第3章 6話 宝物見物なんてしなきゃよかったね。
「皆様どうしました?」
ラッキーガイが怪訝な顔して俺達を伺う。
「いや、なんでもないよ。次の宝物見せて」
こんな不吉な宇宙服の事は忘れて他の宝物見せて貰おうぜ。
「いやいや安田くん、もしもがあるからさ、一応鑑定しといてよ。なんか時々とんでもない緊急事態だったりするでしょ?」
「そうですよ安田さん、何があるかわからないですから、一応お願いします」
えー、もし鑑定してまた変な魔物が宇宙にいたらどうすんのよ?
この流れだと下手したら俺達、星空の彼方に行くことになるよ?
「小学生の時、宇宙飛行士になりたいって言う友達がいたけど、俺子供ながらに、なんであんな生身で行ったら即死するような真っ暗なとこにわざわざ行きたがるんだコイツ?って思ってたタイプなんだけどな……」
素人が手を出したら絶対ダメだと思うよ。
「うん、まあまあ、気持ちはわかるけどさ、一応ね?」
「そうですよ安田さん、一応ですよ一応、万が一ってヤツです」
万が一って言葉を使うなよ。
そういう場合大抵一万分の一引き当てるだろ。
ウルトラ鑑定
アイテム名 宇宙服
分類 防具
防御力 65
レア度 A-
価額相場 3500000G~40000000G
効果及び説明
見た目通りの宇宙服、昔いた空の勇者根本がこれを着て宇宙にいた魔物と戦った。
ちなみにこれがスイッチになっていて左手の薬指の先っぽを左に二回転右に十四回転回すと宇宙服の後ろに隠し通路が現れます。
隠し通路の先には隠し部屋があります。
隠し部屋には宇宙ロケット発射ボタンがあります。
おお、なんの緊急事態も無かった。
……いや、無かったのかこれ、宇宙ロケット発射ボタンあるやん。
いやいや待って、発射ボタンあるってことはどっかに宇宙ロケットあるってこと?
そんなんあった?
「……どう?安田くん」
「…………」
鈴木さんと東くんが神妙な顔で聞いてくる。
「なんとも言いがたいんだけども、隠し部屋あったわ」
「「「「ええ!?」」」」
鈴木さんや東くんはもちろん案内の騎士やラッキーガイもびっくり。
俺はとりあえず、隠し部屋を開こうとしてみる。
えーと、左手の薬指の先っぽを左に二回転させて。
あ、ホントに左手の薬指の先っぽだけくるくる回るわ。
あとは、右に十四回転……。
ギギギギギっ、ガコンッ。
あ、分かりやすい音して宇宙服の後ろに隠し通路出てきたわ。
「うわ、ホントに出てきたね……」
「嫌な予感ビンビンしますね」
「ほ、他の騎士を呼びましょうか?」
「安田様どういたしますか?」
他の騎士を呼んでこようとする案内の騎士を、手で制して留まらせたラッキーガイが指示を求めてきた。
そう言えば、今さらだがラッキーガイは下級貴族なのに宝物庫なんかに入っても大丈夫なんだろうか?
騎士もラッキーガイの指示凄い忠実に聞くしな。
下級貴族だけどもなんか偉い役職かなんかに就いてんのかな?
ラッキーガイ侮れないな。
「いや、大したもんないらしいから大丈夫だよ」
「いや、しかし」
「よいのだ」
他の騎士を呼びたい騎士をラッキーガイが諌める。
「まあ、行くべ」
隠し通路は長いこと放置されてるからだろうが、埃とクモの巣だらけ。
やっぱ行くのやめたいな。
とりあえず誰かに掃除して貰ってからにしたい。
いやまあ、掃除して貰ってる途中に発射ボタンポチられたりしたらたまらんしな。
どこにあるかもわからない宇宙ロケットが大々的にどっかに飛んでいってしまうかもしれん。
埃とクモの巣だらけの通路を進む。
案内の騎士が先行してクモの巣を払ったりしてくれるから超ありがたい。
あ、通路の先にドアがある。ゴールだな。
部屋に入ると、埃とクモの巣だらけの本棚や机が並んでる。
確かに大したもんは無さそうだな。
ただ、部屋の真ん中にある机の上に在るものだけは変だわ。
バラエティー番組に出てくる赤いボタン丸出しなんですけど。
え?これが発射ボタン?
手の平サイズなんですけど?
いや誰が作ったんだか知らんがバカじゃねえの?
どうすんのこれ、むき出しもいいとこなんですけど、間違えて押しちまう未来しか見えないんですけど、なんか安全装置的なもの用意しとけよ。
ウルトラ鑑定。
アイテム名 宇宙ロケット発射ボタン
分類 ボタン
攻撃力 2
レア度 ?
価額相場 ?
効果及び説明
押すと王城の上の部分が宇宙ロケットに変形して発射されます。
安全装置とかは無いので扱いに気をつけて下さい。
この城ロケットに変形すんの!?
「まじかよ……」
「安田くん、何それ?」
「何です?ボタン?」
鈴木さんと東くんが俺の震える手の中にあるボタンに気づいた。
「……これ押すと城の天辺の辺りがロケットになって飛んでく……」
「……うそでしょ?」
「……いやいやいや、それなんかクイズ番組とかに出てくるボタンじゃないですかー」
鈴木さんと東くんが信じてくれないわ。
俺も信じたくない。
「…………うん、まじで」
残念ながらまじで。
あとなんか知らないけど攻撃力は2。
「……まじで?」
「…………」
二人とも絶句。
「………………」
謎の静寂が場を包み込んだ。
鑑定結果
空の勇者根本が作り出した宇宙ロケット「根本式魔導ロケット」の発射ボタン。
押したとたんに城の天辺付近が変形して魔法の樹脂などで覆われ魔導コンピューターが気圧と重力を操作しつつ飛び立ちます。
ロケットは大気圏外に出た後に衛星軌道に乗ったり月に行ったりできます。
ちなみに再利用型ロケットのため帰って来た後ちゃんともとの場所に直立します。
発射ボタンは地上のどこで押してもロケットが発射されます。
ただボタンはなぜかいかにも間違えて押してしまいそうなデザインのやつ。
無駄に高性能っ。
再利用型ロケットってあれだろ。帰ってくる時に縦に飛んできて立って着陸する最新式のヤツだろ。
やたら高性能なのがなんか腹立つわ。
その癖発射ボタンに対する気づかいが無いし。
むしろボタン一番大事じゃねえか、一番気を使えや。
俺は慎重にボタンを魔法の袋に収納する。
よし、これで安心だ。
危ない危ない、一歩間違えたら吸血鬼の女王と洗脳された貴族達宇宙の彼方にすっ飛ばすところだったぜ。
「安田様?さっきのボタン?は一体なんなのですか?ロケットとはなんです?」
俺達を黙って見ていたラッキーガイが、どうしても気になったのか聞いてきた。
ファンタジー世界の住人だからロケット知らないんだな。
「いや、さっきのボタン押すとね、王の間の辺りが空の彼方に吹っ飛ぶんだよ」
「ええっ!?」
ラッキーガイびっくり。
「いや、王の間の近辺ってロケットって名前の乗り物になっててね。あのボタン押すとね。飛行船より遥かに高いとこ飛んだり出来るのよ」
ああ、王の間付近に食糧庫があったり狭い食堂あったりするのは、城の天辺がロケットで飛ぶからか。
ロケットはロケットで切り離して考えてあんだな。
「……安田様っ!!」
うわ、ロケットの構造について考えてたらいきなりラッキーガイが土下座しだした。
いやどうしたラッキーガイ、なんかあったのかい?
「どうかその発射ボタンをお貸しいただけないでしょうかっ!!」
ええ、なんで?
押したかったの?どうしてもボタン押してみたくなっちゃったのか?
困るよ?うちの吸血鬼打ち上げられるのは困るよ?
「ナキアミさん、とにかく、お話を聞かせて下さい」
あ、冷静な鈴木さんが間に入った。
ちなみにナキアミさんはラッキーガイの本名だ。
そうだね。とりあえず話聞かせてよ。
俺達はそこらにある椅子の埃を落としてラッキーガイを座らせて、俺達も座る。
「……私には、昔、もう十年以上前ですが、心から尊敬出来る方がおりました」
ふむふむ。なにやら昔話が始まったぞ。
「平民を人と思わないこの国の上級貴族の中で、その方だけは誰より民を思いやり、我々下級貴族にもいつも気を配ってくださいました」
「私達騎士団の者達もその方には大変お世話になりました。宮廷魔術師でありながら体術も修め、まさしく文武両道、この国で魔物が大量に発生した時も、誰よりも最前線で民の命を最優先にして、どんなに傷を負おうとも民を守って戦っていた。私自身もあの方に命を救われた者の一人です」
おや、ラッキーガイの横にいる騎士も話に入ってきた。
よっぽど優秀な人だったんだねえ。
「しかし、今から十年前、悲劇がおきました。公爵、いえ、二日前に捕縛された元公爵が我が国にある魔物が住む森を開墾しようとしたのです」
ああ、あの太った悪人な。
「元公爵は平民を徴兵し、その者らを使い潰してそれを行おうとしました」
うわあ、アイツ最悪だな。
「この国での公爵の権勢は絶大でした。しかし、その方だけは真っ向から反対した」
「そして、あの方が莫大な私財を投じ、方々に根回しをして、なんとか計画は頓挫いたしました」
それは大したもんだな。
「しかし、そのことで公爵に目をつけられ、徐々に国の中枢から離されて行きました。そして、濡れ衣を着せられ……」
ラッキーガイは目に涙を溜めて話してる。
横の騎士も握りこぶしがすげえ。血が出そう。
「……呪いをその身に受け、家族と共にこの国から追放されてしまいました。私は何も出来なかったっ」
「いいえ、ナキアミ様をはじめとした下級貴族の方々の嘆願があった故に、処刑だけは免れたのです」
騎士がラッキーガイを励ます。
この国の奴ら処刑したがりだからなあ。
「それだけだっ、私があの方にいただいた大恩はそんなことでは返せないっ」
涙を溜めながら嘆くラッキーガイ。
「……うう」
ん?あ、なんだ?
東くんから変な呻き声すると思ったら、ガン泣きしてる。
うわ、顔真っ赤にしながら凄い泣いてる。
……横にいる鈴木さんはなんか首捻って変な顔してるな。
うん、そうよね。
俺も話聞いてて思ったもん。
東くんは気づいてないようだけどさ。
多分、その人俺知ってんじゃねえかなあ?
具体的には数ヵ月前に隣の国で魔王になりかけてたその人の娘と奥さん生き返らして就職先紹介したんじゃねえかなあ……。
「お願いしますっ、そのボタンを使って王族に取引を持ちかけたいのですっ、公爵が失脚した今が好機なのです。安田様が見つけて下さった三億を使いっ、あの方の汚名をそそぎ、今一度この国に戻って来ていただきたいのですっ、お願いしますっ」
あ、またラッキーガイが土下座した。
「お願いしますっ」
あ、騎士も土下座した。
「……安田くん……」
鈴木さんが変な顔してこっち見てる。
「安田さんっ、協力してあげましょうよっ」
まだ理解してない東くんは、感情移入バリバリで凄い泣きながら協力しろと促してくる。
鑑定結果
その凄い人の名前はナラン・ヒリップフード。
隣の国でヤスダが助けた魔王になりかけてたおじさんです。
犯人の公爵を捕まえて、魔王のおじさんの呪いも解けているので、事件は解決済みです。
会いたがってるならこの国に呼べば良いんじゃないすかね?
結びの句が、ないすかね?って投げやりに書いてあるわ。
……そうだよね。解決済みだもんね。
「安田さま、どうかっどうかっ」
「お願いしますっ」
「安田さぁーんっ」
みんな泣きながら土下座してるわ。
……なんだろうこれ……。
もはや解決済みの事件だからな。
この数十分間は話し合いしてる時間じゃなくて。
土下座して泣いてるおじさんと泣いた赤鬼みたいな高校生を眺めるだけの時間だったんだなー。