第3章 2話 勇者召喚して騙そうとする王様っていつから定番になったんだべ。
俺達は不思議空間の穴から外に出る。
穴から出ると四方の壁に変な魔法陣みたいのが山ほど書かれてる部屋に出た。
人が四人いる。
この国の王様と、王妃と、護衛の騎士団長と紙とペンを持ってる文官だ。
みんな西洋風の格好してるな。
……うん、胡散臭い顔だわあ。ヒゲ王の後輩。分かりやすい王冠つけてやがるわ。
王妃は高飛車なおばちゃんの顔してる。
騎士団長はムキムキだ。目付きに温もりが一切無い。
文官はどこにでもいそうなオッサン。
「おおっ、勇者よっ、よくぞ参った。さあっその名を教えてくれっ」
「はじめまして、パンナコッタ=サンチョパンサ=ピエール百八十三世です」
「ひゃ、百八十三世、随分と由緒正しい家柄なのだな」
「まあ嘘だけどね」
「な、なんだと、なぜ嘘をついたっ」
王様が声を荒げるのと同時に騎士団長が剣に手をかける。
「ぶちのめすぞ筋肉だるま」
あ、俺から色々話を聞いたことでお怒りの吸血鬼の女王様が一喝した。
おおう、俺に向いてるわけでもないに寒気するような目線だ。
京に睨まれた騎士団長は顔中から汗ダクダクになって震えだした。
「そこの文官であろうオッサン、鑑定スキルで名前調べてその紙に名前書こうとしてるんだろうけど、それやったら頭爆発して死ぬからね」
「――え!?」
文官のオッサンが怯んだ隙にまんじゅうが伸ばしたマジックハンドでオッサンのペンを取り上げる。
ちなみに色々ややこしいが、もし紙に俺達、厳密に言えば京の名前を書いていたら、ホントに頭爆発して死んでたからね。
「な、なんだお前達はっ!!」
なんか色々機先を制されたことであわてた胡散臭い王が声を荒げる。
「……オッサン、俺達の名前その紙に書いて、命令に逆らえないようにして俺達の力使って食料危機とか魔物退治とか貴族の粛清とかまでやるつもりだったろ」
「――――な、あ、な、なぜ」
部屋の中にいた連中がこっちに注目してる中で、王妃だけはなにかを察したのかこそっと部屋から出ようとしている。
無駄に危機関知能力が高いおばちゃんだ。
「おばちゃん、今部屋から出ない方がいいよ」
まんじゅうのマジックハンドが伸びておばちゃんがぐるぐる巻きになる。
「ええっ!?」
部屋から出ようとしているおばちゃんびっくり。
「な、何者なのですかあなたたちは……」
あ、どこにでもいそうな文官のオッサンが一番に正気を取り戻したのか話しかけてきた。
「うーん、どっから話したもんだかわかんないけど、まず俺達を勇者召喚の魔法だかで地球から直接召喚したと思ってるようだけど、俺達さっきまでナピーナップにいたから」
「な、なんだと!?先輩の国に!?」
胡散臭い王がびっくりしている。
……ホントに先輩後輩の仲なんだな。
「これ、ヒゲ王からの手紙」
俺はヒゲ王から渡された手紙を胡散臭い王に手渡す。
「……なんてことだ。確かにナピーナップ国王の印。……やべ、ケツバットされる」
絶対するって言ってたよ。
「誠にナピーナップの?」
「本当なの?あなた」
「まさか、……ケツバット?」
部屋にいた他の連中が驚いている。
そして、手紙を渡されて読み出した。
「……そんな、勇者召喚の儀に二十億ゴルドもかかったのに……」
「隣の国にいたんじゃないか……」
「手紙かなんかで呼べばよかったじゃないか……」
みんな口々になにやら後悔の念を吐き出してる。
二十億って……。
お金使わなくても俺達の予定だと明日にはこの国に着いてたもんな。
まあそのルートで来てても騙されてはやんねえけどなっ。
「タルトちゃん、もう出て来ていいよ」
「はあーい」
ミョウウン。みたいな音を出して、京の後ろにキノコの着ぐるみを着たカワウソが現れる。
これはカワウソ族の魔法使いであるクレープさんの次女タルトちゃんの装備、キノコの着ぐるみの効果だ。
あのキノコの着ぐるみは「擬態」ってスキルが使えるようになる装備品で、俗にいうところの光学迷彩っぽいことができるようになる。
姿を透明にしたり、気配とか匂いも消えるらしく、ダンジョンの中でも安全に過ごしたりできるらしい。
ちなみに使えるスキルはもう一つあり、「部屋空間」というのが使える。
キノコの着ぐるみの後ろには、着ぐるみだけに背中にチャックがついているのだが、そのチャックの中は十畳位のなにもない部屋になっていて、着てる本人含めてその中に入れるのだ。
まあ、つまり透明に擬態してその部屋に入れば、安全な避難場所になるってわけだな。その為にキノコの着ぐるみの中にはもしもの時に備えて、非常食の缶詰やら水やら寝袋やら医療品やらがしこたま入っている。
この部屋で何があるかわからなかったので、あらかじめカワウソ四人娘には擬態したキノコの中に入って貰っていた。
キノコの後ろから他の三人が出てくる。
「な、なんだ?」
「あ、カワウソ様?」
「サイカ国のカワウソ族か?」
カワウソ様とか呼ばれてるわ、この国にも何回も勇者の従者を勤めた歴史があるカワウソ族の威光が届いているらしい。
「ああっ、もう馬鹿馬鹿しいっ!!やってられんっ!!こんな部屋さっさと出るゾッ!!勇者殿達も宮殿に部屋を用意するっ、休まれよっ」
胡散臭い王がやけっぱちになっとるわ。
こいつ人のことだまくらかして利用しようとしたこと無かったことにするつもりだな。
「あ、今は部屋から出ない方がいいよ」
「なぜだっ!!」
「……おい、そこの胡散臭い顔の男、もう少しにこやかに話せ、ぶちのめすぞ。あと我々をだまして利用しようとしたことは忘れていないからな。ぶちのめすぞ」
京が胡散臭い王に鋭い眼光を照射する。
一回の台詞に二回ぶちのめすぞが入ってくる位ぶちのめしたいんだなあ。
「……す、すいません。な、なぜ部屋から出てはいけないのでしょうか?」
京の一喝でびびりまくった胡散臭い王が、汗だくで丁寧になった。
王様の仮面剥がれるのがあまりに早い。
この人のヤツぺらっぺらの屋台の仮面ですわ。
「うん、今この部屋の前で王子と騎士だかが待ち構えてて、部屋を出た途端に首切り落とそうとヤル気満々だからね」
「――――なっ、なんだとっ、そんなわけがないっ、我が国で反乱など絶対起きるわけがないっ、しかもまさか私の息子が!?」
うん、びっくりよね。
俺は不思議空間でやったウルトラ鑑定をもう一度発動させる。
鑑定結果
今現在、ここ北ササラ国は作物に疫病が流行り深刻な食糧難に陥っています。そのせいでややこしい内紛寸前だったりします。
まずこの国はワンチャン革命を起こせる他の国と違い、王にはまず逆らえません。
王の冠には魔法の効果があり、この国に登録している国民は冠の所有者に危害を加えることも、命令に逆らうこともできないからです。
一見クソみたいな国ですが、その理不尽な決まりに従う代わりに、国民は様々な恩恵を受けることができます。
冠は王城地下にある魔法装置に繋がっていて、その魔法装置には登録されている国民からごく微量に魔力が流れ込んでおり、それが貯蔵されます。
その魔力は国中にある領主の館に回され、医療や、魔物に対する結界など様々なことに効率よく使えるようになっています。
しかし今回の国全体に広がった疫病による食糧難は、貯蔵した魔力を使ってもなんとかできる範囲を大幅に越えていました。
そこでこの胡散臭い王が考えたのは、古より伝わる勇者召喚の魔法を使って勇者を呼び、この国の国民として登録して隷属させ、勇者の力を魔力に変換させて食糧難を乗り切る。という転移物のお話ならわかりやすく返り討ちにあうであろうアホな王族丸出しの方法でした。
まず、元魔法使いで王がもっとも信頼できる勇者召喚の魔法を発動できる王妃を呼びました。
そして何かあったときに勇者を取り押さえる護衛として騎士団長を呼びました。
次に勇者が名前を言わない場合を考えて鑑定スキルを持つ文官を呼びました。
胡散臭い王は、いやもうこれ俺の作戦完璧じゃね。みたいなことをアホみたいに思っていました。
現実にはこの王の冠の機能には呪術の要素が含まれており、呪術レベルが最高値の勇者唯川の名前を登録した途端に呪い返しが発動して王も王妃も騎士団長も文官も頭が爆発して死にます。最悪です。
そして話は変わりますが、この世界はどの国も地球から来た日本人が文明の根幹に根づいており、この国も例外ではありません。
王の冠の魔法装置も過去に訪れた勇者が作ったものですし、その魔法装置のお陰でたくさんの人間の命が救われました。
この国の国民はみなそのことを語り継いでいます。
それはこの国の王子も例外ではありません。
まあつまり、王から話を聞いた王子は周りにそそのかされたりもあって、勇者を召喚して騙して力を奪おうとするなんて絶対に許せないっ!!
と激おこプンプンです。
いくら食糧難だからと言っても、やっていいことと悪いことがある。そんな事をする連中はみな首をはねてやる。とだいぶ野蛮な思考をしています。
そして騎士数名と共に、国民の登録を一時的に解除し部屋の外で首を切り落とそうと今か今かと待ち構えています。
部屋から出た途端に王も王妃も騎士団長も文官も首を切り落とされて死にます。最悪です。
……マジでなんなんだこのどう転んでも死ぬ人達。
俺は自分の能力を説明して、今そこにある危機を説明する。
本当にびっくりするほどすぐそこにあるからな。
「そんなバカな能力があるわけがないっ、王、騙されてはいけませんっ」
あ、騎士団長が声を荒げて文句言い出した。
こいつ……、はじめは寡黙なできる人間風だったくせに、化けの皮剥がれんのあまりに早いんだよ。
この国の人間みんな人間性ペラペラだな。
まだ出会って数分だぞ。
よし、俺のウルトラ鑑定のウルトラなとこ見せてやる。
「……オッサン、へそくりを自分の部屋の時計の裏に隠してるだろ」
「な!?なぜそれを!?」
騎士団長のオッサンは自分以外誰も知らないはずのへそくりのありかを、俺のウルトラ鑑定によって言い当てられてびっくりだ。
……自分でやっといてなんだけども、へそくりのありかを言い当てるっていう薄っぺら暴露イベントなんだよ。
「……バカな、そんな、へそくりのありかは、誰も知らぬはずだ。そ、そんなバカな……」
へそくりのありか言い当てられたことがどんだけ衝撃なんだよ。
「いや、私も信用できない。そんな都合のよい能力など、あるわけが……」
今度は胡散臭い王がブー垂れだした。
まあ、確かにアホみたいに都合のよい能力だからな。
「王様、あんた最近、芋焼酎も良いかな?とか思ってるね?」
「――――っ!?ば、ばかな、なぜそれを!?」
うん、自分でやっといてなんだけどもさ、さっきから暴露内容がショボいな。
なんだ芋焼酎って。
「わ、わたくしもやってくださいましっ」
今度は王妃がなんか言い出したぞ。
「……最近、肌つやがよくないから化粧品を変えようと思ってるね?」
「――――ひゃあああっ!?な、なぜそれをっ」
……化粧品変えようとしてること言い当てられて、そんな衝撃受ける?
殺人の隠蔽ばらされた時位のリアクションしてるけどさ。
ひゃあああ!?て言ったぞ。
「ええ?なんなのですかその力は?わ、私もお願いします」
最後に文官がなんか言い出した。
「……あんたのご先祖様、アンタん家の中庭にある梅の木の下に三億相当の宝石を埋めてるらしいよ」
「……ええっ!?我が家で代々噂になってた話、あれ本当だったの!?」
最後の暴露内容は中々すごいやつだったわ。
「バカな、私のへそくりが……」
「そ、そんな私はどうすればよいのだ」
「ええ!?じゃあわたくし首はねられるの!?」
「嫌だあ、三億の財産見つかったのに死ぬなんてえっ」
みんな俺の能力の信憑性が爆上げになり、パニックに陥り出した。
いや、一人だけなぜかへそくりショックから抜け出せていない。
「や、安田殿、いや安田様、私はどうすればいいのですか!?助けてくださいっ、靴をなめますっ」
胡散臭い王がわかりやすく媚をうってきたな。
もはや王たる威厳が全くない。
いやむしろ人としての誇りすらない。
靴なんかなめないでほしい。
いい年こいたオッサンのそんな姿見せられたら泣きそうになるし、オッサンのよだれがついた靴を履きたくもないし……。
「龍臣、本当にこいつら助けるのか?、私達を騙そうとしてたやつらだぞ」
今度は吸血鬼がブー垂れだした。
うん、いやまあ気持ちはわかるけどね。
確かに一方的に俺らを騙そうとしてる人らだけどもね。
まあぶっちゃけ食糧難での餓死者を減らすためらしいからね。
情状酌量の余地があるし。
まあ、何よりね。
「俺は人の頭が爆発するところも、人の首が跳び跳ねるところも絶対見たくないからね。そんなのが俺の脳細胞に刻まれたらトラウマだから。間違いなく一生もんの心の傷だから」
ぬくぬく育てられた一人っ子の俺はそんなもん絶対見たくないの。
食糧難とか餓死者とか情状酌量とか分かりやすい理由以前に、そんなグロ映像まじで絶対見たくないの。
「や、安田様、助けてくださいーっ」
「助けてくださいっ」
「お願いしますっ」
「へ、へそくりがあーっ」
騙そうとした四人パニック。
いや一人だけへそくりショックをまだ引きずってる。
どんだけだよ。あんたのへそくりなんなの?
「うん、まあ、大丈夫。俺に考えがあるから」
バタンッ!!
俺達は勢いよく部屋の扉を開く。
「出てきたゾッ」
「首をはねよっ」
「不信心者めえ」
パパパパパンっ!!!!
「うぐっ!?」
「なっ!?」
「いだっ!!」
部屋の外で待ち構えてる騎士だのがまんじゅうにビンタされてぶっ飛んだ。
そしてビンタされて尻餅をついたポーズで、今度はみんな俺達の方を見てる。
「な、なんだ!?」
「ちゅ、宙に浮いてる箱から変な手が出てきたぞっ」
まんじゅうにビンタされた騎士達がものすごい狼狽えてるわ。
よし、かましてやろう。
「どうも、新しい王様の安田です」
召喚されて十数分で国取りしたわ。