5.ランベール草原(前)
5話目です。
一晩、冷やしていので随分楽になった。武道を習っているお陰で、とっさに衝撃を逃がせたのもよかったと思う。
同じ攻撃をルジェルがあの小さな体で受けたと思うと、今でも怒りがこみ上がる。
あれは、ブラックジャックという武器だと思う。全然対応が出来なかった。
骨には異常が無いので、腫れが引いたら明日にでもコレージュに行けるだろう。
卵入りオートミールを食べながらブラックジャックの攻略法を考える。
因みに、卵は、今朝早くルジェルが差し入れに来たらしい。怪我をしたと聞いて驚いていたそうだ。
----------------------------------
数日が過ぎ、腫れも引き青痣も消えかけたころ、冒険者のロベルトさんが訪ねて来た。
冒険者がコレージュにやってくる事は珍しくない。オープン参加の講義もある。回復薬目当ての冒険者もいる。
(怪しげな薬の場合、素材を直接ルジェルに渡すと、周りにバレバレなので、僕に渡してくる。)
ロベルトさんは、C級の冒険者である。年の頃は三十代半ば、かなり残念なチョイ悪親父である。
良い人、悪い人の分け方なら良い人で、キッチリした人、ダメな人ならダメな人だ。
「おい、小僧。チビ助はいるか?」(小僧とは僕の事で、チビ助はルジェルである)
「ロベルトさん意外にモテるから、あんな薬必要無いかと思っていました。」
「意外には余分だ。それと、あんな薬の世話にはならん。」
「おじさん何か用?」
「ボーパルが出た。チビ助、ボーパルの出そうな所、心当たりは無いか?」
「ボーパル?」
「ハルドが殺された時、お前も近くに居たんだろ。その時の魔物がおそらくボーパルだ。いつも一緒にいるチビ共に聞いたんだが、いま一つ要領を得ない。」
「あのウサギ?」
「ウサギ! じゃあ間違いない。ボーパルだ。」
ボーパルラビットはホーンラビットやワーラビットなどウサギ型の魔獣の変異種で鋭い爪を持っている。
希少種で、確認情報はほとんど無い。
「いつもの北東の草原から少し外れた所だけど、案内する?」
「いや、討伐要請はD級以上だ。因みに、E以下は草原への立ち入り不許可だ。」
「立ち入り不許可!そんなぁ。期限は?」
「捕まるまで続きそうだ。」
「そんなあー。」
「爪が良い素材になる。成長すれば龍でも斬り割ける鋭さになると言われている。」
「すごい。」
「だが、おそらく未だ幼体だ。それほどの鋭さは無い。討伐の重点依頼要請でも出なきゃ無視している。」
「重点依頼要請。」
「どこかのお偉いさんがドラゴンスレイヤーを夢見たのだろう。おかげで、三日間総出で、ウサギ四百匹。」
「四百匹!」
「まだまだ増えるぞ。北東は行ったし他当たるか。邪魔したなあ。・・・・お前らー、来るんじゃねえぞ。」
「僕のせいだ。」ルジェルが小さく呟いた様な気がした。
「探しに行くのですか?」
「ランベルト先生。」(いつの間にか後ろにランベルト先生が立っていた。)
「止めても行くー。」
「止めませんよ。冒険者は自己責任です。」
「先生、僕も行きます。」
「回りをよく見て、自重して、くれぐれも彼を暴走させない様お願いします。」
---------------------------------
僕等は、日暮れまでボーパルを探した。ルジェルは緑の濃い草(馬とかが好きそうな)を採っては袋に入れていた。
冒険者達はウサギを見つけたら、とにかく殺して、それから爪を確認しているらしい。
間合いが数メートルは有るらしく、迂闊に近づけない為、普通のウサギとの識別が困難だからだ。
こうしている間にも、生態系を狂わせるほどの数のウサギが、殺されているのかと思うと気が気ではない。
だが、そう簡単に見つかるものならば、既に見つかっていただろう。
結局、その日は見つからなかった。
途中、例の龍を見た。二人ともポカーンと通り過ぎるまで見ていた。
上を向いたせいで無意識に口が開き、ルジェルはかなり間抜け面だった。(僕も気を付けよう)
「明日は、おじさんに聞いてみよう。」(おじさんも分らないから聞きに来てたでしょ。と思わず突っ込みそうになった。)
ルジェルとは、明日早くから探す約束をして別れた。