第3章 5話 なんか人を操る電波みたいのを出してんじゃないかな?
「串刺しだっ」
「火炙りだっ」
「いや、牛裂きがよかろうっ」
「首をはねるべきだっ」
おっかない単語が飛び交ってる。
昨日田中の負の遺産を処分してから一夜開けて、次の日の朝、また王の間にいます。
ちなみに今日の俺は玉座にはいない。鈴木王が座ってる玉座の横に俺、京、東くんの勇者勢と胡散臭い元王が共に立っている。
カワウソ大人組は各地に出張中で、カワウソ子供組は東くんのパーティーの若い女性コンビに面倒見て貰って、今頃は城の外で楽しく下町観光してるはずだ。俺もそっちに行きたかったな。
楽しそうな観光とは対称的にこっちは王の間に集まった貴族達のシビアな話し合いが行われているところだ。
話し合いのお題は、昨日摘発された連中をどう処刑するか。
そう、どんな刑罰を与えるかではなく。どう処刑するかの話し合いだ。
処刑は最初から確定で、どうやって死なせるかを熱く話し合っているらしい。
いやもう、狂気の現場。
安田さんドン引き。
子供達いなくてよかった。
まあ、あの公爵よっぽど悪いことしてたらしいからなあ。
「……安田くん」
鈴木さんがこっちをちろちろ見ている。
うん、鈴木さんもドン引きしてるね。
これどうしようね。
「ねえ、前々回の王様、俺自分が捕まえたヤツが焼かれたり引き裂かれたりして死ぬの後味悪すぎるからさ、どうにか終身刑とかにしてきて」
頼むよ前々回の王様。
「安田様、前々回の王様って言うのやめて貰えます?先々代って言ってもらえます?……ていうか、そうですか、終身刑がいいのですか?」
俺とか鈴木さんが頷くと、前々回の王様が白熱してる狂気のしゃべり場に突入していった。
前々回の王様が話し合いに混ざり出してから、なにやら貴族達がゴニョゴニョしだした。
んん、仕方ない、逆らえんな、みたいな小声が耳に届く。
「では、血色の星空の者共は刑務所で終身刑でよろしいですな」
なんか進行役?の貴族が宣言してる。
「「「「異議なしっ」」」」
あ、なんとかなったわ。
持つべきものは権力やで。
「では次に結社に関わった平民の扱いについてですが、その家族共々全員処刑でよろしいですな」
「「「「異議なしっ」」」」
「あるあるあるあるっ、異議あるっ」
あ、思わずデカイ声出しちまった。
安田さん、鈴木さん、東くんの三人は顔色を伺う限りドン引きで異議ありまくりですけど?
「ちょ、そんなあっさり処刑なんですか?家族も?」
東くんが非常に分かりやすく、俺達の気持ちを代弁してくれた。
そうよね。あっさりすぎるし。
家族もろともとか、イカレポンチの極みよね。
「平民は我々貴族とは存在価値がちがいますよ」
「そうだな」
「所詮平民ですからな」
うわあ、安田さん再度ドン引き。
鈴木さんと東くんもドン引き。
なんやねんこいつら、選民意識の塊じゃねえか。
「鈴木、それ寄越せ」
おや、なにやら京が鈴木さんに手招きしてなにかを寄越せとか言ってる。
……まあ、王冠か。
大丈夫かな、こいつに渡して。
「……安田くん」
鈴木さんが目線と小声でこっちに伺いを立ててくる。
……うーん、まあ、貴族の心得講座とか俺達じゃ無理だしねえ。
出来そうな大人カワウソ組は残念ながら留守だ。
うーん、じゃあ二千年間吸血鬼の女王をしてた手腕に期待してみよう。
俺が鈴木さんに頷くと、鈴木さんは王冠を京の頭に乗せた。
これでこの国二日で三回王様代替わりしたな。
いや俺達のせいだけどさ。
京の冠の宝石がピカッと光る。
あー、また新しい王様誕生。
「あれ!?また王様変えました!?」
「また新しい王が!?」
「なんでそんなポンポン変える!?」
王様がさりげなくまた代替わりしたことに気づいた貴族達が騒ぎ出した。
まあ、そりゃ騒ぐわな。
「やかましい」
おおう、吸血鬼の女王様の底冷えのするような声が響き渡りましたよ。
一瞬で場が静まり返った。
なんだかわからんがものすごい威圧感がある。
「私が貴様らの新しい王、唯川京だ。せいぜい崇めろ」
最悪の所信表明が始まったけど?
「「「「……………」」」」
貴族達はさっきの威圧感とセリフのせいで、やべえやつが来たな、て顔してみんなだんまりだ。
「さて貴様ら、貴族だなんだと偉そうにしているが、貴様らと平民に価値の違いなどあるのか?誰か私に説明してみろ」
「「「…………」」」
貴族達は蛇に睨まれた蛙のように青い顔でだんまり。
「へ、平民と貴族は違うものでしょう?貴族は高貴な血が連なる選ばれた者達だ、平民とは全く違うっ」
「そうだ」
「その通り」
あ、今京になんとか歯向かってるの首はね王子だ。
あいつも選民意識の塊かよ。
何人か小声で同調してるし。
まじかよ、餓死者減らそうとした前々回の胡散臭い王様のが大分ましだな。
あ、前々回じゃねえや、もう三代前だわ。
「ほう、貴様らが高貴だと?」
「そ、そうですっ」
「なにをもって高貴などと抜かしてるのか知らんが、己を顧みず弱者を優先する矜持を持ち得るからこそ、高潔で貴いのだ。血の繋がりが高貴なのではない」
「……そ、それは、そうかもしれません、しかし我々は……」
「我々はなんだ?弱者を処分することになんの躊躇いも情けもない貴様らのどこに、高潔さがあるのだ?」
「……、……くっ」
王子だんまり。
「聞け者共、高潔さは血の繋がりで受け継がれるのではないぞっ、自身を気高く研鑽し、研鑽した己の思いを言葉にし、言葉通りの己の生き様を見せつけ、それらを受け継いだ次代を育てることで始めて高潔で貴い真の貴族という存在になるのだっ!!!!」
京が凄い大きい声出した。
脳がグワングワンするわ。
「「「…………」」」
「高貴なる魂は血はではなく心に宿るっ!!!!努々忘れるなっ!!!!」
ヒュゴオオオオォっ!!
ええーっ、なんか風が、京を中心に風が吹き荒れてるけどっ!?なにこれ!?
「「「「「…………………………」」」」」
ザ、ザザザザザザザザザっ。
あ、今度はなんか貴族たちが一斉に跪き出したっ。
「「「「「「はっ!!」」」」」」
ええーっ!?
貴族がみんな跪いて、はっ!!とか返事してるっ。
なんかいいこと言ってるとは思ったけど、なんか色々あまりに早いぞっ。
確かにあの女王様はちょっといいこと言ってた。言ってたけどもだよ。
人の人生観ってそんな簡単に覆らないだろっ。
すぐ京の演説に心持ってかれたやん。
ものの3分位で人生観百八十度変えられるなんて、君らの人間性ネリケシかなんかなのか!?
……いかん、こんなんもはや催眠術の域だわ。
洗脳だ洗脳。
まだ京は貴族達に良い台詞で説教してるが、このままだと俺達も洗脳されそうだ。もうここは脱出しよう。
京以外のパーティーメンバーはこそこそと王の間を脱出する。
おー、こわ。
俺達は城の天辺あたりにある王の間を出て、城の中をうろうろする。
勇者を召喚する部屋が地下で、王の間が一番上にあるのは知ってるが、他は全く城の構造知らんしね。
せっかくだから探検しよう。
「いやー、相変わらず唯川さんすごかったねえ、恐ろしいと言うかなんというか」
「すごかったですねー、自分鳥肌たちましたもの」
鈴木さんと東くんがさっきまでの光景を思い出してびびってる。
あの女の謎の支配力な。
多分人間を操る電波かなんか出してんじゃないかな?
「おや?鈴木王様、安田様、東様、こんなところでどうしたのですか?」
あ、城をうろうろしてるとラッキーガイに出くわした。
この人、王の間に居なかったんだな。
まあ下級貴族らしいしな。
「ちょっと城を探検中」
「あの僕、もう王様じゃないんで」
「えっ!?もう変わったんですか!?」
「はい、いまは唯川さんが新しい王様です」
「……ええー……」
ラッキーガイ絶句。
そしてラッキーガイに城の中を案内して貰えることになった。
食堂やら会議室やら、騎士団の宿舎やら色々見てまわった。
食堂は王の間の付近にもう一ヶ所あるそうだ。
食堂が二個あるのは下級貴族や騎士と上級貴族の差別化らしいんだが、王の間付近の食堂は狭くて使い勝手が悪いそうだ。
上級貴族達はなぜかぎゅうぎゅう詰めの食堂で飯を食ってるらしい。
国で一番偉い部類の奴らなのにぎゅうぎゅう詰めにされてるのか。
……設計ミスかな?
食糧庫は下級貴族達の食堂付近に一つと、王の間付近にももう一つあって、食糧庫も城の中に二個あるらしい。
まあ奴ら選民意識の塊だからな。なんか贅沢をなんちゃらしたいとか、偉い俺様は特別な食い物をなんちゃらみたいな理由があるんだべな。
「次はどこを見たいですか?」
色々案内してくれたラッキーガイが次にどこを見たいか聞いてくる。
そうだなあ、他に見たいとこって言えば……あっそうだ。
「宝物庫見に行こうぜ」
「安田さん、宝物庫とかそもそも見せてくれないでしょ?」
東くんが嗜めてくる。
やっぱダメかな。
「いや、大丈夫ですよ。安田様も鈴木様も紛れもなく先代、先々代の王ですので、見るくらいならまず問題ありません」
やったぜ。
城の宝物庫見たいわ。
最後の鍵ないと入れない鉄格子の扉の奥にとんでもないお宝あるかも知んないしな。
そしていくつか階段を降りて地下に向かうことになった。
宝物庫って言ったらやっぱ地下よな。
地下にあるやたら立派な装飾があるでかい扉の前にいる騎士達とラッキーガイがなにやら話している。
ラッキーガイと一緒に色々見てまわったてわかったが、ラッキーガイは顔が広い。
どこに行っても誰かしらラッキーガイの知り合いだか友達がいるみたいだ。
やるなラッキーガイ、さすが庭から三億出てきた男だ。
豪華な扉の前にいるラッキーガイに招かれて俺達は扉の前に行く。
……おお、扉の装飾がキラキラしている。
実に宝物庫っぽい。
鈴木さんと東くんも何処と無くワクワク顔の気がする。
騎士が扉を開けてくれた。
「どうぞ」
騎士の招きで俺達は宝物庫の中に入れてもらう。
「ひゃー、凄いね」
「……ホントですねえ」
鈴木さんと東くんが部屋の中を見てリアクションした。
ひええ、宝物庫の中はギンギラギンだ。
分かりやすく金貨が積まれて、でっかい宝石ついた装飾品がそこかしこにある。
「奥には、この国に昔から伝わる伝説の装備品などがありますよ」
案内してる、我が国の宝はすごいだろ感が溢れてる顔した騎士がにこやかに説明してくれる。
来たな伝説のなんちゃら、よしそれ見に行こうぜ。
俺達は宝物庫のもっと奥にある部屋に入った。
「こちらは千年ほど前に我が国の危機を救ってくれた勇者様が、強大な魔物と戦った時に着けていた鎧と言われています」
「ほう、鎧」
「はい、その魔物の住む場所は常人では一瞬で死に至るような場所で、この鎧がなければ勇者様でもその魔物を倒すことは出来なかったと言われております」
その魔物宇宙にいたの?
「俺には鎧というより、どっちかって言えば服に見えるなあ……」
主に宇宙で着る服に見えるなあ……。
「……安田さん確か、召喚された時にUFO乗ったとか言ってましたよね」
「……そう言えば、安田くんそんなこと言ってたね。あ、なんか嫌な流れだねこれ」
そうなのよなあ、この国来てから宇宙関連の単語多いのよなあ。
フラグかなあ……。
これ着る羽目にならないだろうな……。
これ着ないとダメな所になんて絶対行きたくないんですけど……。
俺も鈴木さんも東くんも顔をひきつらせて立ち尽くしてしまった。