第3章 18話 子供だましだわ。
「出てきなさーい」
いま俺はとある山小屋の前で拡声器を手にして山小屋の中にいるであろう子供博士に呼び掛けている。
俺たちが女神しゃまに知恵を拝借している最中に、地球に帰るのに下手すると千年とかかかることを子供博士に聞かれたからだ。
博士は大泣きして自暴自棄になり、地球帰るために作ったロケットが格納してある山小屋にテレポートでこもってしまった。
うちのパーティーメンバーのカガミちゃんのテレポートですぐさま追っかけて来たんだが、何やら山小屋は光の膜みたいなもので囲まれており、小屋の中に入ることはできなかった。
ちなみに博士がロケットに乗ったところで運命力とやらが邪魔して地球には帰れない。
鑑定結果
博士は今ロケットが格納してある部屋でロケットの中に入り、クイズ番組に出てくるやつそっくりな発射ボタンを手にもって小さくなっています。
あ、今なにかマイク的な物を懐から出しています。
……マイク的な物?
『……出ていかないっ、私はこのロケットで地球に帰るっ』
明らかにレンガと木で作られた山小屋の壁にパカッと穴が開きスピーカーみたいなものが出て来て、子供博士の声で喋りだした。
なにこの機能。こんなんあったの?
『私はこのロケットで地球に行くっ、家に帰るっ』
「帰れないっつうのに、いままでだって帰れなかったんだろ」
『……ううううっ』
ああ、スピーカーの向こう側でまた泣いてしまった。
「根本よっ、出てきたらプリンを作ってやるぞっ、地球に帰れる日まで、毎日っ」
俺の横にいる吸血鬼が凄い子供だましな発言で博士をおびきだそうとしている。
無理だろ。
『…………………いらないっ、三年くらいできっと飽きるっ』
なんか結構な時間沈黙して考えて、三年で飽きると思ったらしい。
三年ももつのか。
「じゃあ、毎日ハンバーグを作るよっ」
今度は鈴木さんがまた子供だまし発言。
『…………………………味は?』
……味?
「……わ、和風?」
『私は大根おろし嫌いっ』
ああっ、鈴木さんっ、もう少しだったのにっ、なんで和風をチョイスした!?
デミだろっ、やっぱ子供はチーズとデミグラスだろっ。
「博士、ゲーム好きなだけやってもいいですよっ」
あっ!?、東くんが禁断の取引を持ちかけたっ。
ちなみに俺の部屋には田中くんから譲り受けたゲーム機がたくさんあります。
『……な、何時間でも!?』
あ、まんまと食いつきやがった。
子供め。
「いいぞ、何時間でもやらせてやるぞ」
だから出てこい。
『い、今出ていくっ』
子供だましだわー。
子供だましって、子供はだませるから子供だましって言うんだなあ。
『……ねえ?今ので解決したの?』
俺たちのやり取りを後ろで見てた、てるてる坊主みたいな女神しゃまの分身が話しかけてきた。
「子供だましな会話だったけども、彼は子供だから、見事に騙されたね」
汚い大人の必殺技、物で釣る、が見事に決まった。
『……ああ、子供だったものね』
女神しゃまも納得したわ。
子供だからな。
『……ガチャン、ああっ、しまったっ』
――なんだ!?
スピーカーの向こうで嫌な感じの音と台詞が炸裂してんぞっ。
ウィーン、ウィーン、ウィーン、ウィーン。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ。
「なに!?」
「なんだ龍臣!?これなんだ!?」
「や、安田さんこれ、まさか」
俺を含めみんな驚愕。
なんか、黄色いパトランプ出て来て、山小屋が綺麗に二つに割れたぞっ。
割れて出てきた穴から、ロケット飛んでくんじゃねえかこれ!?
ロケット飛び出す寸前なんじゃねえの!?
ウルトラ鑑定
鑑定結果
博士が浮かれて転びました。
転んだ拍子に安全装置が全く無い発射ボタンが落ちて、最悪の形で発射シークエンスに入りました……。
アイツ、転んで誤爆しやがったっ。
「博士ーっ、お前転んで発射ボタン落っことしたなっ、なんでそんなクイズ番組のボタンにした!?」
絶対いつか誤爆すると思ったが、なんで今だ!?
『か、カッコいいと思ってっ』
カッコいいか!?
ズゴゴゴゴゴっ。
ああヤバイっ、今にもロケット出てきそうな感じっ!!
『あ、あたし止めようか?』
女神しゃまっ。
「頼むっ、止めて止めて」
『よしっまかしてっ』
ズゴゴゴゴゴ。
あ、ホントに穴からロケットが出てきたっ。
『おりゃーっ』
凄いかん高い声だして、てるてる坊主がロケットに飛び付いた。
おお、すげえっ、てるてる坊主に手が出てきて、今にも飛び立ちそうなロケットを押さえ込んでるっ。
宇宙ロケット腕力と謎の浮遊力で押し止めてんのこれ?
ていうか止めるって、腕力で無理やりロケット抑え込んで止めんの!?
魔法的な物で博士だけ救出するとかじゃないの!?
『ああっ、てるてる坊主なにするっ、くっつくなっ、質量が変わるっ、これはロケットみたいな形だが、空間跳躍装置なのだっ、観測地点が変わるっ、変なとこ飛ぶっ!!』
あの子供急に難しいこと言うっ。
変なとこ飛ぶってなに!?
んん!?
なんかちょっと浮いてるロケットの回りに魔法陣が出てきたっ!?
バチンッ!!
『にゃーっ』
ああっ、てるてる坊主が弾き飛ばされたっ。
パチパチ、パチパチっ。
なんかロケットのまわりを電気が走り出したっ。
バチっ、バチチチチチチチっ。
『うわああっ、どこに転移するかわからなーいっ、助けてえーっ』
バッシュンっ!!
う、うわあああっ。
博士の最悪のセリフと共にロケットが消えたっ。
「ど、ど、ど、どうするっ龍臣っ、どうする!?」
「や、安田くん、安井くんっ」
「や、や、や、安田さんっ、どうにかしてっ」
京も鈴木さんも東くんも超てんぱってるっ。
鈴木さんなんて俺の名前間違ってるっ。
まてまて、俺は落ち着け、俺は落ち着け。
ウルトラ鑑定。
鑑定結果
1日後、正確には23時間36分24秒後に、この宇宙のこの銀河系の太陽の近くに出現します。
「どうしようもねえっ!!」
これは無理だろっ。
太陽って……。
ドラ○ンボールで悪役が吹き飛ばされて送り込まれるとこじゃんっ。
あの子そんな悪い事した!?
『どうした?どうだった?』
はっ、てるてる坊主……。
「……だいたい24時間後に太陽の近くに現れるらしい。一応一番近所の太陽の近くに」
「太陽っ!?龍臣っ、私吸血鬼だが、太陽弱点じゃないが、得意でもないぞっ」
「や、や、や、安藤くんっ!!そんなのどうするの!?」
「安田さーんっ、うわあああん」
京は太陽が弱点じゃないと宣言し、鈴木さんはまた名前を間違え、東くんは泣き出した。
鈴木さんにいたっては漢字が一緒なだけで、読みが違う。なんだよ安藤って。
途中まで、や、て言ってたじゃない。
「女神しゃま、なんとかなる?」
みんな、ハッ、て顔しててるてる坊主を見る。
『……………ようしっ』
女神しゃまが何やら首をこきこきやっている。
イ、イケんのかな?
『久しぶりに肌をこんがり焼いてこようかな』
イケるようだ。
おお、さすが本体はお月様。
『でもあれよ?最悪救助に失敗しても私達は別な世界に生まれ変わるだけで死なないから、ぶっちゃけ必ずしも助けなくても大丈夫なのよ』
なに言ってんだこのてるてる坊主。
バドミントンのラケットでホームランすんぞ。
「「「「それは却下」」」」
ハモった。
『……ふふふ、じゃあ、がんばりますか、ちょっとまってね。…………………ほっ』
ん?なんだ?
――っ!?空が光ったっ。
あっ、月が分裂してるっ。
正確には夜空にちっちゃい月が一つ増えてるっ。
まじか、こいつの本体分裂とかできんのか……。
『あのちっちゃい方に太陽行かせるから、ロケット出てきたところでキャッチみたいな感じで……でもあれよ?太陽って重力凄いのよ。私太陽にダイブなんてホント久しぶりだし、失敗したら困るから、その時の為にB案的な物を用意してほしいんだけど』
「……B案?」
太陽って重力あんのか?ていうかB案?
………………あっ!!
「京ちゃんっ、君巨大ヒーローになれたよね!?」
「――無理無理っ、あれ空気ないとこだと無理だからなっ」
嘘だろっ、ウルト○マン丸出しなのに!?
「……となると、あの宇宙服着て俺たちもロケットに乗ることになんのかな……」
「「「…………」」」
みんなひきつった顔して黙ってしまった。
『いやいや、今からロケットで飛んでくとか無理よ?太陽までってめちゃくちゃ遠いからね。私も瞬間移動で行くつもりだからね?』
ああ、そうか、じゃあ俺たちも博士みたいに、空間跳躍なんちゃらに乗って?
あれ素人がどうにかできんのか?
いや宇宙ロケットはもっと無理だろうけども。
「…………あっ!!」
「どうした龍臣っ、なんか思い付いたか!?」
「安田くん、なんかいい案浮かんだ?」
「や、安田さん」
みんな期待の眼差しでこっちを見る。
ちっとまってな。
……ウルトラ鑑定。
鑑定結果
いけます。
安田達がこの国に来たときの勇者召喚の魔法を使って根本を召喚するとかいうわけわからないことをすればなんとかできます。
ようし、よしよしっ。
ここに来て宇宙に行かずにすんで、しかも危なくもない最高のアイデア出してやったっ。




