退院~そして……
気がつくと、廃墟では無い普通の清潔な病室で目が覚めた。
ここはあの廃病院ではない普通の病院で、包帯だらけではない普通の院長先生から、私が山の麓の……例の廃病院に続く道の入り口で倒れていたのを、付近の住人に発見されて、ここに保護されたのだそうだ。
あの肝試しから二日が過ぎていて、発見されたのは私だけ。アサミ達には捜索願いが出されて、私は警察やアサミ達の家族に色々聞かれたが、肝試しで廃病院に行った事以外は何も答えられなかった。
だってあれは夢の話だから。全部夢に見たお話だから。
一応、廃病院も捜索されたが、何も発見されず、途中の道で崖下に落ちたSUVの残骸だけが発見されたが、やはり遺体一つ発見されなかったそうだ。ちなみに、路上には野犬か何かを跳ねた痕跡はあったけど、やはり野犬の死体も見つからなかったらしい。
結局警察は、肝試しからの帰りに不意に現れた野犬を避け損なって、車ごと谷底に転落し、アサミ達の死体は野犬がどこかに運んだのだろうと言うことで、事件性は無いと結論付けた。
……あれから一年たった。私は休学して、廃病院の有るあの街から遠く離れた実家で、引きこもる暮らしを送っている。
家族や周囲は、事件のショックで外に出られないのだろうと勝手に判断して、そっとしておいてくれているんだけど、そうじゃない。確かにあの廃病院での出来事は夢だった……と思う。
でも院長は言ってた。
アサミ達は、手術が終わったばかりで今は動けないが、リハビリや心理的なケアが済めば“じきに良くなる”と。
良くなれば、次に起こる事は……
不意にベッド脇に置いていたスマホの着信音が鳴ったので、驚いて短い悲鳴をあげてしまった。今のはSNSの通知音だ。震える手でスマホを取って、着信を見る。
アサミからだ。
“カナコ元気してた? リハビリも終わって、今日退院出来たよ。ミカも元気だよ。すぐにでも会いたいな。フトシも一緒だしさ、今から皆で派手に退院祝いのパーティーしようよ! カナコの所でさ! スグそっち行くから待っててね。”
一緒に添えられてた画像にはフトシが撮ったのだろうか、暗闇を背景にアサミとミカの顔がフレーム一杯に写っていた。呆然と画像を見ていると、さらに追加の着信が届いた。
“逃ゲルナヨ”
ドアを叩く音がした。そこに犬のけたたましく吠える声が唱和して、更に恐怖で私の歯が鳴る音が加わる。
ドンドンドン! ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン‼
キャンキャン!キャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャン‼
ガタガタガタガタガタ……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……
扉が破られた。双頭のハンプティ・ダンプティと人面犬がゆっくりと部屋に入ってくる。ハンプティ・ダンプティの両手には、メスと糸ノコが握られてて……あの時みたいに恐怖で逃げる事も出来ない私に、アサミの頭が笑いながら話してきた。
「カナコ久しぶり~。お見舞いにも来ないなんて水臭いじゃない。今日やっと退院できたからさ、カナコの顔が見たくってそのまま来たってワケ。退院祝いに“カナコで”盛大にパーティーをしようって思ってさ。」
怪物の手に握られた凶器が妖しく光る。ベッドから降りる事も出来ずに、友人の顔を持つ怪物達が次第に近づいて来るのを力無く見つめていると、今度はミカとフトシが嬉しそうにしゃべった。
「大丈夫、死ぬ前にあの病院に速攻連れてくから。あの院長先生がキチンと手術してくれるからさ、心配しないで。やっぱり、友人同士お揃いのカッコじゃないとね。さぁ、カナコはどんな姿に“治療”されるのかなぁ。楽しみ~」
「さあ、アサミさん! ぼぼ僕がバッチリ撮影してますから、存分に腕を奮って下さい!」
結局、再入院かぁ……私は目の前に突き付けられたメスの切っ先を見つめながら、心の冷めた部分でそんな事を考えていた。だって、これは夢なんだから。このまま夢の中で切り刻まれたとしても、目覚めた時には、今まで通りの普通の身体のままに決まってるんだから……




