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大空にはばたいて

作者: 北の大地

 空を飛んでみたいと、そう思ったことはないだろうか。私はある。だから、私は今日も空を飛ぶ夢を見るんだ。


 ホームルームが終わった後の、いつもの放課後。大半の生徒達が部活動に勤しんだり、帰路についたりする時間。私は次々に教室を出て行くクラスメイト達を眺めながら、一人窓際の席で頬杖をついていた。こうしていると、時間がとてもゆっくり流れているように感じられて、なんだか自分が特等席にいるみたいな気分になる。教室の特等席。なんだかとても滑稽な響き。ふと目を落とすと、机の上には子どものいたずらみたいな落書きがある。三年生にもなって、子どもみたいだ。ふっと口元に笑みが浮かぶ。もうどうして、もっと上手に書けなかったんだろうか。


 誰も居なくなった教室で、私は一人、暖かい夕陽に照らされながら席を立つ。さあ、大掃除を始めよう。


 机を下げて、まずは箒から。教室の隅から教壇の下までしっかり掃く。それが終わったら雑巾がけ。昔は白かったであろう雑巾は、二学期の今となってはすっかりねずみ色に薄汚れている。それを濡らして絞って床を拭く。机を動かして、また同じことを繰り返す。

 床が終わったら、今度は窓拭きだ。高いところは窓際の机を借りて背伸びしながら拭けば、なんとかギリギリ届くくらい。自然と、窓の外の運動部の様子が目にはいる。

 それからロッカー、机の上、黒板と順々に拭いていく。黒板の文字も、机の上の落書きも、まるで最初から何もなかったかのように綺麗にしていく。綺麗な、まるで教室の見本のような、綺麗な教室にしてやろう。


 私の掃除は二時間程続いた。椅子の脚の埃とかまでは手が届かなかったけれど、大体満足のいく仕上がりになった。特に私の席。これなら、今すぐにだって来年の三年生に譲ってもいいだろう。


 掃除を終えた私は、非常に充実した心持ちで廊下に出る。教室を出てからも、廊下に塵が落ちていないか目で追ってしまう自分に苦笑する。まるで潔癖な人みたいじゃないか。


 それから廊下を進み、階段を登って屋上へ。ドアを抜けて外に出ると、少し涼しげな秋の風に出迎えられる。ああ、気持ちがいい――私は他に人の居ない屋上を、ここぞとばかりに目を細めて歩きまわる。下からは生徒達の喧騒が、楽しそうにこちらへ響いてくる。


 最期に、屋上の隅っこへ。私はしゃがみ込むと靴と靴下を脱いで裸足になる。そうやって身軽になった足でフェンスをよじ登って、私はフェンスの外側に出た。


 涼風の心地よい、9月の末のことだった。校庭の向こう、美しい街並みを目に焼き付けながら、私は綺麗に空を飛んだ。


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