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初源の物語

 それがいつの事かもどこでの出来事かも分からないけれど、そもそも、『何時(いつ)』という概念なんて、『何処(どこ)』という概念なんてなかったと思うけれど、とにかく、遠い昔に何処かで(わたくし)は誕生したわ。……ある一つの球体を抱いてね。たしか、光り輝く岩で出来ていたわ。

 姿? そうね、私の容姿は生まれたその時から、一週間前までの、美しい金髪美女だったはずよ。……脱線したわね。それで、私が球体を離すと、その球体は一瞬で巨大化したわ。後に『月』と呼ばれる星の『祖』よ。そして、それは己に宿る光を放出し、宇宙を創ったの。

 私はただただ、その光景を眺めているだけだったわ。何も知らなかったから。分からなかったから。……宇宙が広がるに連れて、その球体の光は段々とぼやけていったの。そして、最後にその球体は最後の光と己の大部分を使って、新たな球体を創造した。

 それが、地球よ。……青、そう、どこまでも青い、神秘の青。

 宇宙と地球と抜け殻と私。それだけしか存在しない空間が生まれたわ。

 呆然と立ち尽くす私に、誰かがこう囁いた気がしたの。

『これからは君の番だよ』ってね。

 本当に誰かが居たわけではないのでしょうけど、私はその声を聞いた後、突然、全ての知識と知恵を得、そして、自分の『名前』を知ったの。

「あの光り輝いていた球体の名は、私の名は『ルナ』……」

「全てを、創造しなければならない」

 私が生まれたその時点であらゆる『概念』が創造されたわ。『時』『空間』『生』『死』『善』『悪』『正義』……けれど、まだまだ足りないものがある。そこで、私は地球を照らす役割を持つ『太陽』を創造したの。この広い宇宙空間に三つの星しか存在しないという事を寂しく思い、賑やかしに他の星々も創造したわ。

 けれど、出来た星々はただの球体だったわ。生命が生まれたり、なんてことはなかった。……あ、けれど、私が最初に創った『火星』にだけは、自然に『何か』が『発生』していたわね。……すぐに死に絶えたけれど。

 星々を創り終えた私は、地球の様子を見に行ったの。……驚いたわ。そこには生命が溢れていたんだもの。……あの輝く球体、つまり、私が既にいくつかの生命を創造していたのよ。

 けれど、少しばかり多すぎたのよね。それに、私が創ろうとしていた『生命』にとって危険すぎる生物が沢山存在したわ。

 そこで私は、一部の危険生物が生息している地域に隕石を落としたわ。

 そして、私は、ようやくいい感じになった地球に、『人間』という種を創造し、追加したの。

 ああ、それだけじゃないわ。流石の私でも、一人で全てを隅々まで見守ることに限界を感じていて、なんだか寂しくなった私は、私を補佐する『天使』を創造したわ。『人間』よりも私寄りの、その背には翼を持ち、特殊な力を持つ少女たち……翼を生やしたのは私の趣味なのだけれど。

 彼女らは人間や他の生命、他の星々の異常を正常にしてくれたわ。時には人間の前に姿を現し、『悪』を『善』へと変えた。私を通じて『音楽』『農作』『舞踊』などの文化を人間たちに広めた。……彼女たち一人一人も、とても良い娘だったわ。たまに、人間と協力して、私のために神殿を建ててしまうくらい私に心酔しているような、ちょっとやり過ぎている娘もいたけれど、それでも、それも、嬉しかったわ。

 このままずっと、私と天使で、『全て』を見守っていく……

 そう、思って、いたのだけれどね……あれは、何時の出来事だったかしら?

 人間が、『神』を創ったの。

 知識と知恵を身につけた人間は、世界がどうやって創られたのかを考え始めた。

 太陽はどうやって創られたのか、月はどうやって創られたのか、この世界はどうやって創られたのか。

 そして、人間は一つの結論にたどり着いたのよ。

「この世界は、『神々』が創りなさった」

 もちろん、創ったのは私だから、そんな訳はないわよね。

 そのときの私は『そうじゃないのに……』と拗ねながらも、見過ごしていたわ。

 けれど、そうするべきではなかったのよね。

 ある時、突然、人間が信じていた神が、私の前に現れたのよ。そして、私の居場所を奪った。

 そのとき、私は知ったわ。人間が、少しだけ私の力を持っていた事を。

 多くの人間が、一つの架空の存在を『存在する』と信じることによって、架空は架空ではなくなるということを。

 人間たちは、様々な神を創ったわ。……『八百万(やおろず)の神』ってなによ。どれだけ居るのよ。全て実体化したわけではないにしても、多過ぎよ!

 もちろん、人間に創られた『神』たちは、実際に伝承通りの事をしたわけではないわ。そういう(てい)で誕生するの。そして、自分の場所だと思い込んでいる場所、私の功績を横取りしていったのよ。……彼らが生まれれば生まれるほど、私の威光は弱まっていったの。

 慌てた私は地球に降りて、人々を説得したわ。

 ……誰一人も、信じてくれなかった。

 誰もが私を罵倒し、時には私を殴り、蹴り、縛り、物を投げつけ……ッ!

 『神々』を信じる人間は、あの娘たちが建ててくれた神殿まで破壊した。

 『神々』は私の天使を殺していった。そして、自分たちの部下である『テンシ』を創った。……『神々』側に就いた私の天使もいるわ。

 そんな出来事を経験するうちに、人々の罵声を聞くうちに、私は全てを諦めて、『天界』と呼ばれる空間に籠ったの。……人々も、神々も、私の事を忘れていった。

 それから、長い年月が経って、誰も訪れることができない、そもそも、訪れようとも思わないような私の元に、一人の神が訪れたの。真っ白で神々しい、大きな翼が生えた、ローブを羽織った美女がね。

「いつまで拗ねてんのよ」

 私は訳が分からなくて、目の前の神に、お前は一体誰なのかと尋ねたわ。

「アタシ? アタシは完全無欠の慈愛の女神様、『ミレーナ』よ!」

 正直、『なんだコイツは……』と思っていた私だったけれど、彼女が続けて言った言葉に、私は目を見張ったわ。

「そして、アンタが生み出した天使よ。ルナ様」

 そう言われて彼女を見ると、たしかに、記憶の奥底に彼女がいたわ。……悪戯ばかりしていて、自分の翼から逃げられてしまった天使。

 彼女は当時と変わらない無礼な口調で私に色々な説明をした。

 自分は翼を失くした天使だったので神々に目を付けられなかったこと、その後も翼を追い求め旅を続けていたこと、旅の途中で様々な者と出会い様々な価値観を得たこと、慈愛の心に目覚め、翼を取り戻し、その神々しさから、神々からも慈愛の女神として認められたこと……

「アタシは頑張ったわよ! だから! 主であるルナ様も頑張りなさいよ!」

 その口調からは慈愛の心は全く感じられなかったけれど、彼女が私を励まそうとしていることはわかった。

 けれど、それでも、これ以上自分が何をすればいいか分からなかった私は、自分のすべきことが分からないと彼女に告げた。

「ハァー? そんな事もワカンナイの!? しっかたないわねー……」

 ……どうしよう、思い出したら段々ムカついてきたわ。地上でやる事が終わったら絶対にあの子をシバくわ。

「……逃げないで、決断しなさいよ。この世界を見守り続けるのか、この世界を『終わらせる』のか」

「この世界を……終わらせる?」

 正直、その手があったかと目から鱗が落ちたわ。

 まあ、決断するまでそれからまたしばらくの時間を要したのだけど、ミレーナからこの世界の、『全て』の現状を聞かされているうちに、ようやく決断したわ。

 この世界を、終わらせようと。

 そして、リントさんに出会って……ああ、この物語はまた今度だったわね。まあ、色々あって考え直すわけだけど、思えば、ミレーナは最初からそうさせるつもりだったのかもしれないわね。

 神々への体裁のため、『罰』ということで私の身体を幼女にしたときに、ミレーナは私にこう言ったもの。

「これが、アタシなりの恩返しよ! ルナ様!」

 そうして、私はリントさんの家に住むことになったわけなの。地上に降りて、色々な事を体験するために。

 まあ、今までは家でゲーム三昧だったわけだけどね……でも、まあ、リュウコさんも働き出すようだし、そろそろ私も動こうかしら。うん、明日から頑張るわ。明日から。

 アイツも何やら動いているみたいだしね。

 ……え? この話をあなたたちに聞かせる意味? ええ、あんなに勿体ぶった前振りをしてみたのだけれどね……


 特に、無いわよ? 時間稼ぎのようなものね。

 暇を持て余した女神の遊びってヤツ?

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