霊媒師
「はぁ、霊媒師……ッスか」
霊媒師……イタコ、か。話で聞くだけならまだしも、実際にそう名乗る人が目の前にいると、やはり、胡散臭い。
「……まあ、信用はしなくていいし、疑いたければ疑えばいい。ワタシが本物であっても、ほら吹きであっても、食事代さえ払えばキミには関係のないことだろう?」
まあ、それもそうだ。……しかし、この人、落ち着いている。さっきのアレとのギャップのせいでそう感じるだけかもしれないが。
「まあ、それはそうッスねー……まあ、霊媒師って事でそれはいいとして、二週間も延びるなんて、どんな内容なんッスか? 霊媒師とかイタコって、降霊とか、霊を自分の身体に降ろして遺族と会話するとか、そういうイメージしかないんッスけど」
お客さんたちは皆料理を食べているし、少しだけ話を聞いてみるか。
「そうだな、そのイメージは間違っていないし、実際にそのような仕事もこなしている。……だが、ワタシの最も優先すべき仕事は、悪魔退治、怨霊退治、化物退治といったものなんだ」
悪魔祓い、か。……竜子たちの他にも魔界からやってきた者たちもいるのだろうか。
「祈祷とか御払いとか、そんな感じで退治するんッスか?」
「いや、それで済むのならばワタシのところに依頼は来ないだろう……信じるか信じないかはキミ次第だが、化物という者は本当にいる。体長五メートルの鬼や、九尾の狐など、な」
まあ、女神や竜がいるくらいだし、いても不思議ではないかもしれないが……と、いうか、この人、相手が俺じゃなかったら一発で頭がおかしい人だと思われるだろうな。まあ、聞かれなければ自分からは話さないのだとは思うが。
「どうやって倒すんッスか、そういう化物は?」
真実であれ嘘であれ、聞いておいて損はしないかもしれない。
「まあ、古来より伝わる術で戦い、粉微塵にしたり、封印したり、だな……」
俺に真似できる芸当ではなさそうだ。……しかし、そういうのって、陰陽師のイメージが強い気がするんだが。
「怨霊、物の怪、困ったーときはーってやつだ」
突然彼女が発する言葉がリズミカルになる。……笑わせようと思って言っているのか、それとも、真面目に言っているのだろうか。
「そのフレーズを聞くと、最早完全に陰陽師のイメージしかなくなっちゃいましたけど」
何年か前、すっごい流行ったよなー。今も根強いファンがいるし。
「まあ、詳しく説明するなら、陰陽道士とイタコの間というのが一番しっくりくるな。神や霊を我が身に宿し、術を使い、化物を倒す。……それが、かか」
「あら? ゲームの話かしらぁ?」
少女が何かを言おうとしたところで店長が俺たちの会話に乱入する。
「……」
口を尖らせる少女。……ようやく女の子っぽい表情を見ることができた気がする。
「あら、邪魔しちゃったかしら? ごめんなさいね! 続けて続けて!」
厨房に戻る店長。……さて、そろそろ皿洗いをするか。
「……おほん、神霊の力を借り、禍を狩る刀、それが」
あ、続けるんだ。
「借神狩禍 屶さん……ッスよね?」
あ、椅子から転げ落ちてる。
「……知っていたのか!?」
驚愕の表情で俺を見る屶さん。
「今日、偶然あなたの話を聞いたんッスよ。剣道部の知り合いから」
「ああ、剣道か……しかし、それだけで分かるものなのか? 話と言っても、精々、ワタシの家が先祖代々のイタコの家だとか、そのくらいだろう?」
納得していない、という表情だ。……まあ、ただの勘だし。
「……あなたが霊媒師だと言ったときは、ただ今日聞いた話を思い出して、その名前が脳裏を過っていただけなんッスけど、話しているうちになんとなく、やっぱりそうかなーって思っただけッスよ」
「……なるほど、勘か」
納得してくれたようだ。……正直、納得してくれるとは思っていなかった。
「……けど、よかったんッスか? 一般人の俺に色々と話して」
まあ、大抵の人は同じことを聞いても相手にしないと思うが。
「まあ、ワタシも、勘だよ。キミに隠す必要はないと思ったから話しただけだ。……強いて言えば、同じ匂いを感じたんだ。いつもは、聞かれても言葉を濁しているよ」
……たしか、人ならざる者と関わる者同士は引きつけられやすいって、ルナが言っていた気がする。
「そうッスか……そういえば、結局、何で仕事が遅れたんッスか?」
「ああ、依頼の化物退治を終わらせた直後に、真っ赤な髪の竜人に襲われてな……」
ごめんなさい!