、ライムのことを話して聞かせた。


 もともと弱っていたスライムで、自分が名前をつけたこと。


 他に行くあてがないので、この家で面倒を見てあげたいこと。


 そして、見よう見まねでマナドレインを覚えたライムは、将来立派な魔術師になるだろうということ。


「――とにかく、ライムをこの家に住ませてあげたいんだ」

「いいよ、あの子なら」

「ほんと!?」

「うん」


 ――元々魔物だったのなら、種族が完全に違うマルクといけない関係になることはないだろう。


 エルマの頭の中では、そんな冷酷な判断が下されていた。実際のところキスまで済ませている。


「よかった……これで……何も心配しなくていい……むにゃ、むにゃ……」


 マルクはそう呟いて、安らかな顔で寝息をたて始める。


「ふふ、私のこと寝かしつけるんじゃなかったの? 先に寝ちゃったらだめでしょ?」


 エルマは眠るマルクを抱きしめ囁く。


「起きなさい、マルク」


 その目は妖しく光っていた。


 国家魔術師、<魔眼>のエルマ。国からも恐れられていた『強制契約』の力が、マルクへと向けられる。


「おねえ……ちゃん……?」

「もうマルクはどこにも行かせないよ。私が死ぬまで……いえ、死んだ後もこの家の中で、あなたを一生守ってあげるからね」

「なにを、言って……」

「――契約してください。私は命をかけてあなたを一生守るので、あなたはこの家から外へ出てはいけません」


 エルマの言葉と共鳴して、マルクの目も妖しく光る。


「いや……です……っ!」

「……魔力が弱かったかな? それじゃあもう一度――っ」

「僕は……そんなことのためにお姉ちゃんの残りの人生を使って欲しくありません……! お姉ちゃんも…………僕も、これからはもっと自由に生きるべきだと思うんです…………!」

「……自由はそんなに素晴らしいことじゃありませんよ。外には危険が沢山ある……マルクも今回の旅でよくわかったでしょう?」

「でも、それでも僕は……」

「だめ、マルクはここで一生幸せに暮らすんです。マルクが欲しいものは全部、お姉ちゃんが手に入れてきてあげますからね」


 そう言って、エルマは抵抗するマルクのことを抱きしめる。


「――さあ契約しなさい、マルク!」

「う、うぅ……!」


 そして、先ほどよりも強い魔力を込めてそう迫った。


「……あらあら、いくらお姉ちゃんだからって、マルクちゃんの自由を奪おうとするのは良くないわよ?」


絶体絶命のその時、突然窓が開いて何者かが侵入してくる。


「あなたたちは……!」

「マルクちゃんに用事があって来たのだけど、なんだかすごいことしてたわね。今の魔法は何かしら?」

「用事……?一体何を――」

「愛の告白よ」


 そう言って指を鳴らした次の瞬間、カーミラの背後から飛び出したライム、クラリス、リタの三人が、暗示にかかったマルクのことをベッドから引きずり出した。


 動揺するエルマをよそに、一同はマルクのことを取り囲む。


「マルクのことは……ライムちゃんが守る! 誓いのちゅうもたくさんした! マルク……とってもはげしかった……! だから……だいすき!」


「マルクちゃんはアタシのものよ? 当然、実のお姉ちゃんにだって渡さないわ。マルクちゃんだって、アタシのことが好きよね?」


「サキュバスは引っ込んでいなさい。マルクさんに必要なのはワタクシの持つ包容力と癒しの力です。さあマルクさん、どうぞワタクシの胸へ飛び込んできてください!」


「マルクはボクが好きなんだよ。だってボク、いっぱい甘えさせてあげるし! だからほら、ボクのところにおいでよマルク!」


口々にマルクに対する愛を叫ぶ一同。


「ちなみに私は一瞬媚薬のせいで間違いを起こしそうになったが、今は大丈夫だよ☆可愛い弟子としか思ってないから安心したまえ!」

「そ、その話は初耳です……。あとでじっくり私とお話ししましょうね師匠――――生きて帰れると思わないでください」

「ひぃぃっ……!」


 絶望するルドガーをよそに、答えを求めるカーミラ達。


「さあマルクちゃん!誰を選ぶのかしら?」


 その時、暗示にかけられたマルクの口から真実が語られた。


「二人だけの秘密だから……今まで誰にも話してませんでしたけど……僕には…………将来を誓いあった女の子がいるんです……っ!」


「「「「「「え?」」」」」」


 ――天才魔術師、マルク・フォン・フェルゼンシュタイン。<神童>を始めとした多くの異名を持つ彼の生涯は、女難の連続であった。


 これまでのお話はそのうちの、ほんの序章である。




おしまい

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