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お狐様の見る世界  作者: ネナイコ
第1部 ミサオ
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これからの話

八百万の神が住まうとされる日本。

しかし近年は科学の進歩もあり、真面目に神がいると信じている人間は少なくなっている。

見えない、空想、昔の人々が未知の事象を説明するために生み出したもの。

もはや、神とはファンタジーの一種だ。

発達した科学の前で証明できないものは単なる空想に過ぎないのである。


「これ、ミサオ、飯が冷めるぞ。何を悩んでおる?悩みならいつでも聞いてやるから、今は飯に集中しろ」


「あ、はい」


注意され、言われるがままに目の前のいなり寿司を手に取り頬張る。

桜でんぶとさやいんげん、そぼろ状の卵が乗っかってる華やかなやつだ。


「うん、おいしい。いなり寿司に関してはお母さんのよりもおいしい」


「そうじゃろう、そうじゃろう。年季が違う」


ジリリリリリ!ジリリリリリ!


昔の電話…風のスマホの着信音だ。


「なんじゃ、夕飯時じゃぞ。はい、もしもし、わしじゃ」


わしとかのじゃとか言っているお方がスマホを使いこなしているのは未だに目を疑う。

格好もいまどき珍しい着物なのでなおさら。


「おお、お主か。なんじゃ、ふむ、おお!そうかそうか!それは楽しみじゃのう!

 詳細はコミュニティの掲示板じゃな?わかったわかった、わざわざすまんのう」


白い狐耳がピコピコと相槌を打つかのように動いている。そう、狐耳だ。

つけ耳とかでは無く、しっかり頭から生えている。


「すまんすまん、食事中なのに」


「いいよ、別に。何かあったの?」


「近々お狐会の集まりがあるらしい。まぁ、あれじゃ、女子会レベルの奴じゃがな!」


なははと笑いながら、いなり寿司を食べ満面の笑みを見せているこのお方は、そう神様だ。


我々人類は神々の存在を証明したのだ。



私の目の前にいる狐耳の神様はテンジツというお名前だ。

天日干しの天日でテンジツ。レストランで名前を書くとてんぴ様と呼ばれるので

平仮名で書くことが多いらしい。

御先稲荷という役職?を引退し、隠居しているらしいがどこから得ているかわからない収入源があり、

私の両親よりもお金を持っている。


「天日様はさぁ、何でうちなんかに住もうって思ったの?」


「なんじゃ、藪から棒に」


「顔広いし、お金持ちだし、術とかもすごいんでしょ?

 うちはお父さんサラリーマン、お母さんパートの一般家庭だよ?私も一般的な女子高生だし」


あまり神様に詳しくはないが、天日様は徳というかオーラというか、

色々と我が家に収まるものではないと感じる日がある。


天日様は目をつむってうーんと悩んでから、おちょこの中身を飲み干してから口を開いた。


「神社の近くというのもあるが、今時欲にまみれていない人間は稀でのう」


「私はお金持ちになりたい」


「はっはっは!そうではない。わしの力を悪用してやろうという考えを誰も持っていなかったからじゃよ」


「そうなの?お小遣いくれそうだなぁって思ってたけど」


「…そういう正直なところがミサオの良いところじゃな」


天日様もさすがに苦笑いする答えだったらしい。

まぁ最近はお小遣いもらえそうなどとは、少しばかりしか思っていない。


ティロリロリーン、とメールの着信音。これは私のスマホのものだ。


「あ、お父さんとお母さん、一緒に帰ってくるって」


「どれ、味噌汁を温めなおすかの」


どっこいっしょと、椅子から降りるテンジツ様。

椅子の上でも正座しているので、座っているときは気にならないが、

身長は130㎝ほどしかない子供体型だ。小さい体ながら、特にお願いしたわけでもなく、

両親がいないときは家事を手伝ってくれる。術とかそういう類を一切使わず。


「そういえば、天日様がうちに来てから、お父さんもお母さんも遅くに帰ってくることが

 減った気がするんだけど、何か術とか使ったの?気のせい?」


「何のことだか。わしは居候しているだけで精一杯じゃよ、隠居勢だしの」


そう言いながら台所に立つ天日様の後姿は、表情が見えなくとも笑っているように見えた。



神様は人間の目に見えない物質を可視化させる装置の実験の失敗によって偶然発見された。

波長を変えるとか、異なるなんちゃらを何とかして何かしたとテレビで紹介されていたが、

よく覚えていない。

とにかく、本来見たかったものは見れず、代わりに人影が映り、それが何かを解析していくうちに

神様の存在が明らかになった。

今では神様の可視化の研究が進み、範囲内の神様を可視化できる装置まで開発された。

一部都市では試験的にその装置を点在させ、その都市全体で神様と交流できるようになっている。

神様達も初めは隠れて出てこなかったが、次第に環境の変化を把握し、

「まぁ、見えちゃってるならいいか」と軽いノリで交流を承諾したとのこと。


私の住む町にはそのような装置は置かれておらず、天日様が見えることはないはずなのだが、

天日様は別にそんなもの無くても姿を見せることができ、時と場所を選ばず顔を見ながら会話することができる。

「この姿で出歩ける時代がまた来るとは思わんかった!」と喜んで顕現したと言っていたが、また来るということは前にもこんな時代があったということかな。


「ただいまー」


玄関からの声、両親が帰ってきたようだ。


「さて、お出迎えするかの。行くぞミサオ」


「えー、まぁいいけど。出迎えるのが普通なの?」


「そういうもんじゃ、お主も大人になればわかる」


天日様に言われるまま、両親を出迎えるために席を立つ。

小煩いところもあるが、嫌な感じはしない。まだ一緒に暮らして日は浅いが、

天日様とはこれから長い付き合いになるのだろう、と不思議な縁を感じている。

夕食が終わったら昔話でも聞いてみようかな。


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