第98話 再会
航海初日に起きた一連の事件は、マルクにとって一生のトラウマとなった。
皆は正気を取り戻したあと、全員一列に並んでマルクに土下座をし、ひとまず事態は収束したのである。
*
――そして二週間後。
マルクは、とうとう故郷の地に降り立った。
「やっと……やっと着きました……!」
目を潤ませながら、しみじみと言うマルク。
「ありがとうございますデネボラさん!」
「礼には及びませんことよ」
「いえそんな。最初の日は大変だったけど、その後はとても快適な船旅でした!」
「そ、それはなによりですわ。おほほ……」
デネボラは冷や汗をかきながら、笑って誤魔化す。
「フェナさんとアンドレアさんも、二週間ありがとうございました!」
マルクはそう言って、デネボラの隣に控えるフェナとアンドレアに、ぺこりと頭を下げた。
「ま、また遊びに来てもいいわよっ!」
少し顔を赤くしながらそう告げるフェナ。
マルクに熱い口づけをされて以降、完全に恋に落ちている様子である。
――フェナの挨拶に続いて、アンドレアは謝罪の言葉を述べる。
「その節はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません」
「いえ、気にしないでください。……もう過ぎたことですし……ははは」
「その……とても素敵でございました……!」
「はい……?」
彼女も、マルクから強引にキスをされたことで何かに目覚めてしまったようだ。
「どうかお元気で……マルク様……!」
アンドレアはそう言い残すと、デネボラの背後にそそくさと引き下がってしまう。
「……ええと、馬車は手配してありますので、これでお別れですわね。それでは皆様ご機嫌よう」
「はい! さようなら!
「――それと、約束通りマルク様のお名前は、魔導船の宣伝に使わせていただきますけれど、よろしいですわね?」
「もちろんです! 本当にありがとうございました!」
かくして、マルク一行はデネボラ達と別れ、があらかじめ手配してあった馬車へと乗り込んのだった。
後は、マルクの姉が待つ家へ向かうのみである。
*
「……ねえマルク」
「どうしたんですかリタお姉ちゃん?」
「なんかさ、ライムの様子おかしくない……?」
リタの言葉の通り、ライムは馬車に乗っている間ずっと、マルクの肩に寄り添ってにやにやしていた。
「ライムですか? ……そういえば、船に乗った時からずっとこんな調子ですね」
「マルクすきぃ……あいしてる……!」
「僕もライムのこと好きですよ。ちょっと甘えん坊な妹みたいな感じです!」
最初の言葉だけ聞いて興奮したライムは、その後に続いた言葉を聞いていなかった。
「マルクぅ……ちゅ、ちゅー」
「やめてください」
頰にキスしてこようとしたライムを、そっと手で遠ざけるマルク。トラウマは深い。
「ちょっとずるくない? ボクもまたマルクとちゅーしたい!」
「やめてください」
きっぱりと断るマルクだったが、いつものごとくリタとライムに挟まれて逃げ場を失っていた。
「ほら、もうすぐ到着するよ。バカなことしてないで、降りる準備をしたまえ☆」
「ボクはバカじゃない! ただ……愛に生きてるだけだもん……!」
「十分バカだよ☆」
かくして、一行は半日ほど馬車に揺られ、のどかな田舎町に到着する。
「ここがマルクさんの故郷なんですね! ……あれ、マルクさん?」
クラリスが馬車の中を覗くと、そこにマルクの姿はなかった。
馬車を降りて早々に、駆け出していたのである。
「ま、マルクさん! そんなに急いだら危ないですよ!?」
走り去るマルクを呼び止めようとするクラリス。
「久しぶりにお姉ちゃんと会えるんだもの。無理もないわ」
そう言って、カーミラはクラリスのことを制止した。
しばらく走り続けたマルクは、やがて町の外れにひっそりと佇む一軒の家に辿り着く。
ここが、マルクの我が家なのである。
「お姉ちゃんっ!」
マルクは家の扉を開き、姉のことを呼ぶ。
「マルクっ!」
それからすぐに、中から飛び出してきた姉がマルクに飛びついた。
――とうとう姉弟は再会したのである。




