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(の)前振り

「……終わった」

「ええ、終わりましたね。竜子さん!」

「……よかった。とてもよかったぞ」

「ふふ、そうでしょう? このルートはこの業界屈指と言われる程の泣けるシナリオなんですよ」

「うむ、それに、先にバッドエンドを見ておいたのも効果的だったな。本当に、二人が幸せになることができてよかったぞ……」

「……あ、竜子さん、CGはどうするんですかー?」

「我輩はな、ルナ。あのエンディングを迎えた後で他の女を攻略しようとは思えぬのだ……」

「あー、そうですか……で、竜子さん、このゲームはシナリオ重視という事で、全年齢版をプレイしたわけですが、どうでした?」

「うむ、我輩、こういうのが好きだぞ。正直、喘ぎ声を聞くのはあまり好きではないのでな……」

「……まあ、竜子さん、エロゲの性交シーンの間はずっと目を逸らしていますもんねー」

「なんというか、こっ恥ずかしいではないか! あれを燐斗とすると考えると……!」

「そういうの、恥ずかしがっていますけれど、いつも裸同然の恰好じゃないですか、竜子さん……」

「見られるのはまだいい。燐斗に()れられると頭がおかしくなりそうになるんだ……正直、ジッと見つめられるだけでも、どうなるか分からん。まあ、今の燐斗ならばまだそういう心配はしなくていいのだが」

「ええ、知っていますよー。燐斗さんとうっかり手が触れ合っただけでドッキドキしていることも、一週間前のアレ以降、燐斗さんにしっかりと触れたことがないことも……眠っている燐斗さんの頭を撫でることくらいは出来るようですけどね」

「……っ! しかしな、今日はな、燐斗にお姫様抱っこをしてもらったのだぞ! 燐斗、我輩に興奮していたぞ!」

「お姫様抱っこをされたときは竜子さん、寝ていたじゃないですか……それに、燐斗さんは女の子と関わるときは大抵興奮していますよ。そう珍しいことではないのですよ」

「……だが、今回はそれを表に出していたぞ! 珍しいだろう!」

「まあ、それはたしかに珍しいですねー。ただ、ハルさんが関わっているときの燐斗さんはもっともっと色々な感情を表に出していますけどねー」

「うぐ……」

「それに、燐斗さん、ここ二週間程はそういう処理も出来ていないですから、ただ単に、我慢の限界だっただけだと思いますよー?」

「んぅ……」

「ああ、これは別に、竜子さんをいじめようとかそういうことではなく、竜子さんがぬか喜びをしないようにですね……あれ、竜子さん、寝るのですねー?」

「……ああ、少しな」

「それじゃ、僕様は部屋に戻りますねー」


「……竜子さん、拗ねてしまったみたいですねー」

 まあ、そういうところも可愛らしいと思うけれどね。……本当は、ここ数日のリントさんは一人の女性として貴女の事をかなり意識しているわ。(わたくし)は、恋愛対象から外されているみたいだけれどね……残念だわ。

 あんなに興味深い人間、なかなかいないもの。彼の存在を知ったから世界を終わらせなかったんだし。

 ……さて、と。

「はあ、毎日書かなければならないというのは辛いものです」

 『僕様のーと』、いつ見ても酷いネーミングセンスだわ……それにこれ、お店で五冊二百円くらいで売っているノートじゃないの。

「えーっと、10月……」

 私が書いた日記を読んでどうするつもりなのかしら、あの天使。……いえ、今は女神、よね。私が認めた唯一の女神。

 ま、とりあえず、今日もある事ない事書いておきましょうっと。

 

 ……さて、今、リントさんはカカカカタナにあの出来事を話し始めたわ。リュウコさんの話を伏せてね。

 けれど、あの物語はそれでは駄目なの。それでは不完全。リュウコさんがいないあの物語なんて、無意味よ。聞く価値もない……いえ、聞かない方がマシよ。リュウコさんがいなければ、あんな事が起こったり、いけ好かないアイツが出てきたりなんて事はなかったのだから。

 そんな物語をあなたたちに読ませるのはどうかと思うの。いずれ、完璧な物語を、あなたたちはアイツによって読まされることになるのだから。

 だから、リントさんがあの話をカカカカタナに話している間、私があなたたちにこの世界の話をしましょう。……この、(わたくし)の物語を。

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