第1話
「お兄ちゃん、大丈夫?最近元気無いけど……」
妹の心配する声が聞こえる。
「大丈夫だよ、灯お休みなさい」
その声に対し必死に誤魔化し布団に入る。
「なら良いんだけどお休み」
少年竜崎有理にはつい最近できた秘密がある。
正確には他の人に何故か言おうとすると口がつぐんでしまい言うことが出来ないのだが……
彼は眠ると夢を見る。
それは3日前から続いている夢。
自分が少女になり森の中をさまよう夢を……
グシャグチャ
龍のアギトにより身体を噛み砕かれた犬を放り棄て有理は宛の無く深い森を
さまよう。
彼がこの夢を見るようになって3日。
良くわからない服、図書室で借りた物語に出てくるような化け物のような自分の姿その事に関し有理はこれがただの夢と決めつける。
それは幼い有理の僅かの抵抗なのかも知れないがこれが今の主柱だった。
確かに疲れる肉体、喉の乾き等を無意識に目を逸らしながら。
「うーん、なかなか森から出られない……」
息を軽く切らしながら有理はそう言う。
そして彼女はうとうとし始める。
「やっと終わりか」
そう言い有理は目を閉じる。
それがこの夢から覚める合図だった。
男は駆ける。
長い銀色の髪と三本の剣と獅子の紋章のあしらった空色のマント翻しながら、馬車を獣を風を音を通り越して……
ただ駆ける。
そして男は駆けるのを止める。
その前には周囲を城壁で囲まれた街が有った。
「特殊連絡珠を使うとは何が有ったというのだ」
男はそう言いながら街に入ろうとする。
その男を見て門番が調べよう駆け寄ろうとするがその前に身なりの良い髭面の男性が駆け寄る。
「空騎士様お待ち致しました、私この街クノッヘンを任せられている、
ギールと申します」
髭面の男ギールは男、空騎士に対しペコりと挨拶をする。
「で、何が有ったんだ?
特殊連絡を使う事からただ事では無いのがわかるが」
空騎士はギールにそう質問する。
「見た方が早いかと……ご案内します」
そうギールは言い男を案内する。
ギールが案内したのは回りからみたらただの小屋だった。
だが空騎士は小屋にかかっている魔法を見て目を細める。
そして小屋に入る。
そこには何匹もの生物の死体があった。
「これが連絡したことです」
ギールが死体を指差しながら言う。
「……ベヒーモスにやられた?
いや違う、ベヒーモスはこんなに小さくは無い」
空騎士は死体を調べながら言う。
「ギール、これを見つけた場所は?」
空騎士はギールに対し質問する。
「黒の森の入り口から少し入ったところです」
空騎士の質問に対しギールはそう答える。
その質問を聞いて空騎士は思案する。
黒の森……ベルクス帝国南部に広がる広大な森
最大捕食者はベヒーモスだがそれは傷の大きさから違う。
それにそもそもあいつらは奥地にいる筈だ。
ならオルトロス、ウッドキラーウルフ、ブリッツヴァイパー……違う、奴らはこんな傷をつけない。
他にあるとしたらワイバーンだが森の中に獲物を何匹も置いてかない。
なんだ、こいつは……
いや、1つだけ予想が付く……だが……
「空騎士様お分かりになりましたか?」
空騎士に対しギールは質問する。
心無しか震えているようだった。
「恐らく、これらを殺った下手人はドラゴンだ」
そう言いながら空騎士は小屋の扉を開ける。
「ドラゴン大丈夫何ですか?」
ギールが出ていく空騎士に対し震えながら言う。
無理も無いドラゴンとは天災そのもの、一番低級のレッサーでそこそこの規模の村を鼻歌混じりで滅ぼす連中だ。
「この傷の大きさから考えて相手は恐らくレッサーかヤングのどちらかだ、
なら心配は無いレッサーなら殺れるし、ヤングなら逃げられる」
そう言ってギールを落ち着かせると空騎士は黒の森に向かった。
「さてとドラゴンが相手となると……」
そう言いながら黒の森の前に来た空騎士は右手を掲げ詠唱する。
「我名は7騎士の1人空騎士フェルディスなり
我が槍よ呼び掛けに応じたまえ」
右手に光が集まり霧散するとそこに空色の槍が現れそれを空騎士フェルディスは槍を掴む。
「レッサーならば良いが……」
その言葉と共にフェルディスは風のようにかき消えた。
「来るなよ」
その言葉と共に有理は逃げる。
その後ろには巨大な筋肉質の大きい牛のような獣が有理を追いかけていた。
逃げている時にたまにある折れた木を背中の龍を使い投げつけるがそれをものともせず獣は有理を追いかける。
あんなのがいる何て……
有理はどうしてこうなったと自問した。
それは有理が泉を見つけ喉を潤した時いきなりあいつは現れ襲ってきた。
そのまま今に続く。
有理は逃げる、早くこの夢が終わって欲しいと願いながら……
その瞬間獣の片方の足を銀髪の男フェルディスがその槍を投げ貫く。
それにより獣は体勢を崩しもがく。
「なに!?」
いきなりの乱入者に有理は驚き足を止める。
「ふむ、君に色々と聞きたい事があるがこれを倒してからだな」
獣から槍を抜き有理の横に立ったフェルディスが言う。
「君は此処で待ってると良い、なにすぐ終わる」
そう言いフェルディスはかき消える。
「さて、という訳だ、君に恨みは無いが……」
ザシュ
そう言いフェルディスはもがく獣に止めをさす。
「貴方は……ひぃ」
有理はフェルディスに近より喋りかけるがその眼前に槍を突きだされる。
いきなりの事により有理は腰が抜け座り込む。
有理を守るように龍が威嚇する。
「アカデミーの新しいキメラ?いや、だが……
君の名前はなんだ?」
有理に槍を突きだしフェルディスは疑念を払拭するために
有理に対し質問する。
「有理です」
その言葉におずおずと言う。
「ユーリか……ふむ、なかなか良い名前じゃないか」
そう言いながらフェルディスは少なくとも
アカデミー製では無いと確証する。
だがそこで新たな疑念がフェルディスにちらつく。
あのマッド共以外に誰がユーリを作ったのか……
そのフェルディスの疑問を答える者は誰も居なかった。