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レイ戦記  作者: 倉羽瑛太
9/14

破滅

1

「これは・・・一体どうして・・・」

レイが驚愕の声を上げ、ライが絶望の調子でつづけた。

「国境警備隊は全員が二段解放できる上に、隊長は三段覚醒まで可能だった・・・それが、全滅・・・」

エリザ打倒から1か月あまり。エリザ要塞跡地には速やかに国境警備隊を配備し、簡易要塞を建設した。2人はその国境警備隊より敵襲の報を受け(脅威度大小に関わらず必ず届き、現地に向かうことになっている)、首都より5分で直行したのだが、既に要塞は跡形もなく、兵士が倒れているだけとなっていた。

「一瞬で、これだけの、50人近くの兵士が全滅・・・不意を突かれたのか?」

「いや、我々が到着する直前にもう1報届いたようだ。我々では歯が立たない。最終防衛隊も要請、と。」

2人が自我を取り戻したとき、最終防衛隊が到着した。ライも認める10人の精鋭である。

「ライ隊長、これは一体・・・」

「気を付けろ、まだ敵部隊が潜んでいるかもしれない。」

レイが、ここでようやく自軍ではない人影を見つけた。

「貴様がやったのか・・・?まさか一人で?」

その人は口では答えず、代わりに気弾の一撃で兵士を一人葬って回答とした。あまりに弾速が速かったので、ひとりでに兵士が倒れたと錯覚した。

「どうした・・・!!やられている?」

撃った男は、レイたちを意に介さず、一人何事か検討していた。

「ここでは、少し・・・あの丘なら・・・」

やがて、1人の防衛隊員が男の正体を理解した。

「あ、あいつ・・・ニルヴァ最高戦力グレイヴ側近の、カナタだ・・・」

レイ陣営は一様に衝撃と絶望を覚えた。なぜ側近が一人でいるのか。それは、次の軽い会話によるものだった。

レイとライがエリザ要塞跡地で握手を交わしていたころ、グレイヴは本部でエリザ敗北の報を受けた。だが、これにはグスタフが僅かな動揺を示したのみであり、3人が真に衝撃を受けたのは次の報告であった。沈黙を破ったのはカナタである。

「イーサンは国土が最も広いため、期待していましたが、まさか存在せず、とは・・・」

「いや、平地が主だから、ありえない話ではなかった。事実、ミリタンの場合でも、産出源はほぼ山からだったはずだ。して、将軍。いかがなさいますか?」

グレイヴはグスタフの問いに対し、しばしの沈黙の後、決定を下した。

「我々ニルヴァは、今後ミリタンからの採掘が終わり次第、大陸作戦の準備を開始するわけだが、現在のところ大規模な港がない。これは、知っての通り地形のためだが、それ以上に、港と首都が近くなりすぎるという、地理的な原因が主だ。イーサン方面に大規模な港を作れれば、おそらく、交易も、進出も、より容易になることは間違いないな。」

カナタもグスタフも、このグレイヴの言を聞いて姿勢を正した。これは、すなわち、

「イーサンへの最終攻撃を行う、ということですか。」

というカナタの確認が示す通り、イーサンを滅ぼすことが、決定されたためである。

「その通りだ、計画部に港の構造を構想させて、完了次第最終攻撃に出よう。」

「既に、いくつかのプランを構想させておりますので、1月はかかりますまい。」

「うん、さすがだな、グスタフよ。さて、カナタも手筈通り偵察、というわけか。」

「はい、既に候補地は選定しておりますので、最終確認と、場所の確保のみです。命とあらば、今すぐにでも。」

しかし、グレイヴは、カナタの出撃を許可しなかった。

「いや、イーサンなど、取るに足らない。当日出撃でも構わないさ・・・それより、お前の探していた物が、大陸でついに見つかったようだ。回収してくるといい。ついでに、ミリタンの反乱を鎮めてくれ?」

「ありがとうございます、閣下。大陸にすぐに出発し、暁闇を回収、性能テストを兼ねてミリタンの反乱に対処いたします。」

グレイヴは満足そうに頷いた。隣でグスタフが大笑いして言う。

「はっはっは・・・・すまないな、カナタ。俺はこんな体をしてるから実戦向きではなくてな・・・ま、当日に向けて、俺も準備するかなあ。」

「それでは、私は行ってまいります・・・」

 そして、カナタは万事を終え、ここに立っているのである。

「そんな奴がここにいるなら、不意打ちでもなんでもして、確実にここで倒す!炎銃!」

だが、回避された。不意を突いたのは確かであるが、回避された。

「あの弾速を途中の感知で回避するのか!」

ライが三段覚醒し、飛びかかる。

「うああああああ!雷丸!」

「こいつらが、エリザをやった奴らだな・・・まあ、エリザなら、確かにやられるかな、弱いくせに自信家だったし。」

カナタは怠そうにつぶやきながらライに対処した。手刀であっさりと雷丸の斬撃を受け止め、そのままへし折った。

「手で雷丸を!?ぐはあっ!」

ライはカナタの蹴りをまともに受け吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。

「ライ!!!!!!」

「さすがにエリザを倒したのはあいつじゃないな、お前か。」

カナタは平然と今までレイが体感したこのないような猛攻を加える。

「四段超越でもか・・・!ぐっ・・・」

どうにか致命傷を避けるので精一杯なレイは、勝てないことを確信していた。

「だが、俺の敗北は・・・なんとしても・・・」

「お前が自爆しても俺に大したダメージはないからな。」

「!?読まれて・・・ぐわああ!」

カナタの蹴りに耐えきれず、レイも吹き飛ばされた。

(ぐっ・・・なんてことだ・・・あいつは傷一つないのに、俺は割と限界に近いぞ・・・それだけ防御にエナジーを無意識に振っていて、それでこのザマ・・・ダメだ・・・)

レイは、しかし、完全に望みを捨ててはいなかった。炎銃が直撃すれば、いかに相手が各うえでも、倒せるからだ。

(ただ、どう当てるか・・・密着しないと、おそらく不可能、次の攻撃がラストチャンス!)

意気込むレイに対し、カナタは完全に気を緩めていた。

「暁闇を抜くまでもないな、釣り合いがとれない・・・さて、丘の整地でもしておくかな。・・・おっと」

防衛隊の1人がまた不意打ちを仕掛けたが、やはり圧倒的な反応速度で回避、反撃を行って葬った。レイは、それでも完全には絶望はしなかった。

(直撃寸前で気づいても完璧に反応される、やはり密着しかないな・・・丘に登ったときがチャンス!)

だが、そのときは来なかった。

「なんだ、アレ・・・あれが、グレイヴだと・・・」

丘に降り立った新たな2人を見て、レイの心は完全に折れた。それほどまでの威圧感を、グレイヴ1人が放っていた。その後の記憶は、レイにはない。


2

 どれくらいの時間が過ぎたのか、レイは、波の音で目を覚ました。

「頭が痛い・・・なんで、俺は海の近くにいるんだ?いや、そもそもこんな大きい湾なんて、あったか?ダメだ、思い出せないな・・・頭痛からして、よほどの衝撃を受けたんだろうか・・・ライ、そうだ、ライは!?・・・少しずつ思い出した、カナタは?ライ?やったのか?だれか???」

だが、ライも、カナタも、誰の姿も見当たらず、波の音が響くだけであった。暫くの捜索の後、レイが見つけたのは、

「これは、ライの記録装置・・・俺の傍にあったな、こりゃ。」

レイの傍に落ちていた記録装置のみであった。だいぶ傷んでいた。

「ん、これ・・・少し前まで記録していたのか・・・俺のエナジーで動作・・・した!よし、これで何があったかわかるかな?」

記録装置は再生を始めたが、見なかった方がよかったのかもしれなかった。

 グレイヴの到着から再生させた。見るからに怯えている自身の姿が少しおかしく、情けないと思ったのは一瞬であった。すぐに映像に引き込まれたからである。

「ここなら、確かに砲撃には適するな・・・では、グスタフよ。」

「はい、細かい着弾点を計測および、砲撃準備に入ります。」

「それでは、私も砲撃形態に」

しかし、グレイヴが止めた。

「まあ待て、俺にも準備運動くらいさせろよ、カナタ。素振りでもするかなあ?」

「では、このように」

そういうと、カナタは巨大な刀(いわゆる日本刀型)に変身した。柄がカナタの長身ほどもあり、刀身はさらにその倍はあり、太さも並の人間程にも達する、非常に長大な刀である。それをグレイヴは文字通り抱き、一振りした。

「ぬうううん!!!」

ただの一振りであったが、起こした真空派は、かつてのローチの竜穿砲がノミに見えるほどの規模であり、この一撃で地面は抉れた。レイは辛うじて刀を抱いた時点で行動したため直撃を免れたが、残りの兵士は全滅してしまった。さらに、直線状にあった首都にも直撃したような音が響いてきた。見ると、首都の方から黒煙が上がっていた。イーサンは滅亡した。

「たった一撃で・・・国が・・・滅んだ・・・」

レイは、戦意を完全に喪失した。おそらく有効であろう炎銃も、部下であるカナタにすら当てられないのだから、意味がない。対抗手段がないことを、完全に理解してしまった。一方グレイヴ一行は、完全にレイを無視して行動していた。

「さて、それでは」

カナタは今度は巨大な大砲に変身した。グスタフが搭載される。

「エナジー充填開始・・・閣下、お願いします。」

グレイヴが発射装置に入り、照準を合わせつつあった。レイは、まだこれ以上何をする気だろうかとぼんやり考えていたが、それ以上の思考は不可能だった。

 その時である。いつの間にか復活していたライがレイの後ろから駆け抜けてきた。

「レイ・・・後は、頼んだぞ・・・」

それがライの最期の言葉だった。

「ライ!!!」

あまりにも突然だったので、それしか言えなかった。落としていった記録装置にも気が付かなかった。ライはグレイヴに突撃していった。

「何をしようが、止める!!!俺の命そのものの一撃、フルスパーク!!!」

ライの一撃は、命中した。だが、レイが目にしたのは絶望であった。なんと、グレイヴは動きを止めるどころか、全く意に介していなかった。直撃に気が付いていないようにさえ見えた。

「よし、発射全行程クリア。発射!!!!」

そして、レイは、衝撃に吹き飛ばされた。記録装置もここで終わっていた。

 レイは、再びゆっくりとあたりを見回した。湾の中ほどに、不自然な丘のようなものが見えた。グレイヴが先ほど大砲を放った場所と似ている・・・

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

レイは全てを理解した。叫び声が止まらなかった。

 グレイヴの計画は、イーサンの広大な平地を利用して、湾に改造し、巨大な交易港を作ることであったが、レイには当然それはわからない。ただ彼にとっての現実は、さっきまで存在した守るべき国土と、最大の友人がグレイヴによって消滅させられたことだけだった。

 レイはしばらく叫び続け、そして倒れた。再び起き上がって歩き出すまでに、3日かかった。行く先も帰る先もない・・・そう思っていたが、1つだけ、まだ希望があった。

「大陸の、先生の所へ帰ろう・・・そして強くなって、グレイヴに復讐する!!!」

レイは誓い、記録装置を破壊した。俺は今からイーサン国のレイではなく、ただの復讐者だ、と決めたのだった。

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