第3章 17話 博士の発明。
「皆様、お帰りなさいませ」
王都にある飛行船発着所に到着した。
飛行船から降りると元魔王のおじさん、現宰相のおじさんとその他大勢が迎えてくれる。
後ろの方にはナピーナップのヒゲや、この国の遥か前の胡散臭い顔した元王の姿も見える。
……ヒゲ王様まだいたのか、暇なのかな?
「……今は東様が王様なのですね」
もはや自分達の知らない間に王様が変わってるのがデフォルトのように受け入れてくれている。
「そうです。よろしくお願いしますね」
東くんが世界一軽いであろう王様の初挨拶をする。
「……あのー、そちらのお子は?」
宰相のおじさんの後ろにいたラッキーガイが話しかけてきた。
おお、ラッキーガイ久しぶりな感じがする。
「彼はね、勇者根本だよ」
「ええ!?」
「ゆ、勇者根本!?我が国の伝説の!?」
……伝説だったの?
「根本じゃよ」
博士は鈴木さんに肩車されながらのどや顔を披露している。
なんかみんながざわざわしだしたな。
「宰相さん、とりあえず疲れたから休まして」
「あ、はいっ、馬車が用意してあります。王城までどうぞ」
とりあえず、城に戻って王冠どうするか相談するか。
「安田、安田」
鈴木さんに肩車されたままで博士が俺の髪をくいくい引っ張る。
引っ張るなよ。
「どうした博士」
「ここには昔私が作った、城までひとっ飛びくんがあるよ」
……それはなんだろうか。
おっかねえから普通に馬車で城に戻ることにした。
飛、て漢字が使われてる時点ですでに嫌。
「それで宰相さん、俺たちの居ない数日間でなにか困ったことはあった?」
「いいえ、特には何も、食糧も配給され、鈴木様が備蓄してくださった食糧で数十年分は賄えます。問題は特にありません」
「……食糧難なのか?」
お、博士が話に入ってきたぞ。
「そうですが、もう大丈夫ですよ、鈴木様が沢山食べ物をくださったのです」
子供好きなのか宰相のおじさんが博士に優しく語りかける。
「……無限切り身くんは壊れたのか?」
……ん?
「博士、無限切り身くんってなんだい?」
「昔ね、私が作った魚の切り身を魔力が続く限り無限に作ってくれる機械だよ?」
魚ではなく切り身を?
「私、昔魚って切り身のヤツが海とかで泳いでると思ってたから」
そういう子供いるよな。
「もはや、どのくらい前だか定かではないほど昔の王様、勇者根本がこう言ってるけど」
胡散臭い元王に聞いてみる。
「いや、全然聞いたことないですが、……ていうか昔ではないでしょ!?たしかに何代前かは、もはや定かではないけれども、10日くらい前までは王様だったでしょ!?」
うーん。
ウルトラ鑑定。
そこの会議室のドアストッパーに使われている箱がそれです。
だいたい三百年前位に王様の代替わりのごたごたで忘れ去られ、ドアストッパーに転職しました。
「そこのドアストッパーもってこいっ」
ドアの外にいる騎士があわててドアストッパーに使われている箱を持ってくる。
箱だ。材質も木丸出しだ。
魚の切り身の絵が描いてある。
「博士、これかい?」
「あっ、これじゃっこれじゃ」
博士が木の箱をカチャカチャいじり出す。
……すげえ器用に弄るな。
ていうか博士白衣の袖から手が出てないのだけども、その辺りどういう仕組みになってるの?
寄せ木細工見たいにカチャカチャと解体された木の箱は最終的にバラバラの部品にされた。
「……バラバラになっちゃったけど?」
「これでそっちの部品を二十三回人差し指でトントンってして、こっちの部品を小指で十三回トントンってすると……」
博士が白衣越しに指で部品をトントンってしてる。
……ずっと思ってたけど、無駄に数字が多いんだよ。
なんだよ二十三回とか、解除の仕方が全く変わってないな。
ひゅわんっ。
……っ!?
おお、それぞれの部品が光って浮かび出した。
おお、光った部品がだいたい五メートル四方に広がって光の立方体みたいのができた。
おおっ、光の立方体の中に何やらふわふわ浮いてるっ、多分、魚の切り身だっ。
べちゃっ。
べちゃべちゃっ。
べちゃべちゃべちゃっ。
……うわあ、光の立方体から魚の切り身が次々落ちてくるっ。
会議場の机の上が魚の切り身だらけになった。
あっちは鮭かな?あれはホッケか?
無駄にバラエティーに飛んでる。
……ていうかくっせえ……。
魚くっせえ……。
「結構魔力たまってたようじゃから、この部屋十杯分くらいパンパンになるくらい出るよ」
「止めてっ、すぐさま止めてっ」
「魚の切り身出尽くすまで止まらないよ?」
「安全装置的なのつけとけよっ」
そして魚の切り身ハザードにより会議は強制終了になったとさ。
そして夕食にやたらホッケが出た。
博士はお腹いっぱいになったのか腹に毛布をかけてソファーでぐっすりだ。
後でベッドまで運ばねばな。
「本当に空の勇者根本様なのですね」
宰相さんやら胡散臭い元王が、博士見ながらなんか複雑な表情だ。
まあ、子供丸出しだからな。
さっきも魚臭いと言っていた東くんパーティーのカガミちゃんにきゃっきゃっきゃっきゃっ言いながら鮭の切り身をぶつけてたからな。
そして食べ物で遊ぶなと吸血鬼の女王様にこっぴどく叱られていたからな。
「うん、でも勇者扱いじゃなくて子供扱いでいいから」
「子供ですか?」
「そう、ただ家に帰りたがってる子供」
鑑定結果
なにをどうやってもすぐに彼を地球に帰すのは不可能です。
ことは本人の精神の問題ですので。
本人が莫大な時間をかけて成長する以外に手はありません。
何回やっても無理って答えしかでねー。
使えねえ能力だな。
こうなったらあれか、聞いてみるか。
俺は勇者勢だけ連れて城のテラスに出る。
ちょうど夜だ。
「龍臣、どうした?なにをするんだ?」
京が何をするのか聞いてくる。
「もう、神様の大先輩に知恵を拝借するしかないと思って」
「大先輩?」
「女神しゃまーっ!!助けてーっ!!」
城のテラスで、最近できたばかりの新しい月に向かってでっかい声を出して両手をふる。
凄いアホみたいだわ。
「龍臣、出会ってから今までで一番アホみたいな姿だぞ」
知っとる。みなまで言うな。
「や、安田くん、大声で叫びながら月に手をふってどうにかなるの?」
鈴木さんっ、具体的な言葉にしないでっ、恥ずかしいからっ。
「……あれ?いま月がちょっと光ったような」
「……光ったな」
え?まじで?
東くんと京の超視力コンビになんか見えたらしい。
「女神しゃまーっ!!」
…………………あっ。
なんか夜空に光った。
……明らかにチカチカしている。
UFOみたいにおかしな軌道で光が飛んでる。
――――っ、こっちに来たな。
「……ホントに来たな」
京を含めたみんなが驚いてる。
まあそりゃそうだわな。
話は聞いてたが始めて見たな。
夜な夜な世界中で魔物に襲われている人を助けてる女神しゃまの分身、ホントにてるてる坊主みたいだわ。
『どうした?なんかあった?あたしこと女神しゃま来たけど?』
軽い。
ナチュラルにてるてる坊主がしゃべった。
「……ホントにしゃべった。安田くんの女神しゃまがなんたらってホントだったんだね」
信じてなかったらしい鈴木さんがボソボソなんか言ってる。
まあいいや。
「女神しゃま、相談があるんだけどさ、実はまた新しい勇者見つけてさ」
『え!?また!?』
「うん、それで実は……」
俺は博士についてのあらましを話して、なんとか地球の家に帰してやれんか聞いてみる。
『……そればっかりは無理よ。本人の精神とか魂の成長率の問題だもの』
やっぱそうなのか。
女神しゃまでも無理なのか。
あんなでっかい図体してる癖に使えねえな。
『神々の帰宅はじっくりやらないとかえって逆効果になる時もあるし、百年単位ならもうけものよ。無理なヤツは一万年でも帰れないヤツもいるし、その子数百年とか数千年でいけるって鑑定でてんでしょ?上等上等』
いや、数百年は長いっつうの。
そこをなんとかしようとしてんじゃねえか。
ていうか生まれた星に帰るの神様用語で、神々の帰宅って呼ばれてんの?
なにそれ、ダサっ。
『あら?その子がそうなのかしら?』
――何っ!?
……やべ、知らん間にテラスの入り口に博士いるっ。
しまったっ、騒ぎすぎたか。
「……不覚、てるてる坊主に気をとられた」
「……自分も注意が散漫になってました」
京と東くんが武人っぽい感じで失敗を嘆いてる。
「や、安田、それはなんじゃ?」
博士は女神しゃまのてるてる坊主見てびっくり。
まあそりゃ、誰でも光るてるてる坊主見たらびっくりするわな。
「これは幸運のてるてる坊主だよ。毎晩これに祈るといいことがあるんだよ」
変な嘘でた。
「そ、そんな儀式は知らんっ、私が地球に帰るのに数百年かかるとか聞こえたぞっ」
一番ダメなとこ聞かれとるっ。
『そうねえ、でも坊や、私たちからすればそんな時間すぐよ。あっという間よ。数百年なんて』
「そんなことないっっ!!!!!」
博士が凄いでかい声を出した。
「ずっと寂しかったっ!!何年も何年も一人で勉強して、一人でロケットを作って、友達ができても、みんな、みんな先に死んじゃうっ!!!!嫌だっ!!私、ボク家に帰りたいっ!!!!もうやだっ!!!!もうやだ!!!!」
心がざっくり刺されるようだわ。
「うああーんっ!!!!!!」
博士の目から涙が溢れる。
ファンファンっ、ファンファンっ、ファンファンっ。
―――――なんだ!?
城中に変な音が鳴り響いてる。
ウルトラ鑑定っ。
鑑定結果
昔博士が城に作った警戒装置が作動しています。
0,5秒後、博士がテレポートします。
0,5ってなんだよ!?
博士にダイビングジャンプっ。
――――掴めっ、くそっ。
ズザアアアアアっ。ガガンッ。
イッダッ。
くそっ、掴めなかったっ。
体が床をスライディングした後壁にめり込んどる。
久しぶりに自分がレベル高かったこと実感したわっ。くそっ。
「龍臣っ」
「安田くんっ」
「安田さんっ」
みんな心配して駆け寄って来るが、それどこじゃねえ。
ウルトラ鑑定。
鑑定結果
勇者根本は警戒装置のテレポート機能により、現在例の山小屋の隠し部屋にいます。
ロケットでこの星を飛び立つつもりです。
山小屋にいんのか!?
「カガミちゃん呼んでこいっ、あの山小屋にいるっ、こっちもテレポートすんぞっ」
テレポート有効活用してやるっ。




