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世の仕組みを聞く青年

「天才……滅茶苦茶頭が良いっていうアレか?」

 俺はルナの言葉を繰り返し、その言葉を咀嚼し、言葉の意味を確かめる。

「うーん……頭が良いというよりは、何かに対してずば抜けて秀でた才能を持っている人ですよ。それこそ、世界に革命をもたらすような、才能を」

「うーん……俺はそんな人間じゃないだろ」

「うん」

「いや、流石にその投げやりな即答は傷つくんだけど」

 天才などではないというのはわかりきっていた事だが。

 頭が良いわけでもなく、何かのスポーツをやっても、ちょうど平均くらいかそれ以下くらいだし。

「まあ、そうですねー。燐斗さんは普通の人間です。……ただ、僕様や竜子さんと対峙した時の燐斗さんからは只者(ただもの)ではない何かを感じましたよ」

「……ルナ、もしかしてお前、全部分かっていないか?」

 そう、ルナは全てを知っている。

「うーん……分かる、というよりは知っただけなのですよ。まだ理解はできていません。例えて言うならば、ある本の内容を大雑把に伝えられただけっていう状態なんですよ、今の僕様。深く理解できていないですし、その内容も理解し難い内容で……今の僕様が知っていることを話したところで燐斗さんにはちんぷんかんぷんだと思いますし、寧ろ疑問が増えると思います。物事には順序っていうものがありますし、きっと後々分かると思いますよ?」

「理解し難い内容……? まあ、そうだな」

「……まあ、今の僕様から言える事は、燐斗さんは普通の人間だという事ですよ」

「ああ、それは重々承知してる……」

「まあ、今は食べて忘れちゃいましょう!」

「ああ、そうだな」

 冷麺を一口啜り、きゅうりを口の中に入れる。うん、さっぱりとして美味しい。何を加えているのかは分からないが、ツユがいつもよりも風味豊かだ。

「……そういえばさ、天才ってどんなことを運命で仕組まれているんだ? それとも、神が天才を作ってるとか?」

 黙々と食べていたが、なんだか寂しくなったので、テキトーに会話を始めてみる。この世の仕組みを軽いノリで聞いているが、話してはいけない場合は話さないだろう。

「いえ、天才は自然に出来るものですよ。と、いうか、自然にしか出来ないものなので、作れません。近々生まれる人間を神はチェックするわけなのですが、たまーに、『あ、コイツ、天才になる可能性があるヤツだな』っていう人間がいるので、そういう人たちが無事天才として開花できるような人生に仕向けるのですよ。ちなみに、現在の天才たちはある高校に集中していますよ。天才同士でお互いに刺激されて、開花しやすくなったりするんですよね。ここ数年は天才の数も多く開花率もいいんですよー」

 ……そういえば、才能を持った生徒が全国から集まる、自由の里高校という高校が福岡にある。……たしか、ハルは両親からの勧めでその高校の入試を受けたけど落ちたんだっけ。ハルは学力もあり、日本舞踊家としての才能も十分にあると思うんだけどな……

「まあ、もちろん、例外はありますけどね、東京にも天才が二人か三人はいますよ」

「案外多いんだな、天才って……」

 大多数の天才が福岡に出払っているのにまだ東京にも何人かいるのか。

「ちなみに、東京にいる天才の一人に関して言うと、その人がいなければ世界は滅びますよ」

 大変な事実をサラッと言うルナ。……マジで?

「そんなに重要な人なのか……」

「天才がいなければ世界は既に滅んでいますよ。それに、世界は何度も何度も、様々な面からそういう危機に瀕しているので、数も多くなるというものですよ。……まあ、燐斗さんも竜子さんを止めたので、世界を救ったようなものですが、あれはイレギュラーな出来事ですからね。そもそも、竜子さんがこちらに訪れるということ自体があり得なかったわけですし」

「まあ、そう頻繁に異世界と繋がってちゃたまんないもんな……」

「運命の歪みとでもいうのですかね……少しずつありえない事が起こってきているのですよ。……まあ、今は更生中の僕様や一般人の燐斗さんには関係ないですけどね! 他の神がなんとかするでしょう! と、いうより、なんとかしてもらわないと困るんですよ……!」

 ルナが怒りを孕んだ口調で呟く。ルナは他の神にあまり良い印象を持っていない。それは、全ての神がルナから派生されて生まれた事が原因であるのだが、これを説明していると長くなるので、また別の機会にするという事にしておこう。

「そうだな。流石に無関係の事にまでしゃしゃり出る訳にはいかないし……」

 第三者が突っ込んで逆に事態が悪化することもあるし、きっとなるようになるだろう。……俺に関係があるようになったときに突っ込むまでだ。

「まあ、僕様たちは普通に暮らしていればいいのですよ。……ふぅ、ご馳走様でした!」

「……それにしても遅いな、竜子。まさか本当に魔物狩りに行っていないだろうな?」

 まあ、この世界には魔物なんていないだろうが、外へと散歩に行った可能性もある。

「いえ、外には出ていないですよ。ずっとトイレにいます」

「ああ、人の居場所も分かるんだったか……ちょっと様子を見てくる。ご馳走様でした! 今日も美味しかったよ」

「冷たい料理オンリーっていうのも案外いいものでしょう?」

「ああ、なんだかスッキリしたな」

 軽く微笑み、俺は竜王が籠っているトイレへと向かう。

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