表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪だるま

作者: 谷口かける

前作が200文字ということで、今作は1000文字の作品になります。

次作は5000文字ですね。

それは、ちょうど冬が近づいている頃のことだったと思う。


『お兄ちゃんは何でもできるって、本当?』


病の床に臥した妹は、あどけない表情でぼくにそう尋ねた。優等生だったぼくを褒める周りの大人の言葉を、鵜呑みにしているらしかった。


『本当だよ。雫の夢、何でも叶えてあげる』


笑ってそう言うぼくに、雫はこう言った。


『じゃあ、雪だるまが作りたいな!』


ぼくの住む町は、とても暖かかった。今までに、雪を見たことなんて一度もなかった。


『雪なんてこの辺じゃ中々降らないからなあ』


『・・・できないの?』


雫は、とても悲しそうな顔をした。ダメもとで言った、そんな気配は全くない。ガラス玉のような目は、心から兄を信じていると伝えてきた。


『いや、できるさ。お兄ちゃんに任せな』


妹のためなら何だってやってやれる、そんな気がしていた。


何をできるかを考えて、ぼくは神さまに手紙を書くことにした。きっと届くはずだと思った。






神さまへ


ぼくの妹が、雪だるまを作りたいといっています。


ぼくもまだ子供です。でも、妹はさらにその半分の景色しか見られていないんです。


だから神さま、どうか妹の願いを叶えてください。






結局、ぼくの願いが届くことはなかった。八百万いるというのに、その中で一人だってこの小さな少女の願いを叶えてくれる神はいなかった。


小雨が降る中、雫は息を引き取った。ぼくは、自分があまりにも無力であることを知った。


それから月日はいなくなった少女のことなど気にも留めずに流れ、ぼくは中学生になり、やがて雫の三回忌の日がやってきた。


朝目覚めると、窓が濡れていた。昨日、雨なんて降っていない。ぼくはかじかんだ手に無理やり力を込め、窓を乱暴に開けた。すると、白い絵の具を散らしただけの景色が広がっていた。


この町に雪が降った。ぼくは驚きと共に外に出た。寝間着のまま空を見上げると、顔がまばらに濡れた。


手紙の返事を出すのに一年もかけやがった。舞い散る雪を見て、ぼくはそう呟いた。


ぐしゃぐしゃと、乱暴に庭の雪をかき集めた。数センチの積雪を両手一杯にとり、必死に固めた。


ぼくの力は強くない。なのに、どんどんとそれは形になっていった。


雪は少ししかなかったのに。それも、凄く柔らかいものだったのに。


そう思っている途中で、ぼくは自分の頬が濡れていることに気付いた。


雪のせいなのか、涙のせいなのか。


答えは分からなかったが、その雫が目の前の雪だるまを形作ったことは確かだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 救いがあったところ。主人公にも、その妹にも。主人公が妹の願いを叶えられなかった呪縛から解放され、妹も、死後ではあるけれど願いが叶ったようで。 [気になる点] 神様へどうやって手紙を出したか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ