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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第1部 ミサオ
19/28

狐の話

意識がもうろうとしている。

視界がぼやけ、思考もはっきりしない。

はっきりわかることは、ここは自分の部屋ではないということ。

機械や書類が散らばっているデスク、サーバーラック?実物初めて見たなぁ。

窓は見当たらない。地下だろうか。

拉致されたようだが、拘束などはされていない。スマホは…どこかに落としたかな。


「気が付いたようだね。さぁ教えて貰おうか。君の式神の秘密を」


なんだろう、この人。状況が余計分からなくなってしまった。

スーツの上に白衣を着ているやせ気味の男性。そこそこのイケメンだ。


「私が作った式神は人間では破壊できない。それなのに、君は私の作品を破壊した。

私も知らないような式神を使って、だ」


「はぁ…」


式神を壊した…壊したのは天日様か。万引き犯が鬼のような式神を出した時の話かな。


「あれは正当防衛で」


「どうやってその力を手に入れた?まずはそこからだ」


「ところで、ここどこですか?」


「君、人の話聞かないってよく言われるだろ?場所は教えられんが、私のラボだ、世間には秘密のね」


思ったより冷静で普通の人だなぁ。私を拉致して尋問してることを除いては。


「拉致した理由は…まぁなんとなく察しました。その初めに言っておきたいんですけど

天日様は式神ではないです」


「式神ではないのか、ではその…天日様とやらは何なのかね」


「神様です。現役引退済みの」


「神がなぜ君に従えているんだ」


「いや、同居してるだけでそういう関係じゃないです」


「それで君の式神自体は普通のものと変わりないものだったのか、なるほどね。

変わり者の神が君に味方していただけだったということか」


私の防犯式神を盗んでいた鬼の式神の持ち主はこの人だったか。


「色々言いたいことはありますが、帰っていいですか?」


「帰れると思っているのかい?」


「はぁ」


「次の質問だ、その神とはどうやって契約してるのかね、対価は?」


話が長くなりそうだし、絶対帰れない奴だ。なんとかしなくてはスマホ…どこだ。


「さっきも言いましたけど、契約とかじゃなくて一緒に住んでいるだけです」


「そんなボランティアみたいな神がいるはずがない。私は相当な対価でこの式神を手に入れたんだぞ」


天日様じゃない神様の話だろう。対価とかロクでもないものを要求されてそうだ。


「困るんだよ…人間側に式神より強い存在がいるのは…わかるかい?ビジネスにならない」


「そうなんですか」


「防犯式神は私の技術力の一割に満たない玩具だ。君の見た式神・鬼こそ私の真骨頂…」


両手を広げて天井を仰ぐ、大人。

気持ち悪いなぁこの人。


「世間には公表していない。しかし実験データがほしくてね。ひっそり一般人に与えてみたんだよ」


「あの時のってもしかして」


「輝かしい完全犯罪がね!君の神のせいで吹き飛んだんだよ!努力が!水の泡だ!」


水の泡になって良かったと思う。

先程までの冷静さやらはどこへやら…息が荒々しくなっている。さぞ悔しかったのだろう。


「えーっと、その…式神を使ってどのようなビジネスを展開されるおつもりだったのですか」


「はぁはぁ!もうやめだやめだ!君を殺してこの失敗はなかったことにするんだ!忘れるな!」


錯乱しているというか追い詰められている。私もだけど。


ピピピピピピ!


私のスマホの就寝アラームの音。場所は…私の後ろ!

躊躇うことなく後ろを振り向き、あるはずであろうスマホを探す。

机の上に置かれたそれを手に取り


「動くなよ、ゆっくりこっちを向くんだ」


首筋に金属を押し付けられている。男の声は少し遠い、この金属は式神のものだろう。

死にたくないのでゆっくりと振り向く。


「君さぁ…さっきから思ってるんだけど、冷静すぎない?普通怖いでしょ?」


「怖いからあなたの指示に従って振り向いたんですよ」


「恐怖に怯えた状態じゃないと美味しくないんだって…もっと、ねぇ?」


悪趣味だなぁ。

式神に背後を取られているので言うのは我慢する。


「ふふふ、いや、スマホで助けを呼んでごらんよ、何もしないから」


電源を入れる。…圏外だ。


「圏外だろ!ははは!どうだ!絶望したか!誰も助けは来ない!君はここで人知れずに死」


「いえ、もう繋がってます」


「ぬ…?」


スマホの画面が強烈な光を放ち薄暗い部屋を真昼のように明るくする。

そこからさらにフラッシュのような閃光が走り、光球が飛び出す。

光球は宙に少し留まったが、式神を見つけると瞬時に姿を消す。

気付いたら後ろにいた式神の上半身が消滅していた。


「実践が早すぎるじゃろ」


光球は大きさを変え、見慣れた姿になって男と私の間に立つ。

天日様だ。


「私もそう思います」


天日様が過去にメールで送った術式の画像をホーム画面に設定しておいてよかった。


「ああああああ!?なんだ、なんで!?」


男は一瞬の出来事に状況を整理しきれず、結果だけを見て錯乱している。


「どうもどうも、天日と申す。元、神様じゃよ」


「はぁー!はぁーっ!き、狐だ、そんな!」


「ミサオ、こいつは?」


「自称犯罪者予備軍です」


「この玩具でか?ははは、笑えるのう」


男の真骨頂である式神も天日様相手だと玩具だそうだ。


「ふ、ふふふ、ま、まぁ良いだろう。神だって殺せるんだ、俺は!」


男は動揺しながら大声で右手に持った機械のスイッチを押す。

機械から大量の札が射出され私と天日様を囲む。

札は徐々に黒い鬼に姿を変えるが、1体ではない。視界に入っているのだけで7体はいる。


「どうだ!これが僕の十二神将…」


ぐしゃ!


色々と潰れたような音と共に男の右手は天日様に踏まれ、男は地面に伏していた。

動画のコマが抜け落ちたかのような瞬時のできことだ。

機械は壊れ、下駄に踏まれた男の指は複雑に…曲がってはいけない方向に折れている。


「あがあああああああああああ!」


男の悲鳴と同時に式神の群れは霧散した。


「式神を倒すなら術者から、教えてもらわんかったのか?ん?」


「いだい!手がぁ!指が!」


くるりと宙返りをして天日様が私の前に立つ。


「さて…この式神の技術はどこで知った?」


「あああ!指の骨が折れてるぅ!い、いでぇよぉ」


天日様は溜息を吐きながらしゃがみ、悶えて地面を転がる男の前髪を掴んで正面を向かせた。


「おい、この式神の技術はどこで知ったのかと聞いている」


「言えない!言ったら殺される!そ、そういう契約なんだ!」


「これから死ぬのにか?」


「ひい!」


いつもの穏やかさはなく、天日様からは非情な雰囲気が出ている。

演技か本気か…私にはわからない。


「…玉藻か」


「え!?あ、んんん!」


タマモという単語に男は反応した。天日様は犯人に目星がついているらしい。

男はすぐさま否定したが、もう遅かった。

天日様は静かに男の頭を降ろし、何も言わずに立ち上がった。


「天日様?」


「帰るか、ご両親にばれる前にな。ミサオは今自室で熟睡してることになっておる」


就寝アラームが鳴ったということはもう時間は23時30分を過ぎている。

結構な時間気絶していたことに今気が付いた。


「帰り道わかるんですか?」


「外に出ればわかるじゃろ、たぶん」


「お、おい…俺を見逃すのか、はぁ、はぁ…後悔するぞ。

今回のデータを元にもっと強力な式神を作れる!失敗は…成功の母なんだ!」


天日様は足を止め憐れむような眼で男を見つめた後、何も言わずにまた歩き出した。

男はしばらく喚いていたが、距離が離れるにつれ聞こえなくなる。

道なりに進んでいるとエレベータがあり、地上に出れることを確信した。


ボタンを押してエレベータの到着を待っている間、会話は一切なかった。


エレベータに乗ってる最中もしばらく沈黙が続いたが、耐えきれず私から声をかける。


「良いんですか?あの人放っておいて、誘拐犯ですよ」


「…ミサオの両親を無駄に心配させる理由もあるまい、それに」


「それに?」


「もう手遅れじゃよ」


チーン、と目的階の到着が伝えられる。







「次のニュースです、電子機器会社の社長が焼死体となって見つかりました。

先日未明、都内にある電子機器メーカーメイテック株式会社のビルで

警備員が警戒中に焼死体を発見、遺留品から同社の社長である茂木 光氏であ」


怖くてテレビを消してしまった。朝ご飯を吐き出しそうになる。

今日からまたいつも通りだと思っていたので猶更だ。

天日様の言っていたもう遅いというのは、こういうことだったのか。

では一体だれがどうやって…天日様が?


「玉藻という狐がおる。知っておるか?」


「伝承とかに載っている狐の…妖怪ですよね?」


「大分昔に死んだとされているが…実際はそうじゃない。今も生きておる」


「そうなんですか…じゃあ、この事件の黒幕って」


「あいつは自身のわずかな力を人間に分け与え、不要になったら食い殺す。

焼死体だったな、玉藻の狐火にやられたんじゃろ」


「あの人を、見殺しにしたんですか?」


「違う。契約は絶対じゃ。わしがどうこうしようと、この結果は…変えられなかった」


淡々と事実を話す天日様は冷静だと思った。でも、そうではなかった。

こぶしが強く握られ、震えているのを見てしまった。


「犠牲者は増えるんでしょうか」


「わしに見つかった事は向こうも気づいておるじゃろう、しばらくは…恐らく無い」


しばらくたったら、また何かが起きるということだろう。

そのしばらくがどれくらいの期間なのか、私にはわからない。


「…まぁ安心しろ、玉藻が狙うのは権力者や金を持っている奴だけ。ミサオに直接危害は及ばん」


「間接的には被害を被るってことですか?」


「ふふ、それぐらいならわしが守ってやる。今回のようにな」


「できれば平和が良いですね」


「現役の狐達がなんとかする。例え玉藻といえど強者が束になれば勝てる、時間の問題じゃよ」


そうですか、とは言えなかったが。きっとそうなるのだろう。


「ミサオ、今日は暇か?」


「特に予定は」


「くるみにいくぞ、わしのおごりじゃ」


「おごりなら行きます、喜んで」


強引に日常に戻してくれようとしている天日様の気持ちがわかる。

私はそれに導かれるだけだ。早くいつもの夏休みに戻りたい。


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