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Starry Pandemonium  作者: 焼肉の歯車
第二編 虚構騒乱
19/21

第一章 歩き出したその後 1.日常と不穏

 ゆらゆらと揺れる頼りないランプの光。黄昏にも似た妖しいそれを光源としたレンガ造りの空間に、クツクツと嘲笑う男があった。

 広大な空間の中心に一人、椅子に縛られた男が笑う姿はあまりにも不気味である。


 およそ半径四十メートルはあろうかという広大な円形の空間。天井は闇に包まれ見えない。それが、光が届かぬほど遠くにあるのか、あるいは頭上に存在する暗黒が宇宙へと直接繋がっているのか――その真実を知る者はいない。

 男の前には檀が存在し、そこに七人の人間が座っている。

 ここは異端者に審問と断罪を下す『裁壇』と呼ばれる総聖堂の施設の一つだった。

 即ち、男は囚われ、詰問されている。

四肢を縛られ視界を覆われ、括りつけられた椅子に取り付けられた採血器から、常時力の源たる血液を奪われ続けておきながら、しかし男は笑みを抑えない。


「ハハ。三百年逃げおおせ続けたが、それも終わり。私の命運も尽きたか」


 開いた口の奥に覗く禍々しい犬歯が、彼が吸血鬼であることを示している。

 藍色の髪に整った顔立ち。吸血鬼という種特有の美しい容姿を持つ彼だが――しかし、それら全てが、彼の真実を隠すカモフラージュに過ぎない。

太陽(ひかり)の導き手』ヴィロス・アスカスィバル――吸血鬼という種族にありながら、世界を照らす太陽を信奉する狂信者。己が身を焼く神性と光の塊たる恒星を(たっと)ぶ異端なる吸血鬼。

 しかし、その仰々しい肩書きも今や、意味無きものと化している。



「余計な口を挟むな。今は(オレ)が質問している」



 軽々しい態度を取る太陽の奴隷に対して、遥か高みに座し、椅子に縛られたヴィロスを見下ろし放たれた声が一つあった。

 炎のように苛烈な印象を見るものに与える、燃え上がるような赤色の髪。漆黒の軍服と、背に掛けられた外套が、彼の威容をより巨大なものとしていた。軍服の襟から覗く首元には痛々しい傷の痕が残っていた。首元を占めるネクタイは赤。腰に差した軍刀もまた、鞘から抜けば炎のように赤い刀身が晒される。


太陽(ひかり)の奴隷、貴様をすぐさま処刑しなかった理由は、その口から戯言を引き出すためではない。その程度のことも分からんほど愚かでもなかろう」

「ク、クク……これは厳しいな。総聖堂『総裁』ルスジャーマ・エストレラ殿」


 ルスジャーマ・エストレラ。

赫炎(かくえん)』の異名を持つ隻腕の戦士。

 総裁として総聖堂の頂点に立ち、同時に〝十一尖兵〟の長をも務める、この『永遠の夜』における人類最強の男である。

失った左腕はかつての戦いの敗北の名残りであり、その相手が誰だったのかは未だ謎のまま。憶測ではシンソの誰かというのが主流だが、当人は黙して語らない。


「ああ、すまなかった。こう見えて私は口が多いのでな。目の前にいるのが『赫炎』ともあれば、体が疼いて仕方がない」

(オレ)は貴様に何ら魅かれんがな」


 すげない隻腕の戦士の言葉にも、ヴィロスは薄笑いで返すのみ。


「して、聞きたいこととは何かね。三百年程度しか生きていない私よりも、千年以上を生きる君の方が博識であると思うのだが」

「余計な問答をするつもりはない。端的に聞く。他の『奴隷』共はどこだ」

「……その程度のことを聞くために私を呼んだのか?」


 訝しげに言葉を返すヴィロスに、しかしエストレラは否と告げる。


(オレ)が聞きたいのは、木っ端共の行方なんぞではない。『系惑星プラネータ・パリエンテス』がどこにいるか、を聞いている」


 系惑星プラネータ・パリエンテス――聞き慣れぬ言葉に、しかしヴィロスはほんの一瞬目を丸くすると、


「く、クク……」

「…………」

「クは、ははははははははははははははは! はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」


 一転、弾けるような笑い声を上げた。愉快で仕方がない様子で、男は堪えきれない様子で笑い続けた。


「なるほど、なるほど! そうか、そうかそうかそうか! 動くのか、そうなのか!」


 要領を得ない言葉を叫び続けるヴィロスに、しかしエストレラは先と変わって、今度は何も言わない。


「二百年越しの君たちの夢が、とうとう動くと? しかし何故だ? なぜ今なのだ? チャンスはいくらでもあった。機会は腐るほど存在した。今でなくとも良かったはずだ。過去未来においてその機会は本当に無数に存在したはず。そもそも、君たちが何もしてこなかったからこそ、私がこうして動いたのだ! ならば、そうだ……理由がある。今でなければらない理由が!」


 相も変わらず彼の語る言葉には具体的なものが込められていない。しかし、当人と、もう一人――ルスジャーマ・エストレラだけは、その意味を余すことなく理解している。


「彼だな。彼と彼女だ」

「それで」


 ヴィロスが核心を突いてようやく、エストレラは言葉を挟んだ。


「知っているのか、奴らの居場所を」

「ああ、彼らの居場所か。残念ながら知らんな。私はあくまでも野良であり、君が木っ端と断じた弱き者どもと何ら変わりない、ただのしがない奴隷でしかない」

「そうか。ならば、奴の居場所も知らんのだな」

「知らないとも。噂には聞くが――『神祖』の在り処も、その配下の行方も、私は聞いたこともない」

「そうか。ならば話はここまでだ。――皆、奴を地下牢に入れておけ」


 話が切り上げられ、エストレラが席を立つ。

 ヴィロスもまた、エストレラの左右に座っていた六人の立会人に連れられ、その場を後にする。『裁壇』を照らしていた黄昏色のランプも消える。



『裁壇』には、ただ闇だけが残っていた。


☆ ☆ ☆


 その映像はまるで、ビデオを再生しているかのようだった。

 金髪の少女が泣きながら誰かに「行かないで」と懇願している。「それは私の仕事だから」「■■■■が背負う必要はない」「だから、私のことなんか忘れるんだ」――古びた、家と呼ぶことすら憚られるようなボロボロの小屋の中で、少女は強い口調でそう言った。

 それに対して、少年はこう返す。


『――これから■■■は色んなものを背負うんだから、今この瞬間くらいは、俺が引き受ける。大丈夫、死なないから』


 そんな言葉を信じられるわけもなかった。

 だから少女はこう言った。


『だったら。これを持っていけ』


 少年は笑って差し出された二つを口にした。

 映像は、そこで終わる。


☆ ☆ ☆


 土曜日の朝というのは基本的に十二時以降に起きるのが、風鳴修人という少年の生活スタイルである。金曜日の夜にバイトを終え、帰宅して夕食というには遅すぎる食事をとった後、風呂に入って就寝。その時点で三時は回っている上に、一週間の疲れとその日のバイトが重なることにより、九時間の睡眠を必要とするのだ。

 よって今日この日も修人は、正午きっかりに目を覚ました。


「ああ~……よく寝た……けど、寒い……」


 暖房はタイマーにしているため当然部屋はキンキンに冷えており、目を覚ましたところで布団から出ようとは思わない。

 が、さすがにこれ以上寝るのは人としてどうかとも思うため、意を決して布団を剥いだ。

 すると、全身を冷えた空気が包み込む。

 ただし、腹の辺りだけはずっと暖かいままだった。不思議に思い視線を下げてみると、


「んむぅ……おい、しゅうとぉ……ふとん、とるな……」


 金髪の可愛らしい少女が修人の腹に抱き着いて、寝ぼけたように目を薄っすらと開けて文句を垂れていた。

 クリスティア・アイアンメイデン。『シンソ』と呼ばれる最強の四柱の吸血鬼の内、真祖の称号を持つ少女であり、同時に風鳴修人という吸血鬼の主にもあたる。

 身長145cmにも満たない小さな少女は、今はクマの着ぐるみのようなパジャマに身を包んでいる。冷えた身体を温めるために一層強く修人の腹を抱きかかえるが、


「いや、もう起きるぞ。さすがにこれ以上寝ると廃人まっしぐらだ」

「……吸血〝鬼〟なのに廃〝人〟って……ウケる……」

「ウケるな。普通なら大問題だからな。鬱になってもおかしくないんだぞ」


 なおも起きようとしないクリスを引き剥がし、修人は立ち上がった。近くに置いてあったリモコンを操作して暖房を付けると、台所へと向かう。

 どうやらワガママを聞いてもらえないらしいことを察したクリスもまた、諦めて起きることにした。ぐぐぐ……っと伸びをすると、ひとつ疲れたように息を吐いて修人に付いて行った。


「ほら、早く昼飯作れ」

「今から作るから待てって」


 修人の隣にぴったりとくっついてちょっかいを掛けるクリス。修人はそれを軽くあしらいながら着々と料理を進めていく。


「えい」

「つつくな」


 つんつんとクリスが修人の頬を指でつつくと、お返しとばかりに修人がクリスの額に出来ピンを見舞った。


「いたっ」

「クリスが先にやった」

「大切な主に何をする」

「クリスこそ可愛い眷属に何するんだよ」

「かわいい~? こんな生意気なガキが?」


 馬鹿なやり取りをしながらも、着々と昼食の準備を進める修人。

 クリスはやがて修人にちょっかいを掛けるのに飽きたのか、リビングへ戻って二人で寝ていた布団をたたみ、クローゼットへ仕舞う。

 それが終わるとソファに座り、テレビを見始めた。


「おいしゅうと、いつできる」

「あ、ごめん。クリスもいる? 自分の分しか作ってなかったわ」

「はァ!?」

「うそ」

「くだらん嘘つくな!」


 一つの大きな出会いと戦いを経て、一ヶ月。

 二人の日常は、優しく暖かなものとして流れ続けている。


☆ ☆ ☆


 昼食を終えた二人は、冬とはいえよく晴れた日に家でゴロゴロするのももったいないという理由で、服をしっかりと着込んで外へ出掛けた。最寄りの駅まで並んで歩く。

 季節はまだまだ冬の只中だ。疑似日光を放つランプに金髪を照らされながら、クリスは機嫌のいい様子で修人に話しかけた。


「なあしゅうと、今日はどこへ行くんだ?」

「実は何も考えてないんだよな。どうする? 少し遠くに遊園地とかあるけど」

「それはもっと、準備を整えて行くべきだろ。今日は適当に私の服でも買いに行くぞ」

「俺の金で買うのに何でそんなに偉そうなんだよ」

「主だからな」

「そればっかりだよな、クリスって」


 空を見上げても、そこに青空はない。ただ黒い夜空がずっと広がっているだけ。街を照らす疑似日光ランプがなければ、今頃世界はずっと暗いままだっただろう。

 とはいえ実際世界は辛うじて、偽物とはいえ光に照らされて存在している。どうやらうっすらと熱も発しているようで、ランプは地域・季節に応じてその性能を変えている。


「というか、本当に寒いな……千年以上生きて来て本当にいつも思うんだが、冬と夏はカスだな」

「千回も夏と冬を経験している奴から聞くと、説得力も桁違いだな」

「二つくらい桁が違うぞ。あとババア扱いするな、殺すぞ」


 脛を蹴られた。痛い。

 下らない話をしながら歩いていると、最寄りの駅に着いた。二人で切符を買い、改札を通る。……ちなみに、初めてクリスと電車に乗った時は、クリスが切符の買い方が分からずに困惑するということもあったのだが、今ではICカードすら使いこなしている。ちなみにこの駅は、各駅停車しか止まらないのだが、クリスは既に急行や特急という概念まで理解している。それを褒めようと頭を撫でると、子ども扱いするなと腹を殴られたことについては、修人は全く納得がいっていなかった。

 電車が来る時間まで、まだ十分ほど残っていた。

 二人してホームで突っ立って電車を待っていると、ヒュウ、とひとつ風が吹いた。修人とクリスの間を抜けるように吹いた風に、クリスの背筋がぶるりと震える。


「ふぅう……さむいな……っ。しゅうと、寒い……特に手とか」

「確かに……手袋忘れちゃったな」


 そう言って、修人は手をこすり合わせてからダウンのポケットに突っ込んだ。


「いや、そうじゃねえよ」

「ん?」

「『ん?』じゃねえんだよ」


 額に青筋を浮かべ、苛立った様子で修人のすねを蹴ると、さらに同じ言葉を繰り返した。


「手が冷たくて仕方ないと言っている、しゅうと」

「そうだな……?」


 クリスがしきりにアピールしても、修人はクリスのして欲しいことを全く理解していなかった。その後も何度も何度も「手が冷たい」と言っても、「ポケットに手を入れれば良いじゃん」としか返してこなかった。

 さすがに殺意の湧いてきたクリスは、帰宅後に修人をボコボコにすることを決意し、恥ずかしさで死にそうになるのを我慢して口を開いた。


「だから、その……っ」


 言おうとした瞬間、動悸が激しくなり、言葉がのどに詰まって出てこなくなった。

 雪のように美しい白い顔が、今は熟れたトマトのように赤く染まっている。

 それでも、言った。


「その、だからな……えっと、手を、その、つな、げ……。……おね、がい……っっ」


 すっ、と。ぶっきらぼうに手を差し出したクリスに対して、修人が驚いたような表情を見せる。その顔にまたもクリスの苛立ちが増すが、


「はいよ」


 優しげに笑い、絡められた少年の手のぬくもりを感じて、少女の口角は自然と上がっていた。


☆ ☆ ☆


 その二人を優しく見守る影が、駅近くのビルの天井にあった。

 深紅の髪に女ウケの良さそうな美形の顔の少年だ。白い祭服を纏いその上から赤い外套を羽織っている。腰には黒い革のベルトが巻かれ、外套を軽く締めており、カラーリングの対比によって良いアクセントになっていた。そうした派手な色遣いやダボダボのパンツも相まって、聖職者のようには見えない装いだが、こう見えて彼は『総聖堂』と呼ばれる前旧教の総本山に務めている。総聖堂〝十一尖兵〟序列第五位『聖槍の尖兵(ロンギヌス)』オルガ=ディソルバートである。


 一か月前の戦いによって風鳴修人に敗北したオルガは、彼と共にクリスを守る道を選んだ。だが、彼は修人と馴れ合うつもりは全くなかった。

 クリスティア・アイアンメイデンにとって、風鳴修人という少年と共にいる時間は何よりも大切なものだ。彼女にとって、彼と過ごす時間は至高であり至福。ならば、その時間を少しでも増やすのが彼のやるべきこと。

 だから、本当はこんな風に二人の様子を覗き見ることすら、あまりしたくはなかった。あの二人の時間は、あの二人だけのもので、それを覗き見る存在があってはならない。


 それはクリスのためであると同時に、修人のためでもある。

 修人にはクリスを幸せに――否、クリスと共に幸せになってもらわねばならない。彼は、オルガが迷い込んだ袋小路を叩き壊し、新たな道を示したくれた男名だから。――もっとも、そんなことは口が裂けようとも言わないが。


 とはいえ、もう彼は間違えない。いつか二人が真の危険に晒された時は、全てを投げ打って駆け付けることを胸に誓っている。

 やがて電車がやって来ると、二人は手を繋いだまま乗り込んだ。それを見届けたオルガは最後にひとつ柔らかく笑うと、すぐさま表情を敵意で染め、振り返ることなく背後へ言葉を投げた。


「それで、この街に何の用だ」

「失恋して丸くなったかと思えば……相変わらず刺々しいままじゃねェか、オルガ」


 カツン、カツン、と。

 ゆっくりと革靴の底を叩く音が響く。オルガは鋭い視線を背後に向けると、彼の言葉は無視して冷え切った声音で続けた。


「君が現れるとロクなことにならない。五年前の『大規模討伐』の失敗がそのいい例だ。ここは、君のような場を荒らすことしか出来ないような、『公害』が現れて良い場所じゃない。だから立ち去るんだ。――総聖堂〝十一尖兵〟序列第八位『災害の人魚(ウェパル)』ルークハルト・ウォルコット」

「あァ? 殺されてェのか、テメエ」


 イタリア憲兵『カラビニエリ』の征服を纏った男。腰の辺りまで届く長い髪を、背中で縛っている。190cmもある高い身長と、赤い三白眼によって見る者を委縮させるような相貌の男だった。

 挑発されたことに怒りを示すも、オルガがそれに恐怖を感じている様子はない。依然表情に怒気を滲ませたまま、大男を睨んでいた。

 対してルークハルトは、下らなさそうに視線を外し、面倒だとばかりに息を吐いた。


「まあいい、めんどくせェ。別に今日は暴れようと思ってきたわけじゃねェ。ただの任務だ」

「任務だって?」

「そうだよ。エストレラ閣下直々の命令。それでこの街に少しばかり用があったってわけだ」

「――――」

「いちいち睨んでんじゃねェよ。そのうち殺すぞ。別にテメエのお姫様の臓物を引きずり出せとか、そんな物騒なもんじゃねェ」

「なら何の用だ」

「ガキの方だよ」

「……なに?」

「ま、テメエは知らなくていいことだ。安心して良い。テメエが総聖堂の全てを敵に回すような事態にはならねェとだけ言っておいてやる。だからそのウゼェ目をやめろ」


 理解したオルガは「そうか」とだけ呟くとルークハルトから視線を切った。もっとも、実際の所、オルガはその言葉を一ミリとして信じてはいなかった。

 ルークハルト・ウォルコットはオルガと同じ十一尖兵の一員だが、その性質は限りなく『悪』に近い。

 この男は、嵐だ。

 暴れることしか知らず、触れるもの全てを壊してしまうような化け物。彼が通った後には瓦礫と死ばかりが残り、生み出されるものなど何もない。


「まァ気楽に鑑賞してろ。そう物騒な事態にはならねェ。俺も面倒事嫌いだ。雑魚に構ってるほど暇じゃねェんだよ。分かったらとっとうせろ。目障りだ」

「――っ」


 オルガは何か言いかけるも、それを途中で呑み込んでやめた。


「なら僕は失礼するよ」


 オルガは歩き出し、その場を後にしようとする。

 だが、ルークハルトとすれ違うその瞬間、彼は嘲笑を浮かべてこうささやいた。


「――下らねェ感傷も、ここまで来れば芸術品だな」

「――――」


 指先がピクリと動いたが、オルガは結局、何も告げず、牽制すらせずその場を後にした。




 残った者は、ただ一人。

 黒髪の大男。


「さァて」


 獰猛に牙を剥き出しにして、嵐の悪魔の名を冠する男は嘲笑を浮かべる。


「平和ボケしたガキの相手でもしてやるか」


 一陣、ひと際強い北風が吹き――次の瞬間にはその姿が掻き消えていた。


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