第3章 14話 一人前の。
『この乗り物は勇者根本様に作っていただいたんですよ』
今は夕方。
仲間みんなで、エルフの村の村長の家にお邪魔させてもらって、メープルカステラをもちもち食べながら話を聞いているところだ。
このフ○ーザ様のヤツだかツイ○ビーみたいなヤツ作ったのはこの国にロケットばらまいた根本さんらしい。
しかし、ここでロケット職人根本さんにニアミスしたか。
『だいたい400年位前でしたかねえ』
400年前に根本さんがここに来たらしい。
『その時に腰が悪いうちの母にこの乗り物を作っていただいて、家の母が亡くなってからは私が使っています』
代々腰痛持ちの家系らしい。
エルフにもそういうのあんのか。
エルフ村長の顔は若い姉ちゃんそのものだから今一つぴんとこない。
まあテンプレ通りのエルフらしいから、老けないんでしょうね。
「その人、ロケット作ってませんでした?」
ここでも作ってたなら、またどうにかせんと。
『ロケット?ロケットがなんなのかわかりませんが、先々週来た時はなんか特別な金属を探してるとかなんとか言ってましたね』
……何?
「……先々週に来たの?」
『来ましたねえ。この乗り物の調子も見てくれましたよ』
「ほう~」
『はじめてあった時は青年だったんですが、この間会った時は子供の姿をしていました。勇者様方は不思議な方ばかりですねえ』
根本まだこの世界にいんのかよ!?
ホントにニアミスしてるわっ。
……しまった。完全に盲点。
もう過去の勇者として扱ってた。
そういや鑑定してねえ。
……子供になってたって何だ?
ウルトラ鑑定。
名前 ネモト 地球名(根本良太) ♂
年齢 538才
職業 ハカーセ
称号 子供博士
レベル 21
HP 107/107
MP 0/0
発明件数 132
装備
万能ドライバー
才覚の白衣
所持スキル
天上文明
壁を越える頭脳
器用な手
魔導学レベル4
解読、呪文解析、魔導具開発
説明
530年前にこっちに転移してきた勇者。
当時八歳。
彼のスキルは文明の最先端のものを自在に作り出す能力があります。
それでこっちの魔法文明と地球の機械文明を融合し宇宙ロケットを作ったりしました。
しかし強力な能力のために使う度に若返るデメリットがあります。
こっちの世界で色々やらかしたあと。
ロケットを使い地球に帰ろうとしたが失敗。
はじめは子供だったために宇宙空間に飛び出せるロケットで地球に帰れると思った。
もちろん帰れません。
しかし何も知らない子供だったために宇宙ロケットをアホほど改良して山のように作り出し地球に帰ろうとしました。
もちろん帰れません。
勉強して年齢的にはおじさんになってから空間魔法系統を使えば帰れると知り平行宇宙間を航行できるロケットを作り出しました。
でもなぜか失敗して地球に帰れませんでした。
以来彼は約500年間ロケットを作り続けています。
根本が作ったロケットの数は1325基、そのほとんどは北ササラ国にあります。
現在北ササラ国南東にある小ササラ山と呼ばれる山の小屋で1326基目のロケットを作成中。
余談
彼が地球に帰れないのは一人前の神になれていないからです。
今の状態では理論的には地球に帰れても何かしらの不運が重なって絶対失敗します。
彼が一人前の神になれない原因は能力使用による若返りにあります。
能力のデメリットである若返りは細胞が再生してるのではなく、記憶細胞以外の肉体の時間が巻き戻って若返っているので、魂と精神が成長しないからです。
つまり能力を使用せずにおとなしくしていればいずれ帰れるのですが、彼はそんな事知らないのでとりつかれたようにロケットを作り続けています。
彼のロケットにもれなく破壊光線ガンがついてるのは謎のこだわりがあるからです。
千越えてまだロケット作ってんの!?
根本バカじゃねえの!?
ううわ、破壊光線ガン1000個もあんの?
あ~、頭痛くなってきた。
「安田くん、根本さんって、あのロケット作った……」
鈴木さんが不安そうに話しかけてきた。
「……まだこの世界にいるみたいだわ」
「村長さん、メープルカステラ包んでくれます?」
もう帰るね。
「え?、もうお帰りになるので?、何日かゆっくりしてくださっても構いませんのに」
ロケットと言う名の兵器量産阻止しないといけないのでね。
「また来ます。メープルカステラうまかったから」
旨いカステラ食えたし、地球出身の博士見つかったし。
エルフ達が見送ってくれるなかで飛行船に乗り込む。
「さようならあっ、東王様~っ」
「さようならあ」
東くんの魅力にやられたらしい男エルフ達が、東くんに凄い手をふって見送ってくれる。
もしこの村に明日までいたら彼らの夢は見事に破れていたな。
夢破れずにすんで良かったな。
「先生、王都に帰らないのですか?」
みんなで飛行船に乗り込んでいると、ピンタさんが聞いてくる。
「うん、南東にある小ササラ山って所に向かって」
「龍臣、そこに根本とやらがいるのか?」
俺の発言から京が根本さんの居所を察したらしい。
「ああ、そうらしいよ。まだロケット作ってるって」
「ええ?その根本さんって人、よっぽどロケット好きなんですか?」
東くんが根本さんについて聞きたがってる。
俺もそう思ってたよ。
時々いるロケット大好きな人かなって。
「いや、どうやら違うみたいだねえ」
「違うの?」
「うん、日本に帰りたくて仕方ないってだけみたいだわ。ロケットで日本帰るために500年で1000基以上作ってるってさ……」
「「「せっ……」」」
みんな絶句。
「龍臣、ロケットで地球に帰れるのか?ただの宇宙ロケットだろ?」
「宇宙ロケットじゃあ無理だけども、こっちの世界で魔法について勉強して平行宇宙間を飛べるロケットを作ってるそうだ」
京の疑問に答えてやる。
「龍臣、よくわからんが、それで帰れるのか?」
流石の京も、平行宇宙がなんちゃらかんちゃらはよくわからんらしい。
「無理」
「無理なのか?」
「いや、理論的には行けるらしいんだけど、彼には無理」
「安田くん、それって前に言ってた一人前の神様しか地球に帰れないとかなんとかのやつ?」
勘のいい鈴木さんは気づいたらしい。
「……そう、どうやらロケット作ったりすんのにスキル使ってるらしいんだけど、そのスキル使うと若返っちゃうらしくて、そのせいでなんか色々成長できないらしい」
「龍臣、なんだその話は、一人前の神?私は知らんぞ」
「自分も知りません」
あれ?京と東くんには話してなかったっけ?
「ああ、まあざっくり言うと一人前の神様にならないと地球には帰れないんだよ。理論的には大丈夫でも必ずアクシデントとかが起きて帰宅に失敗するらしい」
「なんだそれは、私は?」
「京は大丈夫」
「自分は?」
「東くんは無理」
「え!?なんで!?」
東くんがびっくりしてるが、理由はよく知らん。
「そもそも一人前の神とそうじゃない神の違いはなんなのだ?」
京が聞いてくるが、その辺は俺もよくわからんからなあ。
精神と魂が成長するのがどうとか。
一応くわしく鑑定すると……。
「漫画の最終巻で色々乗り越えた後の主人公が空を見ていい笑顔してるみたいのを体験してるかどうか」
とかって出てくるんだよな。
「もっと分かりやすくいってくれ」
あれ?京が眉毛をハの字にしてる。
わかりずらかったか?
「精神が成熟してるかどうか?」
「はじめからそう言え」
いや、そうなんだけども。
俺は厳密には精神が成熟してるかってのもまた微妙に違うと思ってる。
最初の漫画の最終巻の主人公理論が一番正解に近いと思う。
だって俺自身多分そんな成熟してないからね?
そもそも、今空に浮かんでる世界最古の月型の女神様も中身ギャルだからね。
精神が成熟してるギャルとかわけわからんから。
まあいいべ、そんなことより今は兵器製造阻止が先決だ。
「ピンタさん、もう夜だけど、目的地は南東にある小ササラ山、出発よろしく」
「はいっ」
ピンタさんのいい返事、そして命の恩人だからとカステラを大量にもらったペペちゃんとアクゲンタヨシヒラがカステラをもちもち食べる音と共に飛行船が飛び立つ。




