大首領様のお引越し
「……ふむ」
明かりのついていない通路を歩いていたら、行き止まりに行き当たってしまった。この辺りは整備されていない区画のようで、岩がむき出しのままになっている。掘削したてのトンネルみたいだ。
通路の先自体はまだありそうだが、落盤があったのか、巨大な岩石で通路が埋まってしまっており、これ以上先に進めそうもない。
今日の散歩はこのぐらいにして、司令室に戻るとしよう。
あれから三日が過ぎた。
その間、私は自身の置かれている状況の確認を行う事を主目的とし行動していた。行動と言っても、基本的に私がアリスに質問し、それにアリスが答えるという質疑応答の繰り返しではあったのだが、それでも目覚めたばかりの頃よりは、だいぶ今の状態を理解する事ができるようにはなっていた。その結果、私は今の状況を受け入れざるを得ないものとして考えるようになっている。
一つはヒーローの存在だ。
アリスは存在を把握しているヒーロー達のデータや写真、動画等の資料を私に見せてくれた。これを見ただけであれば、空想の産物ではないのかという疑念もあるのだが、リアルタイムで放送されているテレビのニュース等で、実際、ヒーロー達が悪の組織と戦っている所を見てしまうと、本当にいるのだなと思ってしまう。
いや、少しは疑念は感じた。これはただの特撮番組ではないのか、と。だが、三日間、どこのチャンネルのニュースでもヒーロー達の活躍は放送されていた。本当にいるのだなと、受け入れるしかない。
そうそう、他の組織についてもだ。
悪の組織というのはヒーロー達と同じく本当に存在しているらしい。ただ、テレビで見た彼らは、SFの世界の戦闘服のようなものを着ているようで、○○男や○○女みたいな、いわゆる、化け物みたいな戦闘員は見る事はなかった。アリスが言うには、人体改造は非常に高度な技術で、そう簡単に行う事はできないらしい。
これも三日間、毎日目にしていると、本当にいるのだなと受けれるしかなかった。
こんなものもあった。天気予報と同じく、悪の組織予報というものが放映されていて、どこの地区がどこの組織に襲われる恐れがあるかをテレビで流していたのだ。これは予測と、犯行予告を元にした注意報で構成されているようで、戦闘が起こる可能性があるので一般人は近づかないように等と、注意勧告がされていた。こんなものを見ると、悪の組織のある日常が、本当に浸透しているのだなと感じてしまう。
もう一つは私の事だ。
これはアリスの教えてくれた私の人物像のみが情報源なのだが、どうやら昔の私はとんでもない人物のようだった。
冷静にして冷徹、人間を人間と思わないその残忍さは、人々の恐怖の象徴になったそうだ。知能はどんな科学者も及びつかない程高く、様々な兵器や怪人達の開発を行い、その結果もたらされた組織の科学力は、現在の世界水準を遥かに超えるものだったそうだ。
また、身体能力も異常に高く、大地を踏みしみれば地面が裂け、腕を振り下ろせば天を切り裂き、その動きは風より早く、肉体はどのような攻撃も通さず、手からはビーム、目からビーム、口からもビームと、全身のあらゆる箇所から怪光線放ち、破壊した建物の汚れと惨殺した人々の血で体は常に赤黒く染まっていたという。
この他にも様々な恐ろしい所業と、ネタですかと聞きたくなるような体のスペックの説明を嫌というほど受けたのだが、もう、そいつはどこの怪獣だと言いたい。
実際の所、私の今の体は当時の力の百分の一も出せていないようで、アリスが補助をして、やっと当時の力のいくつかを使える程度との事だった。
まぁ、ここまで聞いて思うのは、そんなのある訳無いだろうだな。私もそう思った。だが、いくつかの事実が、本当はそうなのかもなと考えさせる結果となった。
まずは、手からビームといかないまでも、それに近い事を既に私自身が使っているという事実、次いで砲弾も銃弾も全て効かなかったあの謎防御だ。
鎧に関しても、何をどうしようと脱げなかったし、極めつけは、この腕力だ。そう、腕力。私は異常とも言えるほど、腕力が強いのだ。
これは目覚めた日の翌日に一騒動あって分かった事だ。
その日、起床すると、前日より体の調子が良い事を私は感じた。前日の疲れが抜けたせいか、それともゆっくり休んで調子が戻ってきたのかは分からない。まぁ、調子が良くなっているのは良い事だと考え、アリスに会う為に、部屋を出ようとした。寝室としてあてがわれた部屋のドアはノブ式のもので、引き戸になっている。私はノブを握り、ドアを引くと……ドアは鈍い金属音を立て、壁から取れてしまった。そう、私は普通にドアを開けたつもりで、ドアをもぎ取ってしまったのだ。
軽く握ったはずのドアノブは、まるで粘土を握ったかのように変形し、原型をとどめていなかった。
私は慌ててアリスに報告した。
「なるほど」
私の報告を受け、アリスはなにやら私の体をジロジロ見ていたかと思うと、何かに納得したようで、二度三度とうなづくた後、司令室に置かれている椅子を一つ指差し、「ちょっと、これを叩いてみてもらえますか?」と言った。
言われるまま軽くチョップしてみると、椅子はものの見事に潰れてしまった。感覚としては折り紙か何かでできた椅子にチョップしたような感覚で、金属らしい抵抗はほとんど感じなかった。
「……椅子の材質、変えた訳じゃないよな?」
「えぇ、昨日のままです」
アリスが言うには、私の身体能力が昨日より回復しているらしく、本来の腕力に戻りつつあるのではないか、という事だった。
確かに昨日の話を信じるのであれば、私は死んで生き返ったばかりの状態ではあったし、本調子ではなくても仕方がないだろう。なるほど、今朝の体調の良さは勘違いではなかったようだ。
ちなみに本来の腕力はもっと強いらしく、アリスの見立てでは、現在は全盛期の十分の一程度との事だった。これで十分の一というのは、恐ろしい。
「腕力だけではなく、他の能力も戻りつつあるようですね。このまま順調に回復すれば、完全復活もすぐでしょう。ですが……」
そこまで言ってアリスは黙ってしまった。何かまずい事でもあるのだろうか?
「マズイという程の事ではないのですが、少々やっかいではあるかもしれません。見たところマスターがお持ちの力の感覚と、御力の状態とが一致していないように見えます。先ほど昨日と同じ感覚でドア開けようとして壊してしまったようですが、もし、明日、今日よりも腕力が回復していたとしたらどうでしょうか。ドアであれば壁から取れるだけでしょうが、他の物が壊れた時にどのような被害が起こるかは予測ができません」
なるほど。今日は十の感覚で問題なくても、明日、腕力が回復していたら、十の力が二十にも三十にもなっているという事か。
「マスターは様々なお力をお持ちなのですが、そのどれもが繊細な力の制御が必要になるものばかりです。腕力だけであれば、まぁ、問題はないのですが、空間操作系の能力等が同じような状態になると、私でもフォローができないかもしれません」
「空間操作?」
「はい、指定した空間を切り取って違う所に飛ばしたりする能力です。上手く使えばテレポートができます」
「上手く使わなかった場合は?」
「次元振が発生し、半径数百キロが壊滅するでしょう」
「えぇっと……」
ちょっと待て、よく分からなくなってきた。
「私に、そんな恐ろしい能力があるのか?」
「はい、マスター程の御方であれば、このぐらい持っていても当然です」
マジか……勘弁してくれ。
しかし、そんな話を聞くと、素直に力の回復も喜べんな。仮に今の空間なんちゃら能力が寝ている間に回復していて、無意識のままで使い、制御できずに失敗したと考えると、恐ろしい事このうえないし、そうなのであれば怖くておちおち寝る事もできない。
それに単純な力の強さもそうだ。自分の気付かない間に回復していたとして、もしそれが、誰かに向いてしまったらと思うと、人も物も触れない。何か良い方法はないだろうか。
「……そうですね、もしどうしてもというのであれば、対策を講じる事もできます」
「それはどういう方法なのだ?」
「マスターの能力をこちらで一度凍結させていただき、制御能力の向上に合わせて少しずつ解放していくという方法です。ただこの方法は、マスターが闇の大首領と呼ばれる所以である、その絶大なお力を封印してしまう事になります。当然、戦闘能力は著しく低下し、危険も増えます。私としてはお勧めできません」
ふむ、たしかに自分の身が自分で守れなくなる恐れがあるのは怖いな。だが、私の不注意で関係のない者を巻き込んでしまう方が私にとってはよほど怖い。
それにこれは、己の未熟が引き起こしている問題なのだ。そこは私が努力をすべきだろう。私は是非もないとアリスに伝える。
「かしこまりました、マスターがそうおっしゃるのであれば」
アリスが目を閉じ、なにやらぶつぶつ呟きだすと、それに呼応するかのように、私の体が白く発光していく。
「拘束術式……能力を特例を除き条件付で全凍結……」
発光はどんどん強くなっていき、司令室を明るく照らし出す。肉体的には何も感じないが、自分の体が発光しているというのは、驚きの光景だ。
しばらくして、急激に光は弱まり、やがて消えてしまった。
「完了いたしました。昨日の御力の状態に戻した上で、能力の上昇を凍結してあります。仮に本日のように急激に腕力が回復されたとしても、マスターの制御能力が追いついていない場合は、力はその前と変わらないままになります。この能力凍結は、以後、私の方からは操作できません。一応、無理をすれば凍結したお力を使う事ができますが、それは望む結果を生まない可能性もありますのでお気をつけください」
「わかった」
「では、もう一度、椅子を叩いていただけますか?」
恐る恐る椅子を叩く。先ほどと違い、椅子が壊れたりはしない。金属と金属のぶつかる音がするだけだ。
「なるほど、自分の感覚に近い感じだな」
やれやれ、これで心置きなくモノにも触れそうだ。
「助かった。ドアはともかく、お前に何かあっては大変だからな。しかし、本当にお前は私の体の補助が出来るのだな。たいしたものだ」
「マスターの偉大な御力のおかげです」
一応、感覚を確かめる為に、あちこち触ってみる。かねがね昨日と同じような感覚で、一安心だ。
そう感じると急に腹が減ってきた。そういえば朝食がまだだったな。
朝食の事を聞こうと思いアリスの方を向くと、彼女は何かを迷っているような、そんな表情をしていた。言いたい事があるのだけれども、言っていいのかどうか迷っているような感じのようにも見えるし、深刻そうな感じの顔にも見える。なんだろう、問題でもあったのだろうか。
「どうした、アリス?」
「あの、ですね。力加減を確認するのに最適な場所があるので、ご提案したいのですが……」
しどろもどろにそう言うと、彼女は俯いてしまった。割とハキハキ喋るアリスには珍しい。
「えっと、それはどこだろうか?」
「あの、その……ここです」
俯いた状態のまま、右手で控えめに自分の頭部を指差す。
「お前の頭がどうしたのだ?」
「いえ……ですから、力加減をですね。確認するには……ちょうどよい場所であると……ですね」
頭、力加減、私の腕力。
んん、これはもしかするとあれか、頭を撫でて欲しいのか?
「どれどれ……」
右手をアリスの頭にのせ、優しく撫でてみる。一瞬アリスの体がビクッと震えたが、すぐに落ち着いたようで、体の力を抜いてきた。
俯く事によってうなじがよく見えるようになっているのだが、何故かはしらんが真っ赤だった。照れてるのか?
「これでよいのかな?」
「はい……その……恐縮です」
とまぁ、そんやり取りがあったのだが、結果として、私の体にはとんでもない腕力を初め、恐ろしい能力が眠っている事が分かった。
アリスのおかげで、今のところ問題は発生していないが、次に何があるかは分からない。自身の力に関しては、定期的に確認していったほうがよさそうだ。
自身のこの不可思議な体の事もあり、私は現状が、そういう状態なのだという事をひとまず認める事にした。一応、疑念は捨てた訳ではない。今でも何かある度に、本当なのかと考えてしまうのだが、そう考えたとしても事実は変わらない。ここはそういう世界で、私は大首領で、なおかつ悪の組織の長なのだ。そういう風に割り切る事にした。
諦めという言い方もできるのかもしれないが、幸いな事に、一度そう考えてしまうと、思いのほか気持ちは楽になった。なんせ、『そうなのか』の意味合いが変わってくる。疑る『そうなのか?』ではなく、記憶しなおすという『そうなのか』であれば、疑念を挟まない分だけ、気持ちは楽だ。
世界征服という昔の私が立てたであろう目標には、正直、興味は無い。だが、リハビリという事を考えると、やらない訳にもいかないのだろう。
悪さのさじ加減は私の方で行う事もできる訳だし、出来る限り一般人に迷惑のかからない範囲で行うとしよう。
私は三日間の生活の中で、そういう結論に至った。
司令室に戻る途中、アリスを見つけた。胸に薄い箱のようなものを抱えている。あれは確か、作業用に使っているノートパソコンだったな。先日、倉庫内の確認をしている時に見つけたものだ。今日はネットワークから外れているコンピュータからデータを抜き出すと言っていたので、たぶん、その作業に使っていたのだろう。
彼女はリモートコントロールが出来る機械であれば、念じるだけで操作できるそうなのだが、そういう機能がないローカルな機械に関しては、備え付けの端末をいじったり、今持っているノートパソコンを接続して操作しているらしい。
私はこの話を聞いた時に、無線LANをイメージしたのだが、このイメージは割りと的を得ているらしく、彼女の頭の中に無線を飛ばす機械が埋め込まれているとの事だ。彼女がぶつぶつ呟く仕草をした後、機械が動き出すというのを何度か目にしたのだが、これはそういう仕組みなのだそうだ。いやはや、SFの世界だな。
どうやら、アリスもこちらに気付いたようで、小さく微笑みを浮かべると、こちらへ向かってきた。
初めこそ表情の動かない無表情な子、という印象があったのだが、彼女は彼女なりの表情があるのが分かったのも、この三日間の成果だ。もちろん大きな表情の変化ではないので、パッと見では気付かない事もあるのだが、それでも会った当初と比べればだいぶ分かるようにはなった。先ほどの小さな微笑も、今だからこそ分かるというものだな。
「マスター、どちらに行っておられたのですか?」
「いや、散歩がてら、ここの様子を少し見てまわっていたのだ。場所によっては洞窟みたいになっているところもあってな、つい子供時代の冒険心に火がついてウロウロしてしまった」
散歩というよりは、どちらかというとリハビリに近い。体を動かして違和感がないかどうかの確認は、腕力の一件で、日課になった。
「そうでしたか、何も起こらなくてよかったです」
「ははは、私とて子供ではないのだ。一人で出歩くくらいで、心配しすぎだぞ」
「いえ、マスターのお体の心配だけではなくてですね……」
私の背中から、ずずーんと地響きのような音が聞こえてきた。かなり遠くの方から聞こえてきたが、もしかして、今のは……。
「言ってるそばから落盤ですね。アジト内は破損に加え老朽化もしていますので、区画によってはいつ崩れてもおかしくない状態なんです。マスターが生き埋めになくてよかったです」
「……あそこは先ほど私が散歩していた場所なのだが」
「危なかったですね。マスターであれば、仮にこの施設が全崩壊したとしてもお怪我はないのでしょうが、私一人では掘り起こすのが大変なので」
アリスよ、そういう事は事前に言って欲しい。戻ってくるタイミングが遅ければ、今頃は土の中だったんじゃないだろうか?
「それでですね。施設の件でご相談があるのですが……」
アリスはそう言うと、持っていたノートPCの画面を私に見せた。
「新しいアジト……か」
その日の午後、私とアリスは、先日制圧した塩頭市玉之江町の住宅街の一つへ来ていた。
「はい。この三日間で、改めて再調査したのですが、やはり前組織時のアジトは大小を問わず破壊されてしまっており残ってはいませんでした。ですが、セーフハウスのいくつかが破壊の難を逃れ、そのままになっている事が分かりました」
「セーフハウス?」
「アジトに帰還が難しいと判断された場合に、一時的に身を隠す隠れ家のようなものです」
「なるほど」
「これから行くセーフハウスは、地下にある程度の施設が作られているそうなので、アジトのベースにするにはちょうどいいと判断しました。今のアジトは先ほどのように落盤の危険性もありますので、多少手狭になったとしても、安全性の高い方がよいと思います」
「そうだな。生き埋めだけは勘弁だ」
仮に私が生き埋めになっても死なない体であったとしても、そんな目にあえば、確実にトラウマになる。それに私ではなく、アリスが生き埋めになる危険性だってあるのだから、安全である事に越した事はない。
「それで、そのセーフハウスというのは、まだ遠いのか?」
「いえ、もう見えてくる頃だと思うのですが……」
住宅街の一角に、非常に古風な日本家屋が見えてきた。
外側は生垣で覆われているようだが、手入れがされていないらしく、不揃いな状態になっている。かなり古い建物のようで、造りは木造住宅の平屋、屋根には瓦が使われているが、ところどころ破損しており、雨漏りしそうだ。壁の木材も黒く汚れており、ところどころコケが張り付いている。廃屋ではないのだろうが、寂れた感じが、少し物悲しい。
「ここです」
どうやらこの日本家屋が目的地のようだ。
「ふむ、私にはただの築うん十年数の古民家にしか見えんのだが」
「表面上はです。そうでなければセーフハウスの意味は成しません」
「まぁ、そうなのだろうがな」
アリスに案内され、中に入る。
玄関には鍵がかかっていたようだが、アリスがなにやら呟くと開錠された。どうやら見た目はただの古民家だが、アジトと同じような技術が使われているらしい。見た目の割りにハイテクだ。
家の中は埃っぽく、空気は淀み、カビ臭い。どこもかしこも薄汚れており、長らく人の手が入っていないように見えた。
「中も普通の古民家のようだな」
「はい、これも一種のカモフラージュだと思ってください」
一歩歩くたびに、床板がギシリギシリと鳴る。立て付けが悪くなっているのだろうか。
案内された部屋は、広めの作りをしている和室だった。床の間と床脇もしっかりとあり、よく分からない水墨画の掛け軸が飾られていた。ウサギのような狐のような不可思議な生物が描かれており、下手なようで味のあるような、判断に迷う絵だ。
和室の隣には縁側があるのだが、雨よけがされたままなので、室内に外の光は入ってきておらず、全体的に薄暗い。
「暗くてよく見えんな。電気はきているのか?」
「はい。こちらに来る前に電力会社に連絡してあります」
「そうか」
なんとも段取りのよい事だ。ならば、照明でもつけるか。スイッチはこれかな?
「あ、むやみやたらに押しては危険ですよ?」
「へ?」
壁のスイッチを押した瞬間、天井から何かが落ちてきて、私の脳天に直撃する。重い衝撃とともに、足元に砕けた金属片が落ちてきた。なんじゃこりゃ!?
「ギロチンの歯が全部割れちゃってますね。さすがマスター、頑丈ですね」
なんでスイッチを押しただけでギロチンが落ちてくるんだ!?
「侵入者撃退用のトラップがあちこちに設置されているんです」
「……そ、そういう事は先に言ってくれ」
「一応、言おうとした矢先だったのですが、申し訳ございませんでした」
ぺこりとお辞儀をされる。
まぁ、今のは私の不注意だし、アリスを責める訳にもいかないか。
見るとギロチンは大人の男性ほどの大きさがあり、刃は鋭利でものすごく切れ味がよさそうだ。私に当たった刃先の一部は砕けてしまっているが、もし私以外の人間がこれを喰らったらひとたまりもなかっただろう。物騒な屋敷だ。
しかし、頭がくらくらする。怪我はないとはいえ、それでも結構な衝撃だった。
頭をさすっていると、一つ疑問が沸いた。
「アリス、今、ギロチンが私に当たったよな?」
「はい」
「なんでだ?」
そうだ。ロケットランチャーの弾ですら体に触れないような謎防御があったはずなのに。
「それは、この間マスターの御力の凍結をした副作用です。能力の全てを凍結したので、防御能力も当然下がってしまっています。障壁は空間操作能力を使用していますので、実際にはかなり高度な制御が必要になります。この間は無意識のうちに使用できていたようですが、一歩間違えれば周辺の空間を吹き飛ばしていたでしょう。現在は制御能力の向上が追いついていないと判断され、展開されていないようです」
「つまり、今の状態で銃弾なりなんなりを撃たれたら、当たるという事か?」
「はい。ですが、あのような障壁が無くとも、マスターのお体はとても頑丈に出来ています。多少の衝撃はあれど、お怪我をする事はないでしょう」
お怪我はなくとも、びっくりはするのだ。そういう事も前もって教えて欲しいぞ。
地下室に降りた。
先ほどの照明のスイッチはダミーだったらしく、その下の壁を指先で軽く叩くと、部屋の中央の畳がスライドし、地下への入り口がせり出してきた。
なんとも男心をくすぐるギミックで、心がムズムズする。今度、私もやらせてもらう事にしよう。
階段を降りた先は、予想していたよりもずっと広い空間で、通路は大人が三名ほど並んでも歩けるぐらいの幅があり、先が見えないぐらいに長い。通路にはドアらしきものが点在しており、ぱっと見ではあるが、かなりの部屋数があるようだ。アリスから事前に手狭なところと聞いていたので、地下室的な狭い空間を想像していたのだが、なかなかどうして、立派ではないか。
「手狭と聞いていたが、かなり広いようだな」
「そう言っていただけると助かります。資料によるとこの施設には作戦室、開発室、格納庫、食堂、戦闘員の宿舎等があるようです」
「おぉ、なんか秘密基地っぽいな」
「あとはパチンコ部屋、ゲームセンター、マンガ図書館、マッサージ室、仮眠室、釣堀、大浴場……あぁ、大浴場にはサウナ室も完備されているみたいです」
健康ランドっぽいものが出てきたな。なんというか、ミスマッチだ。
「戦闘員の福利厚生に力を入れたセーフハウスだったと資料にはありましましたので、そのせいかと」
その後何部屋か確認してみたのだが、どの部屋も空き部屋のようになっているようで、中には、壁から無理やり機械をもぎ取ったであろう場所もあった。アリスの説明では、このセーフハウスの設備は、組織壊滅の際に、逃走資金確保の為に売却され、ほとんど残っていないとの事だった。
それでも発電設備や施設を統括するコンピューター等、重要設備に関しては手付かずのまま残されていたし、いくらかではあるが、備蓄用資材も残されていた。
電気に関しては、アリスが発電機を動かしてくれたので供給されるようになったし、水やガス等も事前連絡で開通していたようで、問題なく使う事ができる。今のアジトのように破損しているという事もなく、多少埃っぽいが、清掃さえすませれば、いつここで暮らし始めても問題なさそうだ。
施設内を一通り確認し終わると、アリスは私を宿舎の一室に案内した。
「ここが宿舎の中で一番広くて設備が整っていて状態の良い部屋になります。こちらを寝室としてお使いください」
どうやらこの部屋が私の寝室になるようだ。地下の設備だというのに、なかなかの豪華さで、バスにトイレに簡易キッチン、居間と寝室が別になっている。
天井には小さなシャンデリア、床には金の刺繍がしてある赤色の絨毯が敷かれていて、壁紙はヴィクトリア調の豪勢なもので、よく分からないが高そうだと分かる柄が描かれている。調度品も高級そうなものが置いてあり、アンティーク調のソファーや、木製のテーブル、よく分からない形をした壷や、これまたよく分からない抽象画のような絵画も飾られていた。
「マスターがお住みになるには狭く粗末な部屋だとは思うのですが、設備が整うまではこちらで我慢していただければ、幸いです」
「何を言う。十分立派ではないか。私はこれで満足だ」
むしろ豪華すぎて、気が引けるくらいだ。個人的には1LDKの粗末な部屋で十分なのだが。
「寛大なお心に感謝いたします」
それから私達は一週間かけて引越しを行った。と言っても、持ってくる荷物自体はほとんど無く、作業の大半は新しい施設の清掃と補修だった。
セーフハウスは上も下も埃だらけだったし、なにより上の日本家屋は建物のあちこちが破損しているので、直すところはいくらでもあった。DIYで出来るところは自分で直し、生垣や瓦等、技術が必要な場所は業者を呼んだ。本当は清掃業者も呼んで地下のワックス掛けをやってもらいたいところではあったのだが、さすがに秘密の地下室に業者を入れる訳もいかず、これは私が担当する事となった。
引越し要員は私とアリスの二人だけであり、時間は掛かったのだが、そもそも引越しを急ぐ理由もない。最終的に、セーフハウスはそれなりの状態になっていたし、共同作業をする中で、アリスの事も色々と知る事ができた。結果としてよかったと思う。
アジト内にあった備蓄資材は今すぐ持ってこなければいけないというものではないらしく、セーフハウスにも備蓄資材がある事から、人員が整ってから運び込むことした。
さて、引越しもある程度終わり自室でくつろいでいると、部屋にアリスの荷物が置いてある事に気付いた。そういえば、後で運ぼうと思って、他の荷物と一緒に私の部屋に置いておいたのだったな。
彼女の荷物は少なく、ダンボール二つ程度しかない。年頃の女の子としては少々物足りない量ではあると思うのだが、当の本人にはお洒落をするという感覚はないらしく、しかも同じ服しか持っていないという無頓着振りであった。ある程度落ち着いたら、アリスにお洒落の一つでも覚えさせるかとは、その時思った事だ。
「アリス、これはお前の荷物だよな?」
「はい」
「お前の部屋はどこになるのだ?私が運んでやろう」
そう言いながら、ダンボールの一つを持ち上げる。ダンボール箱には大きく服と書かれている。
「いえ、そのままで結構です」
「遠慮するな。私の腕力が高いのはお前も知っているだろ?」
「いえ、私もここに一緒に住みますので、移動は不要かと」
「なにぃ!?」
アリスがとんでもない事を言い出す。思わず持っていたダンボールを落としてしまった。
「なにか問題でもありますか?」
「ある! あるに決まっているではないか!」
当のアリスはすまし顔。何が問題なのか分かっていないようだ。というか、そんな話は一言も聞いていないぞ。
「いいか、アリス。男女七歳にして同衾せずという言葉があってだな、年頃の男女が一緒に住むのは良くない事なのだ」
「それは一般的な異性間の戒めの言葉だと思うのですが」
「そうなのだが、お前も年頃の女の子だ。私と一緒では何かと問題があると思うのだ」
この数日間、基本的にアリスは私にべったりだった。さすがにトイレや風呂、寝る時まで一緒という訳ではなかったが、それ以外の時間は大抵一緒に居た。私としても勝手の分からない事が多かったので、それを特に問題視していなかったのだが、今後は違う。
単純に着替えの問題もあるし、それ以外の男女の違いという部分で色々と問題は出てくるはずだ。相手がいくら小さい女の子だからといって、その辺の分別はつけなければいけない。
「ですが、私はマスターに作られた、マスターの所有物ですし。その定義には当てはまらないかと」
「しかしだな、私とお前は男と女なわけであって、こういう事は分けた方がよいと思うのだ。その、色々とな、あるだろ?」
「マスターは創作物に男女の違いがあるのかとお悩みになるのですか?」
「お前は創作物ではない。一人の女の子ではないか」
「外見は女性を模していますが、それは私の素体が女性だっただけであって、人造人間の私を分別するものではありません」
彼女は時折りこういう言い方をする。自分は物だから気にするなと言うのだ。しかし、私はアリスを物として見る事はできない。ここは一つ腰を据えて話をしてみるか。
「わかった、アリス。そこに座りなさい」
手近な椅子に座り、向かいの席にアリスを座らせる。
「なんでしょうか?」
「アリス、私の手を握りなさい」
「はい」
差し出した右手を、アリスが両手で掴む。アリスの手は小さく、私の手の半分の大きさもない。ほんのりと暖かく、血の通った、人間の手だ。
「お前の手は、血が通った温かい人間の手だ。懸命に生きようとしている立派な生を感じる」
「そうですね。人造人間ですが、素体は人間のままですので、体の機能は普通の人間と変わりないはずです。血流もあれば体温もあります」
「いや、そういう意味ではなくてだな」
この際、はっきりと言ってしまおう。遠まわしな言い方では、アリスに届きそうもない。
「いいか、アリス。人間から生まれたか、人工的に作られたかの違いはあるのだろうが、そんなものは些細な違いでしかない。血を通わせ生きているのであれば、それは立派な一人の人間だと私は思う。お前は度々自分は物だという言い方をするが、私はその考えを受け入れる事ができない。なぜか、わかるか?」
アリスが首を振る。
「それは、私がお前を人間として見ているからだ。お前が自分の事をどう言おうと、私には人間の少女にしか見えない。人間の少女にしか見えないのは技術力がどうとか、私の力がどうとかとも言われたが、それも関係ない。お前は私にとっては、一人の人間の少女なのだ」
そう、彼女は人間だ。血の通った一人の人間だ。それはきちんと教えなければならない。
「……私にはお前の記憶が無い。自身の事を覚えていない相手に対し、ここまで尽くしてくれているお前に、申し訳ないとすら思っている」
それに関しては本当に申し訳ないと思っている。自身が彼女の立場であったのならばと考えると、私には堪えられそうもない。
「だが、この数日で一つ気付いた事があるのだ。それは、私はお前を大切にしなければならないと自然に思うという事だ。初めは感覚的なものでしかなかったのだが、数日お前と暮らし、はっきりと気づく事ができた。たぶん、昔の私はお前を本当に大切に思っていたのだろう。だから、今の私にそういう感覚が残っているのだと、私はそう考えている。事実、記憶を失っているとはいえ、私はお前の事を大切だと思っているし、この気持ちに嘘偽りはない」
これも本当の話だ。初日に感じた義務感や使命感とは別に、私の心にはこの子を大切にしなければならない、大切にしたいという感情が残っていた。それに気付いたのもこの引越しの最中の出来事であった。
「だから例えであったとしても、自分を物と同じだなどと言って欲しくないのだ。私の大切な人が、物と一緒だと、大切な人間の口から言わないで欲しい。私はお前を一人の人間の少女として見る。だから、出来る事なら、お前も自分を一人の人間の少女としてみなさい。できるだろうか?」
そこまで言って、私は口を閉ざす。言いたい事は言ったし、後はアリスがどう思うかだ。
彼女は眉をひそめ、下唇をかみ締めている。驚いているようにも見えるし、戸惑っているようにも見えるし、何かに耐えようとしているようにも見える。こんなにも表情がはっきり動くアリスは初めてだ。
今、彼女は何を考えているのだろう。少しでもいいので、私の言った意味を受け入れて欲しいものだが。
「……ますたぁ」
アリスが私の名前を呼ぶ。その声が震えている。
「分かってくれたか?」
「……はい……ぐすっ……ぐす」
アリスの頬を涙が伝い落ちる。彼女の涙は止まる事が無く、やがて、耐え切れなくなったのか、声を上げて泣き始めてしまった。
え、なんでだ!? 今の話の中で、どこか泣かせるところがあったか!?
「ど、どうしたのだ、いきなり泣き出して!?」
なにか変な事でも言ってしまったかっ!? もしかして記憶がないの件が良くなかったのか!?
「いえ……ち、違います」
両手で涙をぬぐいながら、アリスが続ける。
「私の事を……そこまで思っていただけていた事が嬉しくて……うぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇんっ!!」
天井を仰ぎ、さめざめと泣くアリス。どうやら嬉涙のようではあるが、女の子に目の前で泣かれるというのは、正直どうしていいか困ってしまい、おろおろしてしまう。
「な、泣かないでくれ」
「かしこまりました」
急に真顔に戻ると、ピタリと泣き止んでしまった。
「……な、泣き止んだな」
あまりの急変ぶりに、たじろいでしまう。
「マスターのご命令ですから」
私の命令であれば、泣き止んでしまうのか。彼女らしいといえば彼女らしいのだが、自分の感情を押し込めて表情を元に戻すというのは、かなりの精神力が必要な技だろうし、ある意味ではすごい。
しかし、無理に泣き止もうと堪えているのだろう。目じりと口元がだんだんぴくぴくと痙攣してきて、ぐすっぐすっと鼻をすすり始めてきたし、よく見れば肩も細かく震えている。決壊寸前のダムのようだ
「……ぐす……ぐす……う……うぅぅ~~~っ!」
無表情が崩れてきて、泣き出しそうになるが、それでもなんとか堪えるアリス。なんというか、もう、見てられない。
「わ、わかったわかった。私の胸でよければ貸すから好きなだけ泣きなさい」
「う……うぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええんっ!!」
アリスは私の胸に飛び込んでくると、そのまま大声をあげて泣き始めた。
頼りになるとはいえ、やはり子供なのだ。普段はそつなくなんでもこなしているように見えるが、そう見えるだけであって、彼女も色々と思う部分はあったのだろう。特にこの子は感情をあまり表に出さない子だ。吐き出せない思いを内に溜め込み、苦しんでいたのかもしれない。
そう思うと、母性ならぬ父性がふつふつと沸いてくる。泣き続ける彼女の背中をぽんぽんと優しく叩き、後ろ髪を撫でてやる。
「うむうむ、さぁ泣け、涙枯れるまで泣け。子供は泣くのも仕事だ」
「うぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇん!!」
アリスはそれから小一時間泣き続けた。溜まっていたものを吐き出すように、大声をあげて、泣き続けた。
やがて、落ち着いたアリスは、目を赤く晴らしながらも、すっきりした顔をしていた。
うむ、それでいい。
「……という訳でして、マスターのご要望を考慮してこのような形にしてみました」
「なるほど、居間は共用として寝室は分けるという考えだな」
あの後、落ち着いたアリスと再度協議した結果、このような形に落ち着いた。
あてがわれた部屋は3LDKの間取りとなっており、寝室と居間以外にも部屋が一つある。その部屋をアリスの寝室とし、それ以外の部分を共用とする事で話をまとめる事となった。
プライベートスペースがあるのであれば、着替えやその他の部分でもなんとかなるだろうし、アリスを無理やり別の部屋に押し込まなくてもよくなる。
まぁ、これで妥協するしかないのかな。
「マスター、その……先ほどは申し訳ありませんでした」
彼女は自分の荷解きをしながら、私に謝罪してきた。私に背を向けたままの姿勢でいるところを見ると、照れているのだろうか。人に泣き顔を見せるのは子供でも恥ずかしかったという事だろうな。
「いや、気にするな。泣く事は悪い事ではない。考えてみれば、お前はまだ幼い。幼い者は時に涙し、そしてその分だけ成長していくものだ。お前は今日、よい経験をしたのだ。それでいいではないか」
涙の数だけ強くなれるのとは、誰かの歌の歌詞だっただろうか。だが、人生とはそういうものだ。今回の件は、アリスにとってもよい経験になっただろう。
「これからも、少しずつ成長していきなさい。私はそれを見守ろう」
「はい、これからもよろしくお願いいたします。」
アリスが振り返る。はにかんだ笑顔が、かわいらしいと思った。
さぁ、私も引越しの残りを片付けてしまおう。
「ふむ、こんなものかな」
最後の一つをソケットにはめ込み、脚立を降りた後、私は一息ついた。
引越しは無事終わり、生活施設の整備も大体終わった。今日からはここが我が家だ。
「電球交換、ご苦労様でした」
脚立を押さえていてくれたアリスが、私をねぎらってくれる。
「なに、このぐらいたいした事ではない。これでひとまずは生活できるようにはなったのかな?」
「はい、マスターのおかげで基礎整備が早く終わりました。後は時期を見計らって、個々の設備を増強していきたいと考えています」
「そうだな」
今日までの引越し作業の間に見てきた、各施設の事を思い出す。
当初はアリスの説明どおり、もぬけの殻だと思っていたのだが、確認していくと、思いの外、基本設備が残されていたのが分かった。
例えば食堂に関して言えば、机や調理器具等がほとんど無い代わりに、炊飯器や小型の冷蔵庫、ガスレンジ等は残されていた。浴場の方もボイラー設備は手付かずになっていたし、娯楽室にはテレビや少しばかりではあるが予備の布団が残されていた。
たしかに整備をしていかなければいけない部分はたくさんあったのだが、最低限の生活をする為の設備が残されていた事は、嬉しい誤算だった。
「もしかしたら、ですが。ここを利用していた者達は、ここを手放す際、組織の復活を信じて、わざと残していったのかもしれません」
そうなのだろうか?
顔も名前も覚えていない者達ではあるが、そういう風に思ってくれていたと考えると、不思議と嬉しい気持ちになる。記憶にはなくとも、確かにここにあった縁を感じ、私は自然と頬が緩むのを感じた。
「さて、アリス。今日はこのぐらいにしよう。私もさすがに疲れた」
「はい、かしこまりました。お風呂を準備してありますが、すぐにお入りになりますか?」
「気が利くではないか。ぜひいただこう」
ここの浴場はちょっとした銭湯よりも立派な作りになっている。そんな浴場を一人で独占できるというのは、なんとも贅沢な話だ。
「かしこまりました。では、私もご一緒させていただきますね。前のアジトの時は何かと理由をつけられて、ご一緒できませんでしたが、本日こそはお背中を流させていただきます」
この子はまたとんでもない事を言う。
小さいとは言え、女の子と風呂に入るのを拒否するのは当たり前ではないか。お前はもっと恥じらいというものをもってだな……。
「前組織時のとある幹部の方から、マスターに対し、影に日向にお使いせよと指導を受けています。それになにより、私はマスターにお見せして恥ずかしいところなど、欠片もありません」
そんな鼻息荒く力説されても、困るものは困るのだ。
うぅ~む、先ほどあのような話をしたばかりだというのに、どうしたものか。
私はどうやったらアリスが一緒の入浴を諦めてくれるのかを考え、頭を悩ませたのだった。