第3章 3話 王様になりました。
「父上っ、いくら勇者様と言えど、軽々しく王の冠を譲るとはっ!!そんなに命が惜しいかっ!!」
「あったりめえだバーカっ!!誰がそう易々と首なんてやるかバカ息子がっ!!」
「本当よっ!!あなた両親をなんだと思ってるの!?誰がそこまで育ててあげたと思ってるの!!」
うるさいわあ。
さっきからギャンギャン口喧嘩をしてるのはこの北ササラ国だかの前の王様夫妻とその息子だ。
前の王こと胡散臭い顔のオッサンは何やら口調がべらんめえ口調に変わりギャンギャン騒いでる。
前の王妃の高飛車な顔のオバサンは親子喧嘩でありがちな台詞をものすごいキンキン叫んでる。
ずっと口喧嘩してるわこの人たち。
まあ、ここまでの経緯を考えたらそりゃするわな。
むしろ口喧嘩ですんでるんだからましな方だわな。
この国に来て一時間もたってない俺が王様になって、今は何やら王の間的な場所に連れられて、すごい偉そうな、いかにも王様が座ってそうな椅子に座らされてる。まあ玉座ってやつだな。
玉座の横にカワウソ四人娘やら京やらがいる。
ひじ掛けでまんじゅうが鼻提灯出しながら寝てる。
「安田王様、魔導通信装置をお持ちしました」
「あ、どうも」
魔導通信装置っていう、地球でいうところの電話的なヤツを持って来てくれたのは、この国で最初に会った四人のうちの一人で、どこにでもいそうな文官のオッサンだ。
このオッサンは意外に気が利く。
ちなみに今関係ない話だが、このオッサンはさっき億万長者になった。
「……で、ナピーナップにかけたいんだけども、これどうやって使うの?」
なんか昔の黒電話丸出しのが出てきたけど、そもそも番号も知らないしな。
ダイヤルのとこぎーって回せばいいのか?
「ナピーナップですね。お待ちを……」
文官のオッサンがダイヤルをぎーって回す。
「……どうぞ」
受話器を耳に当ててなにかを確かめたあと、俺に渡してくる。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル。
……わかりやすく電話の音だわ。
いやこれ電話そのものなんじゃねえの?なんだよ魔導通信装置って大層な名前。
『――ガチャ、はいこちらナピーナップ通信センター、担当のミーチャです』
……あ、出た。
通信センターってなんだろうか?まあいいや
「もしもし、安田龍臣という者なのですが、王様いらっしゃいますか?」
なんだろう、なんか丁寧な言い方しちゃう。
『……安田様?、や、安田様というと、さっきまでうちの国にいた、勇者の安田龍臣様ですか?』
「あ、そうです。で、王様います?」
『―――ちょ、ちょっとお待ちを!!、ああっ、えーと、えーと、ガンっ、いだいっ、か、課長っ課長っ、大変ですっ』
なんか電話の向こうで色んな効果音が聞こえてるけど……ミーチャさんはなんかにぶつかってどこか痛めたらしい。
『………………や、安田殿か!?安田殿!!』
あ、ヒゲ王の声だ。
「あ、もりもりヒゲ王?オレオレ、安田」
あれ?知り合いが電話にでたら気安いオレオレ詐欺みたいな口調になってしまった。
『安田殿っ、一体どういうことなのだ!?鈴木殿は安田殿がUFOにさらわれたみたいに消えたとか狼狽えているし、こちらは大騒ぎだぞ』
ああ、最初UFOにさらわれたみたいに勇者召喚されたよ。
その後本当にUFOに乗ったし。
「いやいや、俺も焦ったよ。なんか勇者召喚とか言うヤツされたらしくてさ、とりあえず俺と京とまんじゅうとカワウソ四人娘は元気だから、そうみんなに伝えて、あと鈴木さんいる?代わって欲しいんだけど」
『勇者召喚!?、いや、鈴木殿だな。しばし待て、ガンっ、あいだっ、鈴木殿っ、鈴木殿ーっ……』
また電話の向こうで色んな効果音が聞こえてる。
ヒゲ王もなにかにぶつかってどっか痛めたらしい。
なんだろう?なんかぶつかりやすい机とかあんのかな?
『安田くんっ、安田くんなのかい?』
あ、うちのパーティの太ったおじさんの声だ。
「あ、鈴木さん。安田だけど」
『ああ、本物だ。えーと、とりあえず、安田君今どこにいるの?』
「今ね、北ササラ国ってとこにいるよ」
『北ササラ国?……え!?それって次に行く予定だった国?……ああ、もう全然わかんない。なんでそんなことになってるの?』
「なんか勇者召喚ってやつをされたらしいんだけど、まあその辺りは後で話すから、とりあえず予定通りみんなでこっち来てくれる?」
『わかった。とりあえず北ササラ国に行けばいいんだね。予定より飛ばしていくから待っててね』
「ハイハイ、じゃあよろしくね」
よし、じゃあどうすっかな。
俺が電話してる横で元王様達はまだ口喧嘩してるけども。
「ニック王様、これはどう言うことですかな?」
お、なんか新しい登場人物が出てきたぞ。
王の間的な場所にぞろぞろ人が入ってきた。
ていうかニック王様って誰だ?……ああ、胡散臭い王の名前か。
新しい登場人物はギンギラギンの服着た太ったオッサンだ。後ろに貴族っぽい連中を何人も引き連れてる。
うちにいる太ったオッサンと違って、なんか悪い顔してるな。
いや、人を見かけで判断しちゃいかんよな。
名前 マルコス・ササラミューア・アンダジーア ♂
年齢 57才
職業 公爵
種族 人族
称号 大公爵
レベル 23
HP 163/163
MP 25/25
STR 58
AGI 32
VIT 43
INT 59
MND 41
DEX 22
装備
極上貴族の服
魔法銀の杖
所持スキル
格闘スキルレベル3
正拳、回し蹴り、背負い投げ、毒の爪、空気投げ
火魔法レベル1
ファイアーボール、火の針
綺麗な字
冷徹な瞳
余談
北ササラ国の貴族の最大派閥の長。
胡散臭い王をはじめとした王族にはばれていないが。
自分の派閥の貴族と一緒に、なんか武器の横流しとか横領とか、人身売買とか色々やってる悪いヤツ。
秘密結社「血色の星空」の八代目のボス。
この組織は約二百年前にこの国にあった暗殺部隊から派生した無駄に由緒正しき犯罪組織。
こいつの後ろにいる貴族の二列目までは一緒に悪いことしてる秘密結社の連中。
三列目から後ろは、公爵が悪いことやってるのは薄々感じているが、関わらないようにしているので基本的にそんなことは知らない連中。
悪いことして貯めた金とか証拠の裏帳簿とかを自分の城の時計塔にある隠し部屋に溜め込んでる。
隠し部屋には最上階にある騎士の銅像の首を左に二回右に一回回して左足の薬指の爪の部分を二回押したあと背中にある羽っぽいブースターを左に回して最後に剣の部分をレバーみたいに下げると隠し部屋に入れます。
ちなみにナピーナップにいたオッサンが魔王になりかけたのはだいたいこいつのせい。
今回王子が胡散臭い王の首をはねようとしたのもこいつがうっすらそそのかしたせい。
首をはねたあと色々いちゃもんをつけて自分が王様になろうとしていた。
わかりやすく悪いヤツ居たわー。
……すごいこっち見てるし。
「なに気安く見てんだ、お前新生安田帝国では失礼な目線罪で貴族クビな」
「ええ!?」
公爵びっくり。
「お、お前は誰だ?何を言っている?」
「お前って誰に言っとんじゃ、この王様の冠が見えないのかデブ、やっぱお前クビだっ」
「デブ!?」
「や、安田王、彼は我が国の公爵ですよ」
「そ、そうよ。安田様、少し落ち着いてください」
口喧嘩していたはずの元王様夫妻が慌てて嗜めてきた。
元王様が気を使うほどに、よっぽど偉いデブらしい。
「王?まさか、ニック様、その者に王の冠を?一体どういうことなのですか?」
何やら気を取り直した公爵が冷静な顔で元王様に話しはじめた。
なに冷静な顔してんだこのやろう。
「なんでもいいから引っ捕らええいっ」
引っ捕らええいって一度言ってみたかったんだよな。
夢がかなった。
お、騎士の人達が、まじで?みたいな顔してるが、ちゃんと公爵引っ捕らえてくれてるわ。
我ながらこんなアホみたいな王様の命令に従うとは。
すげえな騎士。
「ええ!?や、やめよっ。私が何をしたというのだ!?」
「……お前、血色の星空とかいう秘密結社の親玉だろ」
「なに!?」
「馬鹿なっ!!」
「あの組織が本当に存在するのか?」
王の間にいる人々みんなびっくりだわ。
「……は、ハッハッハッ、何を言うかと思えば、私が秘密結社のボス?馬鹿馬鹿しい、そもそもそんな組織、存在するかどうかも疑わしいただの都市伝説ではないか」
なに馬鹿な事言ってるのこの人?失笑もんですわー、ナハハ。
みたいな顔されても困るんですけど。
「武器の横流しとか、横領とか人身売買とかやってるだろ」
「……何をバカな!?私がそんな非道に手を染めたというのか!?侮辱するのも大概にしろっ!!そんな証拠がどこにあると言うのだ!?」
おいふざけんなよっ。訴訟起こすぞこの野郎っ。
みたいな顔されても困るんですけど。
なんて堂々と嘘をつくオッサンなんだ。
すごいなこの無駄な誤魔化し力。
「お前の城の時計塔の最上階にある騎士の銅像の首を左に二回右に一回回して左足の薬指の爪の部分を二回押したあと背中にある羽っぽいブースターを左に回して最後に剣の部分をレバーみたいに下げると入れる隠し部屋に証拠があるだろ」
長いわー、一息で言うの大変だわー。
無駄に慎重な細工施しやがってよう。
だいたい裸足で背中にブースターついてる騎士の像ってなんだよ。全くビジュアルが浮かばねえわ。
裸足で背中にブースターって、なにをもって騎士やねん。
「―――――――バカなっ!!!?」
公爵顎の骨外れるほどびっくり。
え、まじで?みたいな顔してた騎士達が、攻撃的なえ、まじで?まじなの?みたいな顔になった。
「そこのデブの後ろにいる二列目までの貴族も秘密結社のヤツだからみんな貴族クビな。引っ捕らええいっ」
「うわ、や、やめろっ」
「くそ、横暴だ」
「離せっ、私を誰だと」
「な、なぜばれたんだ!?」
悪いことしてた公爵一派はみんな連れてかれた。
一人、なぜばれたとか言ってしまったアホがいるな。
「これにて一件落着っ」
解決なり。
「ば、バカな、一体あなたは、……本当に公爵がそんな悪事を?いや、血色の星空などという組織が本当に?」
さっきまで口喧嘩していた王子が何やら唖然とした顔してる。
いやまあ王子だけじゃなく、俺達以外はみんな唖然とした顔してるが。
「あー、なんか二百年前だかにこの国にあった暗殺部隊だかから生まれた組織らしいよ。恐いね暗殺部隊とかさ、えーと……」
ウルトラ鑑定
安田から見て左から三番目の騎士は、不正を嫌っている真面目なヤツの上に公爵の権力に屈しない家柄の出身ですので、彼と彼の部下に公爵の城を調べさせるとよいでしょう。
「そこの、騎士の人」
左から三番目の騎士の人を指名する。
「わ、私でありますか?」
「うんそう。部下と一緒に公爵の城行って調べてきて、時計塔の隠し部屋には最上階にある騎士の銅像の首を左に二回右に一回回して左足の薬指の爪の部分を二回押したあと背中にある羽っぽいブースターを左に回して最後に剣の部分をレバーみたいに下げると入れるから」
んんー、長い。
「は、はっ、お、お待ちを、メモを取りますので……えーと……」
「時計塔の隠し部屋には最上階にある騎士の銅像の首を左に二回右に一回回して左足の薬指の爪の部分を二回押したあと背中にある羽っぽいブースターを左に回して最後に剣の部分をレバーみたいに下げる」
もう、大変なんだから何回も言わせないでよ。
「は、二回、一回……薬指?、騎士の像が裸足?いや、えーと、はいっ、はいっ、行って参りますっ」
三番目の騎士の人はメモを取ったあとすぐさま駆け足で出ていく。
これでよし。
「……龍臣、お前のその能力反則だ」
俺もそう思う。
「よし、じゃあそこの元王子」
「え!?わ、私は悪事など働いておりませんよっ」
うん知ってる。
まあさっきまで親父の首を切り落とそうとしてたけどね。
「城に蓄えてある食料をできるだけ均等に国中にばらまいてきて」
「なんですと!?」
「お待ち下さいっ、あれは最後の蓄えっ」
「あれがなければ本当になにもなくなりますぞっ」
「お考え直しをっ」
お、残った貴族とかみんな大反対だわ。
「安田様、あれは本当に最後の備蓄です。なくなれば国がたち行かなくなります」
億万長者の文官すらも反対らしい。
「大丈夫、今ナピーナップからほぼ無限に食べ物出せるおじさんがこっち向かってるから」
「ええ!?」
「そんな、アホみたいな話が」
「これは、多分私の夢の中なのだな」
なんか夢の中の世界だと勘違いしている人まで出てきたけど本当だからさ。
「早く行って」
「ほ、本当なのですね。わかりました。お任せくださいっ」
勇者びいきの王子は意気揚々と走ってった。
……よし。これでだいたい解決だべ。
「……じゃあ、名残惜しいが、この王冠を後世に託す時が来たようだ」
正味三十分位の王座だったが、引退します。
「もう!?」
「早いっ」
「すごいスピード交代だ」
誰にするかな?
「……」
俺は仲間達を見回す。
「……なんだ私か?構わんぞ。生まれながらに王様は得意だ。任せろ、私が王になった暁にはこの国の名を唯川大帝国と名付けてだな……」
こいつはダメだ。
「まんじゅうは?」
……あ、ダメだわ、まだ鼻提灯出しながら寝てるわ。
そもそもまんじゅうは話せないしな。
……うーん。カワウソ娘達は若すぎるからなあ。
「……うーん。じゃあ飛行船でみんな来てから考えるか」
「や、安田様?要らないなら返してくれます?」
あ、胡散臭い元王が胡散臭い王に返り咲こうとしてる。
え?もしかして俺また王様戻れんの?みたいな、なんかイラっとする顔してる。
「……なんか鼻につく顔してるからダメ」
「ええ!?」
うーん、じゃあもう少し王様やるかな。