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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第1部 ミサオ
17/28

女子会

新宿の有名ホテルで女子会、響きだけは良いが狐による女子会は違う。

実際、おいしいものを食べれるし、他の狐にも会えるが…。

隠居となっても天日様とは呼ばれるものの、実際は役職なし、上位の目が面倒くさい。

操の件であれやこれや言われるだろう。正直タッパーに飯を詰め込んでさっさと帰りたい気分だ。

憂鬱な気分でエレベーターに乗り込み、目的の階のボタンを押す、押そうとしている、押せた。

エレベーターの無機質な上昇音を聞きながら待っているとすぐに扉は開いた。


「あ、天日様!時間ギリギリですよ!」


赤いドレスを着た(カエデ)が入り口でわしを待っていた。

男の目があるわけでもないのに、露出が多く、でかい胸もかなり目立つ。

普段は神社で巫女服しか着とらんが、街にでると妙にオシャレをしてくる。

狐の耳は出たままじゃが、尻尾は隠している。誰が見るでもないのに。


「まだ5分前じゃろ」


「いやいやいや!北斗(ホクト)様達は30分以上前から着席されてますって!」


「せっかちな奴らじゃのう」


楓に急かされながら店の奥へと進む。ほかに客の姿はおらず、いつも通り貸切っているようだ。

案内されたのは個室、貸切っているのに個室の意味はあるのか?

楓がドアを4回ノックし、部屋にいる北斗達にわしが来たことを報告する。


「入りなさい」


低い女の声に反応してドアが自動的に開く。念動で開けるようなもんでもないじゃろうに。

個室に入ると長方形のテーブルの奥に狐の重鎮が3人座っており、入口には空席が2つあった。

下座じゃな。


「座って」


真ん中の黒い狐がこの中で偉い。黒髪に黒い耳。日に焼けたような肌、

グレーのスーツに先が白い黒の尻尾が4本。

目つきが悪いので、色も相まって威厳が出ている。名前は北斗。

昔はもう少しかわいげがあったのじゃが…時の流れは残酷じゃな。

わしらは北斗の指示に従って席に着く。


「報告を」


北斗の両隣にいる金髪と銀髪の狐は双子で、

金髪が桔梗(キキョウ)、銀髪が竜胆(リンドウ)、どちらも操とは違う高校のブレザーを着ている。

高校の制服を着ているのは普段は学校に通いながら、世の情勢を調査しているからじゃ。

同格の狐であり、仕事内容も似ており、こういった場でも大体一緒にいる。

桔梗は優等生と言っても良いが、竜胆はおつむがちょっと足りん。

なので、基本的に公的な場では桔梗が先に話す。


「楓は特にないです。天日様どうぞ」


笑顔で楓が報告を終わらせた。

早いなお前。もっと自分を上司にアピールせんか。


「…あー、わしからは3件じゃな。フナムシ女…後日命名されたグンタイフナムシの保護と、名無し1体の収監、あとは北海道の雪女が本州に上陸しとる件じゃ」


「グンタイフナムシは協力的です。また知能もそこそこあることが分かっています。人の財布を盗んでいたのは買いたいものがあったからと自白しています。現在、私が彼女の、いや、彼女たち?の仕事を探しているところです」


わしの発言が終わると間髪入れずに桔梗がフナムシ女の近況を報告した。

北斗が頷くと、次は竜胆は3Dプロジェクターを取り出し、映像を宙に表示させた。

先日収監した名無しの姿が映っている。


「逆に収監した名無しは反抗的。職員に何度も襲い掛かるため私が半殺しにしてわからせました。これは天日、さ、ま、の説明不足によるものであると私は考えております」


「送ってやっただけ感謝してほしいもんじゃが…それともへまして怪我でもしたのか?」


「は?」


竜胆がわしに睨みをきかせてきた。先程までの上品な立ち振る舞いは何処へやら。

竜胆は北斗が好きすぎて、わしのことが嫌いなのだと楓が前に教えてくれた。


「駄目だよリンちゃん!失礼だよ!」


桔梗が小声で竜胆を窘める。髪色だけでなくどうしてこうも性格に差がでてしまったのか。


「雪女がこちらに来て懸念することはあるのか。なぜ北海道からだとわかった?この辺は山も多い」


北斗は双子を無視して、表情一つ変えずにわしに対して質問をしてきた。


「雪女が地元の山を離れるのは稀だと聞いておる。何が起きたとか起きるとかではないがのう。接触したが悪い奴ではなかった。一応念のためな。北海道から来たというのは、そいつがナラタケをボリボリと呼んでおったからじゃ、北海道弁じゃよ」


「なるほど、雪女は何か動きがあれば双方連絡を入れよう」


「承知した。報告は以上で終わりじゃ」


すんなりと報告が終わった。


「……」


何じゃ、この沈黙は…


「桔梗、話せ」


桔梗が北斗の声にビクッと反応し、慌てて紙の報告書を読み上げる。


「は、はい!グンタイフナムシなのですが、保護した時に何者かに顔面を殴打された形跡がありました。脅かして追い出そうとした人間にやられたそうです。現在は元通りに戻ったそうですけど、その…グンタイフナムシの外表は霊体で、普通の人間では…」


「操がやったのだな」


北斗達にはすでにバレておったか…いや、隠せるような状況ではなかったな。


「…操が例の症状を起こしてグンタイフナムシを攻撃した。事が大きくなる前に止めれたがのう」


「事が大きくなかったら、グンタイフナムシはトラウマ植え付けられてないんだよ!」


「リンちゃん!」


「静かに」


北斗が双子の口を手で抑えて黙らせる。


「やはり危険な存在では?」


「人間社会では普通の女の子じゃ、本当にな。前に人間に襲われた時は症状が一切出なかった」


「霊的存在や神々との接触にだけ反応するんですか?それらによる身の危険で症状が出るのでは」


隣で終わるのを待っていた楓が口を開く。


「そうとも限らん、貧乏神に憑りつかれた時は何も起きなかった」


「もごごご!もごもご!んんんももご!?」


竜胆が喋りだしたが北斗が口を抑えつけたままなので何を言っているかわからん。

桔梗はかわいそうなものでも見ているような目線を竜胆に向けながら、報告を続ける。


「ええ…グンタイフナムシの件で操の発症は確認できているもので3回目です。すでに一部周囲では彼女を危険な人間として認識しており、取り押さえるべきだとの声も上がっています。早急に解決しなければいけないのでは?」


「早急に解決はしたいが…本人に自覚がない上に条件もわからん。無理に収監すればそれこそ反撃を受けるかもしれん、このまま監視すべきじゃよ」


「…わかった。隠居の身で色々と迷惑をかける。引き続き監視を続けてくれ」


思っていたより深掘りされんかったな。うるさい竜胆が黙らされてて助かった。


「だが忘れるな。結論が出れば、彼女を殺すこともありえる。あまり情をかけるな」


「わかっとるよ」


北斗に釘を刺され、シンとする空間。

長く生きてはいるが、このような時間は短くあってほしいと常に思う。


「話は終わりだ、料理を頼もう」


北斗が自分で作った空間を自分で壊した。正しい女子会の始まりである。


「あ、コースなので開始してもらいますね!」


桔梗が呼び出しベルを嬉々と押す。堅苦しい空気に解放されたからだろう。


「もごご!もごご!」


「あぁ、忘れていた。すまん」


北斗に口を抑えつけられていた竜胆がようやく解放される。


「はぁ!はぁ!覚えてなさい天日!北斗様のほうがあんたより10倍、100倍偉大なんだから!隠居だからって偉そうなこと言って私達の方が今は偉いんだからね!ヘマしたら尻尾の毛をむしってやるんぎゃん!?」


北斗の拳骨によって竜胆はテーブルに突っ伏し、沈黙した。


「死んだ?」


「…生きてる」


楓の質問に死にそうな声で竜胆は答えた。


「お前は様をつけろ、様を。それに天日さ…天日に尻尾はもう無い。

 それがどういう意味かわかっているのか?」


「はい、すいません…わかってます、理論は…」


「竜胆ちゃんは馬鹿だからねぇ」


「そうだねぇ」


3人のやり取りを見ていた北斗の表情が少しだけ和らぐ。

楓と桔梗と馬鹿のおかげで飯を食べられる空気になった。感謝しよう。

袖の下にタッパーを隠しておく必要はなかったな。


…とはいえ、操のことは早く何とかしなければなるまい。

穏便に事を運びたがる北斗らしくない一言が最後に出た、北斗と同格の狐達の反応は想像に容易い。

最近は操が神や霊の類をおびき寄せているようにすら感じる。それが運命なのか、役割なのか…。

兎にも角にも原因を突き止め、操が神々に害をなす人ではないことを証明せねばならない。

何かが起きる前に…

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