輪廻転生の話
「タカヒロ…私、もう疲れたわ…あなたとなら…」
「ミチコ…僕も同じさ…生まれ変わっても…君と」
抱き合う男女、悲劇的な音楽と共に2人は崖から海に身を投げる。
当然、ドラマの中での話だ。友達に勧められ最後まで見たが…どこまでも救いの無い話だった。
皆こういうのが好きなのかな。
「なんじゃーこれぇ。海外の科学捜査ドラマにしとけばよかったのう」
天日様すらこの反応。というか海外ドラマ見るんだ。
「ねぇ、天日様。生まれ変わりって本当にあるの?なんか良くあるけど…ほら転生、輪廻転生」
「えー、なんじゃ急に。難しい話するか?というかするぞ?」
不機嫌そうに尻尾…は天日様にはないが、尻尾が無くてもわかりやすい不機嫌な顔をする。
かりんとうを袋から取り出し、ボリボリと食べているが、それすらも不機嫌さが形となって出ている。
「いや、簡単にお願いします。UMAはいるかいないかレベルで良いから」
「ゆーまぁ?あーあれか、ネッシーか。まぁ良いじゃろ」
ネッシーってなんだ。
「ミサオはミサオになる前の記憶はあるか?」
「無いと思うけど」
「ほれ、輪廻転生なんてもん無いじゃろ」
「ええ…夢も希望も無い」
天日様はかりんとうを取り出そうとごそごそしていたが、すでに空っぽで、ため息まじりに袋を畳んだ。
「次があると甘えるから今が見えないんじゃ。しかも、現実は次なんて物はないのじゃから、
今ここで転生を夢見るのは時間の無駄じゃよ」
「…そうかぁ、そうだよね。輪廻転生ってこの時代でも証明されてないもんね」
「じゃから、気安く、軽く、死のうだなどと考えるな…そんな別れは、もう」
少し悲しい目、私の何千年倍も世界を知っているから、それだけ悲しいこともあったのだろう。
軽い気持ちで輪廻転生について聞いてしまったが、悪いことをしてしまった。
「私はお金持ちになるまで…というかなっても死ぬ気無いから!安心して!」
天日様は一瞬きょとんとしたが、すぐにいつもの笑顔に戻ってくれた。
「まぁ!ミサオの心配はしとらんがな!お主みたいな奴は色々と丈夫だからのう!
心臓にも毛が生えておるよ!」
「心臓の毛って脱毛できるのかな?…って、なんだ。メールかな」
机の上で振動するスマホを手に取ると、友人の名前が画面に表示されていた。
「はい?もしもし?え?あー、見たよ。正直に言うと、つまらんな!って感じ。
…だろうな?ってわざわざつまらないのをオススメしたのかアンタ。どんだけ犠牲者増やしたかっ…
え?なに?続編?作者のブログ?あー、うん。わかった。読んでみるよ、ありがとね。
じゃ、また明日」
オススメされた意味がわかってきた。
「こんな時間に電話とは、何を話しておったのじゃ?」
「このドラマ、続きがあるみたいですよ」
私達が見ていたものは原作が小説のドラマだったのだが、
その小説の作者と編集が小説の方向性でえらく揉めたことが作者のブログに書かれていた。
最終的に作者が折れて、今の悲劇的なシナリオになったとのこと。
小説は大ヒットし、このようにドラマ化までされた。
しかし、作者は「私が伝えたかったことはこれではない」とブログに書き残しており、
その月にその出版社を辞め、別の出版社に行ったようだ。
そして、すぐに新作を発表している。
翌日、学校帰りにその本を買ってきて、天日様と一緒に読んでみたが、
冒頭ですぐにドラマの続きだとわかる描写が書かれていることに気付いた。
…で、肝心の内容だけど
「ぶ、くふ!おま、タカヒロお前、あの時あんなこと言っておいて…!」
「あ、天日様、まだ私そこまで読んでないのでちょっと自重してください」
「ふふ、すまん、つい。しかし、あの悲壮感はどこに行ったのじゃろうなぁ」
海に身を投げた男女は、そのまま流され、見知らぬ島に漂着。
そこに住む原住民に最初は襲われるが、なぜか神様として崇められるようになる。
偶然や過去の失敗を生かして問題を解決していく、コメディタッチのお話になっていた。
売れ行きはパッとしていないらしいが、私はあのドラマにはこの続きが必要だと思った。
あれだけ悲惨な目にあった男女が生まれ変わったかのように生き生きとしており、
何より生を楽しんでいるからだ。
本のタイトルは「転生」
死ななくても人は変われる。そんなメッセージをこの本からは感じた。