妖怪リモコン隠しの話
「あれ、テレビのリモコン、どこにやったっけ?」
部屋でテレビを見ようとしたらこれだ。いつもはテーブルの上に置いておくのだが、
今は置かれていない。
「妖怪リモコン隠しめ…」
「なんじゃそれ」
私のベッドの上で煎餅をバリバリしている天日様が私の独り言に食いついた。
「リモコンを隠して人間を困らせる悪い妖怪ですよ。あれぇ、本当にどこいった?」
「テレビのリモコンなら本棚じゃぞ、ほれ、2段目」
言われた場所に目を向けると探していたリモコンが置いてあった。
部屋の入口近くにある本棚とは…中心にあるテーブル近くを探していたので、盲点だった。
「あー、あったあった。ありがとう天日様。あとベッドに煎餅こぼさないでね」
「皿の上で食っとるから大丈夫じゃ。それよりあれじゃな、
この時代でも妖怪なんじゃな」
番組をバラエティにして、天日様の隣に座る。
「それってどういう意味?」
「わからんことはとりあえず妖怪の仕業にしとくかという風潮がまだ残ってるんじゃなぁ、と」
「流石に妖怪なんて信じてないけど…いや、どうなんだろ」
少し前まで、神様も妖怪も大差のない架空の存在だったが、
神様の存在が証明された今のご時世だと妖怪もいるのかもと思えてしまう。
「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花ってやつじゃよ。何故リモコンが本棚に
置いてあったかを思い出せば良い」
「えー?いつもはテーブルの上に置くもん」
「昨日の夜はそうではなかった。ほれ、寝る前に何があった?」
寝る前?テレビを見てて、眠くなって、テレビの電源を落とそうとして…
「あーそうだ。スマホが居間にあるのを思い出して一階に降りたんだ」
「リモコンはその時どこにあった?」
「えーっと、手に持ったまま…だと邪魔だから…あ…」
邪魔だから部屋を出る前に本棚に置いたような気がする。
「で、お主はスマホでメールを見ながら部屋に戻ってきてそのままベッドで熟睡、というわけじゃよ」
「よく覚えてるね…」
「本棚に置いたという短期記憶が他の事をしている内に忘れられ、
部屋の状態を長期記憶に保存できんかった。それで普段はテーブルの上にリモコンを
置くという長期記憶と部屋の状況が食い違ってしまったのじゃろう」
天日様は言い終わると煎餅をバリバリと再び食べ始めた。
「こうやって妖怪が絶滅していくんだねぇ…天日様って医学とか心理学とか勉強してるの?
めっちゃそれっぽい答えで納得しちゃった」
「さぁ?思ったことを言っただけじゃよ」
煎餅のバリバリという音が部屋を支配する。
「ええ!?信じちゃったじゃん!」
「でも納得したんじゃろ?」
「した」
「なら良いじゃろ」
「いやいや!神様それでいいの!?」
天日様は食べかけの煎餅を皿に置き、お茶を一口飲んで一息入れてから口を開いた。
「もし、ミサオが今の話に疑問を持ったのであれば、自分が納得する答えを見つけると良い。
それが考えるということじゃ。もしかしたら、本当に妖怪の仕業だったのかもしれんぞ?」
私の目をまっすぐと見つめる天日様の優しいような厳しいような瞳は、何というか、
意識を吸い込まれるような引力を感じる。目力ってヤツかな。
「うーん…その、あれ、真相は気になるけど…別にいいかなぁ、知らなくても。
天日様の話が正解で良いや」
リモコンを見失うメカニズムの解明にはあまり興味がわかない。
話のネタとしては面白いが、真面目にやる内容だろうか?
「ぶっ…ははは!そうじゃの!こんなのに労力を使うほど暇ではないな!なはは!」
タイミングよくテレビの方でも笑いが起き、話にオチがついた。