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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第2部 未来と神様
24/28

龍の話

夏休みの宿題を全て終わらせ、夏休みもあと1週間といったところ。

長いようで短かった夏休みが更に短く感じる時期でもある。


いつものように朝食を食べ、つまらないTV番組で時間を潰して、

昼食を食べ、だらだらと本を読んでいたらあっという間に15時だ。


「宿題が終わるとだらしなくなるタイプなんじゃな、ミサオは」


「普通ですよ。外に出る理由がないだけですし」


「どれ、散歩にでも行かんか?出不精すぎるじゃろ」


今日は外も涼しそうだし、断る理由もない。

素直に天日様の提案に乗ろう。


「んんー…良いですけど、どのあたりまで?」


体を伸ばしながら天日様にお散歩コースを尋ねる。


「線路の反対側にでも行ってみるか、まともに行ったことがないからのう

 目的地は…満足したらでええじゃろ」


踏切から先の地区は駅周辺しか知らず、

長いことこの町に住んでいるにも関わらず行ったことがない。


「行ってみますか」


読んでいた本を閉じ、散歩に出かける準備を始める。




外はまだまだ暑く、散歩日和という気候ではなかった。

それでも、ゆっくりと景色を楽しみながら歩くのは悪くない。

普段の見慣れた道の最後には踏切、ここから先の地理はよくわからない。

到着の寸前にカンカンカンという音共に遮断器が降り、歩みが止まる。


「しかし、十数年もこの町にいて踏切の先に行ったことないのかミサオ」


「駅周辺ならわかるんですけどね、奥の方は縁がなくてさっぱり」


「真紀の家はこっちじゃろ?行ったことはないのか?」


「そういえば…その内行ってみたいですね」


真紀については良く知らないことも多いが、

高校入学からの付き合いなのでこんなものではなかろうか。


電車が熱された空気を切り裂きながら通り過ぎると、カンカン音が止み遮断機が上がった。







「ミサオ?どうした、ぼーっとして。もう渡れるぞ」


「え?いえ、何でもありません。行きましょう」


   

   

   


踏切を越え少し歩いた道は本当に同じ町なのかと思うぐらい新鮮な光景だった。

私はなぜ、これまでこちら側に行こうとしなかったのか。

来ないようにしていたのだろうか。何のために?

   

   

    

    


「立派な桜の木じゃな、春だったらさぞかし…おーい?聞いとるか?」


「はい、ええ、もちろん。美味しいですよね桜…」


「大丈夫か?」    


心配そうに私の顔を見る天日様。

自分の顔がどうなっているかわからないが

変な汗が顔から噴き出してるような感覚だけがはっきりとわかった。


「具合が悪いなら断ってもよかったんじゃぞ?とにかく少し休むか」


家から出る前はそんなでもなかったのにこの短時間でここまで

体調が崩れるものだろうか。




「結構歩いたしのう…うん。そこの公園のベンチに座っておれ。

コンビニで何か飲み物でも買ってくる」


私を公園のベンチ誘導して座らせ、やや小走りで天日様は公園を出て行った。

結構歩いた?結構って?


公園は静かで、蝉の声も聞こえない。いや、人の声すら聞こえない。

もう夏が終わろうとしているのだろうか。でも近所の蝉はまだ鳴いていた気がする。


「やぁ、お嬢さん」


背後からの声に驚き振り向く。しかし、そこには木の幹しかなかった。

聞こえた声も天日様のものではなく、もっと大人びた…。


「後ろからは失礼だった。前を向いてくれ」


正面からの同じ人の声。

恐る恐る振り向きなおすと、私のいるベンチから数歩先にかなり背の高い女性が立っていた。

180㎝はあるのでは?

背が高く、綺麗な顔立ちで女性でも惚れてしまいそうな雰囲気がある。

しかし、彼女は人間ではないとすぐに気づいた。

頭から枝分かれした2本の角が生えていたからだ。白く長い外はねしてる白い髪が神々しく見える。

天日様と同じように着物を着ているが、白地に少し和風な刺繍がされている程度の質素なものだ。


「あの…何か用ですか?」


「私を見ても驚かないか。もっと畏れてくれても良いのだよ?」


内心とてもドキドキしているが、声色には出ていないようだ。


「えっと、ごめんなさい」


「気にしなくていいさ、それと座ったままで良いよ。私は立ってる方が好きなんだ」


「はぁ…」


変な人…いや、変な神様に絡まれたなぁ。

私にも見えるということは天日様と同じく格の高いお方なのだろう。


「占いは信じる方?」


「あんまり」


「うん。占いは止めようね。線路でいいや」


胡散臭い話題を向こうから振られ、

さらに全然関係単語を結び付けられる。


「普通、人間っていうのは必ず与えられた線路の上を走ってるんだよ。

俺は敷かれたレールの上を走るのは嫌なんだ!とか言ってる人もね」


「はぁ」


「君には線路がない」


「…はい?」


笑いながら酷いことを言われた気がする。


「人は何かを成し遂げる。大小はあるけど。

でも君は…何かを成し遂げるための線路がないんだ。

あぁ、君が無能とかいう話ではないから傷つかないでね」


角の生えた神様はまるで踊っているように大げさに体を動かして説明をする。

十分に傷つくし、なんの話をしているんだろうか。


「私は知っているよ。君達が何なのかね」


「どういうことですか」


「あの狐よりも私の方が色々と知っているよ。君の生まれも知っている」


何を言っているんだ。


「君は知らない振りをしてる。いや、本能なのかな?

何にせよ自分の身になにが起きているのか…おっと」


角の生えた神様が急に後ろへ跳ぶと、神様のいた場所にズシンと何かが落ちて土煙があがった。

一体どこから、いや、この速さは…

答え合わせをするかのように土煙が晴れ、片足で立つ天日様の姿が現れた。

履いている下駄が地面にめり込んでおり、威力のほどがわかる。


「龍が何のようじゃ。川に帰れ川に」


「随分なご挨拶だ。帰るけど君達も帰りなさいよ」


天日様が龍と呼んだ神様は徐々に体の色が薄くなり、

やがて空気に溶けるように消えていった。


「近くに大きい川があるんで居るとは思ったが…ミサオ、何もされとらんか?」


「特には…何か説教されたような気がしますが」


天日様は土埃を払いながら、私に近づく。


「変な占い話でもされたのか?」


「線路がないとか…」


「それだけ?」


「はい」


「はぁー!いつの時代も龍はわからん!人を攫ったり救ったり!」


悪態はつきながらも天日様は

私が何もされていないことがわかって安堵しているようだ。

天日様がそういうのだから、私が話を理解できなかったのも当然か。


「まぁいい…ほれ、お茶じゃよ」


「ありがとうございます」


手渡されたお茶はよく冷えており、握るだけどことなく安心することができた。

夢から醒めたような、そんな感じだ。


「落ち着いたら帰るか。大事になる前にな」


「はい。すみません、散歩の途中に」


この短時間で色々とありすぎて、どっと疲れが襲ってきた。

嫌な汗はすでに引いたが、体が夏の暑さのせいで汗がでる。


「無理にわしの我儘に付き合わんでも良いからな?隠居した身じゃ、見返りもない」


「でも、何かあったら助けてくれるじゃないですか」


「誰だってそうするじゃろ」


天日様らしい答えだ。

神様だけど、人間味あふれる天日様らしい言葉だと感じた。


「おかしいなぁ、家を出るまでは元気だったのに」


「もっと運動しろってことじゃよ。若いんじゃから」


天日様に若いと言われると全人類が若い判定だと思います。

…思っただけで言わなかった。


いまになって先程まで聞こえてなかった蝉の鳴き声が聞こえる。

まだ夏は終わっていなかったんだと少し安心した。夏休み的な意味で。


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