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笑う二人

「ご馳走様でした!」

「ご馳走様でした……さて、帰るか」

 俺は立ち上がる。もう六時だ。夏ならばまだ明るい時間なのだが、窓の外を見るともう薄暗い。

「うん。もうこんな時間だもんね」

 ハルも立ち上がる。いつもならば食べ終わった後に店長やハルと少し雑談でもしてから帰るのだが、今日は食べる前に雑談をしたからソレは無しだ。

「あら、お二人さん、帰るのねー」

 他の客のテーブルに料理を持って行き、一息ついていたベンさんが、俺たちを見る。

「ええ、外が暗くなってきたんで。ハルん()の門限もありますし」

 ハルの家の門限は七時だ。稽古が休みの日や今日のように夜に少しだけ、なんて日は多少破ってもお咎めなしなのだが、こういうものは破り癖がつくとよくない。それに、おじさんやおばさんたちに迷惑はかけたくないし。

「ああ、そうだったわね。それじゃ、ちゃちゃっとお会計を済ませちゃいまいましょうね! ……あ、そうそう、アップルパイのホールだったわね!」

 そう言って厨房に入っていく店長。

「そういえば、アップルパイって竜子ちゃんたちと食べるんだよね」

 他に誰がいるというのだろう。

「昨日、店長のサービスで余ったアップルパイを持ち帰らせてもらったんだけど、そのときにルナが滅茶苦茶気に入ってさ。今日の朝、買ってきてって頼まれたんだ。三人でホールを食べられるかは分からないけど」

「別に、一度に全部食べなくてもいいと思うけど……でも、カロリーとか気にしないんだったら、私は三分の一ホールくらいは食べられると思うよ。カロリーとか気にしないんだったら」

「それが最大の問題なんだな……」

「うん……太っちゃったら色々と大変だし」

 ちなみに、ここのアップルパイは直径24cmだ。結構大きいと思うんだが……

「はーい、お待たせ! はぁい、燐斗君!」

 白い箱で包装されたアップルパイを受け取る。やっぱりでかい。

「それじゃ、お会計お願いします」

「はーい。いつも通り、会計別よね?」

 ハルも俺も、奢ったり奢ってもらったりなどはあまりしないタイプだ。もちろん、プレゼントとかはあげたり貰ったりはするけど。

「はい。じゃあ、私から払うね、燐斗」

 俺は頷いて、紙幣と硬貨を財布から取り出す。ハルはいつの間にか値段ぴったりの金額を財布から出していた。

「チョコパフェとホットコーヒーで650円。丁度お預かりしたわぁー」

 チョコパフェが400円、珈琲が250円だ。もう少し値段を上げてもいいくらいなのだが、店長は皆に笑顔を届けることを重要視しているようで、利益はあまり気にしていない。

「えーっと、燐斗君は650円とアップルパイの2200円で2850円ねー」

 しかし、素材もこだわっているはずなのにこの値段だ。どうやって店を続けているのか本当に不思議だ。

「はい、ピッタシ受け取ったわぁー! 二人とも、気を付けて帰りなさいねぇー!」

 笑顔で手を振る店長。この笑顔をかっこいいと言う人もいるし、可愛いと言う人もいる。

 ハルは笑顔で手を振り返し、俺は礼をして店を出る。


「はぁー! スッキリしたぁ!」

 歩き出すと同時にハルは言った。竜子関連の心のモヤモヤが晴れたらしい。

「それはよかった。やっぱり、ユリーカは良いカフェだよな」

 人の心を穏やかにし、そして、少しばかり勇気を与える、そんな場所のような気がする。

「うん!」

 満面の笑みを浮かべるハル。薄暗くなってきたが、ハルの笑顔は輝いている。

「帰ったらお稽古をしてからご飯を食べようっと」

 今のハルの稽古の先生は、おばさん……ハルのお母さんだ。なので、稽古の時間などはハルの都合に合わせてもらえる。

 そういえば、俺も帰ってからやらないといけないことが二つほどあったんだよな。竜子の誤解を解くことと、ルナとの話し合い。

 少し気が重い。

「……はぁ」

「どうしたの? まだモヤモヤしてることがあるの?」

 思わずため息が出たのを聞かれてしまった。

「いや、何でもないよ。ただ、明日まで俺の命は持つかなーって」

「何でもなくないよねそれ!? ……あ、もしかして、朝の、竜子ちゃんの勘違いの事とか?」

 見事に当てられた。

「まあ、そんなところだ」

「……どうせ、まぎらわしい言い方をしたんでしょ? 愛の告白と勘違いするような。燐斗ってそういうところがあるもんねー」

 ジトーッと俺を睨むハル。

 確かにその通りです、はい。今思えば、『家族になろう』とかそんなどこぞの歌詞みたいな台詞じゃなくて……いや、だめだ。代わりの言葉が全く見つからない。

「ま、まあ、そうだなー」

「……因果ほうおうよ! 因果ほーおー! むーっ!」

 口を尖らせてムスッとしているハル。表情豊かだなー。

「応報な、おうほう」

 鳳凰二羽も飛ばすなよ。

「あれ? ……テストでは間違えないのに」

 ハルは昔から、試験などでは正しく書けても何故か実際に使用するときに限って、言葉を間違って使用する事がたまにある。……そこも可愛い。

「まあ、今間違えたから次は間違えないだろ?」

「うん、そうね! ……それじゃあね!」

 気づけばいつの間にか倉科邸に着いていた。

「ああ、また明日」

 軽く手をあげて、二カッと笑ってみる。

 ハルもまた二コッと笑って手を振ってから、自宅へと入っていった。

「……さて、早いところ帰って問題を片付けようっと」

 ハルの笑顔のおかげで少しだけやる気が出てきた。


「……はぁ」

 まあ、二分後、自分の家の玄関前でまた気が重くなった訳だが。

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