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チェンジリング  作者: 香美味
6/37

6.ランベール草原(後)

6話目です。

 朝早くから、僕とルジェルは、東へと向かった。


 移動しながら、一連のボーパル騒ぎについてルジェルから説明を聞く。

 昨日のギルド会館の食堂での話で、情報源はシルベーヌさん(B級)モニカさん(D級)だ。情報源としては確かだろう。


 やはり、領主様のバカ息子からの重点依頼らしい。

 重点依頼とは、『冒険者は自由』の建前から出来た依頼形態で、実質は強制依頼の事である。

 

 ギルド側としては、討伐の必要性を余り感じていなかったが、『凶悪な魔獣を野放しにするなど職務怠慢だ』と詰め寄られたらしい。

 既に被害者が出、それが草原でおこった事が致命的だった。

 森や、普通に魔獣が跋扈する樹海なら話は違っただろう。


 しかも、せこい事に成功報酬だ。駆り出されたみんなは、ウサギの素材料しか入らない。

 ボーパルを仕留めた者のみに報酬が支払われる。みんな、低いテンションで仕方なく探している。


「これだけ探して見つからないなんて、本当にいるの?子供の証言だけで、ここまでの大騒ぎなんてナンセンスだ。」

 実際に見ているルジェルの前で失言だったが思わず出てしまった。


 だが、他にも目撃談は有ったらしく、シルベーヌさんも見た事あるらしい。


「幼体だって。」

「じゃあ、龍は無理だね。ほんと無駄な事だ。」

「でも、スラッシュは使える。・・・と思う。」



 僕等は、ミロン村へと続く道を大きく反れ、真東に、そして荒れ地を目指し北へと道なき道を進む。


「あ。いた。」

 ルジェルが駆け出す。あわててついて行く。


---------------------------


 そこには、大ムカデと大カマキリが睨み合っていた。魔獣だ。

 一触即発な雰囲気で、未だ、こちらに、気が付いていない様だ。

 僕等は大カマキリの背後側から刺激しないように近づいた。


 魔獣、カルネでもミロンでも見た事はある。ここは、そういう世界だ。

 でも、塀を越えて町へ入って来る魔獣はイタチ系か犬系が殆どだ。草原ならウサギ系かイノシシ系がメインだ。

 それらは、警備兵や冒険者に討伐されるか追い散らされてしまう。

 人の生活圏に出没する魔獣など、その程度のものだ。


 だが、この大ムカデと大カマキリは違う。ヤバいのだ。うまく説明できないがヤバいのだ。


 ルジェルが大カマキリに向って声をかける。

「おじさーん。」

 おじさんって、大カマキリかよ!思わず突っ込みそうになる。(突っ込まないけど)


 その途端、右頬にカミソリで切られたような痛みが走る。実際切れていた。

 傷口は、それほど深くないので、余り血は出ていないが確かに切れている。気のせいでは無い。

 おそらく、大カマキリからだ。だが、背中を向けた状態で、何時どうやって攻撃してきたのか、全く分からない。


 ルジェルは首の左側に同じ様な傷があった。もう少しズレて、まともに食らっていたら、致命傷だ。


 僕は血が凍るのを感じた。死を覚悟するってこういう事なんだ。


「バカ野郎。後ろから声掛けるんじゃねえ。殺しちまうだろが。俺は弱い者いじめが大嫌いなんだ。」大カマキリが念話を使って話しかけてくる。

 

「おじさーん。爪ウサギ。」

「んー。ボーパルがどうした。」

「どこにいる?」

「知るか。自分で探せ。」

「探して見つからないから聞きに来た。」


「だから、話しかけるんじゃねえ。気が散るだろう。このムカデ野郎は、チンタラ喋くりながら相手が出来るほど、甘い相手じゃねえんだ。」


 ルジェルと話をしながら大カマキリは大ムカデの攻撃をかわし続けている。

「よお、カマキリのお。俺との喧嘩の最中に随分余裕じゃねえか。」

「うるせえ。空気を読みやがれ。チョットは待ってやろう、って気になんねえのか。」

「おじさん。ウサギー。」


「ええい。うるせー。」

 また、何かが飛んできた。今度は、見る事は出来なかったが、感じる事が出来た。

 丁度、胸の辺り。引き裂かれるように痛い。

 一瞬、意識が飛んだ。




「ル、ルジェル」

 完全にのびている。

「ルジェル、目を覚ませ。起きろ。」揺り動かしてみる。


「「目を覚ませ。」」

 ん!声がハモる。

 小さいのが2匹、一緒にルジェルを揺り動かしている。

 一匹はおもいっきり耳を大きくしたビーグル犬の赤ちゃんみたいな物。

 もう一匹は白雪姫に出てくる小人の女の子バージョン(羽付き)だ。

 どちらも手のひらサイズで半透明。実体は無いようだ。

 (ちょっと展開について行けない。パニクりそう。)



 ルジェルが目を覚ました。小さいの×2が喜んでいる。


「俺は今、手が離せん。そいつらに探させろ。」


 目の前の小さな生き物達を改めて見る。

 そして理解した。これは僕等の魂?霊的な何かの一部だ。

 大カマキリによって、切り離された僕等自身だ。


 ビーグル犬ポイのがルジェルので、小人の女の子が僕のだ。

 (なぜ、小人か男の子でなく女の子なのか?実は男娘なのか?疑問は尽きないが、今はそれどころではない。)


「爪ウサギを探してきて。」

「「OK。」」ビーグル犬は耳で、小人っ子は手で敬礼をして駆け出して行った。


 これを感覚の共有と言うのだろうか。

 僕は小人っ子の目から遠くを見る事が出来る。


 小人っ子じゃ可哀想なので、今閃いたシャンディという名前をつける。

 シャンディは指示が無くても自由に動けるようだ。寧ろこちらの意思通りに動かすのに苦労する。


 ボーパルラビットを探すという目的には素直に従ってくれるが、どこを探すかは彼女の勝手だ。

 ルジェルも言う事を聞かせるのに苦労しているようだ。

 (いや、全く聞いてない。)


 取り合えず、改めて二人と二匹で相談する。

 折角飛べるのだから、高い所から探すことにする。

 ビーグル犬も霊的な存在なので飛ぶ事が出来る。(耳をパタパタ)

 だが、あまり得意ではない。シャンディに引っ張り上げてもらっている。


 感覚の共有で高い所から探す。

 シャンディの感覚で、視覚、聴覚、嗅覚だけではない何か魔素的な物も感知出来ているような気がする。


 そして見つけた。いや、感じた。体長1mもあるウサギの存在を。


 僕等は、所謂けもの道を駈けた。二匹の先導で道なき道を。

 岩場を飛び越える時、背の低いルジェルが苦労し、茨のトンネルを潜り抜ける時、背の高い僕が苦労した。


 例のいつもの龍が東から西へ飛んでった。小さいのがマジビビっていた。


---------------------------------


 そして、ボーパルラビットの元までやって来た。


 無造作に近づくルジェル。

 とっさに身構える僕。



 ヤバイ、この先、如何するのか考えていなかった。

 D級以上限定の危険な魔獣。

 殺るのか?殺れるのか?

 僕等のコンビプレーが通用するのか?


 僕からの殺気に気がついたのか、ボーパルラビットが爪を表す。

 右足の甲の小指側から外に向けて、両刃の剣の様な物が斜め上に伸びている。


 あれが、龍すらも斬り割くと言われている剣(爪)。

 盾など有っても無くても関係ない剣(爪)。

 このまま攻撃しても、斬られるイメージしか思い浮かばない。


 僕は、ボーパルラビットを睨みつけながら動けずにいた。


 ルジェルはボーパルラビットを見詰めている。ボーパルラビットもルジェルを見詰める。


 そして、しばらく目線が合った時後、ルジェルはある方向を指さした。

(え!そっちは!)


 ボーパルラビットは頷くと、指差した方向へと走り去って行った。


「ガンバレー」「負けるなー」

 二匹がトンチンカンなことを叫んでいる。


 僕等は、走り去る後姿を見えなくなるまで見送った。



 ルジェルが指差した方向。それは、冒険者が大勢いる方向。

 ボーパルラビットを討伐する為の冒険者が大挙して探している場所。



「帰ろうか」と僕。

「うん」とルジェル。

「「帰えろ。帰えろ。おなかすいた。」」と二匹。(食べれるのか?霊体のくせに)



 カルネまで戻った時、辺りは薄暗くなっていた。

 門衛のおじさんに「遅過ぎる」と小言をいわれた。

 ボーパル討伐隊は1時間も前に帰って来たらしい。

 討伐者はロベルトさんで、死者2名重傷者3名軽傷者多数。

 あのクラスの魔獣相手の割に被害は少なかったらしい。


 ロベルトさん達は、そのまま打上げだそうだ。

 僕もルジェルも疲れたので、参加せずに帰って休むことにした。


「僕のせいだ。」

 分れ際、ルジェルが小さく呟くのを聞いたような気がした。


昨日投稿したつもりが反映されていませんでした。

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