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チェンジリング  作者: 香美味
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1.出会い

お初です。

『ズン~』

 この振動をどう表現すればいいのだろう。 新幹線がトンネルに入った時、車内の気圧が変わる瞬間、そこから音を取り除いた感じ。


 僕は空を見上げる。

「ブラック・グリーン」限り無く黒に近い緑の龍。

 遥か遠くの空に浮かぶ其れは、親指の爪程の大きさで、コロナをまとってっている。

 


 十分程後、西の地平線に消えた龍は、太陽や月が消える瞬間まで、大きさが変わらないのと同じように、そのままの大きさだった。(超自然的な存在で有る事を誇示かのように)

 僕は、龍が消えた後も、遥か西の彼方を見つめ、この世界が剣と魔法の世界である事を、強く感じていた。



 迷宮都市ラトゥールの衛星都市カルネ町よりさらに東へ三日、ルクルーゼ連山に向かう山道に入って半日、山間の少し開けた処にミロン村はある。


 ラトゥールの周辺では、十三才から十五才までの間、全ての民に学ぶ機会が与えられる。

学ぶといっても読み、書き、計算程度だ。

 それ以外の専門的な事も学ぶことが出来るが、金と暇の問題で、無理な者が多い。

学校(コレージュ)に行く暇があったら働け』である。


 僕の故郷であるミロンは田舎過ぎて、専門的な事が学べない。

 十三才までに伯父(母の兄)から読み書きと剣術は学んだ。

 ミロンでは子供たちに叔父が読み、書き、計算をボランティアで教えている。いわゆる寺子屋だ。

 そして、十三才から叔父の伝手で、カルネにある道場に住み込み、 学校(コレージュ)に通っている。


 カルネに来てからの二年間は穏やかに過ぎた。道場のおかみさんは優しい人で、実の子供の様に可愛がってくれた。

 何より、剣術の相手が伯父しかいなかったミロンに比べ、同年代の者と切磋琢磨出来るのは刺激的だった。

 自分に剣術の才能が有るのかは分らないが、小さいころから習っているアドバンテージは確かに有った。

 振り返るに、剣と学問漬のそこそこ充実した二年間だった。


 ミロンを出る時の母との約束で、年に一度、ミロンに帰ることにしている。

 昨年は、終業式が終わると同時にミロンへ帰った。

 カルネと違い、山間部にあるミロンは雪が降ると、身動きが取れなくなる。

 つまり、カルネに戻るには、雪解け迄待つことになる。

 とうぜん、始業式には間に合わないが、こればかりは仕方がない。


 因みに、一年は冬至から始まる。冬至の十日前が終業式で、冬至の十日後が始業式だ。

 その間の二十日間が冬休みで、夏と春の休みは無い。



 今年の雪解けは、例年に比べ約十日ほど遅かった。

 僕は逸る気持ちを抑えながら、行商の一団に混ぜてもらい、カルネへと向かった。

 龍を見たのは、カルネまであと半日の頃だった。


 カルネへ早く帰りたかったのには分けがある。模擬戦だ。


 最終学年時、必須で戦闘訓練があり、年に五回模擬戦講習がある。

 模擬戦講習は二人ひと組の五組対五組での戦いとなる。


 武道、魔術等の経験者と非経験者では、力の差が大き過ぎる為、勝ち負けに拘る物ではない。

 あくまで講習だ。

 しかし、戦う以上は勝ちたいと思うのが人情だ。

 早くから、二人一組の相手を決め、コンビプレーの練習をしている者もいる。


 僕の場合、帰省していたので、コンビを決めることが出来ていない。 

  (決して寂しいぼっち野郎ではない・・・・・多分)


 「君も相方が、決まってないのだね。今回はこの子と組んでやってくれ。」

 そう言って、担当の先生に紹介されたのは、とても十五才には見えない小さな男の子だった。


「ルジェルクレイム君だ。急造コンビで申し訳ないが、仲良くやってくれ。」


「僕、ルジェル、十三才、二年早いけど、模擬戦講習受けることになっちゃった。よろしくー」


「グレンクリューグ。グレンでいいよ。剣士。よろしく」と笑顔で答える。

  

 

 因みに、僕は、盾と剣のオーソドックスな剣士スタイルだ。

 町の道場に通っているため、一体一で同年代に遅れを取ることはまずない。


 相方の ちびっ子(ルジェル)は、弓矢を手に、腰には左側に短剣2本、足元に棒。

 (・・・何やら賑やかである。)


「百発百中の弓で敵を削るから、任せて下さい。・・・・・そちらは、ガンとやって、ブンってやって、スパって感じでお願いします。」(・・・・感覚派みたいだ)



 だが模擬戦で使われる武器は、布をグルグル巻にしてあり、怪我をしないように出来ている。

 特に弓矢は最悪で、弦のハリは弱く、矢の先には布の巻き過ぎで、空気抵抗が半端ない。

 しかも材質が軽い。

 つまり、矢のスピードが遅く、そこそこやれる者ならかわせる。

 この模擬戦において、弓矢は圧倒的に不利である。(最悪、一人で戦う事になるかも。)


 などと考えていると模擬戦が始まった。

 

 案の定、弓矢はダメみたいだ。山なりに飛んで行き、簡単に避けられてしまう。

 ルジェルは弓矢を諦めたようで、サッサと棒に持ち替えた。


 で!・・僕の後ろに隠れる。(体格的にそうなるか)

 

 一人で二人受けか。・・・・・・・(問題ない、想定内)


 向かって来る二人が未経験者で助かった。

 授業でかじった程度では、本格的に道場で習っている僕の敵ではない。

 (右から来る奴の剣を掻い潜り、一気に間合いを詰め横胴を払う、そのまま体当たりをし、弾き飛ばした後、振り向きざま左側の奴の剣を盾ではじき、右下から左上へ斬り上げる。)


 勝つイメージは出来た。この程度の相手なら、それで決まるだろう。

 だが、それでは、模擬戦の趣旨に反する。

 未経験者の為の模擬戦であり、危険を伴う町の外に出た時に、簡単に死なない為の訓練である。

 強い者が、その強さをひけらかす場では無いのだ。


 とりあえず、剣と楯で威嚇することにする。


 しばらく、相手の攻撃を受け、そろそろ反撃をしようかと思った時、右側の敵に対しルジェルが斬り込む。

 僕の体と盾が丁度死角になっていたようで、全く対応できていない。

 彼は胴を払いながらそのまま走り抜けた。


 審判の先生も有効打と判別してくれたようだ。

 あと一人。


 残った敵は、見方があっさりやられたことで、動揺しているようだ。

 二対一で戦う予定が、逆に一対二にされたのだから、無理もない。


 盾で強引に相手の剣を跳ね上げ、空いた脇腹に剣を入れる。

 これも有効打となり、一組突破だ。


 隣の組に加勢に行くことにする。


 ルジェルは、また弓矢に戻ったようだ。

 山なり具合をうまく計算している。(当たらないが。)


 今度は短剣二本で二刀流に構え、敵に突っ込んで行く。(うまく味方の死角に入っている。)


 だが、コンビプレーなど出来る訳も無く、飛び出した時に、隣の組の味方とぶつかってしまった。

 丁度、押された形になり、前まわりに転び、敵の目の前で座り込んだ形となり、斬られてしまった。  


 僕の組も一ポイント取られた事になってしまった。

 仕方なくやられないことに重きを置いて戦うことにする。

 相手は道場仲間で、二対三の状況をうまく立ち回っている。


 そして、決め手の無いまま時間切れとなった。


「ルジェル君お疲れ。」

「お疲れ様で~す。」

「最後は残念だったけど、凄いね。弓矢も本物だったら結構うまくいったと思うよ」

「そうでしょ、そうでしょ。先生も認めてくれるかなあ。」

「・・・?」(認める?)


「先生、これでいいでしょう」と言いながら先生の方へ行ってしまった。



「グレンお疲れ。」(道場仲間のユルンだ。)

「お疲れ様。どうだった。」

「剣術の経験者と未経験者で差が激しくてやり難いなあ。」

「ペアー女の子と組んでたのか?」

「先生から調整が入って『バランスとるため』って急きょ変更。」

「女性を守る為に戦う。騎士の鏡ジャン。」

「騎士の鏡じゃポイントは取れない。チビでもいい。男がよかった。」

「それ言うの、やめた方がいいぞ。」


 道場仲間と馬鹿話をしていると、先生が手招きをしていた。

「今日、一緒に戦ったルジェル君、君の眼から見てどうだった、

 村の外は、だいじょうぶだろうか?」


 先生の側には、訴えるような眼でこちらを見る、ルジェルがいる。

「弓矢の腕もまあまあだし、村から余り離れなければ問題ないと思います。」


 先生は、しばらく考えた後、

「草木や鉱物の採集の依頼なら認めます。

 冒険者ギルドには此方から伝えておきますから、

 くれぐれも無茶をしないように」と諦めまじりに言った。


「じゃあ、これからギルドに行って来ま~す」とルジェルは駆け足で去って行った。


誤字脱字等ありましたらご指摘お願い致します。

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