2.ギルドと学校と
2話目です。
ルジェルは、 学校から冒険者登録の許可が出たと、報告に行ってしまった。
気の早い奴と思ったが、どうやらギルド会館の食堂でバイトをしているので、ついでらしい。
年頃の男の子にとって、冒険者と言うのは、心ときめく職業の一つだ。
自分の力だけを頼りに、伸し上がる。
騎士となり爵位を賜ることも、夢ではない。
現実と、かなりギャップがある事を、理解はしているが、興味が無いと言えば嘘になる。
そこで、学校から道場へ帰る途中、少し寄り道をして、冒険者ギルドへ様子を見に行くことにした。
森が近くにあり、木材が豊富に調達できるカルネ町を含むこの地域一帯は、2×4建築が主流だ。
ギルド会館も巨大な木造の洋館で、左側に四メートルはありそうな鉛筆(?)のようなオブジェがある。(どこのギルド会館にも、このオブジェはあるらしい。)
ルジェルは配膳係のようで、僕を見かけると、こちらに駆け寄ってきて、
「今日はありがとう。おかけで採集限定だけど、許可が出たよ」と嬉しそうだった。
その後、常連の冒険者と、細やかなお祝いが始まった。
ルジェル自身は、未だバイト中で、代わりに、何故か僕がお祝い席に座らされている。
『コンビで勝ち取った冒険者登録の許可』と言う事らしい。
お酒を飲むネタが有れば、何でもよかった様に思うが気にしないでおく。
模擬戦の内容を肴に、酔っ払いが増えている。
因みに主役は未だ配膳係だ。
他の高級な食堂のシステムは分らないが、一般的な大衆食堂はC.O.D.が主流だ。
つまり配膳と支払いが同時だ。
客はテーブルの隅にお金を置く。
配膳係は、食べ物や飲み物を置くと同時に、お金を回収する。
お釣り等もその場で計算され、テーブルの隅に置かれる。
無銭飲食を防ぐことになるし、客は、その日の支払いの上限を、決めることが出来る。
(今日はこれ以上飲まない)・・・って分けだ。
ルジェルは、もの凄い速さで、お釣りを暗算で計算し、仕事をこなしている。
多分この計算力を買われ雇われているのだろう。
見た目の印象だと、指で数えられる十までしか、計算できないように見えるが、・・・意外だ。
配膳もひと段落したようで、ルジェルもテーブルに着く。
常連の冒険者たちは、だいぶ出来上って来たみたいで、聞いてもいないのに『冒険者とは』とアドバイスを始めた。
面倒臭そうだし道場での修業を理由に帰る事にする。ルジェルも帰るみたいだ。
常連さんはこれから、主役無しのお祝いで、延々飲むのだろう。
ルジェルとはギルド会館を出たところで分れた。彼は学校の寮に住んでいるらしい。
「 学校に寮ってあった?」
「生徒のは無いけど、宿直用の建物が有る。錬金のランベルト先生もそこに住んでる。」
「ルジェル君ってランベルト先生の親戚?」
「そうじゃないけど、錬金の授業取っているから色々教わってる。」
「じゃあ、また 学校で。」
『 学校に住んでいるから、計算が得意なのだろうか』等と考えつつ、道場への道を急いだ。
ギルド会館で思った以上に時間を使ってしまった。
練習代わりに走ろーっと。
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朝、目が覚めて水汲み、巻き割り、道場の掃除をし、朝練をし、コレージュに行く。
コレージュから帰り本格練習をし、就寝。
これが、僕の大まかな一日だ。
ギルド会館へ寄った次の日、いつものように朝の日課をこなし、朝食を食べに、食事場へ移動したところ、先客がいた。
ルジェルである。
道場のおかみさんと、話しをしながら、朝ご飯を食べている。
無邪気な笑顔で、おかわりまでしている。
こいつに、『おばさまキラー』の才能があったとは・・・
「ルジェちゃんえらいわねぇ~。 あ。グレンさん。お上がりなさい」
「はい、頂きます」
全粒粉のパンと、干し肉を湯戻しした物と、その戻し汁のスープと、酸味の強いドレッシングのかかったサラダ、いつもの朝ご飯だ。
「ルジェル。パン、幾つおかわりした?」
「パン二個。肉三枚。」
「少しは遠慮した方が、次来た時、嫌な顔されないですむよ。」
「ん~、気をつける。」
「あらあら、イイのよ。子供は遠慮なんかしたらダメ。それにお土産も頂いたし。」
よく見ると、今日はゆで卵がついている。
「ドンタオ鶏の卵よ。ルジェちゃんが持って来てくれたの」
「差し入れ~」
手土産持参とは、意外と気が利く。
「卵なんか、よく手に入ったなあ」
「バイトのおまけ」
「鶏舎か?北?南?」
「北。ブラン鶏舎。でもこれで最後」
「辞めるの?」
「お給料普通になる」
僕は道場の手伝い以外に、仕事らしい仕事をしていなかったので、知らなかったが、コレージュからの紹介と、ギルドからの紹介では、値段が違うらしい。
コレージュからのは、所謂現場研修で、能力が無くても働ける。
仕事のノウハウを、覚えることが出来る分、給料は安い。
半値ぐらいだ。
ギルドの紹介は、本当の仕事であり、成果が問われる。
鶏と卵の数を把握し、帳簿につけ管理する仕事は、ルジェルの最も得意とするところらしい。
ホント、大雑把そうに見えて意外だ。
養鶏場側にすると、普通に働ける者に、コレージュ紹介の縛りで半額しか払えない。
一見、養鶏場側が得をするように思われるが、数字に強い人間は貴重だ。
養鶏の仕事のノウハウを覚えて、直ぐに辞められると困る分けだ。
それで、足らず分を、鶏肉や卵で現物支給する。
ルジェルは、この度、ギルド紹介に切り替えるらしい。
「その為のギルド登録か。」(しっかりしている。)
「それもあるけど、薬草、時間も無いし。」
「朝は養鶏場、昼間はコレージュ、夜はギルドじゃあ、確かに時間が無い。」
「養鶏場は週2日、後2日は牧場と雑貨屋。これからは週1日ずつ。で、外に行く。」
薬を作る練習用の素材となる薬草を、自分で取って来るためらしい。
たしかに、素材の採集を、ギルドに依頼していたのでは、お金がいくらあっても足りない。
「で、ルジェルは将来何になりたい?」
「牧場主か獣医。」
「じゃあ、調剤は?」
「ランベルト先生が、絶対覚えとけって。調剤面白いし。」
「グレンは、何になる?」
「僕は騎士。ダメならラトゥール辺りで道場主。」
「どっちも冒険者じゃないね。」
「あんなヤクザな稼業・・・外は危ないし。安定が一番。」
「さっさとこれ食べて、コレージュ行きますか。」
コレージュに通いながら、道場に来ている者も何人かいるが、住み込みは僕一人だ。
道場に来ている若者の目的はただ一つ、仕官だ。
武術を身に付け、大手の道場の免許皆伝を貰い、騎士として仕官する。
貴族で無い者の正規ルートだ。
『冒険者になってC級ランク以上になり名を上げ、王族、諸侯に召抱えられる』などあり得ない。
父と叔父も冒険者ルートで夢を見、夢破れたらしい。
僕が『冒険者になる』って言ったら、反対派はされないが、いい顔もしないだろう。
コレージュでは本草学、アルディーヌ上王国史とマルーヌ王国史、メジエール上級作法を習っている。
アルディーヌ上王国のそこそこ大きな町なら、どこでもコレージュ(有料)はある。
しかし、マルーヌ王国の北東にあるラトゥール地方のコレージュは、少し他とは違う。
様々な商工ギルドからの寄付によって運営され、授業料は只である。
元々アルディーヌ一帯に住んでいたイヴァール人は、三百年まえの戦争でブランシュ人に敗北した。
最後まで抵抗したのが、ラトゥール地方で、迷宮の一階層に立てこもり抵抗を続けた。
迷宮に攻め込む事の損害を考えたブランシュ人は、イヴァール人による自治を、ある程度認めることにした。
トップにブランシュ人の領主貴族、行政官を置き、税を徴収する。
それ以外の事は、イヴァール人に任せたのだ。
貧しく細々と暮らすのなら問題はないが、上を目指した時、ブランシュ人とイヴァール人には格差があり、能力を磨く必要があった。
イヴァール人の未来を憂いた有志(特に商人)による寄付で、コレージュの運営費を賄い、十三歳から一五歳なら誰でも、只で授業を受けることが出来き、最低限の読み書き計算が出来るようにした。
それ以上を望む者には、半ボランティアで専門家が教える。
専門は多岐にわたる為、講師を置かずしかるべき所への紹介状を書く。
牧畜なら牧場へ、薬師なら薬屋へ、武道なら道場へ、現地へ行って見習いとして学んでいく。
実際は、みんな貧しいので、家の仕事手伝いの合間に、ちょこっとやって来て授業を受け、三年間で、何とか読み書きを覚える。
道場に住み込み、コレージュに通える僕はかなり恵まれている。
と言っても、仕送り等がある訳ではない。
父と伯父の知り合いである道場主の厚意で、朝の水汲み、巻き割り、道場の雑用をする代わりに、住ませてもらっている。
もちろん修業も出来る。
因みに、故郷のミロン村にはコレージュは無い。
読み書きは、ミロンにいる時に、伯父から学んでいるので、カルネでは騎士になる為に必要なものを学んでいる。
説明ポイです。