大陸にて4
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一週間の特訓を終え、ボロボロになったレイとムサシを見て、ヒカルは微笑む。
「いい訓練ができたようですね。良かった良かった。」
レイがすぐに噛みつく。
「あれが訓練って・・・ひたすらリヒトに殴られただけだったぞ!!」
「あら、そうなんですか?リヒト?」
リヒトが何気なく答える。 「いえ、耐久力訓練でございます。レイ様はさすがに、高い防御力と回復力をお持ちでし たし、射撃の正確性も増しました。もはや戦闘モードでなければ回避できませんな。それ に、ムサシ様も、戦闘杖でなければ折られてしまいます。」 「一週間でここまでなら、きちんとこれからの手順をふめば、私も超えられますね、そう でなければグレイヴ打倒など夢にもなりませんし、当然ですが・・・さて、私の方も準備 ができました。こちらが、今回あなたたちと帯同する戦闘人形です。」 そう言って、ヒカルが人形を呼び出した。以前の試験で破壊した事務人形とは異なり、色 分けも完璧であり、見た目では区別がつかない。 「私の粘土作成能力では、1月かかります。つまり、1度人形作成に取り掛かると、その 間1ヶ月、私は能力も使えない雑魚になってしまうのです。結構使いにくい能力ですよ、 まったく。」
「あれ、でも一週間ですよ?」
ムサシが当然の疑問を挟む。 「まあ、今回は作りかけの人形に調整するだけでしたので・・・この戦闘人形一体は、本 体1人よりも強力です。頼ってくれてよいですよ。全身が光粘土ですからね。」 「よろしくお願いします。」 人形が最後の挨拶をしたのだが、見なければ気付かなかっただろう。 「声もそっくりですが、見分けるのは簡単です。人形は暗闇でも光ります。」 「故に私は隠密行動は不可能です。」
「さて、それでは出発してもらいますよ。」 まくしたてる2人のヒカルに対して、レイが反論する。 「ちょっと待ってくれ、俺達さっきも訓練してこんなにボロボロ・・・」 「分かってますよ、光粘土細工・神補正!」 ヒカルは光粘土を2人にぶつけた。すると、傷がたちまち塞がり、エナジーも回復した。 リヒトの方を見ると、彼はもとから知っていたのか、光粘土を食べていた。 「こういうことでございます、それでは、ガッツ国へ参りましょうか・・・人形もね。」 「人形には結構無礼にいくんだな。」
「ヒカル様ではありませんので。」
「では、勝利報告をお待ちしていますよ。」 そんなヒカルの呑気な声を背にしながら、レイはムサシに耳打ちした。 「制限があるって言っても、ずるい能力だな、やっぱ光粘土って。」
4人は程なくしてガッツ国にたどり着いた。 「訓練と思って飛ばして参りましたが、さすがですね、ついてこられるとは。」 「いつまでも格下でいられるものか、リヒトさんよ。」 「ほほほ。・・・では、早速攻撃を開始しましょうか。もう1週間、降伏の勧告は致しま したから。ほら。」
リヒトの指す方向には、ガッツ国の戦士が集まっていた。
「では、戦闘モードで参ります。あやつらは中々の強者ですから、油断なさらないように
・・・」
リヒトは戦闘モードになり、全身の筋肉が膨張し、その場から消えた。次の瞬間にはもの
すごい勢いで兵士が吹き飛ばされていた。
「相変わらずのスピードですね、では私も・・・お二人は戦闘しつつ、それぞれの望む人
を探してください。粘土変化!!」
ヒカル人形は鳥へと変身し、飛んだ。そのまま敵兵の上空に位置取り、
「粘土爆雷!」
空爆を開始し、効率的に敵兵を減らしていった。ムサシはそれを見て、 「もうあの二人で全部済みそうだな。」
と、半ば呆れていた。
「さあ、行こう、ムサシ、まずは師匠を探さないと。」 「ああ。何となくだが、向こうに師匠の気配を感じる。あちらに行こう。」 ムサシの指す方はガッツ国の奥地だった。向かおうとしたとき、数人の兵士が襲い掛かっ たが、レイは炎銃で難なく撃ち落とした。だが、背後から来る1人には気が付かなかった 。
「囮か!!ムサシ!」
「大和!!」 間一髪、ムサシの反応で攻撃を防いだが、敵も大刀使いで、手練れであった。 「ほう、この私の一撃を受けるとは、いい刀と使い手だな、誉めてやろう?だが!これは !!乱舞剣・志鳥!!」 「ぐうっ!!太刀筋が同時に何本も、踊り襲うのか!!防ぎきれない・・・レイ!」 「おう、五段進化の青い炎、大展開!!」
レイが炎を広げて攻撃を身代わりに受けた 「そんな斬撃、効かないよ!威力を分割してちゃあな!炎龍!!」 「大和・地走り!!」
「ぐわあああああああああああ」 以前の相手が異常だっただけで、炎龍も、ムサシの斬撃範囲延長の能力である地走りも、 本来はかなり強力な技である。一般兵では対処のしようがない。
「すまない、レイ。」 「いいのさ、ここのところ助けられっぱなしだったしな。しっかり力を温存して、一発デ カいのを頼むぜ?」
「そうさせてもらうよ。」 レイたちの突破を、リヒトもヒカル人形もしっかり確認していた。
「では、私たちも」
「本腰を入れましょうかな?」
「久しぶりの戦闘杖の全開ですぞ、光栄ですな!戯仗帯!!」
「うわああああ!」
「こ、これは、カマデ様の乱舞剣・志鳥と似て・・・ぐわあああ」
「だ、ダメだ!」
「一撃の威力がカマデ様と桁違い・・・ぐふっ」
一方、人形方面。
あいつ、降りてこねえ!!あの鳥!!」
「爆撃とは卑怯な・・・うわあっ」
「狙撃もしてくるのか!?・・・降りてくる!」
「リクエストにお応えして人間態に戻しましたよ・・・光砲!」
「「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」」」」」
右手から太い光線が放たれ、薙ぎ払っていく。 リヒトの人形の本気は圧倒的だった。あっという間に軍勢を全滅させてしまった。 「さて、これで大方は片が付きました。私は分身して、残党の掃討と、庁舎で戦後の交渉 をしてきます。何も市民の生活には変化が起きないようにしないといけませんね。」 言いながら、人形は4人に分かれた。 「では、各々向かいましょう。リヒトはどうしますか?」 「まだ強者がいるので、それの様子見をしますね。試さねば。」 「どちらかに敢えてぶつけると?」 「ムサシ、でしょうなあ。レイは自身に、乗り越えるべき壁がありそうですので。」 「分かりました。しかし、私にも敬意をもう少し払ってもらいたいものですね。」 「あなたは人形にすぎない。」 最期の人形はため息をついて、鳥に変身して飛んでいった。 「さて、こちらから向かいましょうかね・・・攻められているのに、堂々と聖堂で待ち構 えているとは、いやはや。」 リヒトは給仕モードで颯爽と聖堂に向かった。中には、絵画から出てきたような美青年が 1人立っていて、後光のように光が入り込んでいる。 「これはこれは。なんという美しさ。しかしながら・・・: 「僕が美しいのは自明の理さ。口に出すことではない。その杖の先端に埋め込まれた力光 石が僕を見出すのと同じくらいにね。」 「なるほど、そこまで見抜いていらっしゃるとは・・・」 「僕はギルバート、世界最高の剣士となることが約束された者さ。さて、君も道標にして やろう!この名刀ギルバート7に斬られる幸運に震えて死ぬが良い!!!!」 「まったく、剣に自身の名前をつけるとは、なんと強い自己愛・・・伸杖!!」 ギルバートの接近を許さないつもりでリヒトは技を放ったが、ギルバートはうまくいなし た。 「ほう、ピンポイントに攻撃点にだけ技が現れるのか、効率的だ。さて・・・こうかな ?」
ギルバートは、リヒトの、杖で虚空を突く動きを剣で真似した。すると。
「!!!!見真似で完全にコピーとは・・・」
リヒトの伸杖が完全に再現されていた、いや、剣の分だけ威力が上乗せもされていた。
「素晴らしい能力ですな・・・」
「僕は天才だからね。受けた技を、鍛錬次第で何でも習得できる可能性があるのさ。だが
、僕が天才であるという事実は、つまり!!」
今度は剣から水を放った。
「鍛錬などいらず、すぐに全ての能力を使えるってことさ!!!」
炎を続けて放ち、水を蒸発させ、聖堂内に霧を起こし視界を奪った。
「なるほど、これは素晴らしい能力ですな。」
「乱舞剣・志鳥・炎!!しかも僕の才能で自在にアレンジしてより強力にできる!」
「まったく・・・」
しかし、ギルバートの攻撃にリヒトは全て対応していた。攻撃を受け流しながら聖堂をい
つの間にか脱出した。リヒトとしては、美しい聖堂での戦闘は避けたかったのだ。
ふむ、よい攻撃ですな。しかし素直すぎて受け止めるのは造作もない。まあ、私は才乏
しき身ですが、これは経験の差というやつですかな・・・?」
「言うじゃないか、老人!!これでも同じことが言えるか?空気すら切り裂く一太刀・エ
アスラッシュ!!」
「やはり、あなたはふさわしい方だ。」
ギルバート渾身の一撃も杖で受け止めたリヒトは、そう告げた。
「何にだ!」
「それでは失礼いたします。」
「ぐっ・・・おい待て!!」
杖で突きギルバートを吹き飛ばしたリヒトは超スピードで消えた。
「逃げたと思うな・・・追尾する雷・トッメゲト!」
剣を振り上げると、遥か彼方で雷が落ちた。
「一瞬であそこまで・・・まあいい。・・・む?
ギルバートはそこで、名刀の気配を感じ取った。大和である。
「その刀は僕にふさわしいな・・・」
ムサシの元へと、今しがた得た給仕モードの速度で向かっていった。
「老人よ、ありがとう。その速度で杖で突いてくれてな!!はっはっは!いい移動手段を
得たよ、僕は!!」
一方、リヒトは突如襲った雷にはさすがに対応できず直撃を受けていたが、大事には至
らなかった
「まったく、剣技に限らず習得自由とは、恐れ入りましたな・・・ダメージを受けるとは
、想定外・・・大したことはないとはいえ・・・」
しばらく立ち止まる必要はあったが、やがて動き出した。
「あの者、死なすには惜しいですな・・・」
レイとムサシは、師匠のいると思われる方向へ順調に進んでいたが、突如、剣士の襲撃
を受けた。給仕モードを得たギルバートである。ムサシが応戦する。
「この俊足を見切るとは、大したものだよ!」
「給仕モードだろ、それ!リヒトをどうした!」
「天才の僕にできない技などない!それに、そんな不格好な名前ではない!!何より、リ
ヒトとやらに見逃されて立腹しているのだよ!
「ぐっこいつ・・・!まさか・・・ 力任せにギルバートを弾くムサシであったが、この一瞬で力量と、リヒトの意図を察知し た。 「レイ、先に行ってくれ!俺を待つな!場所はわかるだろ!お前にはもう1人会いたい人 もいるんだろ?ぐっ・・・とにかく、こいつは俺がどうにかしなきゃいけない!」 「すまない、ムサシ!」
「逃がさないよ・・・氷塊!」 ギルバートの前に氷塊が現れる。さらに、それを突く構えをした。 「ハイパーバズーカ!!!」 氷塊が大砲の弾として撃ちだされ、場を離れるレイを襲った。しかし、レイは炎で難なく これを破壊し、無事に逃げた。
「なんて奴だ・・・剣技に限らないのか!?」 「僕は天才としてこの世に作られた存在だ、剣技だけに僕を留めておくのは世界の損失さ 。」
「作られた、ね・・・行くぞ!!」 「正面衝突なら・・・槍の奥義・ヤリドヴィッヒ!!」 ギルバートの突きは槍の達人のように鋭くムサシは受け流すことも叶わずに吹き飛ばされ た。さらにギルバートが畳みかける。
「雷剣!」
「ぐうっ・・・動きが取れない・・・」
「タフな奴だな、剣で受け止めて、痺れるだけで済むはずないんだけどな?やはり、その
剣、素晴らしいな・・・暁闇への道標として、僕にこそふさわしい!!」
「暁闇・・・?どこかで・・・」
「その刀、もらい受ける!!!」
「大和を渡すわけ、ないだろ!!!」
そのまま激しい剣戟を繰り広げたが、互角であった。
「素晴らしい腕だ、認めてあげるよ!だが、これはどうかな?氷塊!」
先ほどとは違い、小さな氷の粒が多数浮かび、ムサシに襲い掛かが、簡単に弾かれる。
「この程度でどうにかなるかよ!」
「そう思うよ、僕も!」
「!?これは・・・」
いつの間にか、ギルバートの剣からムサシまで、氷の道ができていた。
「この氷の道が、雷を導く!雷剣!」
「しまった!!!!」
氷の衝突で生まれた静電気を伝い、先ほどは放射していた雷剣の雷が収束し、ムサシに直
撃した。
「ぐわあああああああああああああああああああ!!!」
一方、レイは師匠のいる洞窟にたどり着いていた。
「待っておったぞ、レイ。」
「師匠・・・」
頷くと、しばらく、師匠は沈痛な顔をして黙っていた。そして、ようやくゆっくりと口を
開いた。
「うむ、真の名は、モルブル。さて、レイ。お前さんをこの神聖な洞に入れるわけには、
いかん。」