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第五話

短め/会話文メイン/やりかた修正中

その瞬間は、あっけなく訪れる。


「敵艦、発砲!」


何故、と問う間もなくぐんぐん迫ってくる敵影。


逃げるはずの敵。だが、実際には酷く戦意旺盛。アルバの予想を裏切り、敵は一戦交えることさえ辞さないらしい。


だからこそ、敵がやる気だと理解した瞬間にアルバは一心不乱にテリブル号を直進させていた。


なにしろ……テリブル号にはほかに戦う手段があまりない。


「弱い狗ほど良く吼える! 構うな! ぶつけろ!」


ぶつけろ、と豪語するアルバ。


だが、実際には『ぶつけ』でもしない限り大した戦いも出来ないのは言わないのが華だろう。


なにしろ、砲撃なんぞ、やったこともない水兵らが殆ど。


マトモに大砲を操作できる水兵は僅かに100名いるか、いないか。


で、その100人抜きにテリブル号を操船できるかといえば果てしなく疑わしい。


動けない船に砲手が何人いても仕方ないし、砲手があてにならない船ならば突撃あるのみ。


もっとも、アルバにしてみれば忸怩たる思いだ。


16859スクード14ドナルド3カッパードを投じたテリブル号。そう、16859スクード14ドナルド3カッパードもこの艦には投じたのである。


こんなもので、衝突など……と内心はウンザリだ。


敵フリゲートにテリブル号は見事に横付けするが……衝突の瞬間、アルバの心臓はすくみ上がる。


だが、それ以上に取れる手段がない以上は仕方ない。


「ミスター・ポートマン、切り込んでくれたまえ」


「イエス・サー!」


しごく、単純だ。


横付けし、敵の甲板へ上から飛び降りる。なにしろ、戦列艦の方がでかいのだ。当然、舷もでかい方が高い。


「バレッタ伯爵家の勇士諸君! 伯爵閣下に恥ずかしいところをお目にかけるな! 勇を振るうは今ぞ! ツヅケェ!!!」


そして、殊更声高らかに先頭を駆けていくハロルドの力量は……なんというか、圧倒的だ。まさか、戦列艦が我武者羅に突っ込んでくるとは予想していなかったのだろう。


切り込み防止ネットもマトモに張られていない敵のフリゲート艦へあっという間に乗り込み、これでもかとカトラスを振り回している。


お陰で彼に続く水兵らも、ともかく、人数と勢いで敵のフリゲート艦甲板を制圧しつつある。


この調子ならば、制圧は時間の問題。


やれやれ、と思ったところでアルバ艦長はふと気が付く。


じーっと自分を見つめるアメリア三等海尉からの視線。


意図するところは、明瞭なのだろう。


自分も、敵艦に切り込みたい、という意思の表示。或いは、単純に士官として振舞う以上は戦わせてほしいという意思。


だが、渋々艦においているだけの女性を敵艦に切り込ませるなど……とアルバは心中で自問する。


「艦長、宜しいでしょうか?」


「必要かね?」


だからこそ、アルバとしては『必要かね』と一言漏らさざるを得ない。


別に、負け戦でもなんでもないのだ。


アメリアやマルタが士官として、それこそ敵と死闘しなければ全滅する場面でもあれば別だろう。だが、そうでもなければわざわざ戦う必要など……と続けかけたところでアルバは気が付く。


こちらを見つめる瞳。


その意志の強さ。


「私は、海尉ではないのですか?」


つまるところ、お飾りになるつもりはないらしい。


よくよく見れば、アメリアは古に言うところの女海賊のようにカトラスを担ぎ、今にも敵船に切り込まんとばかりにちらり、ちらり、と視線を動かしている。


「……っ、ミスター・アボット、続きたまえ」


だからこそ、アメリア三等海尉に促された末に渋々ながらも、アルバは突撃許可を出す。


期待しているよ、と定型どおりの言葉で見送るアルバ。その目の前で満面の笑みを浮かべるなり、アメリアは咆哮していた。


「アボット子爵家の我が朋友諸君! 一つ、尊敬できる戦友諸君に我らが武勇をご覧頂こうではないか! いくぞ!」


「アイ・アイ、サー!」


待ち望んでいた、とばかりに駆け出すアメリア。


それに続くアボット子爵家由来の水兵らは実に機敏だった。


呆れたことに、というべきだろう。ハロルドと対峙している敵の意表を突くように、此れでもかとばかりに新手としてなだれ込むなり敵の艦尾甲板を制圧しつつあった。


箱入り令嬢じゃないだろうと勘ぐっていたアルバだが、まさか、カトラスを担いで敵艦に切り込んでいくおてんばだったとは。


思わず呆れつつ、ふと気が付けばマルタは逆に性格どおりにえげつない。


性格の違いか、マルタ二等海尉は素直に甲板上で逆襲警戒に当たってくれているのだが……よくよく見れば、マスケット銃を構えた水兵らに激を飛ばし、敵甲板上に此れでもかと撃ちまくらせている。


弱いところを、徹底してたたくというセオリー通りではあるが……不慣れな水兵らでもゆっくりとした口調で、手順を指示されればそれなりに動けるらしい。


「ある意味、あたり、ということか?」


一人、疑問を浮かべながら釈然としないままにアルバは考える。


有能なのは結構だ。


だが、惜しいことに二人とも『継承権持ち』の貴族子女。


何かあれば、大事だ。運用に際しては、細心の注意を払わねばならないだろう。


にも拘らず、目を敵艦に向ければ……剛毅なことにアメリアがカトラスを振り回している。いや、振り回すというよりも敵をなぎ払っている、というべきだろうか? 


そして、順調で手持ち無沙汰となったのだろう。


クララが、何かを期待するような声で小さく囁いてくる。


「艦長、砲撃をなさいませんか?」


クララの視線を追えば、その先に鎮座ましますのは68ポンドカロネード砲。


確かに、近接戦用の代物だが……。


「ミスター・サネ。この近距離では、味方殺しだ。慎重に行って悪くはあるまい」


撃ちたいだけだろう、貴様、と指摘しつつアルバは溜息混じりに小声で言葉を続ける。


「……分かっているだろう? テリブル号で大砲がマトモに撃てる水兵は、今、切り込んでいる」


味方を気遣う風を装っているが、撃てるものならばアルバだって撃っておきたかった。だが、大砲の操作以前に大砲を吹き飛ばしかねない手つきの水兵らを見れば誰だって諦める。


「砲撃訓練が必要ですね」


「他人事みたいに言ってくれる」


「私、候補生ですよ? テリブルが活躍するところは見たいですけど、そのための準備は艦長のお仕事じゃないでしょうか」


とことん、テリブル号のことにしか興味がないらしいクララの言動。


やや、疲れてきたが一応、艦長である。そう、アルバは艦長なのだ。


圧倒しているとはいえ、敵艦とも戦闘中。


「それで? 君は、ここで何をしている?」


「副長の言いつけどおりに、艦長の護衛ですよ」


「は?」


「うろうろしないでください。艦長に何かあると、テリブルに迷惑です」


「ちょっとまて、テリブルが優先されるのか?」


「え? 艦長がテリブルより優先されるんですか?」


平然と吐かれる毒。どう考えても、テリブル号≧アルバだという言い分。


そいつは、どういうことだ、と咄嗟に問いかけたアルバだが、彼の疑問は横合いから投げられるマルタ二等海尉の声で遮られる。


「艦長! 切り込み隊が敵艦を制圧しました!」


「何!?」


「ミスター・ハロルドが敵艦の艦長から剣を受け取りました! 制圧、完了です!」


みれば、敵フリゲート艦の軍艦旗だろうか? テリブル号の水兵らがこれ見よがしに引き摺り降ろし始めている。


そして、手際よく甲板上で敵水兵らの武装解除を始めているようだ。


「了解した! 直に、敵の艦長を連れてこちらに戻るように伝えてくれ!」


やるべき事は多い。


クララの中での優先順位が気にならないといえばうそになるが、一先ずは。


まずは、戦いのことを考えなければ。

1~5話で割りと色々表記を変えたり、文章表現を弄ったりと悩み悩みやってます(´・ω・`)


ご指摘、いただけるとありがたいです(。・ω・)ゞ


とまれ、テリブル号は戦いに勝利しました。敬虔値を入手しました。戦列艦への愛が1、深まった!

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