第3章 20話 博士の。
鑑定結果
勇者根本が太陽付近に出現するまであと23分23秒です。
そろそろ気合いを入れてください。
気合いを入れてくださいって言われた……。
なに気合いって?
安田さんちの長男なめんなよ。生まれてこのかた気合いなんて入れたこと無いからな。
そんなもん入れなくてもやってやるってばよっ。
……さ、今や五影の人方式で気合い入れたし、始めるべかな。
ていうか、そもそもこれB案なんだろ?
神様界で一番の実力者が失敗した時の為の、もしもの策だからね。
まあでもあれだよな……。
こういうパターンは大抵失敗して、こっちにお鉢回ってくるパターンだよね。
失敗するわけないヤツが失敗して、結局やらされるみたいなね。
そういう流れだよね
「女神しゃま、イケそうかい?」
俺は後ろで置物のふりしてるてるてる坊主にこっそり話しかける。
『まあ、だいたい二割くらい?』
……二割?
「……失敗する確率が?」
『成功率が』
ほぼ失敗すんじゃねえかっ!!
「まじかっ、てるてる坊主っ、話が違うぞっ」
「本当だよっ、根本くん子供なんだからねっ」
「ちょっとっ、あなたすごい女神なんですよねっ!?」
てるてる坊主と同じく、俺の後ろにいる京と鈴木さんと東くんも口々にクレームを言う。
『だってあれだもん、太陽って凄いでかいのよ、その付近に急に現れた砂粒くらいのロケットを見つけて、燃えないように壊さないように保護して転移するって凄い難しいからね。いっそ太陽消す方が簡単だからね。消さないけどさ、だからあたしとしてはB案に期待してるから』
……ええ?
なにこいつ、はじめ自信満々じゃなかったか?
太陽消されたら困るんだけど……。
……ええ?
ていうかこれどっちのパターン?
俺達にお鉢回ってくるパターン?
それとも成功率が低いのが逆フラグになって上手いこといくパターン?
いや、普通に回ってくるよね。
だって二割しか成功しないんだもんね?
ええ?なにこのてるてる坊主……。
「……ちゃんと気合いいれよう」
鑑定結果
あと13分28秒です。
魔法使い達に魔法陣に魔力を込めるように指示してください。
「じゃあ、魔法陣に魔力込めてーっ」
「よっしゃっ」
「やるかっ」
「うーし」
魔法使い達が各々気合いをいれる。
地下室の壁中に張り巡らされてた魔法陣が描いてある石板的な物を外し、それらを一定間隔で中庭に配置してさらにその石板の回りに魔法使い達がいる。
一つの石板に数人の魔法使いがまわされている。
お、石板の魔法陣が光り出した。
魔法陣の光どうしが反応するのか魔法陣と魔法陣が光の線でつながる。
おお、石板どうしを結ぶ線で中庭にでっかい魔法陣ができた。
石板の配置、あれ適当に置いてんのかと思ってたけど、違ったんだな。
「龍臣、まあいつも通り適当にやれ」
「安田くん、ファンタジーっぽい光景だね」
「安田さん大丈夫ですか?なんか飲み物とか欲しかったら言ってください」
京、鈴木さん、東くんの三人がプレッシャーかからないような感じで話しかけてくる。
だが、みんな女神しゃまの成功率2割だよ発言以降、顔に緊張感丸出しだ。
……大丈夫だべ。なんかうまくいく気がするし。
「ま、なんとかなるんでない?」
鑑定結果
あと10分ジャストです。
魔法使い達に指示出しを開始します。
再度確認します。
この魔法陣は完全にランダムで地球人を召喚します。
しかし安田の能力で魔法使い達に心理的揺さぶりをかけ、魔法陣に込める魔力を精密に調整することにより、乱数要素を読み取り、排除し、地球の全人口60億の中の1を掴み取りに行きます。
頑張ってください。
これから安田がおかしなことを言うが気にせず魔力を込めるように指示してください。
……心理的揺さぶり?
頑張ってください。って書いてある……。
……俺これからおかしなことを言わされんの?
まあ、いいか。
「これから俺がおかしなことを言うけどっ、気にせず魔力込めてくださいっ」
鑑定結果
魔法使い36番に昨日なに食べたか思いださせてください。
ホントにおかしな事言わされるっ。
魔法使い達にナンバープレート渡したのはこの為か!?
「36番っ、昨日なに食べた!?」
……一人の魔法使いがピクッてした。
あの人36番かな?
「龍臣?なんだそれ?」
京がなんだそれ?って言った。
俺も全く同じ事を言いたい。
鑑定結果
集中してください。
唯川京にしゃべるなと伝えてください。
あ、怒られた。
「ちょっと京、シっ」
俺は口許に人差し指を持ってきて、京に向けて分かりやすい静かにしろポーズをする。
「あいだっ」
なんか京が急に叫んだ。
足元になんか転がってきた。
椰子の実だわ。
どうやら京の頭に奇跡的なタイミングで、中庭の木になってる椰子の実が落ちてきたようだ。
「ゆ、唯川さん大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
『え!?なに今の!?』
鈴木さんと東くんが頭を押さえてしゃがみこんだ京を心配している。
なんか知らんがてるてる坊主がやけに驚いてる。
鑑定結果
集中してください。
21番に従兄弟の顔を思い出させてください。
「21番、従兄弟の顔を思い出してっ」
わりと近くの女の人がピクッってなった。
鑑定結果
16番に初恋の記憶を思いださせてください。
「16番初恋の記憶を思いだしてっ」
向こうにいるおじいちゃんがピクッってなった。
おじいちゃんの初恋って……。
鑑定結果
2番に実家の扉をイメージさせてください。
「2番、実家の扉をイメージしてっ」
あ、宰相がピクッてした。
宰相2番だったのか、そういやあの人魔法使えたな。
鑑定結果
鈴木に魔法陣の真ん中ででんぐり返りをさせてください。
ええ!?鈴木さん!?
「す、鈴木さんっ、魔法陣の真ん中ででんぐり返りしてっ」
「ええっ!?」
鈴木さんは困惑しつつも小走りで魔法陣の真ん中に行き、でんぐり返りをしてくれる。
ずんっ。て感じで鈴木さんの巨体が地面に転がる。
でんぐり返り失敗したなこの人。
勢いを殺せずに背中から地面にいったわ。
ずんっ。て音で魔法使いの何人かがビクッてなった。
鑑定結果
クレープさん以外のカワウソ達にキューキュー鳴いて貰ってください。
あと2分です。
「カワウソ達、キューキュー鳴いてっ」
俺達を見守って整列してたカワウソ達がキューキュー鳴く。
かわいい。
鑑定結果
しばらく待機します。
8、7、6、5、4、3、2、1、魔法使い全員に桜の木をイメージさせてください。
「全員、桜の木をイメージしてっ」
魔法使い全員に指示を出すと、魔法陣の光の色が少し変化する。
鑑定結果
そろそろ根本がこの次元に現れます。
5、4、3、2、1、出現。
クレープさんに魔法陣を起動させてください。
来たか。よしっ。
「クレー……」
『よっしゃああああっ、さすがあたしっ!!』
なんだっ!?
クレープさんに指示を出そうとしたら、突然てるてる坊主がでかい声出した。
あ、ダメだ唖然としてる場合じゃないわ。クレープさんに指示を出さんと……いや待てよ。
このタイミングのてるてる坊主の、よっしゃああああっ、てのは……。
『成功したっ、バッチリロケットつかまえたっ!!!!』
「「「「お前が成功すんのかよっ!!」」」」
勇者勢全員が思わずつっこんでしまった。
なんだよこのてるてる坊主、2割を成功させやがったぞ。
今までのおかしな指示だしの意味を返してくれ……。
その時、てるてる坊主の真上に光の輪っかが突然出現した。
輪っかはでかくなり、輪っかの中は黒い、黒いって言うか別な空間につながってるようだ。
黒い空間から見覚えのあるロケットが出てくる。
ロケットの回りには、小さいてるてる坊主が何体も引っ付いてる。
「「「…………」」」
全部の内情を知っている勇者パーティーが驚愕してる中でロケットが地面に降り立つ。
プシュー、みたいな音と共に、ロケットの入り口が開く。
「あああーんっ、怖かったよー」
ちっちゃい人間がロケットから降りてきました。
はい、泣きながら根本少年帰還。
「良太くんっ、大丈夫?怪我とかない?」
「うわあああん、東~、怖かったよ~」
博士を下の名前で呼んだ東くんが、泣いてる博士に怪我がないか確かめてる。
鈴木さんも京も消化不良だわあ。て顔してる。
多分俺もそんな顔してるはず。
「先生っ」
……ん?クレープさんが呼んでる。
ああ、そうか魔法陣どうすっかな。
魔法陣はいまだにギラッギラでヤル気満々で光ってるわ。
「ちょっとっ、もう起動しないと魔力がオーバーフロー起こして爆発しちゃうよっ!!」
ええ!?これ爆発すんの!?
鑑定結果
今起動すると根本が二メートルくらい移動します。
二メートル動かすだけ!?
いやまあ、博士そこにいるから当たり前なんだけどさ!?
鑑定結果
では、@$+¥;/\,。
あれ!?なんかバグったぞ!!
鑑定結果
では魔法陣の真ん中で唯川にほっぺにチューして貰ってください。
チュー!?
言うに事欠いてチュー!?
恥ずかしいっ!!
「京ちゃん、ちょっと、ほっぺにチューしてくれっ」
「チュー!?なんだそれは!?こんな人前でか!?は、恥ずかしいっ」
俺だって恥ずかしいよっ。
よりによってチューだぞっ、せめてキスって言えっ。
俺達は魔法陣の真ん中に立って京がほっぺにチュッとしてくる。
なんだこれ……俺達二十歳半ばすぎのだいぶいい大人なんですけど。
京も俺も顔真っ赤だわ。
鑑定結果
まんじゅうに中庭に回復魔法を大々的に撃って貰ってください。
その後魔法陣の色が更に変わったら起動してください。
これなんなの!?博士もうそこにいるやんけっ。
まあ、このままだと爆発するらしいからなんでもいいや。
「まんじゅうっ、中庭全体に思い切り回復魔法っ」
りんりんりん。
了解のりんりんりんだ。
空高く飛び上がったまんじゅうの口から出た雲、更にその雲から出たどしゃ降りヒールが中庭にふる。
「うわっなんだ?」
「これは、水属性の回復魔法?」
「すごい魔法だが、なんでこのタイミングで?」
魔法使いの人達もびしゃびしゃになりながら困惑している。
俺達ももうびっしゃびしゃ。
なんなんだよもう、人前でチューさせられるし、びしゃびしゃにされるし……。
そんなこと考えてると魔法陣の光の色がまた変わった。
まんじゅうの魔法の影響なのか虹色になったわ。
虹色って……。
ああそうか、じゃあ。
「クレープさんっ、魔法陣起動っ」
「オッケーっ!!!!」
クレープさんが杖を魔法陣に勢いよく当てて魔法陣全体が発光する。
魔法陣がそのまま空中に浮かび上がる。
「んん、なんだこれは?魔法陣?召喚魔法か?」
東くんに抱きついてる博士が空中の魔法陣を見て呟く。
「……これは?起点があそこで、線が対角に走ってるから……大型召喚の魔法陣っ、全員下がって、何かでっかいのが降ってくるよっ」
博士が空中の魔法陣を読み取ったらしく、でかい声で注意してくる。
でっかいのが降ってんの!?なにそれ!?
魔法使い達が素早く避難する。
京が俺を抱えて素早く避難してくれる。
男女のポジション逆な気がするけどまあいいや。
空中の虹色の魔法陣がさらに力強く光る。
魔法陣のしたから茶色のなんか出てきた。
ん?あれ土だな、でっかい四角いなんかの下に土がついてる。
ああ、家だわこれ。
家ごと召喚したってこと?俺と同じパターンか。
ていうかこれ誰か召喚しちゃったんだよな。
誰だか知らんが申し訳ないことしてるよなこれ。
考え事してる間にも家は魔法陣からずるずる出て来てる。
ズウウウンッ。
家、召喚。
普通の一軒家が城の中庭に降り立ったわ。
……裏側だけど、作りからなんとなく日本の家だってわかる。
「あ、どうしたの博士」
博士がくっついてた東くんから離れて、家を見に来た。
「どうした博士」
「…………」
なんか家に夢中なのか博士に無視された。
よくわからんが、様子が変な博士の後をみんなで追っかける。
博士は家の正面にまわりたいようだ。
びしゃびしゃで泥だらけの地面も気にせず歩いている。
家の正面、入り口が見える。
「………あ、ああ」
家の正面に立ってる博士が変だ。
……どうした?
「……っ、龍臣、表札見ろ」
……表札?
京に促されて家の扉の横についてる板に目を向ける……NEMO……TO……。
……ネモト?
おいおい、まじか……。
その時家の扉が開いた。
「母さんは家にいてくれっ、僕が良太をさがしてくるから!!」
「気をつけてっ、良太をお願いね」
家から父ちゃんであろう若い男性が出てくる。
開いた扉の奥には不安そうな顔してる奥さんであろう女性がいる。
「……っ、!?んん!?なんだこれは、森?」
男性が家の外の様子に困惑している。
「…………う、ああ、……パパっ、ママっ……っ」
博士がしゃべった。
「りょ、良太っ!?」
「良太っ!!」
男性が博士に駆け寄る。
家の中から女性が裸足のままで泥も気にせず博士に駆け寄る。
「……ああ、うわああん、うわああああああ、ママー、パパー、あああああんっ、うああああん、会いたかったーっ、会いたかったようっ」
「よかった良太、よく無事で」
「良太、良太」
泣きそうな母ちゃんが二度と離さない勢いで博士の頭を撫でながら抱き締めてる。
その二人を父ちゃんがやさしく抱き締める。
500年だもんな。
500年間も博士が頑張ってたのは、ただただこの瞬間の為だ。
鑑定結果
この夫婦は転移初日なので色々教えてあげてください。
本来この夫婦が転移してくるのは別な宇宙でしたが、せっかくなので気をきかせてみました。
……気がきくなあ、俺の鑑定能力は。
こんなん鑑定でもなんでもないけどもさ。
京が笑いながら泣いてる。
鈴木さんも下を向いて顔に手を当ててばれないように泣いてる。
東くんはガン泣き。
カワウソ達もキューキュー泣いてる。
魔法使い達もみんな笑ったり涙ぐんだりだ。
おいおい、いい大人が揃いも揃って泣くなよな。
なにやら俺の顔にハンカチを当ててくれるヤツがいる。
てるてる坊主だ。
「いや、俺泣いてないから、これまんじゅうのふらせた雨の水だから」
『ああそう、じゃあ雨で濡れた顔をふいてあげるよ』
これはまんじゅうのふらせた雨だからね。
『……すごいわね。あなたの力は……』
「……何?」
今なんか言ったか?
『……いいえ、よかったわね。本当に』
「ああ、よかったよ」
それしか言えないね。




