9.教会からの依頼
9話目です。
やっと、普通の生活に戻った。
ガイドもルジェルも問題を起こしていない。
いつもと変わらぬ日常がうれしい。
・・・と思えたのは、僅か二日だけだった。
ランベルト先生のお呼びだ。
今回は、僕だけだ。(呼び出される心当たりが何も無い)
「教会から、君に依頼が来ています。」
剣術の指導の依頼だった。
殆どの教会は孤児院も兼ねている。その孤児たちの剣術指導だ。
「なぜ、僕に? しかも、コレージュ経由で。」
教会は、冒険者ギルドをよく思っていないらしい。危険を伴う仕事が多過ぎるからだ。
教会にやって来る孤児も、親が冒険者だった子が少なくない。
教会としては、十五才になって教会を巣立つ時、安易に冒険者になってもらっては困るのだ。
孤児達の安全の為の剣術指導で、カッコ良い冒険者が来て、孤児達が冒険者に憧れを持ち、将来、危険と隣り合わせの冒険者を目指されては本末転倒だ。
直接、道場に依頼した方が早い気もするが、報酬の支払いの事もあり、渋々冒険者ギルド経由の依頼となっている。コレージュの学生なら、聞かれなければ、職業、学生兼剣士で押し切る事が出来る。
見た目が冒険者らしくない冒険者で、剣術の心得があり、学生、この条件を満たすのが僕らしい。
「グレン君は、冒険者というより、修業中の剣士に見えますので、丁度いいと思いますよ。」
「聞かれた時に、冒険者である事を、うまくごまかす自信が無いです。」
「自分から 態々言わなければいいのですよ。その程度の問題です。・・・」
道場のPRにも成るので受けることにする。
「助かります。 念の為、ギルドカードを拝見させて頂けますか?」
ギルドカードを渡すと、ランベルト先生はモノクルを掛け、カードに魔力をかける。
カードが薄っすら輝いているのがわかる。
「・・・なるほど、ありますねえ。・・・そう言うことですか。」
「何があるのですか?」
「僅かばかり、光の属性が見えます。」
「何か、まずい事でも。」
「・・・いえ御座いません。・・・でも、ガイドの事もあります。あまり目立ち過ぎない事をお勧めします。」
教会へ向かいながら、ランベルト先生の言葉を考える。
魔法は苦手だったので、魔力紋について、身分証明程度にしか考えていなかった。
「僕に、光の属性が有ったなんて。」
シャンディは光属性が気に入ったらしく、野良猫相手に光って驚かせている。
(光った瞬間、野良猫には分るようだ。・・・器用な事を。)
光属性で思い浮かぶのが、聖騎士と聖女。・・・教会からの依頼。・・・先生は目立つなと言っていた。
剣術を教えるだけの依頼が、複雑に感じてきた。
「ようこそ、いらっしゃいました。私は神父のフェデラです。」
三十前後のヤセ形の男性に笑顔で迎えられた。
応接室の様な所に通される。
「あと、三十分で準備が出来ます。しばらくお持ち下さい。直ぐに、お茶を入れます。」
「あ、お構いなく。」
神父さんは出て行った。
回りを見ると、壁に剣が飾ってある。ツーハンデッドソードだ。
装飾用か実用か微妙な感じの剣だ。
「手にとってご覧になられますか。」
戻って来たフェデラさんが、僕にツーハンデッドソードを手渡す。
「えっ、いや、・・・どうも。」
戸惑いながらも、受取り構えてみる。
「私には出来ませんが、魔力を込めると輝くそうですよ。」
(魔力を込める。・・・ギルドカード・・・目立たない。)
僕は、力んでいる振りをしながら、ほんの少しだけ魔力を込める。
剣が僅かに輝く。
「ふー。難しいものですねえ。」僕は剣を返しながら言う。
「輝くだけ素晴らしいです。」
フェデラさんの笑顔の中に、落胆が有ったのを、僕は見逃さなかった。
子供達に紹介され、剣術指導の開始である。
何故か、冒険者のジレクさんが混じっていたので、後ろで見るだけにしてもらう。
ジレクさんは、いつもロベルトさんと酒を飲んでいる冒険者だ。スカウト(斥候兵)としての実力は凄いらしい。
だが、見た目が、・・・なんと言うか、貧相なのだ。
多少冷やかしを受けたものの、剣術指導は、何事も無く無事に終了した。
終わった後、ジレクさんも交えて子供達と話す。両親のいない寂しさを感じさせない笑顔が眩しい。
「俺っちも、ここの出身でよぉ。たまに、差し入れ持って来るんだわ。」
・・・まあ、この人なら『憧れの冒険者』にならんわ。(失礼だけど。)
「もう、会ったのか、来てるだろう。ハルドのとこチビ。」
ハルドさんに薬草の採集で搾取されていた子供達が来ているらしい。
「ルーちゃんのお友達のお兄ちゃん。」
多分、トーアという名前だったと思う。彼は、松葉杖をついて現れた。
「え。何時そんな怪我を。」
「僕は、まだ大丈夫。ロドが・・・。」(奥には、寝たきりの少年いた。)
ボーパルラビットの一件の後、ウサギを餌にしていた肉食獣の活動範囲が広がり、町の北東は危険地帯となった。
彼らは、慣れない南西エリアで、薬草の採取を子供だけで行い、大牙猪に出会ったらしい。
一緒にいた女の子を逃がすため、二人で囮になった。
女の子は、数日前から眼に痛みが有り、大牙猪に気がつくのが遅れたらしい。
「早く大人になって、迷宮都市ラトゥールに行って、義足作って、ロドを治して、シェシリィを身請けするんだ。」
「身請け?」
「目の見えねえ女の子が金稼ぐ手段といやぁ・・・。」とジレクさん。
母親を名乗る人が「ここじゃ需要が少ない」といって、ラトゥールに連れていったらしい。
(なんだか、重い話になった。)
「世の中、間違っています。神もお許しになりません。」神父さんも憤りを感じている。
こうして、僕の剣術指導は終わった。
あの女の子、間違って採取した毒草を触った手で、眼を擦ったらしい。かなり、痛みは有ったはずだが言いだせなかったらしい。
もし、ハルドさんが生きていれば、間違って毒草を採る事も無く、大牙猪に遭遇する事も無かったのだろうか?
ハルドさんは、必要悪だったのだろか?
・・・僕には分らない。
だんだんストックが。