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あなたのための悪役令嬢計画!  作者: たちばな立花
第2章

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第11話

 普段のライナス様との話といえばなんだろう。この前は劇の感想を聞くのに必死だったけど、いつもはと言われると……。


「普通の話……だと思いますけど」

「例えば?」

「会っていない間、何をしたとか……」

「まあ、素敵。お互いに会えない時間をそうやって埋めあっているのね」


 ジーナがうっとりと頬を染める。会えない時間を埋め合っていると言われると、何となく気恥ずかしい。なんだか物語の中の恋人同士みたいじゃない?


「エレナ様はライナス様がいらっしゃらない時はどのようなことをなさっているの?」


 三人は興味津々のようで、若干身を乗り出して聞いてくる。


「大抵は屋敷に……」


 少しは外に出なさいとお母様にはよく言われます。でも、外ってつまりはお茶会みたいな社交のことで、別段楽しくないのだ。


 買い物は商人に屋敷に来てもらうことが多いから、街を歩くこともほとんどない。


 ケリーと遊んだチェスの話とか、勉強した内容とか。あとはシェフの創作料理の話とかをすることはある。


「では、屋敷にいる間のとりとめない話を毎回ライナス様に……?」


 質問に頷くことで返すと、三人は驚きに目を丸くする。


「へぇ……ほんとうに普通のお話なのね」

「毎回似たようなお話をお聞きになるなんて、ライナス様はお優しいのね」


 言葉にしてみると 本当に普通の話だ。私の世界はノーベン家の屋敷で終始しているし、お出かけもあまりしない。


 もっと話題になるようなことをした方が良いのかも? もしかして、私の話つまらないんじゃ……。


 ライナス様はいつもにこやかだし、気にしていなかったけど、言われてみれば同じようなことの繰り返しだ。


 もしかして、つまらないなと思いながら話を聞いていてくれてるのかも? 私ったら気づかずに八年も過ごしていたわ。


 私が絶望の淵に落とされている間に、ジーナとナンシーは「私なら――」と話に花を咲かせていたような気がする。


 隣に座るマノンだけは私のことを気遣い、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。「ありがとう」と返事をしたのか、「大丈夫」と返したのか覚えてすらいないけど。


 どうしよう。私の話がつまらなくて面倒だなと思われていたら……。私はそんなことばかり考えていた。


 お茶会は終始和やかな雰囲気だったような気がする。ジーナとナンシーはお喋りで、彼女達が率先して話題を提供してくれていた。マノンがそれに相槌を打つ。


 私は話の合間に入る質問に目を白黒させた。


「ライナス様はどのようなお菓子が好きなの?」

「ライナス様の好きな色は?」

「ライナス様は普段どのような格好を?」


 どれも思いもよらない質問だったし、何よりライナス様の個人的なことばかりでどう返して良いか分からなかった。本人に許可を得る必要がないようなとりとめない質問だけど、勝手に話すのも躊躇われる。結局私は「ごめんなさい。知らないの」と曖昧な笑う他なかった。


「エレナ様って、ライナス様と幼い頃からの付き合いなのに、何も知らないのね。ライナス様が可哀想」


 ナンシーは呆れ顔でため息を吐いた。


 本当は知っているのよ。あまり甘い物は好きじゃないの。クッキー一口に対して紅茶を一杯は飲み干す。だけど、クッキーを好きな私に気を使って「おいしい」と一緒に食べてくれる。


 だけど、疲れていると甘い物をよく食べるの。仕事の帰りにうちに寄ってくれた時に、いつもの倍はクッキーを口にしていた。


 好きな色は紺色。多分本人も気づいていない。無意識に手に取る色だ。


「ナンシー様ったら、親同士の決めた婚約なんてそんなものですわ」


 ジーナの言葉は私を助けてくれているようで、そうではない。「あなたライナス様に興味ないんでしょう?」と言われているようなもの。でも、ムキになって彼のことをペラペラ話した方が迷惑になるのはよく知っている。


 失敗したことといえば、誤魔化すために曖昧に笑う以外の術を持っていなかったことだ。お茶会が苦手だからって引きこもっていたツケがこんな時に回ってきてしまった。


 もう帰りたい。美味しい筈のクッキーの味もよくわからないし、楽しい筈の会話も楽しくない。


 きっと、強くてかっこいい女性というのは、こんな時に上手く言って席を辞するのだろう。


「帰ります」って一言は結構難しいものね。こういう時どうやってみんな席を立っているんだろう。このまま、黙って終わるのを待っている他ないのかな。


 話せば話すほど、ライナス様とは似合わないと言われているようで苦しかった。もうその時には『かっこいい』探しなんてする余裕はなくなっていたのだ。


 こんなのとてもかっこ悪いと思う。こんな姿彼に見せられないよ。


 ぐるぐると悩んでいたそんな時だ。扉が叩かれた。


「失礼致します。ノーベン伯爵令嬢エレナ様にお迎えがいらしておいでです」


 お迎え……?



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