回想一
――痛い。
家も人も動物も大地も空も何もかもが焼け焦げた廃墟の中で、少女が呟くのはそんな言葉だった。
全身には二十を超える刀剣が突き刺さっており、首は矢に貫かれている。頭部は右半分がごっそりと削られており、右腕は肘から先がない。
全身を包むのはマグマのように熱い激痛だけで、それ以外の何を感じることも出来ない。
だけど。
いちばん痛いのは、心だった。
生まれて初めて人を殺した。何百年間、ずっと殺人だけはしまいと固く誓った信念を、今日、破った。
強大な敵だった。手加減して勝てる相手ではなかった。それも、一人だけじゃない。十人以上もの強者たちが、一人の女の子を殺すために徒党を組んで襲ってきた。
生きるためには全員殺すしかなかった。首を切って、胸を穿って、身体を消し飛ばして――そうやって全員殺した。
容赦も情けも尊厳も何一つ存在しない戦いだった。
だって、敗北した者は道を閉ざされてしまうのだから。
だって、死んでしまったら永遠に辛いままなのだから。
これでまたひとつ、人生に苦しみが増えてしまった。悠久の生の先には極大の不幸しかないと分かっていた。だから、あそこで殺されるのが彼女にとっての最善だった。何も胸を痛め、心まで擦り減らして人を殺すことはなかったはずだ。
だけど、殺してしまった。それが何故なのか、自らの心に問いかけ、答えが形になろうとする直前、少女はその思考を振り払うように顔を上へ向けた。
「――ああ」
一面が炭と化した廃墟の中、まだ明けることが約束されていた月夜を見上げて少女は悟る。
「私はこれから、ずっと、ずっと殺し続けるんだ。そして、それを償うためだけに生きなければならない……。もう千年。あるいは二千年……私は永劫に罪人で赦されることはない。贖罪のためだけに生きて――殺すのだろうな」
淡く妖しく光る満月は、この人生の先で笑いながら少女を待つ残酷な運命のようにも見えた。
そして、事実。
その先の人生は、少女の言う通りになった。
ただ、道の途中。
一度として「■■■■」とだけは言わなかった。




