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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第1部 ミサオ
8/28

噂話

「ねぇねぇミサオ、知ってる?」


「知らない」


「まぁ聞きなって」


お昼休みになり、仲良しグループが机を寄せ合いそれぞれのお弁当を広げる。

私はいつもこの若干やかましいポニテの同級生と一緒に食べている。


「最近、不可解な事件が色んなところで起きてるんだって」


「へぇ」


生返事をしながらお弁当箱を開けると一面の茶色。全部いなり寿司だ。隅に紅生姜はあるが。


「うわぁ、全部いなり寿司じゃん」


「…今日のお弁当係にクレームいれておこう。これが不可解な事件?」


「いやいやミサオの台所事情は知らないよ。…他校の男子生徒がこの辺りで病院送りになった話知ってる?」


学生の間で流れている噂話だ。右腕と左足を骨折したとか何とか。


「知ってるけど、やんちゃな奴がやんちゃしただけでしょ?」


「そう…だと思うじゃん?」


いなり寿司を頬張り、次の展開になるのを待つ。


「私の友達の知り合いの知り合いからの話だと…まぁ他人だけど。

 その男子生徒が病院でこんなこと言ってたんだって」


「……」


いなり寿司を食べているので無言で頷く。


「悪魔にやられた!ってね!」


渾身のどや顔を見せつけられたが、小学生の妄想レベルでかなりひどいオチだ。


「真紀ぃ、本気で信じてるの?」


彼女の名前は井上真紀、勉強のできる馬鹿だ。


「ふふふ、さすがの私もこれが悪魔の仕業なんて思っていないわ」


良かった、まだ常識があった。


「これはずばり…神様の仕業ね!」


なかった。


「…早く食べないとお弁当冷めるよ」


「冷めてるよ!チンしてないし!」


「神様がそんなことするわけないでしょ。それにこの辺は可視化装置とか設置されてないから見えるわけないじゃん」


「例外があるじゃない!ほら、アンタの家にいる…てん、てんぴ」


「テンジツ」


「そう、天日様!あの神様って装置なしで見えるじゃない!」


天日様と真紀は既にくるみで出会っている。くるみで真紀とお茶を飲んでいた時に天日様が来店した時だったかな。あの神様、すっかり常連らしい。天日様が神様だと知った真紀はテンション爆上がりで天日様の写真を撮りまくり、サインまで書いてもらっていた。


「姿を常時見せたり隠したりするのって相当な力が無いとできないらしいよ?

 それとも天日様を疑ってる?」


「いや、あのちんちくりんで温厚そうな感じの神様が男子の腕の骨折るなんて想像できない」


「じゃあ…」


「他に強力な神様がここらにいる、と私はみた」


誰がやったのかと聞く前に遮られ、真紀に結論を言われる。


「最初に言ったけど悪魔にやられたって傷害事件、いろんな場所で起きてるからネットで密かに話題になってるのよ」


「そうなんだ」


「被害者はいわゆる不良ってカテゴリーの人ばかり…何らかの事件の香りがするわ」


不良ばかりが狙われる傷害事件…確かに何かありそうだ。


「まさか、真紀…犯人を探してやろうとか言わないでしょうね」


「いやいや、しないしない。私は身近だけど身近じゃない刺激的な話をしたかっただけ」


「てっきり事件に首を突っ込んで有名になってやるーって言いだすかと思った」


好奇心旺盛な女子高生が夏休みを利用して事件を解決…そんなものは現実ではありえないのだ。


「それに私もミサオも不良じゃないし、むしろ神様が不良を退治してるって考えたら良い事なんじゃない?」


「腕とか足の骨を折ってまで?」


「まぁやりすぎかな…」


不良と言えど骨を折られるほどのことをしている人は少数だろう。

よほど神様の逆鱗に触れるようなことをしたのだろうか?それも複数の不良が?


「そ、れ、よ、り!海いかない?来週の土曜日!」


「自分で話振っておいてそれよりって…いや、別にいいけど。他に誰かいるの?」


「部活の友達。ミサオは特別枠ね」


「光栄でございます。水着、買っとかないとなぁ」


「あ、そうそう。天日様も誘ってみたら?部活のみんなも会ってみたいって言ってたし、

 私も会いたいし」


「来るかなぁ?一応聞いてみるよ」


天日様が海辺にいるイメージがつかないのは狐の神様と海が結びつかないからだろうか。

とりあえず聞くだけ聞いてみよう。




「海か?良いぞ、行こうじゃないか」


家に帰ってすぐに天日様に聞いてみたがあっさり了承を得た。


「天日様、泳げるの?」


「こう見えても泳ぎはそれなりに得意じゃよ」


水中の抵抗が少なさそうな体型だしね。


「ミサオ、お主いま失礼なこと考えとったじゃろ?」


「いえ、そんなことは。滅相もない」


「他には誰がいるんじゃ?」


「真紀とその友達。真紀は前にくるみで会ったポニテの子」


「あー…あやつか…ま、まぁ2回目だしもみくちゃにはされんじゃろ…」


珍しく苦笑する天日様。真紀は苦手なタイプらしい。

そういえば耳をもふもふされまくっていたな。


「あ、そうだ。神様やら悪魔やらが不良を怪我させてる事件が

 起きてるって噂があるんですけど、何か知ってたりします?」


「なんじゃと?」


天日様の目つきが鋭くなる。短い言葉の中に厳しさや怒りを感じる。


「…いや、そんなはずはない。噂話じゃろ?尾ひれでもついてでかくなっただけじゃ」


「うん、まぁそうだよね」


「一応…一応じゃが、調べさせる。…まさか、いや…」


何か思い当たる節があるのか、真剣な表情で考え込んでいる。


「何かまずいことでもあるの?」


「…神様同士の問題じゃよ。ミサオ、この事件にこれ以上深入りしてはならん」


「え?でも噂話じゃ…」


「何かあってからでは遅くなる。良いな?約束じゃぞ?」


「…うん、わかった」


ここまでぴしゃりと止められるのは初めてかもしれない。

他愛もない世間話のつもりだったが、思いのほか深刻な話らしい。

確かに神様と人間が交流を始めたばかりという時に、このような事件が起きれば関係にヒビが入りかねない。

今はまだ噂話だが、それを確かめデマやら誇張だと判断できなければ、いずれ真実にもなりえる。

天日様はそれを恐れているのかもしれない。


「…なに、解決すれば真っ先に教えてやる。

 それより、あれじゃ、スイカが冷えとるから食べるとするかのう」


「スイカ?甘いやつだといいなぁ」


「大丈夫じゃ、たぶん」


この話は忘れてスイカを食べよう。厄介な事件だったら怖いし、

本当に神様だったら私達人間はが対抗できるかどうかも怪しい。

明後日からは夏休みだ。特にこれといった目標があるわけではないが、平和な夏休みにはしたい。




「…天日様、これ、甘くない」


「…塩かけるか?」


天日様の買ってきたスイカは甘くなかった。

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