第5話
夢は廻る夢は廻る
そしてユーリは目を覚ます
「うーん」
ユーリはそう言いながら軽く背を伸ばし辺りを見回す。
どうやらフェルディスは居ないようだった。
「そういや、服着替えなくて大丈夫なのかな」
そう言いながら自身の服……フリルの付いた黒い服を確認する。
心の余裕が多少ともありユーリは気がついてしまった。
此処数日山道でさ迷って居たのにそれは汚れもせず
切れても居ない。
自分は得体の知れない服を着て今までそれの違和感が無いことに。
ギィ
「おう、ユーリ起きたか」
ユーリがそう考えて居るときフェルディスが
部屋に入って着た。
右手にはパンのバケット、もう片方の手には水差しを持っていた。
「フェルディス、この服なんだけど」
フェルディスからパンを受け取り
この服に不安になったユーリはフェルディスに質問する。
「その服か、私は専門家では無いが恐らくそれは魔道具の一種だろう」
ユーリの質問に対しフェルディスはそう答える。
その答えに対して魔道具という物はわからないが
ユーリはとりあえず昨日食べたのに比べ幾分か
柔らかいパンを頬張りながら納得した。
「ユーリ、その食事をしたらこの村を出るぞ」
「わかった」
フェルディスの言葉に
瞬く間にパンを食べ終えたユーリは出る準備をする。
といっても手荷物すらないので準備といっても軽く体を
動かすだけだが。
チェックアウトしたユーリとフェルディスは宿を出ると。
「やあ、待って居たよ」
ネコミミに白衣を着けた金髪の豊満な女性が立っていた。
「ソニア、何故此処に
君と合流するのは次の次の村の筈だが」
それを見たフェルディスは軽く頭を押さえつつ
ソニアに質問した。
「何、人の転移の安定化に成功してね
テストも兼ねて此処まで来たのだよ
それで君がユーリ君だったかい
私の名前はソニア・プロヴィテンスよろしく」
フェルディスの質問に答えつつソニアはユーリに
手を出した。
「よろしくお願いします」
ユーリはソニアと握手する。
ユーリはソニアのネコミミに少し疑問を思った為そちらに目を向けると。
「これはただの魔術媒体だ
気にしないでくれ」
それに気づいたソニアはそう補足する。
「いや、理解はできたが……
此処じゃ満足にユーリの体を検査する事も出来ない筈だ」
辺りを見回しながらフェルディスは言う。
「確かにな
だから場所を変えよう」
その言葉ともにソニアの足元に魔法陣が現れる。
「おまっ」
ソニア、ユーリ、フェルディスは魔法陣に包まれ消える。
「ようこそアカデミーへ」
その言葉ともにユーリの前にはかなり大きな屋敷が有った。
辺りを見回すと自分の後ろの道沿いの先に門が大きくそびえたって居るのが見えた。
「ソニア!!」
「フェルディス、ユーリ一目惚れにでもしたか?
詰め寄るよりも先にする事があるだろうに
アウグストゥス」
フェルディスの凄みを軽く受け流しつつも
ソニアは呼ぶ。
屋敷からソニアのと同じ白衣を着て眼鏡をかけたソニアと比べ少し貧相な女性が走って向かって来た。
どうやら彼女がソニアが呼んだアウグストゥスのようだ。
「師よ、まさか一切説明もしないで
転移「したが」
はぁすみませんフェルディス卿
うちの師が迷惑をかけて
それで君がユーリ君ですか
ソニアの弟子のアウグストゥス・スレーダーと申します
よろしく」
フェルディスにペコリと謝ったアウグストゥスはソニアと同じように手を出した。
ソニアとフェルディスが罵りあってるのに目を剃らしながら
二人は握手をした。
「アウグストゥスさんよろしくお願いします」
・
・
・
「えー、これよりユーリ君の簡易ですが身体テストを
行います」
「何故、私が縛られているのか
疑問なのだが
ステラ、ほどいてくれ親友だろ?」
「ソニアはともかく何故、私まで」
「流石に今回のはフォロー出来んよ」
グルグルに縛られたソニアとフェルディスを尻目にアウグストゥスは声を拡げる。
その横に何時のまにやら現れた金髪の白衣を着た少女……ステラがため息を吐きつつユーリを見る。
ちなみにさっきと場所と変わらずにアカデミーの屋敷の前である。
「えーとあなたは?」
何時のまに現れステラに対して疑問を言う。
「君の魔力調査をさせてもらうステラ・リッパーだ
よろしく頼む」
「ユーリです、よろしくお願いします」
ステラの自己紹介に対してユーリも返す。
「さて、ユーリ君
まずはこれを持ってください」
アウグストゥスはユーリの手に棒状の物を手渡す。
それは様々な紋様がかかれその中程にダイヤルとスイッチが付けられた90
センチメートル位の棒だった。
「軽い」
自分の身長の顔の少し上ほどに届く長いそれをユーリは持つとその軽さに驚く。
「訓練用の模擬杖か
確かにテストにはちょうど良いな」
フェルディスが棒……模擬杖を見ながら言う。
ちなみにこの杖は所持者の魔力を汲み取りそれにより杖を重くするという物でベルクス帝国では一般兵の訓練に良く使われているポピュラーな一品である。
「ユーリ君
それのダイヤルを少し上に動かしてください」
「はいっ」
その言葉ともにユーリはダイヤルを少し上に動かすと模擬杖は
ほんの少し重くなる。
重くなるといっても紙が1枚から2枚に増えた位で殆んど気にはならない。
「ふむ、ユーリ君重さはどうですか?」
「殆んど変わらないです」
その言葉にアウグストゥスは軽く頭を抱える。
「……ユーリ君重いというまでダイヤルを上げてみてください」
「はい」
ユーリはダイヤルを上げていくが一向につらくなるほど重くなると感じていない。
そしてダイヤルは上がりきった。
それを見たアウグストゥスは頭を抱えながらも冷静に考えた。
確かあれの最大重量って100キログラム
魔力でブーストをしてるのかそもそも人ではないのか。
少なくとも外見では判断しては駄目ですか。
「……少なくとも力とは有るみたいですね
次は持久力のテストです」
眼鏡を軽く直しつつアウグストゥスは言う。
「それについては保証する
何せ黒の森を2~3日間何も持たず生き抜け
マッシブタウロスとおいかけっこ出来る時点で
持久力はそこそこ有る」
「フェルディス卿それ聞いてませんよ!?」
フェルディスの放ったその言葉にアウグストゥスはさらに頭を抱える。
マッシブタウロスってCランクモンスターの中でもそこそこの強さを
誇る奴だったような。
まあ早いだけの雑魚ですがあれとおいかけっことは。
少なくとも事前に用意した物では日がくれますか。
「えーと……
持久力は中止して
ステラさんよろしくお願いします」
「任されたユーリ着いてこい」
「はい」
アウグストゥスの言葉ともにステラとユーリは屋敷の中に入っていった。
「アウグストゥス何時までこのまま何だ?」
「もうそろそろほどいても欲しいのだが」
ソニアとフェルディスが口々に言う。
「そうですね
ほどきましょう
ただ挑発に乗ったフェルディス卿はともかくとして
師には少し反省していただきませんと
ですので今日はチーズもアイスクリームも抜きです」
その言葉にソニアは青く染まる。
「いやぁぁぁぁ」
ソニアの絶叫が響き渡った。
「何かさっきソニアさんの悲鳴が聞こえたような……」
「恐らくアウグストゥスに今日の食事の好物を抜かれたのだろう」
ユーリとステラはソニアの悲鳴を聞きつつ屋敷に向かう。
近づく度にその大きさにユーリは驚く。
ユーリがこの人生で見たどの様な建物よりもこの屋敷は大きかった。
屋敷の前大きな扉が開きステラとユーリはその中に入っていった。
扉を抜けた先、そこには大きなエントランスが広がっていた。
上にはシャンデリア壁面には色々な絵画が飾られて居た。
入り口に程近い左右にある大きな通路を無視しステラは進んでいく。
エントランスの奥の方に2つの螺旋階段があり、ステラはそのうちの右の階段を登って行く。
それにユーリはついていく。
階段を登った先にはそこそこの大きさの広間がありその一角には何人かの白衣を着た人間がテーブルに置かれてカードと片手に持つカードを見ながら椅子に腰かけていた。
「ああ、あれは暇潰しの一環だよ
一口に研究といっても時間のかかる物も有る
あとは此処一帯は娯楽が無いから
気分転換がわりにやっている者も多い」
そうステラは言いながら広間の隅にある扉を開け入りユーリもそれについていく。
その先は廊下であり扉がずらっと並んでいた。
その内の1つ廊下に入って3番目のドアにステラとユーリは入って行った。
その部屋に入ったときユーリの耳に不可思議な音が入ってくる。
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス
それは少女が笑うような声であり
それを聞いたユーリは辺りを見回す。
その部屋は入った扉からみるとはるかに広く。
少なくとも先ほど見た広間より広かった。
そしてその中央に椅子と机と本棚や棚や自分にはよくわからない物が有るが
ユーリの視認する中でステラ以外の人影は無い。
「気にするな、私のペットだ」
その声と供にステラは中央に向かう。
「そうですか……」
ユーリはそう言いつつも警戒しながらステラについていく。
「すわりたまえ」
「あっはい……」
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスククス
中央についた一層強くなった音にユーリは少しの怯えがあるがステラの言葉に従い椅子に座る。
「本来なら検査前に一回体を洗う予定だったが
すまんが今は大浴場は清掃中でな
さて魔力検査といってもそこまで難しく無い
まずは髪の毛を数本貰うぞ」
そう言いステラは棚からハサミを取り出す。
「えっとお手柔らかにお願いします」
チョキン
髪を切ったステラはその内のなん本かユーリにはよくわからない装置の
中央にある扉の部分に開き入れる。
「あれは何ですか?」
それを見たユーリはステラに質問する。
「ああ、これか
これは魔力測定器、魔力を測り取る物だよ
まあコイツは人用じゃ無くて魔石用のだがな」
そう言いながらステラは残ったユーリの髪を見る。
その目には多数の魔法陣がえがれていたがそれにユーリは気づかなかった。
「………………ふむ、ユーリよ
何が有っても己を見失うな」
ユーリの髪を見たステラはユーリに対しそう言う。
「えっ?」
その言葉にユーリは聞き返す。
「ふむ
これは幻夢郷の応用……
だがそれにしては稚拙すぎる
……なるほどそう言うことか
だがアレは一回休みを貰ってる筈
なればあやつはそもそも介入する筈無い……
となると……」
ユーリを見ながらステラは呟く。
「ステラさんいきなりどうしました?」
その言葉にステラははっとする。
「ああ、すまない
ちょっと、考え事をしていた」
二人の間に沈黙が訪れる。
チーン
その沈黙を破るように甲高い音がなる。
測定が終わったようだ。
「どうやら終わったようだな
コイツはなかなか正確なのだが
その分少し時間かかるのがな」
そう言いながらステラはその装置に取り付けられていたメーターを見る。
「ほう……
ユーリの魔力は高いな」
そう言いながらステラは紙にその結果を記す。
「高いんですか?」
その言葉にユーリはステラに目を少し輝いて言う。
「高いぞ
まあ私やソニア、アウグストゥスには負けるがな」
そういいながらステラは軽く笑う。
「そんな……それで私はどうなるんでしょうか?」
そう言い少しショックを受けつつユーリは自分がどうなるのか言う。
「年季が違うからな
扱いについてはまあそこまで心配するな
少なくともソニアは庇ってくれるだろう
あいつは同胞や味方にはなんだかんだで甘いからな」
「そんなに偉いんですか、ソニアさんは?」
同胞という言葉に違和感とそして
少なくともユーリから見た彼女はとてもそうは思えなかった。
「あれでも7騎士の1人黒騎士だ
それに今のメンバーでは最古参組の1人だったかな」
ステラは軽く溜め息を吐き言う。
「すいませんそもそも7騎士って何ですか?」
ユーリは7騎士と呼ばれる存在を知らなかった。
その為ステラに質問する。
「まず其処からか
喉も乾いたろうし飲み物を用意しよう
確かここに……」
そう言いつつステラは棚からコップとガラス瓶を取り出す。
ガラス瓶からコップに並々と注ぐ。
それは上品な黄金色の液体で少し甘い香りがした。
「えっとこれは
あっ甘い」
出された物を軽く飲んだユーリはその美味しさに驚く。
少なくとも自分が今まで飲んできた飲み物その全てよりも
美味しい物だった。
「蜂蜜酒だよ
ああ大丈夫だ酒精は入って無い」
それを聞いて吹き出そうとするユーリをステラは慌ててフォローする。
「さてそれでは始めようか」
「7騎士とはべルクス帝国最強の7人に与えられる称号だ
まあ正確には強さに加え何個か条件がある
今の代だと
黒騎士 魔導ソニア・プロヴィテンス
赤騎士 神槍スカーサハ・シャドー
緑騎士 戦王クー・フラン
空騎士 速騎フェルディス・コノート
黄騎士 白弓タントリス・マルクール
青騎士 双刃ダーマット・オルディナ
白騎士は今は空位だな
」
「フェルディスってそんなにすごい人だったんだ……」
そう言いながらもユーリは蜂蜜酒を飲む。
「で、7騎士には特権がある
帝国の不利益にならない限り自由行動が許される」
「それがあるから私は大丈夫何ですか……」
そう言いユーリは軽く息を吐く。
「ユーリ、君は子供だ
気に病む事は無い」
ユーリの肩を軽く叩きながらステラはそう言った。
「おっともうこんな時間か」
ふと棚にかけられた文字盤を見たステラは言う。
ユーリにはわからなかったが時計のようだった。
「アウグストゥス達を
待たせているだろうし
戻るぞ」
「送らせて……
ステラ、こいつらを止めて欲しいんだが」
その言葉にステラは止まる。
そこにはソニアがブヨブヨしたゼリー状の何かに引っ付かれながら
立っていた。
「私の知り合いには人の部屋に転移魔法でいきなり入る者などいないが?
」
そう言いながらステラはメスのような刃物を懐から取り出す。
両手に1本ずつ持ち右手のそれを軽く回した。
「すまんがそれは勘弁して欲しい
それにユーリも見ている事だしな」
そう言いながらソニアが指差すとユーリは震えていた。
「ユーリ先に部屋から出てくれ
心配するな、この馬鹿の臓腑を引きずり出すだけだ
何、その程度でこの馬鹿は死なん」
そう言う風に言うとステラは虚空から鈍い輝きの本を取びでる。
それは表紙が鉄で出来た異様な本で有った。
ユーリの人として残ったちっぽけな本能がそれを忌避し見ない用にするが
何故か目をそむける事が出来ない。
「ふむ、なるほど……
ユーリ少し目を閉じたまえ」
ソニアのその言葉どおりにユーリは目を閉じる。
パチン
ソニアが指を鳴らすと共にユーリがその場から霧の用に消え失せ無くなった。
ユーリの眼前には頭を抱えたアウグストゥスとフェルディスが居た。