NO.2 いきなりの戦闘
前話でいくつかの『音』を拾ったカレン。
※「……」は異世界の言語の表現です。カレンは異世界の言語を読み取れないので「……」となりました。一応「……」の後に日本語を表示しています。
≪一定の殺意が集まりました。【現代兵器Lv.10(max)】を発動します≫
≪一定の感情が集まりました。【古代兵器Lv.1】を発動します≫
≪【現代兵器Lv.10(max)】と【古代兵器Lv.1】を共有します≫
「戦闘準備完了」
今、自分には戦闘スキルは一つもない、かといって魔力もない。
じゃあどう戦うか。簡単だ、転移前と同じように戦えばいいのだ。
静かに深呼吸をし、心を落ち着かせる。
目をゆっくりと開き1本だった黒触手を2本に増やし、触手の先を鎌のように変形させると『音』のした方向へ走る。
最高で4本出るようだ。そして、2本で一つなんだとか。
全パラメーターが2つのユニークスキルによって強化されているから速度が出る。
久しぶりだ、こんなに速く走ったのは。
見えた!
弓持ちの自分より小さい少女と、左肩が使えなくなった剣使いの男性、その前には……豚の化け物、オーク3体!
≪【人間兵器Lv.--】を発動します。図鑑を表示します≫
『オーク:太った直立歩行する豚。会話はできるが知能は低く、難しいことは理解できない。性格は粗野で乱暴。また性欲が非常に強い。オークの肉は豚肉として活用でき、高級食材にも匹敵するおいしさ』
≪急所は人間と同じ『首』です≫
十分に速度が出ると、近くの木に向かって跳躍すると壁キックする要領でオーク3体の頭上に向かって跳ぶ。
刹那、太陽が消えた。
ふっとオークたちの頭上に影が出来る。
少女が太陽を背にし、周りの木々を使って跳んできたのだろうか。
やっと気付くオークたち、しかし一手遅い。
「さよならだ」
鎌に変形したクロを振るい一度にオークたちの首を跳ね飛ばす。
赤い液体が周りに飛び散り、頭を失った物体たちは少しよろめいて前のめりに倒れる。
≪【古代兵器Lv.1】の発動を停止しました≫
≪【現代兵器Lv.10(max)】の使用を確認しました。すべてのスキルを開放します≫
≪経験値を3体合わせて300得ました≫
≪称号スキル【人間兵器:Lv.--】により、合計600得ました≫
≪『カレン』のLv.1からLv.11に上がりました≫
ものすごい勢いでレベルが上がっている。でも、うるさいな今は。
そして自分はというと赤い液体を避けて降り立つ。
顔を上げると意外と目の前に二人が立っていた。いや、少女が立っており男性は剣でようやく立っているという状態であった。
左肩はやばいな、血が止まっていない。何かきれいな布は、自分の着ている服は駄目だ、オークの血でべっとりだ。
まだ、【現代兵器Lv.10(max)】によって強化され続けているパラメーターの状態で男性は担げる。
そう考えていると、ふらっとよろめく男性をお姫様抱っこすると鎌を戻したクロで今度は少女を後ろでお姫様抱っこをする。
少女が何かわめくが、すまん言葉は分からない。
それに今はそんなことに構ってる余裕はないんだ!
いつまでこの状態が持つか分からないが出来る限り速く、出来る限り近くに!
≪一定の感情が集まりました【古代兵器Lv.1】を発動します≫
グンと走る速度が上がる。
洞窟が見えて来ると、少しずつ速度を下げ洞窟に着く頃には歩いていた。
先に少女を降ろし、触手を使って自分が寝ていたベッドのようなものを持ってこさせ、上に男性をゆっくりと降ろす。
≪【現代兵器Lv.10(max)】の効果時間が切れました。発動を停止しました≫
クロが持ってきたガラクタの中を探し、比較的新しそうな衣服を見つける。
そして、衣服を引きちぎり患部に押し当てる。
「……!!(……っ!!)」
男性がジタバタと暴れるがクロで手足を押さえつける。少女は正座して男性を泣きそうになりながらも見ている。
なにか、回復スキルでもあれば!
≪一定のexpを獲得しました≫
≪【古代兵器Lv.1】が【古代兵器Lv.2】に上がりました≫
≪通常スキル【救援活動Lv.1】を取得しました≫
ありがとう!
めっちゃ感謝する!
めっちゃいい時にきてくれたスキル!
いや……待て。
私は魔力がないぞ……。
一応調べてみるが。
『【救援活動】
魔力を消費して意思とともに相手を回復させる。【古代兵器】と共有可能。共有することによって魔力を消費しない』
ほら、そうじゃーん!
魔力消費するじゃないですか……いや、共有すると魔力消費しない。
よし、【救援活動】と【古代兵器】を共有開始しましょう!
≪【救援活動Lv.1】と【古代兵器Lv.2】を共有しました≫
≪回復魔法により【兵器の呪いLv.--】を発動します≫
意思とともに相手を回復させる。
ちらりと少女を見る。
もうほとんど泣きそうだ、多分親子なのだろう。
その時少女と目が合う。
「……、………!(お願い、お父さんを助けて!)」
そう訳の分からない言葉を必死で言い、ぺこんと頭を下げる。
日本で言う土下座に近い。
きっと助けてください、とでも言っているのだろか。
なら、なおさら頑張んなくちゃ!
魔力ない私が!
患部に手を近づけ、少女のために男性を助けたいと強く思う。すると手の先が光りゆっくりとだが男性の傷を癒していく。
ゆっくりと、ゆっくりと……。
すべてを治し終わるまでに15分もかかってしまったが、傷一つ付いてないのだから上出来だろう!
男性は暴れ疲れ、眠いっている。もしかしたら、少女を守っていた疲労からだろうか。まあ、何にしても助かったのだから安心していいよね、これは。
「終わったよ、お嬢さん」
そう優しく言うと、少女が男性に駆け寄る。そして何かを確認した後に、泣きついた。
少女が泣き終わるまで待つと丁度男性も起きた。すると、男性にまた抱き着き泣き始める。男性は少したじろいたが、少女の存在を確認するように触り偽物でないことを知ると、少女をギュッと抱きしめた。
おー、再開って感じだね。
でも、知らない人と洞窟の中にいて怖くないのかな?
そう思いながら2人をじーっと見てしまった。
その視線に気づいたのか、男性は少女を無理やり引きはがそうとしたのだが、引きはがせずそのまま話すことになった。少女の力強いな。
「大丈夫ですか、傷の具合は」
と聞くと
「…、………。…、…………。………、…………(すいません、聞き取れなかったです。しかし、助けてくださり本当にありがとうございます。娘も助けてくださり、本当にありがとうございました)」
ん?
ごめん、なんて言った?
もしかして私、ここの言葉分らない?
これ、何語なんだろうかなー。
と考えていると、男性がまた話しかけてくる。
「待って何も言わないで!もっとわかんなくなるから!」
そう言いながら手を前につきだし相手の言葉を拒否する。
異世界あるあるは起きないことが分かりました。言語は日本語に勝手に変換されませんでしたー。パチパチパチ……。
ふぅと息をつくと、2人を無視して立ち上がり洞窟の外に出る。そして村に向かって走る。こうなったらヤケだ!
ぽかんとする2人にコロコロと転がりながら近づく水晶。
『主様、言語共有機能を私は持っておりましたのに。何しに行くのでしょうか』
そう話すと男性は肯定し、洞窟の入口を見守る。
カレンが帰ってきたのは外へ出てから20分後のことだった。カレンの両手には3羽の鶏がジタバタと暴れていた。
おまけで決まる水晶の名前
『主様、私の名前はいつ決めるのですか?』
「そうだなあ、浮遊する水晶だから……」
『なんでしょう、楽しみです』
「『フヨウ』はどう?」
『フヨウ、ですか?』
「うん、どうかな?」
『主様、ありがとうございます。気に入りました』
この後のフヨウはずっとルンルンだったらしい。




