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レイ戦記  作者: 倉羽瑛太
13/14

大陸にて3

1

 カントル国軍団長ヒカルは、いかにも優しそうな、柔和な細身の男で、声色も心地よいものであったから、リヒトに担がれて放り出された2人は、今受けた仕打ちとのギャップで呆然とするほどであった。

「さて、よく来てくれましたね。我々は、現在ノルガノ国への侵攻を考えていますが、大陸というのは争いが激しく、北方警備の部隊が割けません。つまり、戦力不足なのです。ノルガノ国への侵攻はこのため、少数で行う必要があり、私と共に戦ってくれる人材を公募することにしていたのですが」

ここでヒカルは心底悲しそうにしたが、その表情になぜかレイは戦慄した。

「どうにも基準に達するような方が見つからないのです。そこで今回、島より到達し、ノルガノ国をくぐり抜けたあなた方のスカウトとなったのです。では早速試験を始めます。」

「ちょっと待ってくれ、俺達今しがたお宅の執事に散々痛めつけられてまだ回復も・・・」

「戦闘というのは常に万全のコンディションで戦えるものではありませんから・・・それでは、私の自己紹介として、能力、光粘土を用いて試験しましょう。」

ヒカルはそう言うと、手から光の塊を出した。粘土というよりは、靄にムサシには見えたが、言わなかった。

「一日にだせる粘土量には限りがありますが、粘土ですので、数日かけて集めて、このように細工を施せるのですよ。」

ヒカルの背後から、なんともう1人ヒカルが現れた。ただし、全身黄色であったが。

「粘土人形です。これを倒すことが試験です。あまり時間をかけない、事務作業用の人形なので、強さは私の・・・いや、1人用だとさすがに不公平ですね。」

そう言うと、ヒカルは自身が生成した粘土を人形に突っ込んだ。

「結構な量をいれたな。本当に制限なんてあるのか?」

レイ思わずが呟くほどの量の粘土を入れた。人形は一度崩壊してまさしく光る粘土の塊となったが、それをヒカルがこね直し、たちまちもとの人形に戻った。

「強さを私の半分ほどに増強しました。2人で倒してくださいね。それでは・・・」

本体は去ろうとした。その際に、

「あ、そうそう。ぜひ勝ってくださいね。もう候補者用の埋葬地も余裕がないのです。」

と言い残した。思わずムサシがまだ残っていたリヒトに尋ねた。

「おい、あいつ全員殺したのか???執事!!!」

リヒトは悲しそうに答えた。

「ええ。軍団長の能力は隠す必要のない種類のもですから、殺す予定はないのですが、どうにも候補者様が攻撃に耐えきれないようでして、嘆かわしいことです。」

どうにも、カントル国幹部の2人は本気で候補者の死を悲しんでいるようだった。

「大陸ってのはこうも殺伐としているのか?俺らがおかしいのか?」

「さあな・・・だが、まずは、俺達は、勝たなきゃ、な。来るぞ!!!」

「それでは、試験開始です。私も終わるころに再び参ります。」

レイの炎龍と人形の伸びた右腕が激突した。

 レイの炎龍の群れが人形に襲い掛かる。噛みつきを紙一重のタイミングで回避しつつ、着実に距離を縮める人形だが、ムサシが突然割って入り、大和で斬りつけた。

「粘土人形っていうのは便利だな!腕をそのまま剣にするとは・・・ぐっ」

左腕を剣に整形して大和を簡単にいなし、蹴りを入れてムサシをレイの方向に吹き飛ばした。このため、レイは一度炎龍の操作をやめて移動したが、その一瞬で人形は詰め寄り、腕剣で貫いた。

「!!・・・だが、捕まえたぞ・・・炎銃で・・・何!!」

人形は貫いた腕をそのまま捨てて既に間合いを取っていた。

「残った粘土で復活か、食らい損じゃないか・・・だが、おいそれとはできないはず・・・それに」

レイは再度気合を入れて体に刺さった粘土剣を焼き払った。傷口も塞がっていた。

「この青い炎の回復力も、舐めちゃいけないよ!まったく!」

だが、ムサシは戦慄を覚えていた。

「おい、レイ、持久戦を考えているなら、多分ダメだ。何となくだが、俺には感じる。あいつのエナジーの含有量は、俺達よりまだまだ、はるかに多い。こっちが先にバテる・・・」

「そうか、つまり正面から勝てってことか。だが、やれるさ・・・あいつは少なくとも、執事より弱い!!炎銃!」

レイの炎銃は回避された。

「避けるしか選択が無いだろう?そこを炎龍!・・・は正面から破られる、だが」

「大和!!!」

ムサシの剣も受け止められる。

「動けなくなったな、終わりだ、炎銃三連射!」

人形の頭に3つ穴が開いた。

「これで勝ったな・・・ムサシ?」

「いや、こいつは人形だ・・・くそっ押し切られる!」

人形はまだ動き、ムサシを弾き飛ばした。そこにリヒトが再び現れた。

「人形の被弾を検知しまして、様子を見に参りました。なるほど、人間相手でしたら、これで勝利ですな。しかし、この人形は相当戦闘能力を落としてありますので、完全破壊を条件とさせていただこうと思います。ご了承を。」

「そういうのは先に言わないか?」

「何分、今決めましたもので。ムサシ様。」

「舐められたもんだな・・・大和・伸!」

なんとムサシは、斬撃範囲を延ばす能力を使ってリヒトに斬りかかった。床を斬ってそれを延長し、斬りつけようというのだ。その試みは杖であっさり敗れたが。

「やりますなあ。では、ご健闘を。」

「あの杖何でできているんだ、思いっきり斬ったのに。」

「人形が来るぞ!」

人形はしかし、確実に炎銃でダメージを受けていた。明らかに鈍い。

「来る前に、撃ち抜く!残り全部の炎銃7連射ァ!」

人形の腕と足と胸と腹と、再び頭を撃ち抜いたが、それでも止まらない。

「炎龍!!!」

やはり炎龍では効果がない。

「ムサシの八紘一宇も致命傷になるか怪しいなこいつ・・・しょうがない、正面から殴り合う、ムサシは八紘一宇の構えを!!」

「おい!無茶な!・・・いや、それしかないか、格上の相手に勝つには、俺の一刀しかない。少しでいいい!集中させてくれ!頼んだぞ!!」

「任せろおおおおぉぉぉぉx!!!」

叫びながら殴りかかるレイ。壮絶な殴り合いとなり、泥仕合の様相を呈した。

「手数でだけは、負けない!ショットガン!!」

圧倒的な勢いで立ち向かうレイであった。1発殴られる間に2発3発殴った。が、やはり実力の差は如何ともしがたい。手数で勝った所で、人形には大したダメージは与えられず、青い炎を突き抜ける攻撃は確実にレイを追い込んでいく。

「ぐううっ・・・ダメか・・・だが・・・ならば!」

人形の右腕だけに攻撃を集中させるレイ。この判断は正しく、人形の右腕は破壊された。

「再生したら、また壊す!!」

再び右腕を破壊したが、今度は再生せずに蹴りを入れた。

「がはっ・・・ムサシ!」

「ありがとうよ!!行くぞ、八紘一宇!!!」

光る大和が人形を縦に真っ二つにした。

「俺は限界を超える!!!まだまだ!!!」

更に何回も斬り、バラバラに分割した。

「どう斬れば壊せるのか分からんから、細切れにしてやったが・・・」

ムサシは気絶した。レイも時間稼ぎの結果ボロボロであったが、信じがたい光景を見た。

「まだ、動くのか・・・!」

それぞれの破片が動き、それぞれがムサシにとどめを刺そうとした。何も知らなければ、人体を分解して攻撃する能力のように見えるだろう。

「なら、全部焼き尽くす!!!!」

レイは渾身のショットガンを放った。さすがにバラバラになった粘土には有効であり、次々と焼き尽くしていった。そして、最後に1つ、一際輝く丸い塊だけが残った。

「はあ、はあ・・・あれが、きっとコアだな。ショットガンを弾きやがった、多分炎銃じゃないと、俺には破壊できない・・・集中しろ、一撃に全部賭ければ、一発くらい放てる、撃ってやる!!」

レイは自身に纏う炎を解除し、指先にすべてを込めた。そして、炎銃を放った。

「撃てた!!終われ!!!!!」

コアは砕け散った。そして、その後には何も起こらない・・・

「勝ったな?・・・もうだめだ、これ以上は・・・」

「その通りです、合格ですよ、2人とも!!!」

ヒカルが興奮した様子で入ってきて、気絶していたムサシを無理やり起こしてレイもろとも抱きしめた。

「この時をどれだけ待っていたことか!!!やっとこれで、戦力が増える!!!さあ早速、入隊の手続きとこれからのスケジュールを」

「お待ちください、ヒカル様。お2人とも、大変お疲れのご様子。まずはゆっくり、お休みになっていただくのがよろしいかと。それに、申し訳ございませんが、身辺調査なども、させていただかねば。」

「それは構わない、とりあえず、休ませてくれ・・・」

「うん、そうですね、リヒトの言う通りだ。今後のことは、明日にでもゆっくり話しましょう。最上の部屋を、2人に、リヒト。」

「既に用意してございます。ようやく準備が実りまして、我ら執事一同も大変喜んでおります。さあ、こちらへ。」

リヒトに導かれ、ホテルの部屋へ向かいながら、レイがコッソリムサシに囁いた。

「こいつら、今までの応募者皆殺しにしておいて、これだもんな。」

「まあ、戦時下の国家の考え方は、こうなのかもな。」

ムサシは結構冷静であったので、レイとしてはあまり面白くなかったが、今はゆっくり休めることに大変感謝をしていた。大陸上陸からここまで、まともに寝ていなかった。

 結局、2人が満足に動けるまでには3日かかった。

2

 リヒトに導かれ、レイとムサシはヒカルの間で会談していた。

「ふむ、2人の事情は理解しました。グレイヴについて、私が知っていることをお話ししましょう。私はまだ入隊したてだったので、直接交流があったわけではなく、伝聞と記録によるものですが。彼は、この国の出身で、先々代の、最年少で就任した軍団長です。恐らく歴代最強でしょう。恐ろしい程の強さでした。ですが、彼はあまりにも覇道を唱え、大陸の完全征服をあまりにも強固に主張するので、軍部としては、彼を扱いかねていました。まあ、私レベルにまで彼の強硬論は届いていましたから、本当に頑固だったのでしょう。そして、殆ど1人で完全な戦果を挙げてしまうので、解任しようにも、できないという感じでした。尾恥ずかしながら、山脈の南北をつなぐただ1つのトンネルは、まあ今度行ってみてください、彼が山を撃ち抜いて作ったもので、そのほかかなりの功績があちこちにあります。もっとも、征服については大陸の南半分なら現実的でしたが、トップ山脈を超えた北大陸は、未だ十分な情報すらないのです。国家を挙げてのプロジェクトとするのは、無謀でした。彼もさすがに、北伐を一人で行ってみて、手に余ると判断したのでしょう。軍隊の飛躍的強化を考えたのです。そうです、彼は力光石に目を付け、それで兵器などの製作を行うつもりでした。しかしながら、あの鉱石は貴重で、そんなこと不可能・・・のはずでした。はい、あなたがたの出身、こちらではジャク島と呼んでいますが、そこに石が大量に存在する可能性にたどり着いたのです。そして、今、私はあなたがたのおかげで、その目論見はおおむね達成されたことを知りました。恐らく、彼はこれから帰還作戦を始めるつもりでしょう、阻止せねば・・・おっと、話が逸れましたね。とにかく、彼がジャク島を見出し、侵攻計画を立てたところで、穏健派がついに反乱を起こし、彼の任を解いたのです。これで軍を動かす権限は奪いましたが、まあ、ご存知の通り、あの強さです。それなら一人でやるとばかりに群を辞めました。当然、追手を出しましたが、当然全滅。後任の、私の先代ですね、軍団長の師匠もあっさり殺されました。カナタとグスタフについては、追撃戦時にわずかに報告があるだけですので、大陸出奔時に見出したものと思われます。あるいは、警護団を私設していたのかもしれません、とにかく軍にはいなかった。その後の彼の活動は、ご存じのとおりです。そして今は、新たな力を得、大陸に凱旋するつもりのようです。カントルも滅ぼされるでしょう。」

ヒカルの話を聞き終えたレイは、改めてグレイヴの怪物度合いを知り、気が遠くなった。ムサシが尋ねた。

「なるほど。つまり、カントルとしても、彼を無視することができなくなりつつあるのですね。それであれば、こちらとあなた方の向かう方向に一致点がある。」

「まあ、将来の話ですがね。現実的に、彼には今は勝てない。ですが、あなた方には、見込みがある。我々と共にくれば、その力は得られます。」

リヒトが、映像を投影した。かつてのライがやったような能力だろうか。こちらの方が、色の数も鮮明度もはるかに上だが。

「我々は、ニルヴァの侵攻を待ちはしません。こちらから仕掛けますが、まだ、向こうの用意が整うまでには時間がかかる。交易船であって、攻撃船を出さないのが証拠です。無論早い方がいい、という意見もありますが、グレイヴが倒せませんし、結局彼が戦力の99%です。まず、あなた方を鍛えつつ、カントル国軍を整えます。」

「侵略するのか・・・」

「抵抗がさすがにおありですか?レイさん?行いとしては、グレイヴと変わりがありませんものね?」

「いや、いいんだ。俺たちは、殲滅的な侵略は、しない。」

「その通りです。あくまで、軍同士の戦いにします。理想論ではありますが、彼らのように通る道全てを破壊はしません。ともかく、我々4人で、まずはガッツ国を攻めましょう。」

「え、たった4人で、ですか???」

ムサシは驚愕のあまり、大和を落としそうになった。

「その通りです。ガッツ国は、去年まで、カントル国の一部でしたが、独立しました。それだけならいいのですが、なかなか我が国への敵意が強く、ここを放置できません。国の規模としては小さいですが、まあまあ強力な兵力がありますから。まずはニルヴァ侵攻のため、地盤を固めます。それに、ここを我々だけで攻めるのは、鍛錬以上の意味があります。あなた方の師とも親とも言うべき人は、今やガッツ国の住人です。あの地域が、島での抵抗活動に最も熱心でした。」

「なるほど、我々の素性を知らせない、という配慮込みですか・・・いや、それにしても・・・」

「もちろん、今すぐにではありません。一週間後です。それまでは・・・リヒト!」

「はい、不肖私めが、訓練させていただきます。大丈夫です、ヒカル様が、すぐに私めなど超えられると仰っていますから。」

レイは出会ってすぐに打ちのめされたことを思い出し、そんなことあるかなと思いながらも、腰を上げた。

「じゃあ、すぐやりましょうよ。どうせ、グレイヴ打倒のために、あんたたち全員超えなきゃいけないんだ。」

「おい、レイ。お前もう少し言葉遣いをだな・・・」

「ほほほ。お構いなく。その辺りも鍛錬させていただきます・・・」

 こうして一週間の鍛錬が始まった。初日は開始直後に2人とも死ぬ間際まで叩きのめされたのは言うまでもない。

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