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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第2部 未来と神様
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バーベキューの話

「ミサオ!火は付いたか!」


「いま炭が燃え始めたところ。これ備長炭?高い奴でしょ?」


「肉を焼くなら火から!」


うちの庭で取れた野菜を切り終え、

台所から帰ってきた真紀が叫ぶ。

その有名ラーメン店主みたいな頭に巻いたタオルと

黒い無地のTシャツと前掛けなんなの。


「んん?この肉、国産和牛のステーキ肉じゃろ…真白お前…」


天日様が折りたたみテーブルに並べられた肉を見て呆れている。

たしかに高そうなお肉だ。


「料理は素材からですよ!」


紺色のタンクトップと迷彩柄のズボンで雪女らしさを全く感じさせない真白さんが

素材をクーラーボックスから次々と取り出している。

バーベキューだというのに、料理ショーで使うような高級食材ばかりだ。


この集まりは何かというと、昨晩真紀によって招集された

「本日のお昼は吉田家の庭でバーベキュー」隊である。

メンバーは私と真紀、天日様とバイトがお休みだった真白さん。

…というか真紀と真白さんはどこで知り合ったんだ。


「2人はいつ知り合ったの?」


「くるみで宿題やってた時に真白さんが勉強教えてくれて、

そしたらミサオと知り合いだって言うからさ、こうなるでしょ」


真紀が駅前で貰った団扇で適当にバーベキューコンロを扇ぎながら答える。

普通こうはならないと思う。


「親睦を深めるならやはりこれしかないかと。ジンギスカン鍋が無いのは残念ですが」


「鍋?それより、真白さんって雪女ですよね?夏を満喫して良いんですか?」


ジンギスカン鍋って何だと思いながら夏なのにテンションが高い雪女の是非を問う。


「人間だって冬にカマクラと雪だるま作ってはしゃぎますよね?同じですよ」


「はぁ」


論破された。されたのか?


「皆いい歳なのに、ようはしゃぐ」


天日様も今日は着物ではなく、Tシャツと短パンと見た目相応の格好…

何ですかそのTシャツ。

赤い生地に白字で「のじゃろり」って、どこで買ってきたんですか。


「よし!キッズはジュース、アダルトはビールを持ちましたね!」


当然のように真紀が場を仕切る。


「大人組大丈夫です!」


「真白、飲みすぎるなよ。頼むから」


「長い挨拶とか許されないよ、真紀」


「え?…あー、はい。楽しかった夏休みにかんぱーい!」


全員の乾杯で宴が始まった。



網の上に丁寧に野菜とお肉が置かれていくが、

お肉の大きさが日本の一般的な家庭の焼肉サイズではなく、

アメリカンクラスのサイズである。


「大きいお肉はたまに網からおろしてアルミホイルに包んで休ませながらじわじわ熱を通します」


「真白さん、お料理とか詳しいんですか?民宿の時も作ってくれましたよね」


夏の野外で火を使った料理をしている雪女を昔の人が見たらどう思うのだろうか。


「基本熱を通さない料理が得意なのですけど、美味しいもののために基本は押さえてます」


「それでその腹か」


天日様が真白さんのお腹をぷにぷにと人差し指で突っつく。


「せ、セクハラですよ!」


「ピーマンいけるんじゃない?あと薄いお肉も」


セクハラを尻目に野菜を焼く真紀の言う通り、

野菜のいくつかは食べごろで私のよく知る焼肉サイズのお肉も良い感じに仕上がっていた。

取り皿にいくつか取って、真紀が自作した特製ダレでいただく。


「おいしい!薄いと思ってなんか油断してましたけど、これも高いお肉ですか?」


「もちろん。ふふ、お値段は子供には刺激が強いので秘密です」


真白さんが自慢げに高い肉であることを教えてくれた。


「ミサオ、今度から打ち上げする時は大人を連れてこよう」


「お金目当てすぎるでしょ、というか真紀もお金持ちっぽいことしてる」


「子供は子供なりの楽しみ方があるじゃろ。

 ま、酒が飲めるようになったらいつでも呼んでくれて良いぞ?」


それはすでに大人になっているのではなかろうか。


「そういえば、真白よ。この辺に龍がいるのは知っていたか?」


「龍ですか?いえ、知りませんけど…でも大きい川があるし、いるのでは?」


肉をぱくつきながら真白さんが天日様の質問に答える。


「先日わしらの前に現れてな、ミサオに何か吹き込んでそのまま消えよった」


「龍ですからねぇ」


龍の認識は真白さんも同じらしい。


「大きい川って多摩川です?なら多摩ちゃんだ!」


真紀が大人二人の会話に首を突っ込む。


「ふふ、多摩ちゃんって。一昔前のアザラシみたいなネーミング」


真紀のネーミングセンスに対して

真白さんが少しツボに入ったような笑い方をした。


「おったなぁ多摩ちゃん。まぁここの龍も多摩ちゃんでええじゃろ」


天日様の許可が降りて龍の名前は多摩ちゃんになった


「学生二人」


「はい」


「頭にでかい角を2本生やした奴が多摩ちゃんじゃ。唆されてもついて行ってはならんぞ」


「子供じゃないんですから…でも、気をつけます」


確かに龍…多摩ちゃんの声は初対面でも全部信じてしまいそうな声だった。


「この町って現神機ないのに最近よく見ますよね、神様。

神社にも狐の神様がいるって最近よく聞くし」


真紀の言う通り、この町には神様を可視化させる装置が置かれていない。

天日様のように力が強くないと本来は神様は人間に見えないはず。

すなわち、この町には力の強い神様が多い…のかもしれない。


「もしかして真白さんって実は強い?」


真紀の推測と私も同意見だ。


「いやいや私は受肉してますから!お稲荷様に比べたら月とスッポンですよ!

私みたいなタイプは昔からひっそり人間社会に紛れて暮らしてたんです、弱いので」


確かに肉はついているが、そういう意味ではないのだろう。

神様というか妖怪というか色々と事情があるのだなぁ。


「ほら、お肉がちょうど良い感じに火が通りました!絶対おいしいですよ!」


真白さんが寝かせていたお肉のアルミホイルを剥がし、包丁で真ん中を切ると

柔らかそうな断面に溢れる肉汁と漫画なような表現が相応しいお肉が現れた。


「おお!これは…うまそうじゃな」


「The 肉って感じ!」


全員の興味が巨大な肉に移った。私も正直多摩ちゃんより目の前のお肉の方に興味がある。

それにしても、真白さん、無理矢理話を切ったような気がしないでもない。

隠し事できるような人、妖怪?じゃないと思うけど。ちょっとだけ気になった。


その後は肉とお酒、子供はジュースと一緒に色々な話で盛り上がった。

学校の話、地元の話、天日様が過去に犬に噛まれた話…

一番面白かったのは真白さんが雪山で遭難した人を助けたら地元で大騒ぎになった話だった。

天日様がめずらしく大笑いしていたし、真紀は終始お腹を抱えていた。


最後は、そろそろ夏休みが終わるという話で締められ、

寂しいながらも満足げな雰囲気でバーベキューはお開きとなった。

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