表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第2部 未来と神様
27/28

人形の話

夏休みまで終了まで残り4日となったが

特に何をするでもなく、家でダラダラとしている。

天日様も両親もお出かけ中で、話相手もいない。


買ってきた本も読み終わり、ペラペラと名場面を追うぐらいしかできない。

昼寝をするには眠気もなく、宿題はすべて完遂。

何をするか…


散歩、そうだ。散歩にしよう。

天日様にもご忠告頂いてるわけだし、体を動かすべきなのかもしれない。


場所は…前回行けなかった線路の向こう側にしよう。

あの時は体調が悪くなってしまったが、今なら大丈夫だろう。

不思議と体が軽いのだ。


Tシャツにジーンズとラフな格好だが近所なのでこれで良い。

散歩におしゃれは不要だ。


ゆっくりと自室から玄関に移動し、運動向きの靴を履いて家を出た。

もちろん、鍵をかけて。




踏切までの道は視界がハッキリしていて普段見る光景が新鮮なものに感じる。

視力は悪いほうではないので、あくまで気分的なものだが。

今回は踏切の遮断器は上がっており、待つことなく反対側に行くことができた。


右に行くか、左に行くか選択肢は色々あるけども…

真っすぐ、とりあえず疲れるまで直進で良いだろう。これなら道にも迷わない。


コンビニやファーストフード店といったチェーンと個人経営のお店が

民家やマンションの隙間を埋めるように点在している。

先日来たときはあまり気づけなかったがこちらの方がお店が多い。

なぜこちらに行く機会がなかったのか不思議でならない。


太かった道路が一車線になったが、まだ真っすぐに進める。

歩道は無くなったが、車は一切通らず不便はない。

気付けば周囲は民家だけになり、高い建物も無くなっていた。

空は張り巡らされた電線で少しだけ隠れている。


ここに来たことは無いが似たような風景を近所でもよく見る。

同じ町なのだから当然といえば当然だが。


龍と遭遇した公園はどこだっただろうか。

いまのところ見覚えのない景色ばかりが続く。

確か近くにコンビニがあったはずだから、近くを通れば気付けるはず。


件の公園が見つからないまま直進を続けた結果、別の公園に辿り着いた。

人はおらず、石畳の隙間には雑草が生え、近くのベンチは足が片方壊れ傾いている。

遊具も撤去されたのか見当たらない。

奥の方にはコンクリートで固めただけの四角い2階建ての建物が見える。

窓は割れていないがミラーガラスなのか中の様子は見えない。

正面の扉も健在だが倒壊したフェンスが周囲に転がっており、

ここは公園ではなくお屋敷の廃墟だと確信できた。


不法侵入なのでは?

しかし、入り口は開かれていたのでそういう場所なのかもしれない。



扉を開けて中に入ると室内は思ったよりも綺麗で、

生活感こそ無いが誰かが定期的に掃除をしているらしい。

何かを展示している施設なのではと建物を探索するも

展示物らしきものは一切見当たらず、記念館でもないようだ。


窓を見ると外の景色が見える。やはりミラーガラスだったか。

しかし、なぜミラーガラス。中の様子を隠す必要があったのか。


「あなた」


驚いた。誰もいないと思っていたのに声を掛けられた。

2階にいたのかな?


「どうやって入ったの?ここは…」


「ごめんなさい。何かの記念館だと思って…」


振り向くと私と同じぐらいの高さの綺麗な女性の人形が立っていた。

腰まで届くほど長い金色の髪は手入れがされているのかサラサラだ。

ただ、服を着ていないのでドールのような関節が剥き出しだったので人ではないとすぐに分かった。

顔は人と見間違うほど精巧だが、生気は感じない。

まさかとは思うけど人形が私に話しかけたの?


「まさか…そう、そういうこと…」


私の顔をみた人形が表情を一切変えずに驚いている。

口の動きは人間のそれである。人形ではなくロボット…?


「どういうことですか?」


「いえ、何でもないわ。折角扉が開いたのだからここは卒業ね。あなた、お名前は?」


「え、ミサオ。吉田ミサオです」


「…良いお名前ね」


私の名前を聞いて人形は無表情で数秒沈黙したあと静かに褒めてくれた。


「あの、失礼かもしれませんが…ロボット、ですか?」


「そう見える?」


「はい」


「素直ね。そういうことにしましょう」


表情は一切変わらないが、返答はとても人間的だ。

人工知能はここまで発達していたのか。

しかし、なんでまたこんな廃墟っぽい場所に。


「お名前とか、そういうのってありますか?」


「ミ…、いえ。私はミライ。カタカナでミライ」


ミライと名乗ったロボットは後ろのクローゼットから

真空パックで保存された服のようなものを取り出した。


「ミライさん、それは?」


「服。裸で外に出れないでしょ」


常識的だが、どうにもロボットらしくない回答。

私のロボット像は古いのだろうか。


真空パックから取り出したのは緑のタートルネックのセーターとベージュのパンツと下着。

それを着たミライさんは関節が隠れ、人間との区別が一瞬ではつかなくなった。

生気のない顔も色白と思えばそう見える。


「さて、騒ぎになる前に出ましょう」


「騒ぎになるんですか?」


「ここが開いたことに驚くだけで私が悪のロボットとかじゃないから安心してね」


「はぁ…」


「あと無茶な質問だけども…

 私のことを詮索せずに匿ってくれる1人暮らしで気のいい友人とかいない?

 別にあなたの家でも良いのだけど。家族の方はいるんでしょ?」


家族と神様がいるので今更という感じもするけど、謎のロボットの説明をするのは難儀だと思う。


「友人…いえ知り合いならいるかも?あの、神様とか妖怪とかそういうの信じます?」


ロボットに私は何を聞いているのだろうか。


「私の先生も神様だから信じる。話の通りね」


神様を信じるロボットとは。


「では案内してもらえる?」


「構いませんけど…結局この建物って何なんですか?」


私を見つめたままミライさんの動きが止まる。

ところどころロボットっぽい。


「…神を冒涜した結果、かなぁ。あなたは何も知らないの?なら知らないほうが良いと思う」


はぐらかされたような気がしたが、多分私に話してもわからないと判断したのだろう。

ミライさんと建物を出ると、外はまだ明るく、太陽の光が眩しかった。


「シャバの空気は最高だって言えば良いかしら」


「わかるんですか?」


「わかんない。さ、行きましょう。あと最近の流行とか教えてほしい」


「私、その辺疎いんですよ」


「女の子なのに?」


ミライさんは私よりも人間らしいのかもしれない。

外の話や流行の話をしながら私達は廃墟をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ